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鉄腸野郎Z-SQUAD!(旧館) このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2017-06-07

アッティラ・ティル&「ヒットマン:インポッシブル」/ハンガリー、これが僕たちの物語

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世界には様々な身体を持った人々が生きている。腕や足が備わっている身体、先天的に目が見えない身体、下半身を持たない身体。こうして人の身体は多種多様な物だが、五体満足のいわゆる健常者以外の身体が映画で語られることは少ない。そしてもし語られるとしても健常な身体を持つ俳優がそんな人物を演じるという例は枚挙に暇がないと言えるだろう。だが今回紹介するハンガリー映画ヒットマンインポッシブルはそういった作品とは一線を画す傑作となっている。

Till Attila ティル・アッティラ(題名にはああ書いたが、ハンガリーは日本と同じく姓→名なのでこっちが多分正しい)はブダペストを拠点とする映画作家だ。ハンガリー芸術大学でインターメディア芸術について学んだ後、テレビ界に入る。実はハンガリーで最も有名なTV司会者の1人らしく、そちらの知名度の方が高いという。映画監督としてはまず2008年にパニック発作に苦しむ人々の悲喜こもごもを描き出したデビュー長編"Panik"を手掛けた。そして2010年にはハンガリーで実際に起こった事件を元とした短編"Csicska"を製作、今作がクラクフストックホルム映画祭で作品賞を獲得し、ヨーロッパを中心に話題を博した。そして2016年には第2長編である"Tiszta szívvel"akaヒットマン:インポッシブル(全く酷い邦題だ)を完成させることとなる。

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この物語の主人公はゾリ(Fenyvesi Zoltán)という青年だ。彼は先天的な病で車椅子が無ければ生きていけないという生活を送っている。だがその日常では不満が募るばかりだ。彼は親友のバルバ(Fekete Ádám)と共に"自分たちはいつまで障害者のままでいるのか?"と愚痴りながら、一方で身体を治すための手術をする踏ん切りも付かないでいる。そんな日々を彼らは漫画を描きながら、何とかやり過ごしていた。

だがある日、ゾリたちはルパゾフ(Thuróczy Szabolcs)という中年男性と出会うことになる。元消防士で刑務所から出てきたばかりの彼はある秘密を抱えていた。普通の仕事が出来なくなった彼は、殺し屋をして生計を立てていたのだ。ゾリはそんなルパゾフの姿に憧れ、彼のアシスタントとして働き始める。そうして彼の心には希望が芽生え始めるのだったが……

今作の骨組みはこのように、有り体に言えば良くあるスリラー映画と断言していいだろう。暗い魅力を持った殺し屋に惹かれ、若く好奇心に溢れた青年たちは殺しを手伝うこととなり、自分でも気付かないうちに大いなる闇の世界へ足を踏み入れていく。だが今作が他の作品と決定的に異なるのは車椅子の存在だ。ルパゾフは車椅子に乗るが故に健常者から舐められながら、その態度を利用して冷徹に殺人を遂行していく。且つ車椅子の人間が犯罪を犯すものかという社会通念を利用して、犯行現場からも易々と逃げおおせるのだ。

こうして彼らの持つ障害がある側面で物語の牽引力となっていくが、そこには身体の多様性も深く関わってくる。例えば主要人物3人は同じく車椅子に乗っているが、状況は全く違う。ゾリは先天的な障害のせいで上半身だけが発達しているという身体を持つ。バルバは傍から見れば身体は健常者のそれと変わらないが、歩行障害を持っている。ルパゾフの場合は後天的な事故で下半身不随となっており、自分はいわゆる障害者ではないとゾリたちとの間に線を引いている。このように身体が違えば、心の在り方もまた違ってくるのだ。当然だが車椅子に乗っているというだけで人々を同じように括ることは出来ないのだ。

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本作が巧みなのは、この多様性がジャンル映画の快楽へ巧みに奉仕されていく点だ。例えばそれぞれ電動や手押しなど車椅子の種類も変わる故に、その違いを利用した笑いもここには存在する。更に手押し車椅子では坂道をうまく上ることの出来ない状況や車椅子自動車に積み込むにあたっては解体する必要のある状況が、殺しの構図と相まってサスペンスへと接続されていく様は、スリラー映画として頗る新鮮な光景でもある。

ゾリたちはルパゾフの殺しをサポートすることで、退屈な日常から逃れて生きる希望をも見出だし始める。そしてルパゾフとの心の距離も深まっていきながら、現実はそう甘くはない。ルパゾフの雇い主であるセルビアマフィアのラドシュ(Dusán Vitanovics)は、秘密にすべき殺しの数々をルパゾフがゾリたちに明かしていることを知り、彼らの皆殺しを画策する。

こうしてジャンル性が深まっていくごとに、同じく深まっていくものが身体性というべき感覚だ。今までこういった役柄を演じるのは健常な身体を持つ俳優たちばかりであったが、今作を観れば分かる通り、ゾリとバルバを演じているのは実際に障害を持っている青年たちである。彼らの動きやそれに伴う苦悩は、身体を通じて実感を伴い迫ってくるが、それは本当に障害を持っているから以上に、当事者として声を上げられることが出来た故の切実さに起因するのだろう。

ヒットマンインポッシブルはジャンル映画の枠組みを使って、車椅子に乗る人々が“私の身体について私が語る”姿を綴る作品だ。そして監督が巧みなのは、普通の映画では余り語られることのないものを語るという内容が作品のギミックそのものに深く関わってくる点だ。ゾリたちは拭いがたい絶望感を抱えながらも、決死の覚悟で危険を潜り抜けていく。その思いを丹念に掬い取りながら、監督は私たちをある場所へと導いていく。そこには青年たちのある言葉が響く、これは僕たちの物語なんだという切実な声が。

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その152 Tali Shalom Ezer&”Princess”/ママと彼女の愛する人、私と私に似た少年
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その154 Chloé Zhao&”Songs My Brothers Taught Me”/私たちも、この国に生きている
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その156 Noah Buschel&”Bringing Rain”/米インディー映画界、孤高の禅僧
その157 Noah Buschel&”Neal Cassady”/ビート・ジェネレーションの栄光と挫折
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その177 ドミンガ・ソトマヨール&”Mar”/繋がりをズルズルと引きずりながら
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