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鉄腸野郎Z-SQUAD!(旧館) このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2016-12-08

Rosemary Myers&"Girl Asleep"/15歳、吐き気と不安の思春期ファンタジー!

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ここ最近、世界に名を轟かせたオーストラリアの新人監督による作品としてはある2本が挙げられる。まず1本がソフィー・ハイド監督作「52 チューズデイ」(東京レインボーリール映画祭で公開)、男性になることを決意した母とその娘の交流を描き出した一作だ。もう1作は日本でもお馴染みのジェニファー・ケント監督作「ババドック〜暗闇の魔物」だ。シングルマザーと彼女の息子を襲う恐怖を描き出した作品は、豪アカデミー作品賞を獲得するなど国内外問わず大きな話題となった。この2作に共通するのは、オーストラリア南部に位置するアデレイドという都市を舞台としている点だ。今までは別の地域に押され余り存在感を発揮できない状況が続いていたが、ここに来て新鋭作家の芽吹きぶりが顕著なのだという。今回は上記2作に続く、新人監督による超キュートで超面白い一作Girl Asleep”を紹介していこう。

1970年代オーストラリア、世界から色鮮やかな文化が到来しこの国でも様々な解放が花開いていた頃、しかし14歳の少女グレタ・ドリトコル(Bethany Whitmore)は最悪な思春期の真っ只中にあった。家族と共に大都市の郊外に引っ越してきたばかりの彼女は、転校先で早速いじめっこのジェイド(Maiah Stewardson)に目をつけられて、面倒臭い状況に陥ってしまっている。学校もクソだし、思春期も全部クソったれだよバカ!

そんな中で彼女は、自分と同じように学校に馴染めない少年エリオット(Harrison Feldman)と出会い、最初はぎこちなくも段々と絆を深めることになる。しかし彼を自宅に呼んだ時に事件が起こる。母のジャネット(Amber McMahon)から自分の15歳の誕生日がもうすぐと聞いたエリオットはパーティーを開催しよう!と皆に提案、乗り気になったジャネットと父のコンラッド(Matthew Whittet)らはドレスにケーキに飾りにと大騒ぎ。どんどん事が大きくなっていく中で、グレタの不安もまたどんどんどんどんどんどん……

Girl Asleep”はとびきり甘くカラフルな砂糖菓子を作るように、思春期の吐き気と不安を抱えたグレタの姿を描き出す一作だ。まず何よりもこの映画は最高に楽しい。冒頭、一人きりでベンチに座り憂鬱にひしゃげたような表情を浮かべるグレタの姿が映し出されるのだが、その周りで黄色い制服を着た生徒たちは陽気にバスケットをし、お喋りに花を咲かせる。その間もグレタはジェイドや他の生徒に言葉でボコられ憂鬱は深まるばかりだが周りで繰り広げられるのはテニスラケットジャグリング太極拳、様々に変な事態が同時進行し、ジャック・タチさながらどこ見ていいか分からない状況が続く。その光景には絵本を読むようなめくるめく愉快さに満ちている訳だ。

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しかしそれはまだ序の口、監督はあの手この手で私たちの心にワクワクを運んでくる。まず圧倒されるのは絵本世界を構築するハチャメチャに作り込みまくった美術と衣装だ。グレタの住む部屋は素敵な小物の宝庫だ、ドアに張ってある謎のポスターに白い箱に入ったオルゴール、グレタが不安になった時とにかく折りに触れて折りに折りまくる折り紙のツルたち、その1つ1つがグレタの性格を言葉よりも豊かに語ってくれる。そしてグレタを取り囲む登場人物たち、激ダサ眼鏡をかけた父コンラッドにメイクばっちりなエクササイズママンのジャネット、彼氏アダム(Eamon Farren)とヒッピー文化にドップリなお洒落姉ちゃんジェン(Imogen Archer)、その他脇に至るまで絶妙に時代を反映したキャラクターが代わる代わる現れる様はめくるめくThat’s 70’s!って感じだ。

そしてそこに響き渡る音楽の数々ったら力強い。Harry Covillの担当する劇伴は誰も彼もが浮き足立っていた時代の空気を、ディスコミュージックの影響濃厚な曲の数々によって捉え、観客の鼓膜を揺らしていく。もちろん当時の名曲もガンガン登場、中でも最悪で最高の誕生会の幕開けを告げるSylvester“You Make Me Feel (Mighty Real)”は、これくらい興奮がブチ上がる使い方した映画なんか思いつかないほど印象的なのだ。この70年代への傾倒について監督はこう語っている。

"70年代が興味深いのはオーストラリアの少女が違う時代を過ごしていたから。この映画はずっとでも浸っていたい幼さの喪失と哀しみを描いていますが、それは両親についても言えます(中略)2人の子供が成長していくことで、彼らからも失われる物がある訳です。そして70年代はオーストラリア女性解放運動が盛んだった頃で、女性たちはキャリアを築き上げ、今作に出てくる母もまた主婦以上の存在でもあります。他方、ジェンという主人公と性格が全く違う姉妹も出てきますが、観客には彼女が自分なりの道を作り上げていこうとしているのが分かるでしょう。グレタ自身も自分が大人の世界に足を踏み入れ、自分を個人として扱うべき時が来ているのを良く分かってる、彼女は言うでしょう"私は誰をモデルにすればいいの!"と"

"そういった要素の他、私自身この時代や音楽が好きなこともあります、自分が育った時代でもあるので(中略)そしてこの時代を舞台にすることで現代の様々なものに気を取られることなく、体験普遍性が宿るとも思っています。製作の初期、コストの関係でプロデューサーが"時代設定というのは止めるべきだ"と言ったんですが、それだけでは絶対にしたくなかった。舞台を現代にすると関係性というものが少し変わってしまう、あの頃にはSNSもなかったし、ある意味でもっと無邪気な時代でしたから。ジェンのような人々の世界はあのヨーロッパのポップミュージックによって開かれましたが、当時のオーストラリアではあれが全く新しい音楽だった訳です。ですが今では指一本で世界は思いのままでしょう、もう全く違うんですよ"

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これを監督したRosemary Meyersについて少し。彼女は元々舞台を中心に活躍してきた人物で、今作“Girl Asleep”も原案は同名の舞台劇である。学生時代、入学するべきなのは演劇学校か映画学校か迷った末に演劇を選んだ彼女は、20年もの歳月をこの世界で過ごした後、とうとう映画へと進出した訳である。作品には舞台のキャストやスタッフも多く参加しており、例えばグレタの父を演じるMatthew Whittet戯曲家でもあり今作を執筆したのが彼なのだ(実際作品を観ると色々な意味でマジで?と思うだろう)。そして美術・衣装担当Jonathon Oxladeに母を演じたAmber McMahon、更にアダムを演じるEamon Farrenは舞台ではエリオットを演じていたそうMeyersは彼らと共に十代の少年少女を描く作品を多く製作しており、しかしリハーサルに多くの時間を割かなくてはならない舞台の都合上、実際に十代の俳優を起用できることは稀であり、それを不満に思っていたそう。映画版Girl Asleep”はその不満を乗り越えるための作品でもある訳である。

さて、今作の主人公グレタを演じるBethany Whitmoreはそんな監督が見出だしたオーストラリア期待の新人俳優と言えるだろう。とにかく彼女の魅力はその表情にある。冒頭から最後まで彼女は思春期の吐き気にウゲエエエっと顔をしかめるような表情を浮かべ続けるのだが、その苦虫潰しっぷりったら今年No.1レベルの苦々しさだ。そんな苦いツラをカメラは長回しで捉え、嫌がらせのようなズームで捉え、更に照明係はバッキバキの極彩色を彼女にブチ当てる。そして誰も彼も70’sメイクがバリバリなのに、彼女だけはメイクも価値観も普通に今っぽいのが特徴的で、それは彼女が自分を取り巻く社会に馴染めないことの象徴でもあるのだろう(エリオットにもそんな印象を受ける、彼が“ホモ野郎!”と罵られた時の返答も現代的だったりする)

そして彼女の顔に浮かぶ苦味が最高潮に達する時、物語は全く異なる様相を呈することになる。誕生会の真っ只中、自分がずっと大切にしていた白いオルゴールを変な精霊に盗まれたグレタは家の傍らにある不気味な森へと飛び込んでいくが、そこに現れるのはどこまでも続く真っ黒な闇!すっごい凶暴な犬軍団!謎のベトベト深緑野郎!行く先々で何か折り紙をくれる精霊!この森に広がるのは悪夢のようなファンタジー世界、グレタは恐怖に震え森を逃げ惑うしかない。それでも颯爽と現れたフィンランドの女戦士フルドウ(Tilda Cobham-Hervey)と共に、彼女は拳を握って闇と立ち向かうことを決意するのだ。

Girl Asleep”において描かれるのは、子供たちが成長するにつれ否応なく対峙せざるを得ない変化の数々だ。いくら幼さにしがみつこうとしても、それを手放して変化に身を委ねなければいけない時は必ず来る。このファンタジー的な展開は思春期というままならなさに立ち向かうための旅路でもある。そしてグレタはなけなしの勇気を握りしめ、一発の拳で突き抜けようとする。オモチャ箱をひっくり返したような世界のその先に広がるのは、苦いけどそれ以上にスウィートなまた新しい世界なのだ。

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参考文献
http://moveablefest.com/moveable_fest/2016/09/rosemary-myers-girl-asleep.html(監督インタビューその1)
http://miff.com.au/blog/story/girl-asleep-from-stage-to-screen-an-interview-with-rosemary-myers(監督インタビューその2)

私の好きな監督・俳優シリーズ
その151 クレベール・メンドーサ・フィーリョ&「ネイバリング・サウンズ」/ブラジル、見えない恐怖が鼓膜を震わす
その152 Tali Shalom Ezer&”Princess”/ママと彼女の愛する人、私と私に似た少年
その153 Katrin Gebbe&”Tore Tanzt”/信仰を盾として悪しきを超克せよ
その154 Chloé Zhao&”Songs My Brothers Taught Me”/私たちも、この国に生きている
その155 Jazmín López&”Leones”/アルゼンチン、魂の群れは緑の聖域をさまよう
その156 Noah Buschel&”Bringing Rain”/米インディー映画界、孤高の禅僧
その157 Noah Buschel&”Neal Cassady”/ビート・ジェネレーションの栄光と挫折
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