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2018-05-12 Sat

[]大好きな装丁、大好きなストーリー〜米代恭あげくの果てのカノン』(1)(2)

あげくの果てのカノン 1 (ビッグコミックス)

あげくの果てのカノン 1 (ビッグコミックス)

あげくの果てのカノン 2 (ビッグコミックス)

あげくの果てのカノン 2 (ビッグコミックス)

定期的に繰り返し読み、そのたびに好きになっていく『あげくの果てのカノン』。

5巻が6月12日に発売予定ということで、改めて読み直してみた。

特殊な装丁ではないが、この本ほど、電子ではなくモノとしての本として所持していることの満足感を覚えるコミックはない。

まずは、外側部分から何故この本がこんなに好きなのかを探っていきたい。


装丁

あげくの果てのカノン 1 (ビッグコミックス)あげくの果てのカノン 2 (ビッグコミックス)あげくの果てのカノン 3 (ビッグコミックス)あげくの果てのカノン(4) (ビッグコミックス)

4巻まで並べた装丁のワクワク感は、ここ数年でベストだと思う。

特に1〜3巻までのタイトル文字(背表紙は全体、表紙は「カノン」のみ)の蛍光色。この蛍光色が、廃墟と化した地上世界の背景に映えて心地よい。

さらに、よく見ると、題字は、一部が、主人公カノンの後ろ(背景と人物の間)に入っており、立体感の出る配置となっている。(さらに言えば、カバーを外した表紙はキャラクター不在の廃墟のみの絵となっている)

裏表紙に書かれたあらすじも、重要箇所はタイトルと同じ蛍光色で強調されており、しかもそこがポイントを外さない。1巻裏表紙の「でも、いけない」。2巻裏表紙の「罰を受けるべきは誰なのか」は作品のキモを抑えている。


調べてみると、装丁を手掛けているのは 川谷康久。

雑誌『MdN2017年12月号』 では、 「恋するブックカバーのつくり手、川谷康久の特集」 という特集記事が組まれているという。アオハライドの手書きロゴの作り込みなどもなかなか面白い。


そして何と言っても「帯」。識者による感想と惹句が洪水のように襲ってくる。

叶わなくても、諦められない。だって先輩「以上」が、この世界にいない。全員を不幸にするかのんの「一途な恋」に激しい共感の嵐。(1巻)

これは「恋」か「信仰」か…。純粋なようで、グロテスク。「一途な想い」の根源を問う、恋愛ピカレスク。(2巻)

世界の緊迫と、個人の「一途な想い」の切実さがはじけ飛ぶ、大注目、不倫SF第三集。(3巻)

強く、深く、重く、あなたへの想いは絶えることなく、世界を滅ぼす。(4巻)


そして、コメントを寄せている識者は以下の通り。

中でも志村貴子のコメントにはとても共感した。

1話目からずっと怖かった。

得体の知れない世界もかのんも先輩も。

頬を赤らめたり大粒の涙をだばだばとこぼしたり、かのんの中で爆発する感情がひたすら怖かった。

怖いと先が気になってしまうのでページを繰る手が止められない。

自分がこの世界の住人だったらどんな立場にいるんだろうと考えてまた怖くなった。

隠しておきたい感情を丸裸にされてしまった感じ...やめてやめてかのんやめてー!

かのんの行く末を指の隙間から覗く気持ちで読んでいます。

志村貴子

あげくの果てのカノン』が面白いのは、その怖さ故だと思う。

勿論、かのんの「爆発する感情」、それによって引き起こされる周囲との軋轢が怖いのはその通りなのだが、それを演出する「謎」の多い世界観も怖さを盛り上げる。

2巻の時点で、SLC(異界生物対策委員会)が相手にしている「ゼリー」が何なのかは、ほとんどスルーされているし、昔起きた「襲来」がどのようなものだったのかについても触れられない。地上世界と地下世界という「日常」についても隠すかのように曖昧にされたままで物語が進んでいく。

降り続く雨も怖さに拍車をかける。


食べ物

1巻の裏表紙で境宗介(先輩)がケーキを食べているが、食べ物描写に特徴がある作品だと思う。

志村貴子が「ずっと怖かった」というように、食べ物描写も怖い。

3話目でアップになる目玉焼きとハンバーガー。特に、かのんが押さえたせいで、口に入れる直前に先輩の手から零れ落ちてしまったハンバーガーの気持ち悪さは印象的だ。

フィッシュサンド(魚)しか食べられなかった先輩が、いつの間にか肉を好きになっていた、という「変化する嗜好」への嫌悪感が、少しリアルな絵の中に現れている。


また、第6話(2巻)のかのんがロッカールームで食べるケーキ。とても不味そうなケーキを口に入れながら、かのんは「罰」を味わっている。


そして、初穂が、「高月かのん」からの着信があった宗介のスマホを、味噌汁にそっと浸してしまう怖いシーン。

…だけどね、

勘違いしないで?

そんな一時の感情より、

「結婚」のほうがね、

ずうっと思いの。

わかってるわよね…?

(2巻p201)

どれをとっても負の感情とセットで登場する食べ物が印象的だ。


ストーリー

最後にストーリーについても触れる。


ストーリについては、読んだ誰もが1巻ラストのシーンについて言いたくなるだろう。

勿論自分もそうだ。

近年のストーリー漫画屈指の名シーンで、これを読まなければ始まらない。

しかし、その少し前のシーンにこそ、この漫画で何度も繰り返される「核」の部分がある。

境先輩の誘いを一度は断るかのん。ここで、自らに語りかける言葉は

「はい」って言ったら罰を受ける

でも、そのことを強く思った直後に、かのんは、自分の強い気持ちを裏切って先輩に告白する。1秒前に自分への説得と真逆の行動をとる、この異常な感じこそが、村田沙耶香が「 『恋』ほど無垢な異常はない」と評する、まさにその部分だと思う。


告白後に衝撃的な「罰」を受けた退院後から始まる2巻。

アルバイト先のケーキ屋に来た奥さん(初穂)から釘を刺された帰り道に先輩と再会し、二人っきりになる。ここでも、かのんの罪悪感⇔幸福感の往復に引き込まれる。

先輩が私を抱きしめている

けれどこの人には奥さんがいて

高校時代では絶対にありえなかった。

こうしていることは異常でおかしくて、

これ以上は許されない。(p41)

でも一歩先に行ってしまう。

神さまに触れるなんてことは、

あっちゃいけない

私はこの恋に「希望」を見てはならない。

なのに…(p59)

でも進んでしまう。

私はずるい。

たとえ今が「修繕」の一時的なものだったとしても、

それを幸運だと思っている。

私の「希望」は、

先輩の苦しみや、彼の妻を、

踏み台にして、

やっと「恋」になる。

こんな時に、

目を血走らせる私のほうが、

よっぽど化け物で、

ずっと望んでいたものは、こんなにも醜い。

(p68)

最後にも引用するが、村田沙耶香が2巻の帯に書いている、かのんの「純粋な発狂」こそが、この物語の最大の魅力だと思う。


そんな風にして、かのんを一人称にして進む物語は、一転して8話からそのほかの登場人物心理描写が増えていく。

  • 8話:ヒロの想い
  • 9話:再びかのん(先輩との喧嘩)
  • 10話:初穂の想い〜壊れた万年筆事件
  • 11話:かのん、初穂、ヒロ&かのん、初穂&宗介

そして、「この世界は残酷だ」で終わる2巻最終話(11話)は、かのん、宗介、初穂、ヒロの4人を映して終わる。「一途な想い」を抱いていたのは、かのんだけではなかった。駆け引きというよりは、「一途さ」ばかりが際立つ四角関係が1巻時点より、さらに物語に厚みを与えている。

ちなみに自分が最も応援したいのはヒロ。

かのんの「純粋な発狂」に始終、心を奪われつつ、4人の中で、最も届かない想いを抱えているヒロにこそ幸せになって欲しいとずっと思っている。

それにしても、村田沙耶香のコメントは素晴らし過ぎる。

読者は「私たち」ではない。「恋をする私たち」であり「発情している私たち」なのだ。

この漫画を読んでいると、「恋」を解剖している気持ちになる。

かのんは変わり続けていく先輩に、変わらない恋をしている。

その純粋な発狂は、恋をする私たちの極限の姿のようにも思える。

発情している私たちが残酷な化け物だとしたら、「恋」の根源には一体何があるのか。

震えながらも、その答えが知りたくて、この物語から目を離すことができない。

村田沙耶香2巻帯コメント)

参考

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