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鉄腸野郎Z-SQUAD!(旧館) このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2017-05-26

Eloy Domínguez Serén&"Ingen ko på isen"/スウェーデン、僕の生きる場所

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今、未曽有の経済危機スペインを襲っている。特に若者への打撃は酷く、2016年時点で25歳以下の失業率が約50%に近づくなどかなり危うい水準にある。そんな状況で故郷を出て、他のEU諸国へと出稼ぎに行く若者たちの数が近年多くなってきている。今回はそんな若者の1人が自身の移民としての経験を語る、過酷ながら美しいドキュメンタリー"Ingen ko på isen"を紹介していこう。

ガリシア出身の映画監督エロイは故郷の窮状に背を向けて、スウェーデンストックホルムへとやってきた。だが移民である彼に待遇の良い仕事はほとんどない。建設現場で肉体労働に従事する彼は、人生が好転することを夢見ながらもその希望が擦り減っていくしかないようにしか思えない。そんな中でエロイはこの日常を映像として残そうと思い立つ。

"Ingen ko på isen"とはこの映像を中心とした私的ドキュメンタリーと形容できるだろう。建設現場で黙々と壁を壊し屋根に瓦を張っていく姿、新天地で巡り合った恋人ファティマとのささやかな幸福、ストックホルムという都市の見慣れぬ街並み、そういった映像の数々が詩的に結い合わされていく様は魅力的だ。

しかしそこには移民としての深い孤独が滲み渡る。仕事の合間に作業員たちが雑談を楽しむ光景が映し出される時"でも、僕には彼らの言葉が理解できない"という字幕が淡々と映し出される。つまり孤独の核には言葉を理解できないという苦悩がある。彼らの言葉が分からないのは勿論、街や公園にある標識の字も読むことが出来ず、ファティマに頼るしかない。それは確かにエロイの心を劣等感と不安で苛んでいく。

そんな彼の元に、スウェーデンで過ごす初めての冬が来る。"ある朝、ストックホルムは雪と沈黙の下に消えてしまった"というエロイの言葉の通り、ここに広がる純白の風景は息を呑むほどに美しい。湖は完全に凍りつき、その上を白煙が神々しく漂う。森は雪に覆われて、地面は全て白く塗り潰されてしまっている。これらを映すエロイの手つきは純粋な驚きに満ち、凍てつく美とその興奮を生々しく私たちに伝える。

そうしてエロイがスウェーデンに根を張っていくにつれ、彼の心にある思いが芽生え始めるのにも観客は気づくだろう。ある時ラジオからこんな音声が聞こえてくる。"経済危機が原因で、スペインからスウェーデンへの移民の数が加速度的に増加しています。太陽の光に満ちる国から凍える国への移住はどういう結果を彼らにもたらすのでしょうか?"今作にはそんな"太陽の光に満ちた国"、つまりはエロイの故郷であるガリシアの風景が幾度か挿入される。オレンジ色の温もりに満ちた世界、暖かな風が草を優しく撫でる田園風景。彼や両親、友人たちはそんな風景の中でいきいきとした生活を送っている。だがその根底には拭い難い貧困が存在し、エロイはスウェーデンへと移住せざるを得なかった。それでも彼の心には故郷への郷愁が蟠っている。

その中で郷愁から背を向けるように、彼はスウェーデンで自身の新たな人生を組み上げていく。それを象徴するのが言語を学ぶという行為だ。最初彼はスウェーデン語を読むことも喋ることも出来ない。だが学校に通うなどする内、みるみる彼のスウェーデン語は上達していく。文章の朗読や日常会話の実践、風景を言葉で表現してみる訓練、これらを経て彼の言葉が形を成していく姿は未知の言語を学ぶ面白さに満ちている。そして彼の傍らにはファティマがいて、親身になってスウェーデン語を学ぶためのサポートをしてくれる。それは頬も綻ぶ微笑ましい光景だが、そうしてエロイの世界は新たな感慨と共に開けていく。

この何にも代えがたい感覚が"Ingen ko på isen"を美しい傑作へと押し上げている。新たな場所で生きていくならば、故郷と今生きる場所への思いに引き裂かれることからは逃れることは出来ないだろう。その哀しみと喜びを背負いながら、エロイは新しい世界、その固い地を強く踏みしめて生きていくのだ。

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