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鉄腸野郎Z-SQUAD!(旧館) このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2017-08-01

Ben Young&"Hounds of Love"/オーストラリア、愛のケダモノたち

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ゼロ年代後半、オーストラリアから現れた実録犯罪映画「ウルフ・クリーク」は全世界を震撼させた。それに続いて現れたのがアニマル・キングダム「スノータウン」という凄まじい密度を持った犯罪映画であり、この3本はオーストラリア映画界の名声を高めたといって良いだろう。そして2016年、彼らの血を継ぐ血腥い一作が再びこの地から現れることとなった。ということで今回は豪産胸糞犯罪映画の最先端である作品Ben Young監督作“Hounds of Love”について紹介していこう。

17歳の高校生ヴィッキー(Ashleigh Cummings)は何一つ不自由ない暮らしを送っているように見える。医師である父親との関係は良好で、恋人とも良い仲を築いている。だが彼女にとって不満なのは母親であるマギー(Susie Porter)の存在だ。父と彼女は大分前に離婚し、今は離れ離れに暮らしている。時々彼女の元に会いに行くと、自分の人生に口出ししてきて忌々しいことこの上ないのだ。

ヴィッキーの現在と並行して描かれるのが、ジョンとエヴリン(Emma Booth&Stephen Curry)というカップルについてだ。彼らは子供の頃からずっと共にいるという密な仲で、やはり表面上は幸せな生活に見える。それでも密な関係の裏には、吐き気を催す秘密が隠されている。こうして監督は三者の道行きを丁寧に描き出しながら、その時に至るまでを見つめる。ある夜、ヴィッキーが独りでパーティーに出かけると近づいてくる車がいる。彼女は車の主であるジョンたちの誘いに応じ、車に乗るが、誤算だったのは彼らが若い女性を拉致監禁し最後には殺害する鬼畜だとは知らなかったことだ。

そして今作は血腥い犯罪劇へと姿を変える。成す術もなく拉致され、ベッドに鎖で繋がれたヴィッキーは叫びあがき続けながらも逃げることは出来ない。カップルはそんな彼女の姿を冷ややかに見つめるのだが、映画自体の眼差しも正にそういったものだ。目の前で起こる不気味な事態を観察し続ける瞳はひどく冷えた明晰さを持ち、どんな残虐なことが起ころうとも映画と被写体の間には距離がある。それがむしろ事件の残虐性をつまびらかにしていく。

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この冷ややかな視線は、そのままオーストラリアという国に広がる空気の乾きに繋がっていくこととなる。撮影監督の○が浮かび上がらせる世界は血みどろで暴力的でありながらも、むしろアメリカ映画におけるしつこさや韓国映画のねちっこい湿気は感じさせることのない、奇妙な乾きが宿っているのだ。それは先述したアニマル・キングダムなどの作品にも顕著だが、こういった空気感の通底が今作をそれらの系譜最先端と呼ぶに値するものとしている。

物語は徐々にカップルの精神状況に焦点を当てていく。外でのジョンは借金もロクに返せないチンケな男でしかないが、その鬱憤を晴らすかのように家では悍ましい監禁者として君臨している。エヴリンはそんな彼を愛し犯罪に手を貸しながらも、そこには確かな不満も存在している。ジョンは子供が欲しいという彼女の願いも退け、愛の名の元に自分へ従属させようとする。その状況に対して言い知れぬ不満を抱えるエヴリンは、ヴィッキーの監禁を通じて今一度自分の人生を見直さざるを得なくなる。

そんなエヴリンを演じるエマブース存在感は今作の1つの要だと言ってもいいだろう。拳を握りしめるような速度で変わっていく表情の中では、言葉では形容しきれない狂おしい愛と憎しみの輪舞が繰り広げられている。ジェイソン・ステイサム主演の「パーカー/PARKER」などとは全く違う表情を見せる彼女の姿には、英国1と言ってもいいだろう若手俳優アンドレア・ライズボローの百面相的な演技力が重なる。

そして今作にはもう1つ重要な要素が存在している。冒頭、私たちはコートでボール遊びをするヴィッキーの姿を目撃することになる。表向きは快活な光景だが、カメラは彼女たちの皮膚に目を向ける。彼女らが躍動する時、膝には濃厚な影を伴った皺が現れる。更に二の腕には紫外線の濃厚な日を浴びたゆえのシミが広がっているのにも気づくはずだ。そのどこか不気味な感触は何もヴィッキーだけに宿っている訳ではない。ジョンの首やエヴリンの顔を覆う皮膚もまた日に傷ついている様子が伺えるはずだ。

“Hounds of Love”にはそんな不気味な皮膚感覚が観る者の網膜に張りついてくるような映画だ。そして殺人的な陽光の中で生まれる糞色のシミは、私たちの肌を蝕みはじめ、内部を腐らせていく。その激烈さには確かにオーストラリア産犯罪映画の刻印が刻まれていると言えるだろう。

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私の好きな監督・俳優シリーズ
その151 クレベール・メンドーサ・フィーリョ&「ネイバリング・サウンズ」/ブラジル、見えない恐怖が鼓膜を震わす
その152 Tali Shalom Ezer&”Princess”/ママと彼女の愛する人、私と私に似た少年
その153 Katrin Gebbe&”Tore Tanzt”/信仰を盾として悪しきを超克せよ
その154 Chloé Zhao&”Songs My Brothers Taught Me”/私たちも、この国に生きている
その155 Jazmín López&”Leones”/アルゼンチン、魂の群れは緑の聖域をさまよう
その156 Noah Buschel&”Bringing Rain”/米インディー映画界、孤高の禅僧
その157 Noah Buschel&”Neal Cassady”/ビート・ジェネレーションの栄光と挫折
その158 トゥドール・クリスチャン・ジュルギウ&「日本からの贈り物」/父と息子、ルーマニアと日本
その159 Noah Buschel&”The Missing Person”/彼らは9月11日の影に消え
その160 クリスティ・プイウ&”Marfa şi Banii”/ルーマニアの新たなる波、その起源
その161 ラドゥー・ムンテアン&”Hîrtia va fi albastrã”/革命前夜、闇の中で踏み躙られる者たち
その162 Noah Buschel&”Sparrows Dance”/引きこもってるのは気がラクだけれど……
その163 Betzabé García&”Los reyes del pueblo que no existe”/水と恐怖に沈みゆく町で、生きていく
その164 ポン・フェイ&”地下香”/聳え立つビルの群れ、人々は地下に埋もれ
その165 アリス・ウィノクール&「ラスト・ボディガード」/肉体と精神、暴力と幻影
その166 アリアーヌ・ラベド&「フィデリオ、あるいはアリスのオデッセイ」/彼女の心は波にたゆたう
その167 Clément Cogitore&”Ni le ciel ni la terre”/そこは空でもなく、大地でもなく
その168 Maya Kosa&”Rio Corgo”/ポルトガル、老いは全てを奪うとしても
その169 Kiro Russo&”Viejo Calavera”/ボリビア、黒鉄色の絶望の奥へ
その170 Alex Santiago Pérez&”Las vacas con gafas”/プエルトリコ、人生は黄昏から夜へと
その171 Lina Rodríguez&”Mañana a esta hora”/明日の喜び、明日の悲しみ
その172 Eduardo Williams&”Pude ver un puma”/世界の終りに世界の果てへと
その173 Nele Wohlatz&”El futuro perfecto”/新しい言葉を知る、新しい”私”と出会う
その174 アレックス・ロス・ペリー&”Impolex”/目的もなく、不発弾の人生
その175 マリアリー・リバス&「ダニエラ 17歳の本能」/イエス様でもありあまる愛は奪えない
その176 Lendita Zeqiraj&”Ballkoni”/コソボ、スーパーマンなんかどこにもいない!
その177 ドミンガ・ソトマヨール&”Mar”/繋がりをズルズルと引きずりながら
その178 Ron Morales&”Graceland”/フィリピン、誰もが灰色に染まる地で
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その180 Ronny Trocker&”Die Einsiedler”/アルプス、孤独は全てを呑み込んでゆく
その181 Jorge Thielen Armand&”La Soledad”/ベネズエラ、失われた記憶を追い求めて
その182 Sofía Brockenshire&”Una hermana”/あなたがいない、私も消え去りたい
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その185 ジェシカ・ウッドワース&”King of the Belgians”/ベルギー国王のバルカン半島珍道中
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