Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

マラソンの楽しさがここにある!〜喜国雅彦『東京マラソンを走りたい』

ランニングが趣味と言ったときに「何故走るのか」と聞かれても、確固たる答えは持っていなかった。
何となく、健康維持だとか、大会に申し込んだから、とか、答えを聞いた相手も「へーそー」的なリアクションしかできず、そのリアクションを見た自分まで、走るのってつまらないかな…と逆に影響されてしまう。少し前はそんなことが多かった。
それが、最近は以前よりも走るのが断然楽しくなってきた。説明出来る「楽しさ」が増えてきた。
特に今年の4月あたりから走る距離が延びたことが大きい。具体的には、これまで大体7kmの固定コース、長くても10km程度だった毎週末のランニングを20km超走るようになった。
家の近くを7km往復だと、最大でも3〜4kmしか家から離れないから普段の生活圏から逃れることができない。どんなに自然溢れている場所だって風景が固定化してモチベーションが次第に下がって行く。
それが、10km離れると、途端に見たことのない景色が現れる。それが20キロ往復コースの利点。
さらに、往復コースではなくて、帰りをバスや電車にする直線コースで20km以上を攻めると、訪れたことのない市町村や隣県に行くことができて、さらに楽しい。迷って見当違いの方向に行ってしまうこともそれはそれで楽しい。団地内にそびえ立つ水道塔のハンサムなアングルを見つけたり、結界に入れる鉄塔を見たりするだけで、得した気分になるし、それだけ走ればちょっとした観光地や史跡にも足を延ばせる。


今回、喜国雅彦東京マラソンを走りたい』を読むと、まさに、その部分の楽しみ方が、本の中で語られていて、共感しきりだった。
特に、自分のオールタイムベストに入る『鉄塔武蔵野線』を挙げて、「子供がひたすらに道を辿る話には無条件に手が伸びる」と書かれている部分を読んで、ここに、自分の感覚を理解して、しかも言葉で説明してくれる人が…と驚いた。

見慣れた景色がやがて知らないものに変わっていく。
何だろう?懐かしいこの感じ。
友人の「あの山の向こうはどうなってるんやろ」のひとことで、何時間も自転車を漕いだ中学の夏の日を思い出した。
p172(第四章の章末コラム「長い距離を走るためのモチベーション(その2)」)

上に引用した部分をはじめとして自分にとってのマラソンの楽しみが、この20頁ほどの章末コラムに全部書かれている。
古川日出男『サマーバケーション.E.P.』をなぞって、井の頭公園から神田川を下るコースにもチャレンジしたし、多摩川を河口まで走るコースも最近久しぶりに走ったけど(体力十分のときにしかチャレンジできない)取って置きのコースだ。まさに「あの山の向こうはどうなってる?」の気持ちで、チョーさんのように「たんけんはっけん僕の町」を続ける、いわば「町探検」こそが自分が走っていて一番楽しさを感じるときだ。
大会に出るのも楽しいが、何と言っても自分が走り続けられる理由がここにある。


↑鉄塔写真と結界(ネットを越えずに結界=中心部真下に入れる鉄塔はなかなかないので貴重です)

神田川源流(井の頭公園)と沿川の公園にあった変な銅像(謎です笑)

等々力渓谷と近くのお寺の異国情緒溢れる仏像

↑朝の生田緑地の木漏れ日と岡本太郎美術館のモニュメント

多摩川河口(川崎市側)!



一方で、IT技術の進歩があってこそ、今の自分のマラソン趣味が続いているのだということも痛感する。
本の序盤では、初マラソンに向けた練習途中で、いつも走っている練習コースを変えたい…というキクニの悲痛な叫びが登場する。

だけどもうこの景色は走り飽きた。何百周したか判らない。(略)
ああ、このコースを飛び出したい。危険でも不便でも構わない。違うところを走ってみたい。
だがそれはできないのだ。走った距離が判らなくなるから。正確な距離が判らないと、正しいタイムが計れないああ、どうしよう。このままじゃ練習のモチベーションが上がらない……。p44

その後、山梨学院大学の選手として箱根駅伝を走ったこともある高橋しん先生!に相談したところ、走行靴に装着して距離を記録できるNike+(プラス)を教えてもらい、「新世界」の扉を開くことになる。
が、今となってはスマホひとつあれば、この悩み自体が生じない。そういう意味で、本当に恵まれた世の中になった。実際、自分もランニングアプリで走行距離の記録が取れるからこそ、20?超のロングランが楽しめるのであって、これが無いだけで、ランニングの楽しさはかなり減ってしまうかもしれない。


なお、自分がランニング時にiPhoneを欠かせない理由はもう一つあって、それは当然、音楽とpodcast
これが聴けなかったら(例えば断線などの事故)、かなりの苦行になってしまうだろう。
実際問題として、ラジカセの前で正座(は大袈裟だが)して聴いていた学生時代と比べて、音楽を真面目に聴くことが減ってきた自分にとっては、ランニングは音楽を楽しむ絶好の機会。曲によっては、当然、速く走る気力が湧いてくるようなものもあり、そういう曲を探すのもまた面白い。podcastも同様で、AMラジオ的なものからニュース解説まで、2倍速にすればかなりの量を聴くことができる。この楽しみを享受できないというだけで、自転車趣味には、なかなか踏み切ろうと思えない。(道具が高いことも当然理由の一つではありますが…)
本の中でもiPod関連の話題が多く、いちいち頷きながら読んだ。


ただ、この本の最後に書かれている、楽しく走るための「もう一つの秘訣」は、もう少し自分に努力が必要な部分だ。これまで、皇居ランを一緒に走る仲間はつくったが、フルマラソンなどの大会は、基本的に個人参加だった。(12月に参加するのは、奇しくも、ここで挙げられている湘南国際マラソン!でも一人…)
しかし、この本で、「みんなの心に火を点けた」事件が「かとうちゃん*1の、ウルトラマラソンへの挑戦」(p117)だったように、一緒に大会に出た仲間に刺激を受けることもあるだろうし、一度出れば、その次も、という話になる。
次回、春は「かすみがうらマラソン(4/17)」に出たいと思っているので、何とかこれに出る人を誘って沢山増やしたい。(これを読んでいる人も是非…)

追伸

前回、『キクニの旅ラン』の感想を書いたとき、喜国さんからこんなツイートで、本を紹介していただきました。


実際、この本では、最後の方におまけで技術論的な内容がありますが、楽しみながら走る方法論に徹している内容で、まさに喜国さんのおっしゃる通りでした。
自分も既に40歳を超えているわけですが、常に若いイメージだったキクニさんも(副題にある通り)50代。50歳近くから始めても、これだけ楽しんで走れていることを考えると、30代40代の「若者」はすぐにでも走り始めていいと思います。みんな走りましょう!!

*1:ミニコミ誌「野宿野郎」などで有名なかとうちあきさん。3月の寒空の中、湘南国際マラソンの前日に相模湖湖畔で野宿をしている…。