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鉄腸野郎Z-SQUAD!(旧館) このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2018-08-19

Vlado Škafar&"Mama"/スロヴェニア、母と娘は自然に抱かれて

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さてスロヴェニアである。この国は……といつものように続けようとしたが、このブログにおいては既にスロヴェニア映画を紹介していた。ふう。実際レビューを書く時に一番苦労するのがこの序文なのである。レビューの幕開けとして、これから続く文章を包括的に纏めた文を書くのが苦手な訳である、という愚痴で以て字数を稼いでしまったが、まあたまには良いだろう(と、思いきや、後で調べたらスロヴェニア映画は初だった。記憶力の低下が著しい)はい、という訳で今回は母と娘の関係性を詩的に描き出した、Vlado Škafar監督によるスロヴェニア映画“Mama”を紹介していこう。

Vlado Škafar1969年スロヴェニアに生まれた。若い頃から映画に親しんでおり、スロヴェニアシネマテークイソラシネマ国際映画祭の設立者プログラマーとして活躍していた。監督としては1998年に短編"Stari most"でデビュー、その後は2003年に長編ドキュメンタリー"Peterka - Leto odlocitive"や2006年には同じく長編ドキュメンタリー"Pod nijhovo kozo"を製作するなど、主にドキュメンタリー作家として活躍していた。

彼にとって初めての劇長編は2010年製作の"Oca"である。長く疎遠であった父と息子が再開を果たし、スロヴェニアの自然の中で交流を深めていく姿を描き出した作品で、ヴェネチア国際映画祭の批評家週間で上映されるなど話題になる。そしてとある2人の女性の生涯に渡る友情を描いた、2012年製作のドキュメンタリー"Deklica in drevo"を経て、2016年には第2劇長編となる"Mama"を完成させる。

この物語の主人公は名もなき母(Natasa Tic Ralijan)と、やはり名もなき娘(Vida Rucli)の2人だ。彼女たちはイタリアスロヴェニアの国境付近に位置する、山奥の小さな家屋へとやってきた。だが自殺願望を持つ娘は破滅的な行為に走り、母は彼女を部屋に閉じ込めておかざるを得ない。

今作はまずそんな苦境にある母の姿を静かに見据えていく。蝋燭の灯りを頼りにして彼女は家屋の中を歩き回る。揺れる灯火は、額縁に飾られた昔の写真や埃臭い部屋の装いを浮かび上がらせていく。そして彼女が向ける眼差しは暖かな郷愁に満ちながらも、それはもう戻ってこないことをも知る悲哀をもそこには兆している。

監督はそんな彼女の姿に柔らかな身体性というべきものを宿していく。例えば彼女が家屋の壁を撫でる手つき、スッと指を伸ばしてから愛おしげに手を添える時の優しさは静かな感動を呼ぶ。そしてこの優しさは監督が世界に向けるそれと同じだ。彼はゆっくりと世界の中を進んでいく彼女を眺めながら、そこに優しさを見出だすうち、全てがまるで日常という名の舞踏と化し始める。壁を手で撫でる、蝋燭に火を灯す、埃臭い部屋でヨガを行う……

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だが監督はそんな物語にツイストを施す。母と娘が向かう先はとあるコミューンだ。カトリック教会の手で経営されているこの場所には、自らの病を治すために十数人の若者たちが集まっていた。ここから本作はドキュメンタリー的な転調を果たすのだ。例えば若者たちバレーボールを楽しむ、音楽療法を受ける、そういった姿がある種の親密さと共に綴られていく。そしてそこには彼らの証言もまた織り合わされていく。親との関係性、ここに来た理由、決意の固さ……

このフィクションドキュメンタリーが重なりあう、いわゆるドキュドラマ的な形式は最近の映画作家たち、例えばこのブログでも紹介したロベルト・ミネルヴィーニなどが好んで使う手法だ。異なる形式が混ざりあうように綴られるうち、フィクション的な語りの中にドキュメンタリー的な親密さが宿り始め、その繋がりが今作の物語世界を豊穣なるものとしていくのだ。

そうして物語が展開するにつれて、母と娘の心の彷徨いが色濃く浮かびあがっていく。母は娘の身を案じながら庭に種を植えていく、そこに希望の芽が出ることを願うように。彼女の行動に共鳴するように、娘は緑豊かな森のうちへと分け行っていくこととなる。そこに希望を探し求めて。そんな彼女たちを取り囲む自然の美しさは、正に崇高の一言で言い表すべきものだ。教会に広がる花の園、世界を塗りつぶす鮮やかな緑の色彩、撮影監督の○はそういった自然を息遣いまで捉えるように深くレンズに焼きつけていく。

だがもう1つ重要なのはこの世界に満ちる音の豊穣さだ。例えば母が物を持ったり床の上を歩いたりする時に聞こえてくる日常の音、例えば森を分け入る娘が枝を掻き分ける時に響く弾けるような音や彼女の周りを囲む鳥たちの囀りなどの自然の音、そういった物が細心の注意と共に繊細に捉えられていくのだ。中でも印象的なのは終盤に響き渡る川の流れの音だ。清洌な音の連なりの中で娘は癒されていくと共に、それを聞く私たちの心をも洗われていく、そんな力が宿っているのだ。“Mama”はそうした豊穣たる日常と自然の交わりを背景として綴られる、母と娘との複雑な関係性についての洞察だ。ラストの息を呑むほどに美しい風景は、彼女たちの未来を感じさせると共に、観る者自身の母親との関係性を振り返させるような美しさに満ち溢れている。

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参考文献
https://pro.festivalscope.com/director/kafar-vlado(監督プロフィール)
https://mubi.com/notebook/posts/to-be-discovered-an-interview-with-vlado-skafar(監督インタビュー)

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その202 João Viana&”A batalha de Tabatô”/ギニアビサウ、奪われた故郷への帰還
その203 Sithasolwazi Kentane&”Woman Undressed”/ Black African Female Me
その204 Victor Viyuoh&”Ninah’s Dowry”/カメルーン、流れる涙と大いなる怒り
その205 Tobias Nölle&”Aloys”/私たちを動かす全ては、頭の中にだけあるの?
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