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2011-09-15 Thu

[]個人的「鉄板」作家の満足度の高いミステリ貴志祐介『硝子のハンマー』

硝子のハンマー

硝子のハンマー

「鉄板」という言い方があるが、この人の作品なら、自分と肌が合い、確実に満足できる、という、言わば殿堂入りしている作家が何人かいる。*1

そういう作家を見つけたら、まとめて全部読んでしまうという人もいるだろうが、自分の場合は、敢えてポツリポツリと読み、未読本を貯めて、イザというとき*2のために取っておく。似た作風の本を連続して読むと、不感症になって、その本の魅力を存分に味わうことが出来ないのではないか、という心配もあり、印象が良かった作家であればあるほど、連続して読むことはない。

具体的には、乙一道尾秀介などがいるが、貴志祐介もその一人に入る。


と言っても、読むのは久しぶりだ。元々、多作な方では無いが、これまで読んだのは『黒い家』『青の炎』『クリムゾンの迷宮』『天使の囀り』『ISOLA』と、相当前の作品ばかりだから、10年ぶりくらいかもしれない。

少し前の直木賞の候補に挙がっただけでなく、7月に出た『鍵のかかった部屋』という作品が、『硝子のハンマー』に始まる防犯コンサルタント・榎本と弁護士・純子のコンビによる「未読」シリーズの「3」作目ということを知り、随分と未読本が貯まったことに今さらながら気づき、慌てて読んだのだった。


本作の探偵役は、防犯コンサルタント・榎本径がメインだが、弁護士の青砥純子もワトソン役というよりは、ミニ・ホームズ役として機能し、いわば探偵ツートップ形式のミステリだ。この作品では、二人が、防犯カメラなどの厳重なセキュリティをかいくぐらなければ侵入不可能な密室で生じた社長撲殺事件に挑むことになる。謎の核に当たるのは「密室」と「凶器」。現場からは凶器が消えており、死因は分かっても具体的な殺害方法が分からないのだ。


まず、特徴的なのは、ボリュームのあるミステリにもかかわらず、事件はこれしか生じないこと。だからシンプルに謎解きの面白さを味わうことができる。

そして、一番の魅力は、探偵役の榎本が実は泥棒であるという点。ペンシルビルの2階で、狭い防犯グッズのショップを構えているかたわら、防災コンサルタントとして防犯相談に乗る等という仕事はいわば「表の仕事」。「本業」から引退したわけではない。

したがって、この話の核となる「密室」への侵入方法については、アイデア出しだけでなく、実際に深夜に現場に乗り込んで見せたりする「実演」もある。泥棒視点の防犯指南は、蘊蓄としても楽しく、というか、わが身を振り返ったときの無防備ぶりに怖くなる。


そして、構成も良かった。

2部構成の1部は、榎本と純子が、あれでもないこれでもないと、あらゆる手段(天井裏、介護猿!、介護ロボット!)で「密室」と「凶器」の謎解きを進めるが、結局、真相に達することはない。

2部は、二人を離れて時計を戻し、数年前に遡った真犯人のモノローグからストーリーは進む。そして、時間軸が1部と2部で一致するラストになって、真犯人の前での名探偵の推理披露が始まる。

2部を読みながら思った貴志佑介の良さのひとつは、殺害動機も含めて、殺人という行為を、重く描いている部分だろうと思う。人を殺害するという、信じられない行為に手を染める真犯人の心の葛藤と、その葛藤にすら打ち克ってしまう厳しい境遇。それらが納得いくかたちで提示されている。似た設定は、『青の炎』にもあったように思うが、同情とまでは行かないが、殺人者への共感が、ラストまで読者を引っ張り続ける。そういう意味では、第2部でこそ、貴志佑介の本領が発揮されている。


とにかく今回も満足度が高かった。榎本、純子が、お互いに微かな好意を抱いていることも含め、2作目以降の二人の活躍にも期待したい。2作目、3作目は短編集だと聞くので、貴志祐介の短編がどんなものかにも興味がある。

勿論、本命は直木賞候補となった『悪の教典』、そして日本SF大賞を受賞している『新世界より』なので、個人的な「鉄板」作家である貴志佑介の本が、まだまだ沢山読めることは、とても嬉しいことだ。

悪の教典 上悪の教典 下新世界より(上) (講談社文庫)新世界より(中) (講談社文庫)新世界より(下) (講談社文庫)


参考(過去日記)

*1:基準を考えると、3作以上読んで、それらがあまり似ていないベクトルで5つ星級に面白い、と感じる作家。伊坂幸太郎吉田修一などは、自分の好みの本が複数冊あるが、時々、好みと大きくずれるときがあるので、殿堂入りしない。やはり相性ですね

*2:何がイザというときなのかは不明。笑

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