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物語の「実在感」はどこから生まれるか〜『咲-Saki-』

映画「咲-Saki-」 (通常版)[Blu-ray]

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最初にこの映画を観た理由を。
Amazonプライムビデオでアニメを見るというのが、最近の会社帰りの通勤電車の楽しみ方。
アニメ作品を選ぶのは、その短さが理由で、30分以内で終わる作品という視線で探した場合、海外ドラマは対象外となるし、日本のドラマはあまりAmazonプライムビデオには並んでいない。
そんな中で、かなりB級っぽさを感じるものの、浜辺美波の美しさが自分の心を引き留めてやまないこの作品のドラマ版を観ることにした。
見始めてから分かったのだが、『咲』は、連続ドラマ版5話+映画100分で完結する作品で、結局、最初は想定していなかった映画を観ることとなった。


で、感想だが、観て良かった。映画や小説について色々考える機会になった。
先日、『書店ガール』が面白い理由(『君の膵臓を食べたい』が面白くなかった理由)として、登場人物の「実在感」を挙げたが、『咲-Saki-』を見ると、映画で考えた場合、「実在感」というのは設定のリアリティではなくて、舞台設定と、登場人物の役者の演技のバランスで決まってくるのだとわかる。
というのは、まず、この作品の世界設定が突飛で、それ自体にリアリティはないから。

21世紀。これは、≪世界の麻雀人口が1億人を突破し、麻雀の実力が人生を左右する世界≫で、どこにでもいる普通の女子高生・宮永咲浜辺美波)の物語-。 ある日の放課後。咲は同級生の美少女・原村和(浅川梨奈)と運命的な出会いをする。 和の後を追うと、旧校舎にひっそりと存在している麻雀部の部室に辿り着く。 そこには和の他に、なぜか大好きなタコスを手放さない片岡優希(廣田あいか)と広島弁を話すメガネ娘の染谷まこ(山田杏奈)がおり、咲は断ることが出来ずに麻雀を打つことに…。


さらには、彼女たちの通う清澄高校、そしてライバル校の生徒たちの制服が、これもまた実在しそうになく、「コスプレ感」に溢れている。
言うなれば、絵だけ見ると「コント」的な、チープな感じがしてしまう。


一方で、主要登場人物を見ると、演技の下手ウマを言うのはあまり好きではないけれど、その中では、浜辺美波が圧倒的に上手い。ただ、この作品で言うと、一番、「普通」のキャラクターが主人公の咲なので、他の突飛なキャラクターを任された女優たちが可愛そうなのだが…。
その中で一番の功労者は片岡優希(廣田あいか*1だと思う。高音のアニメ声が特徴で、口癖が「〜だじょ!」。アニメ『シュタインズゲート』で初めてダルの声を聴いたときくらいの激しい違和感・「非実在感」を覚えた。
しかし、彼女くらい突き抜けた人がメインのキャラクターの中にいると、それ以外に、どんなにマンガ的、アニメ的なキャラクターがいても気にならなくなる。さらに、チープな感じを増幅するような演技が下手な人がいても、やはり同様に、この作品の中では受け入れられる。この作品世界の中では「ここまではOK」というリアリティラインは、優希が決めていると言っても過言ではないと思う。


そういう意味では、この作品のリアリティラインを踏み越えてしまいそうな、観ている側が、踏み絵を試されるようなキャラクターが、ライバル校の大将である天江衣(菊地麻衣)。金髪でアリスのようなコスプレで見た目は小学生(実際、菊地麻衣は小学生)。そして難しい漢語を多数含む長いセリフも多数ありながら、やや棒読み。
演じる菊地麻衣は、『貞子vs伽椰子』で、やはり強烈な印象を残す霊媒師の助手・珠緒役を演じており、ここでもそのミステリアスな存在感は健在。
…というか、2作品とも、役自体が強烈過ぎるのだが、自分としてはサダカヤに比べて、彼女の演技を受け入れやすかったのは、やはり優希(廣田あいか)がいたからだと思う。


ただ、そういった強烈過ぎる個性の人たちばかりだと作品自体がまとまらない。
実際、浜辺美波の演技がいくら上手くても、浮いてしまう。
そこで重要になるのが、浜辺美波の親友役となる原村和(浅川梨奈)*2で、彼女もまた、作品内で「おっぱいさん」と呼ばれるような色物キャラクターで、髪型もアニメ的でありながら、演技が上手い。(そして可愛い)
浜辺美波&浅川梨奈が中心に配置されて、片岡優希(廣田あいか)のような強烈なキャラクターがいることで、非現実的な世界観と「非実在」の超個性的なキャラクターが、この作品世界の中にいるという「実在感」を得ることができる。
つまり、物語世界の中で読者や観る側が感じる「実在感」というのは、登場人物だけによるものではなく、舞台設定とのバランスの中で生まれてくる。その部分で作家や監督の力量が問われてくる。


という理屈をいろいろ書きましたが、結論としては、浜辺美波は可愛いということです。特に左目の困り眉。

*1:私立恵比寿中学のメンバー。

*2:浅川梨奈の名前は雑誌の表紙などで見る機会があったが、あさかわ「りな」だと思っていた。まさか、これで「なな」と読むとは…。