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2018-08-29

Ivan I. Tverdovsky&"Zoology"/ロシア、尻尾に芽生える愛と闇

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さてここ連続して、ブログでロシア映画の記事ばかり執筆しているのに皆さん気づいているだろうか。というのも最近Soviet and Russian Moviesという未公開映画配信サイトを見つけ、ここで新作を片っ端から観ているからなのだ。ここは名前の通りソ連/ロシア映画を配信しているサイトで、セルゲイ・エイゼンシュタイン戦艦ポチョムキンからアンドレイ・ズビャギンツェフラブレスまで旧作新作を配信、もちろん未公開映画も多数取り揃えている。という訳で個人的にロシア映画ブームが来ており、記事を多く執筆しているのだ。さて今回はロシア映画界の新鋭トリックスターIvan I. Tverdovsky監督による奇妙なラブストーリー“Zoology”を紹介していきたいと思う。

本作の主人公はナターシャ(Natalya Pavlenkova)という中年女性だ。動物園で事務員として働く彼女は職場では同僚に嘲笑われ、家では耄碌した母親(Irina Chipizhenko)によく分からない話を聞かされ続け、どこにも居場所がない孤独な生活を送っていた。そんな彼女はドン詰まりの生活の中で、1つだけある秘密を抱えていたのだった。

“Zoology”はまず悲惨なほどに孤独なナターシャの生活を見つめ続ける。撮影監督Aleksandr Mikeladzeによる手振れカメラは、今にも壊れてしまいそうな幸薄さを湛えた彼女が寂しさに耐え忍びながらも、同僚たちに陰口を叩かれたり大量のネズミをけしかけられるなど確実に精神を削られていく姿を追いかけていく。唯一心落ち着くのは動物園で檻の中の動物たちと戯れる時だけだ。ライオンにエサをやり、騒ぎ回る猿に“いたずらな子!”と声をかけたり。その時だけはナターシャの顔にも笑顔が浮かぶのだ、その時だけは。

そんな彼女はお尻に痛みを感じ、病院へと駆け込む。医師であるペーチャ(Dmitriy Groshev)にレントゲンを取ってもらうことになるのだが、彼女はどうしても下半身を彼の前に晒そうとはしない。それでも最後には覆いを取ってしまうと、何と膝くらいまで届く細長い肌色の尻尾がそこにはあったのだった。

この作品は寒々しいロシアの岸辺の町を舞台とした、大人向けの少し不思議なファンタジー映画だとひとまず言えるだろう。尻尾はなかなかにリアルでグロテスクな印象を受ける人もいるかもしれない(その辺りは人魚伝説を大胆にアレンジしたポーランドゆれる人魚を彷彿とさせる)だが序盤はダルデンヌ兄弟風の社会派リアリズム的演出も相まって、それほど現実離れした筋道を辿ることがない。ナターシャも医師も尻尾の存在に何故だか余り驚かないのである。

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だが物語はある出来事をきっかけに進展していく。診察の際にナターシャはレントゲン医師のペーチャと出会った訳であるが、治療の都合で何度も彼の元へ通ううちに、2人は仲良くなっていく。ワインを一緒に飲んだり、岸辺にある秘密の場所でソリに乗ったりする中で彼女たちは惹かれあい、そしてとうとう唇を重ねあうまでになる。

という訳で今作は男女逆転版シェイプ・オブ・ウォーターとも言うべきーーナターシャは怪物とまでは行かないがーーロマンス劇へと舵を切り始める。本作が上映された際“怪物はいつも男で、それを受け入れるのはいつも男だ”という呟きをTwitterで見かけ、確かにその通りかもしれないと思っていたのだが、遡ること1年前に遠きロシアで“怪物は女で、それを受け入れるのは男”というロマンス映画が作られていた訳である。その愛の光景は本当に微笑ましく、ロシアの寒さを吹き飛ばすような暖かさに満ち溢れている(ついでに年齢が女>男という恋物語のもかなり珍しいだろう)

しかしだんだんとその愛に不穏な影が差し始めるのに観客は気づくだろう。ダンス場で2人は音楽に合わせ踊るのだが、余りにも舞い上がりすぎたナターシャのドレスから尻尾が飛び出してしまう。すると周囲の客は悲鳴を挙げて、凄まじい勢いでダンス場から逃げ出していくのだ。更に通りを歩いている時、うっかり尻尾をチラと見せてしまうものなら、通行人はまるで狂人を見るような目つきで睨みつけ、ナターシャを避けていく。ここにおいては“普通”からは逸脱した物に対する恐怖や軽蔑が現れ出ていて、それは国を問わないものだろうが、ロシア国内から見るとそれらはまた違って見えてくるらしい。今作のレビューを書く際、色々と海外のレビューを漁っていたのだが、Varietyのレビューにおそらくロシア在住者によるものだろう興味深いコメントがついていたので、それを紹介しよう。

"この作品は私生活を公にしたLGBTの人々を虐げる国における、暗喩に満ちた同性愛映画なんです。ナターシャの動物園での同僚は彼女を怠け者と考えていて、自分たちが飼育している檻の中の動物たちと彼女が密接な関係にあるのに気付いていません。ナターシャの隣人たちは彼女を自分たちと同じ価値観を持つ人物だと思っているが、その価値観は主流にある故に、自分たちが彼女を傷つけていると気付けていません。最終的にナターシャが"本質的に悪である"と彼女の母が気付いた時、母は自分が理解できない悪魔を祓うため部屋を十字架で埋めていきます。ロシア正教の神父がナターシャを祝福する方法が分からなかったり、聖餐を行おうとしないのもつまりはそういうことです"*1

“Zoology”はそうして暖かな愛の風景と凍えるようなロシアの闇が交錯する、中年女性のためのお伽噺なのである。この極寒の地で彼女は幸せを掴めるのだろうか。その余韻は頗る深いものだ。

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私の好きな監督・俳優シリーズ
その201 Yared Zeleke&”Lamb”/エチオピア、男らしさじゃなく自分らしさのために
その202 João Viana&”A batalha de Tabatô”/ギニアビサウ、奪われた故郷への帰還
その203 Sithasolwazi Kentane&”Woman Undressed”/ Black African Female Me
その204 Victor Viyuoh&”Ninah’s Dowry”/カメルーン、流れる涙と大いなる怒り
その205 Tobias Nölle&”Aloys”/私たちを動かす全ては、頭の中にだけあるの?
その206 Michalina Olszańska&”Já, Olga Hepnarová”/私、オルガ・ヘプナロヴァはお前たちに死刑を宣告する
その207 Agnieszka Smoczynska&”Córki dancingu”/人魚たちは極彩色の愛を泳ぐ
その208 Rosemary Myers&”Girl Asleep”/15歳、吐き気と不安の思春期ファンタジー!
その209 Nanfu Wang&”Hooligan Sparrow”/カメラ、沈黙を切り裂く力
その210 Massoud Bakhshi&”Yek khanévadéh-e mohtaram”/革命と戦争、あの頃失われた何か
その211 Juni Shanaj&”Pharmakon”/アルバニア、誕生の後の救いがたき孤独
その212 済藤鉄腸オリジナル、2010年代注目の映画監督ベスト100!!!!!
その213 アレクサンドラ・ニエンチク&”Centaur”/ボスニア、永遠のごとく引き伸ばされた苦痛
その214 フィリップ・ルザージュ&「僕のまわりにいる悪魔」/悪魔たち、密やかな蠢き
その215 ジョアン・サラヴィザ&”Montanha”/全てはいつの間にか過ぎ去り
その216 Tizza Covi&”Mister Universo”/イタリア、奇跡の男を探し求めて
その217 Sofia Exarchou&”Park”/アテネ、オリンピックが一体何を残した?
その218 ダミアン・マニヴェル&”Le Parc”/愛が枯れ果て、闇が訪れる
その219 カエル・エルス&「サマー・フィーリング」/彼女の死の先にも、人生は続いている
その220 Kazik Radwanski&”How Heavy This Hammer”/カナダ映画界の毛穴に迫れ!
その221 Vladimir Durán&”Adiós entusiasmo”/コロンビア、親子っていうのは何ともかんとも
その222 Paul Negoescu&”O lună în Thailandă”/今の幸せと、ありえたかもしれない幸せと
その223 Anatol Durbală&”Ce lume minunată”/モルドバ、踏み躙られる若き命たち
その224 Jang Woo-jin&”Autumn, Autumn”/でも、幸せって一体どんなだっただろう?
その225 Jérôme Reybaud&”Jours de France”/われらがGrindr世代のフランスよ
その226 Sebastian Mihăilescu&”Apartament interbelic, în zona superbă, ultra-centrală”/ルーマニアと日本、奇妙な交わり
その227 パス・エンシナ&”Ejercicios de memoria”/パラグアイ、この忌まわしき記憶をどう語ればいい?
その228 アリス・ロウ&”Prevenge”/私の赤ちゃんがクソ共をブチ殺せと囁いてる
その229 マッティ・ドゥ&”Dearest Sister”/ラオス、横たわる富と恐怖の溝
その230 アンゲラ・シャーネレク&”Orly”/流れゆく時に、一瞬の輝きを
その231 スヴェン・タディッケン&「熟れた快楽」/神の消失に、性の荒野へと
その232 Asaph Polonsky&”One Week and a Day”/イスラエル、哀しみと真心のマリファナ
その233 Syllas Tzoumerkas&”A blast”/ギリシャ、激発へと至る怒り
その234 Ektoras Lygizos&”Boy eating the bird’s food”/日常という名の奇妙なる身体性
その235 Eloy Domínguez Serén&”Ingen ko på isen”/スウェーデン、僕の生きる場所
その236 Emmanuel Gras&”Makala”/コンゴ、夢のために歩き続けて
その237 ベロニカ・リナス&「ドッグ・レディ」/そして、犬になる
その238 ルクサンドラ・ゼニデ&「テキールの奇跡」/奇跡は這いずる泥の奥から
その239 Milagros Mumenthaler&”La idea de un lago”/湖に揺らめく記憶たちについて
その240 アッティラ・ティル&「ヒットマン:インポッシブル」/ハンガリー、これが僕たちの物語
その241 Vallo Toomla&”Teesklejad”/エストニア、ガラスの奥の虚栄
その242 Ali Abbasi&”Shelly”/この赤ちゃんが、私を殺す
その243 Grigor Lefterov&”Hristo”/ソフィア、薄紫と錆色の街
その244 Bujar Alimani&”Amnestia”/アルバニア、静かなる激動の中で
その245 Livia Ungur&”Hotel Dallas”/ダラスとルーマニアの奇妙な愛憎
その246 Edualdo Williams&”El auge del humano”/うつむく世代の生温き黙示録
その247 Ralitza Petrova&”Godless”/神なき後に、贖罪の歌声を
その248 Ben Young&”Hounds of Love”/オーストラリア、愛のケダモノたち
その249 Izer Aliu&”Hunting Flies”/マケドニア、巻き起こる教室戦争
その250 Ana Urushadze&”Scary Mother”/ジョージア、とある怪物の肖像
その251 Ilian Metev&”3/4”/一緒に過ごす最後の夏のこと
その252 Cyril Schäublin&”Dene wos guet geit”/Wi-Fi スマートフォン ディストピア
その253 Alena Lodkina&”Strange Colours”/オーストラリア、かけがえのない大地で
その254 Kevan Funk&”Hello Destroyer”/カナダ、スポーツという名の暴力
その255 Katarzyna Rosłaniec&”Szatan kazał tańczyć”/私は負け犬になるため生まれてきたんだ
その256 Darío Mascambroni&”Mochila de plomo”/お前がぼくの父さんを殺したんだ
その257 ヴィルジル・ヴェルニエ&”Sophia Antipolis”/ソフィア・アンティポリスという名の少女
その258 Matthieu Bareyre&“l’Epoque”/パリ、この夜は私たちのもの
その259 André Novais Oliveira&”Temporada”/止まることない愛おしい時の流れ
その260 Xacio Baño&”Trote”/ガリシア、人生を愛おしむ手つき
その261 Joshua Magar&”Siyabonga”/南アフリカ、ああ俳優になりたいなぁ
その262 Ognjen Glavonić&”Dubina dva”/トラックの棺、肉体に埋まる銃弾
その263 Nelson Carlo de Los Santos Arias&”Cocote”/ドミニカ共和国、この大いなる国よ
その264 Arí Maniel Cruz&”Antes Que Cante El Gallo”/プエルトリコ、貧しさこそが彼女たちを
その265 Farnoosh Samadi&”Gaze”/イラン、私を追い続ける視線
その266 Alireza Khatami&”Los Versos del Olvido”/チリ、鯨は失われた過去を夢見る
その267 Nicole Vögele&”打烊時間”/台湾、眠らない街 眠らない人々
その268 Ashley McKenzie&”Werewolf”/あなたしかいないから、彷徨い続けて
その269 エミール・バイガジン&”Ranenyy angel”/カザフスタン、希望も未来も全ては潰える
その270 Adriaan Ditvoorst&”De witte waan”/オランダ映画界、悲運の異端児
その271 ヤン・P・マトゥシンスキ&「最後の家族」/おめでとう、ベクシンスキー
その272 Liryc Paolo Dela Cruz&”Sa pagitan ng pagdalaw at paglimot”/フィリピン、世界があなたを忘れ去ろうとも
その273 ババク・アンバリ&「アンダー・ザ・シャドウ」/イラン、母という名の影
その274 Vlado Škafar&”Mama”/スロヴェニア、母と娘は自然に抱かれて
その275 Salomé Jashi&”The Dazzling Light of Sunset”/ジョージア、ささやかな日常は世界を映す
その276 Gürcan Keltek&”Meteorlar”/クルド、廃墟の頭上に輝く流れ星
その277 Filipa Reis&”Djon África”/カーボベルデ、自分探しの旅へ出かけよう!
その278 Travis Wilkerson&”Did You Wonder Who Fired the Gun?”/その”白”がアメリカを燃やし尽くす
その279 Mariano González&”Los globos”/父と息子、そこに絆はあるのか?
その280 Tonie van der Merwe&”Revenge”/黒人たちよ、アパルトヘイトを撃ち抜け!
その281 Bodzsár Márk&”Isteni müszak”/ブダペスト、夜を駆ける血まみれ救急車
その282 Winston DeGiobbi&”Mass for Shut-Ins”/ノヴァスコシア、どこまでも広がる荒廃
その283 パスカル・セルヴォ&「ユーグ」/身も心も裸になっていけ!
その284 Ana Cristina Barragán&”Alba”/エクアドル、変わりゆくわたしの身体を知ること
その285 Kyros Papavassiliou&”Impressions of a Drowned Man”/死してなお彷徨う者の詩
その286 未公開映画を鑑賞できるサイトはどこ?日本からも観られる海外配信サイト6選!
その287 Kaouther Ben Hania&”Beauty and the Dogs”/お前はこの国を、この美しいチュニジアを愛してるか?
その288 Chloé Robichaud&”Pays”/彼女たちの人生が交わるその時に
その289 Kantemir Balagov&”Closeness”/家族という名の絆と呪い
その290 Aleksandr Khant&”How Viktor ’the Garlic’ Took Alexey ’the Stud’ to the Nursing Home”/オトンとオレと、時々、ロシア


Aleksandr Khant&"How Viktor 'the Garlic' Took Alexey 'the Stud' to the Nursing Home"/オトンとオレと、時々、ロシア

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ロシアと言えばソ連時代から連綿と続くアート映画大国だろう。ジガ・ヴェルトフアンドレイ・タルコフスキーアレクサンドル・ソクーロフアンドレイ・ズビャギンツェフなどなど文芸映画の担い手であった映画作家たちは枚挙に暇がない。だが今回はそういう文芸映画だとか高尚なものは全て忘れろ!ということで今回はロシアの現在を描き出すハイテンション不謹慎コメディ、Aleksandr Khant監督作“How Viktor 'the Garlic' Took Alexey 'the Stud' to the Nursing Home”(題名長すぎ!)を紹介していこう。

主人公は“ニンニク”という渾名を持つ男ヴィクトル(Evgeniy Tkachuk)だ。彼は筋金入りのチンピラ野郎で、子供も妻もいるのに夜は悪友たちと酒をブチ込みまくりバーにいる女を口説きまくり、そして泥酔状態で家に帰ってきたかと思うと、二日酔いの状態でゴミ収集所での仕事を適当にこなしていく。彼の日常はそうやって刹那的に過ぎ去っていく。

まず今作はロシアのクソッタレ野郎の豪快なクソッタレぶりを存分に描き出していく。自分の浮気相手に言い寄ってくる相手を外に連れ出して鉄拳で一発KO、更に浮気相手と車の中でガンガンヤりまくって、家へ堂々のご帰宅だ。するとそんな現状に嫌気が差した妻と喧嘩になり、流れでビール瓶を持ち出され頭をカチ割られる始末。そんな破天荒な状況がハイテンションで以て綴られていく訳である。

その中で印象的なのは映画の色彩感覚だ。撮影監督Daniil Fomichevの映し出す世界には赤やら緑やら黄色やらのクラブに満ちる明かりを思わせる極彩色が広がっている。デンマークのキレキレ作家ニコラス・ウィンディング・レフン映画さながら、常に色味はバッキバキに輝いている。そんな場所で暴飲に暴力に暴走が描かれていく様は、脳髄をブン殴ってくるような攻撃性に汪溢しているのだ。

ある日、ヴィクトルは長年音信不通であった父の“イケメン野郎”アレクセイ(Aleksey Serebryakov)と再会することとなる。彼が家族を捨てたのがきっかけで母親は首吊り自殺を遂げヴィクトルは孤児になってしまった。それ故、彼は父親に対して敵意剥き出しだが、既にアレクセイは寝たきりで言葉すら発せられない状態に陥っていた。そしてひょんなことからヴィクトルは彼を老人ホームまで送るというクソ最悪な仕事をやらざるを得なくなり、奇妙な旅路が幕を開けることとなる。

こうして“How Viktor”は喧しいロードムービーの様相を呈し始める。道中、おっぱいにタトゥーを入れた鶏連れのねーちゃんが乗ってきたかと思うと、おっぱいに見とれたヴィクトルは豪快に事故ってしまう。そして痙攣しまくって超ヤバい感じの父親を病院へブチ込むと、何の注射を射たれたかは分からないが、何故か寝たきり状態から奇跡的に大復活、何処からか銃を持ち出してヴィクトルに要求する。“俺には行かなきゃならん所がある。そこまで連れてけクソッタレ!”

そんな訳でロードムービーは更に父と子の関係性を描き出す道筋となっていく。道中で、ヴィクトルはアレクセイがやらかしてきたらしい数々の悪事を目撃することとなる。その中には現在進行形で自身がやっている悪行を彷彿とさせるものもあり、ヴィクトルは嫌悪感を催すほどの父親と同じ轍を踏んでいるのではないか?と内省せざるを得なくなる。そんな中でアレクセイのある過去が発覚した時、彼はとうとう真実の父親と対峙せざるを得なくなる。そしてそこには絆が生まれる…………のか?

題名の奇妙さと同様に“How Viktor”はなかなかに奇特な味つけをされた父子のロードムービーだ。何よりも笑いのセンスという奴は国によって異なるため、コメディ映画は国境を越えるのが難しいとは言われるが、本作もある側面ではそれが言えると思われる。だがロシア産のコメディ映画ってこんなんなんだなぁと観たりするのもまた一興と言うべきだろう。

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その289 Kantemir Balagov&”Closeness”/家族という名の絆と呪い


Kantemir Balagov&"Closeness"/家族という名の絆と呪い

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さて、ロシア連邦はその名の通り様々な国から成り立っている連合国家であるのだが、その中のカバルダ・バルカル共和国という国を皆さんは知っているだろうか。正直言って私なんかは全く知らなかった。しかし私たちが知らないだけで、そこでは様々な人々が人生を送り、そして様々な事件さえも起こっている訳だ。ということで今回はそんなカバルダ・バルカル共和国を舞台とした一作である、弱冠26歳の新星Kantemir Balagovによる初長編“Closeness”を紹介していこう。

Kantemir Balagovは1991年カバルダ・バルカル共和国のナルチクに生まれた。最初彼はスタヴロプリで経済学について勉強していたが、23歳の時アレクサンドル・ソクーロフ監督によってナルチク大学に設立された映画科に入学、映画製作を学び始める。2014年の短編"Pervyy ya""Andryukha"、2015年の中編劇映画"Molodoy eschyo"を経て、彼は2017年に初の長編作品である"Closeness"を完成させる。

舞台は前述の通りロシア連邦南部、北コーカサス地方に位置するカバルダ・バルカル共和国だ。冒頭、この国の首都であるナルチクの風景が流れると共にこういった字幕が現れる。“私の名前はKantemir Balagov、この映画の監督です。この作品は私の故郷であるナルチクを舞台としています。そして描かれる事件は1998年に実際起こった事件でもあります……”

今作の主人公はユダヤ系コミュニティに住むイラ(Darya Zhovnar)、父親であるアヴィ(Atrem Cipin)と共に車の整備をして生計を立てている家族思いの若い女性だ。家族との関係はもちろんのこと、恋人であるザリク(Nazir Zhukov)との関係も順調であり、幸せな日々を過ごしている。そして最愛の弟であるデヴィッド(Veniamin Kac)がとうとう結婚するということもあって、家族は今までにない幸福感に包まれていた。

“Closeness”はそんな状況にあるイラを中心に描かれる物語だ。ダルデンヌ兄弟的な社会派リアリズムに貫かれている故に、そのイラたちの日常や開催される宴会は撮影監督Artem Emelianovの手振れカメラで追跡されることとなる。そうして多用される極端なクロースアップの数々は観る者にとって息苦しいものだが、そこに息づく文化や漂う空気感を生々しい形で感じたり目撃したりすることができるはずだ。

そんな中で宴会後の深夜、デヴィッドと彼の妻が誘拐されるという事件が発生する。家族は莫大な額の身代金を要求されてしまい、家にある家具や美術品を売り払う羽目になるのだが、それだけでは足りないと分かった家族はイラに詰め寄っていく。自分たちを援助してくれるという家族の息子の元へ嫁に行けと。

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こうしてイラの孤独なる苦闘が始まることとなる。両親に対しては罵詈雑言を捨て吐き、頑なに自分の意思に反する結婚を拒み続ける。そして恋人であるザリクと共に激しいセックスを繰り広げて、大いなる鬱憤を晴らしていく。そういった彼女の姿は悲痛で、心の動揺は酷く生々しい。イラを演じるDarya Zhovnarはこれが初めての映画出演だというが、そうだとは信じられないほどの迫真性に満ち溢れていると言っていいだろう。

更にこの映画においてはイラの苦闘に共和国の実情すらも絡み合うのだ。セックスの後、イラは○やその友人たちと共にテレビを眺めるのだが、そこに映るのは凄惨な光景ばかりだ。自国の兵士たちがロシア人たちによって虐待され抑圧され、最後には命を奪われる一種のスナッフ動画。一見物語とは関係のない、ただショックバリューのみを求めた描写のようにも思われるが監督自身はインタビューにおいてこういった発言をしている。

"初めてそれを観た時、私は確か14歳ごろでした。CDで見たんだと思います。学校にいるみんながこの映像を見ていました。そしてそれが私にとって初めての死との遭遇であり、最もショックだったのは映っているのは私たちの隣人であったからです。とても恐ろしかった"

"(その映像に気分を害した観客もいたが?と聞かれ)正直に言うと驚きはなかったです。別に気にもしていません。登場人物たちが生きる時代の地理的・政治的背景を説明するにはその映像が必要だと分かっていた、それが主な理由です。他には当然感情に触れる衝撃のためですね。私はそれをフィクションとして再構成しようと思っていましたが、観客への感情的な衝撃は(自分たちが受けたのと)同じ物ではないと分かっていました。私は観客に彼らの死を尊重して欲しかった。死を再構成する時はいつだって、それは本物でないと分かってしまう。だから本物の映像が必要だったんです"*2

今作の核は先ほども記した社会派リアリズムながらも、監督はそのリアリズムを越えた抜群の色彩感覚によって物語に更なる深みを与えていく。窓から差し込んでくる濃厚な赤や黄色は人工的な触感を持ち、観る者に脅威を感じさせる。それに対してイラがその身に纏い続ける青の色彩はつまり反抗の彩りだ。彼女の物だけでなく、時おり世界にチラつくその色彩は孤独に戦い続けるイラが秘めた決意と勇気のごとく輝いているのだ。

そういう意味でやはり今作の核といえば、イラ役のDarya Zhovnarをおいて他にはいないだろう。全身で表現する爆発するような感情の迫真性は私たちを釘付けにし、音楽の消失したクラブで身体を躍動させる姿は私たちに衝撃を与え、その力強い眼差しは私たちの心を貫いていく。悲痛な運命を辿りながらも、彼女は抑圧が横行する中でも逞しく生き抜こうとする。そんな闇の中にある、イラという輝きが“Closeness”を陰惨さ悲惨さから救いだしているのだ。

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私の好きな監督・俳優シリーズ
その201 Yared Zeleke&”Lamb”/エチオピア、男らしさじゃなく自分らしさのために
その202 João Viana&”A batalha de Tabatô”/ギニアビサウ、奪われた故郷への帰還
その203 Sithasolwazi Kentane&”Woman Undressed”/ Black African Female Me
その204 Victor Viyuoh&”Ninah’s Dowry”/カメルーン、流れる涙と大いなる怒り
その205 Tobias Nölle&”Aloys”/私たちを動かす全ては、頭の中にだけあるの?
その206 Michalina Olszańska&”Já, Olga Hepnarová”/私、オルガ・ヘプナロヴァはお前たちに死刑を宣告する
その207 Agnieszka Smoczynska&”Córki dancingu”/人魚たちは極彩色の愛を泳ぐ
その208 Rosemary Myers&”Girl Asleep”/15歳、吐き気と不安の思春期ファンタジー!
その209 Nanfu Wang&”Hooligan Sparrow”/カメラ、沈黙を切り裂く力
その210 Massoud Bakhshi&”Yek khanévadéh-e mohtaram”/革命と戦争、あの頃失われた何か
その211 Juni Shanaj&”Pharmakon”/アルバニア、誕生の後の救いがたき孤独
その212 済藤鉄腸オリジナル、2010年代注目の映画監督ベスト100!!!!!
その213 アレクサンドラ・ニエンチク&”Centaur”/ボスニア、永遠のごとく引き伸ばされた苦痛
その214 フィリップ・ルザージュ&「僕のまわりにいる悪魔」/悪魔たち、密やかな蠢き
その215 ジョアン・サラヴィザ&”Montanha”/全てはいつの間にか過ぎ去り
その216 Tizza Covi&”Mister Universo”/イタリア、奇跡の男を探し求めて
その217 Sofia Exarchou&”Park”/アテネ、オリンピックが一体何を残した?
その218 ダミアン・マニヴェル&”Le Parc”/愛が枯れ果て、闇が訪れる
その219 カエル・エルス&「サマー・フィーリング」/彼女の死の先にも、人生は続いている
その220 Kazik Radwanski&”How Heavy This Hammer”/カナダ映画界の毛穴に迫れ!
その221 Vladimir Durán&”Adiós entusiasmo”/コロンビア、親子っていうのは何ともかんとも
その222 Paul Negoescu&”O lună în Thailandă”/今の幸せと、ありえたかもしれない幸せと
その223 Anatol Durbală&”Ce lume minunată”/モルドバ、踏み躙られる若き命たち
その224 Jang Woo-jin&”Autumn, Autumn”/でも、幸せって一体どんなだっただろう?
その225 Jérôme Reybaud&”Jours de France”/われらがGrindr世代のフランスよ
その226 Sebastian Mihăilescu&”Apartament interbelic, în zona superbă, ultra-centrală”/ルーマニアと日本、奇妙な交わり
その227 パス・エンシナ&”Ejercicios de memoria”/パラグアイ、この忌まわしき記憶をどう語ればいい?
その228 アリス・ロウ&”Prevenge”/私の赤ちゃんがクソ共をブチ殺せと囁いてる
その229 マッティ・ドゥ&”Dearest Sister”/ラオス、横たわる富と恐怖の溝
その230 アンゲラ・シャーネレク&”Orly”/流れゆく時に、一瞬の輝きを
その231 スヴェン・タディッケン&「熟れた快楽」/神の消失に、性の荒野へと
その232 Asaph Polonsky&”One Week and a Day”/イスラエル、哀しみと真心のマリファナ
その233 Syllas Tzoumerkas&”A blast”/ギリシャ、激発へと至る怒り
その234 Ektoras Lygizos&”Boy eating the bird’s food”/日常という名の奇妙なる身体性
その235 Eloy Domínguez Serén&”Ingen ko på isen”/スウェーデン、僕の生きる場所
その236 Emmanuel Gras&”Makala”/コンゴ、夢のために歩き続けて
その237 ベロニカ・リナス&「ドッグ・レディ」/そして、犬になる
その238 ルクサンドラ・ゼニデ&「テキールの奇跡」/奇跡は這いずる泥の奥から
その239 Milagros Mumenthaler&”La idea de un lago”/湖に揺らめく記憶たちについて
その240 アッティラ・ティル&「ヒットマン:インポッシブル」/ハンガリー、これが僕たちの物語
その241 Vallo Toomla&”Teesklejad”/エストニア、ガラスの奥の虚栄
その242 Ali Abbasi&”Shelly”/この赤ちゃんが、私を殺す
その243 Grigor Lefterov&”Hristo”/ソフィア、薄紫と錆色の街
その244 Bujar Alimani&”Amnestia”/アルバニア、静かなる激動の中で
その245 Livia Ungur&”Hotel Dallas”/ダラスとルーマニアの奇妙な愛憎
その246 Edualdo Williams&”El auge del humano”/うつむく世代の生温き黙示録
その247 Ralitza Petrova&”Godless”/神なき後に、贖罪の歌声を
その248 Ben Young&”Hounds of Love”/オーストラリア、愛のケダモノたち
その249 Izer Aliu&”Hunting Flies”/マケドニア、巻き起こる教室戦争
その250 Ana Urushadze&”Scary Mother”/ジョージア、とある怪物の肖像
その251 Ilian Metev&”3/4”/一緒に過ごす最後の夏のこと
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その253 Alena Lodkina&”Strange Colours”/オーストラリア、かけがえのない大地で
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その255 Katarzyna Rosłaniec&”Szatan kazał tańczyć”/私は負け犬になるため生まれてきたんだ
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その257 ヴィルジル・ヴェルニエ&”Sophia Antipolis”/ソフィア・アンティポリスという名の少女
その258 Matthieu Bareyre&“l’Epoque”/パリ、この夜は私たちのもの
その259 André Novais Oliveira&”Temporada”/止まることない愛おしい時の流れ
その260 Xacio Baño&”Trote”/ガリシア、人生を愛おしむ手つき
その261 Joshua Magar&”Siyabonga”/南アフリカ、ああ俳優になりたいなぁ
その262 Ognjen Glavonić&”Dubina dva”/トラックの棺、肉体に埋まる銃弾
その263 Nelson Carlo de Los Santos Arias&”Cocote”/ドミニカ共和国、この大いなる国よ
その264 Arí Maniel Cruz&”Antes Que Cante El Gallo”/プエルトリコ、貧しさこそが彼女たちを
その265 Farnoosh Samadi&”Gaze”/イラン、私を追い続ける視線
その266 Alireza Khatami&”Los Versos del Olvido”/チリ、鯨は失われた過去を夢見る
その267 Nicole Vögele&”打烊時間”/台湾、眠らない街 眠らない人々
その268 Ashley McKenzie&”Werewolf”/あなたしかいないから、彷徨い続けて
その269 エミール・バイガジン&”Ranenyy angel”/カザフスタン、希望も未来も全ては潰える
その270 Adriaan Ditvoorst&”De witte waan”/オランダ映画界、悲運の異端児
その271 ヤン・P・マトゥシンスキ&「最後の家族」/おめでとう、ベクシンスキー
その272 Liryc Paolo Dela Cruz&”Sa pagitan ng pagdalaw at paglimot”/フィリピン、世界があなたを忘れ去ろうとも
その273 ババク・アンバリ&「アンダー・ザ・シャドウ」/イラン、母という名の影
その274 Vlado Škafar&”Mama”/スロヴェニア、母と娘は自然に抱かれて
その275 Salomé Jashi&”The Dazzling Light of Sunset”/ジョージア、ささやかな日常は世界を映す
その276 Gürcan Keltek&”Meteorlar”/クルド、廃墟の頭上に輝く流れ星
その277 Filipa Reis&”Djon África”/カーボベルデ、自分探しの旅へ出かけよう!
その278 Travis Wilkerson&”Did You Wonder Who Fired the Gun?”/その”白”がアメリカを燃やし尽くす
その279 Mariano González&”Los globos”/父と息子、そこに絆はあるのか?
その280 Tonie van der Merwe&”Revenge”/黒人たちよ、アパルトヘイトを撃ち抜け!
その281 Bodzsár Márk&”Isteni müszak”/ブダペスト、夜を駆ける血まみれ救急車
その282 Winston DeGiobbi&”Mass for Shut-Ins”/ノヴァスコシア、どこまでも広がる荒廃
その283 パスカル・セルヴォ&「ユーグ」/身も心も裸になっていけ!
その284 Ana Cristina Barragán&”Alba”/エクアドル、変わりゆくわたしの身体を知ること
その285 Kyros Papavassiliou&”Impressions of a Drowned Man”/死してなお彷徨う者の詩
その286 未公開映画を鑑賞できるサイトはどこ?日本からも観られる海外配信サイト6選!
その287 Kaouther Ben Hania&”Beauty and the Dogs”/お前はこの国を、この美しいチュニジアを愛してるか?
その288 Chloé Robichaud&”Pays”/彼女たちの人生が交わるその時に
その289 Kantemir Balagov&”Closeness”/家族という名の絆と呪い

2018-08-28

Chloé Robichaud&"Pays"/彼女たちの人生が交わるその時に

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Chloé Robichaud &”Sarah préfère la course” /カナダ映画界を駆け抜けて
Chloé Robichaud&”FÉMININ/FÉMININ”/愛について、言葉にしてみる
Chloé Robichaud監督の略歴、および前作についてはこちら参照。


さて、Chloé Robichaud監督である。彼女は私にとって一際思い出深い映画作家だ。何せ彼女のデビュー長編“Sarah préfère la course"を日本の皆に紹介しようという思いから、この日本未公開映画ブログを始めたのだから(実際書いた記事がこれだ)。という訳で長年観たいと思っていた彼女の最新長編“Pays”が映画配信サイトMUBIで観れると知った時、興奮が抑えられなくなったと同時に不安すらも首をもたげてきた。何せ世界で一番愛していると言っていい作家の一番新しい作品である、もしそれがとんだ大駄作だったら立ち直れない……と観る踏ん切りがつかなかったのである。しかしつい先日その不安を断ち切って、とうとう、とうとう“Pays”を鑑賞した。Robichaud監督、アンタやっぱりすげえ監督だったよ……ということで今回はRobichaud監督による第2長編“Pays”を紹介していこう。

この作品の舞台となるのはベスコ島、寒々しくも風光明媚なこの島はカナダに属しながらも、自治区として存在している。最近この場所で地域の自然資源がカナダから搾取されているとの不満が噴出、それを見かねた両者はベスコ島で資源管理についての会議を行うことを決定したのであった。

会議を発端として物語は描かれる訳だが、中心となるのは3人の女性たちだ。まずカナダ側に属するフェリックス(Nathalie Doummar)、彼女はまだ25歳で大学院生ながら党の重鎮ポール(Rémy Girard)にその実力を認められ会議へと随行することとなったのだ。そんな彼女は初めての大舞台に張り切り、奮闘を決意している。そしてベスコ側に属するダニエル(「みなさん、さようなら」マーシャ・グレノン)、彼女はこの島のリーダーであり日々島の安寧を守るために奔走、その一貫として会議に臨むこととなる。最後の1人はエミリー(シビルウォー/キャプテン・アメリカエミリー・ヴァンキャンプ)、彼女はこういった会議の司会兼調停役として働く人物であり、世界中を飛び回っているのだが、今回派遣されたのがこのベスコ島だったという訳である。

こうして会議は学校の体育館で幕を開ける訳であるが、議題である自然資源の管理や鉱山会社の活動については両者とも全く意見を譲ることなく、侃々諤々の議論が繰り広げられることとなる。意見は激しく衝突しあい議論は平行線を辿る。それはまるでカナダの国技であるアイスホッケーにおけるぶつかり合いのような苛烈さだ。

それでも物語の中心として描かれるのは会議そのものではなく、やはり3人の女性たちだ。フェリックスは会議中何とか発言をするのだが、会議後ポールに黙ってろと言われ壁の花状態になり全く力を発揮することが出来ない。ダニエルは平行線の議論に頭を痛めると共に、日常生活では身体の不自由な娘の介護に日々疲労感を溜めていく。エミリーは調停役としてかなりの苦労を重ねると同時に、悩みの種である離婚予定の夫との子供の親権争いが佳境に入ってきて気が気でない。そうしてRobichaud監督はそれぞれの人生を丹念に描き出していくのだ。

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監督の前作“Sarah préfère la course"は一言で表現するならば“ストイック”だった。無駄な表現や音楽、映画的なギミックなどは排しながら淡々と一人の少女の人生を紡ぐ、そこには剥き出しの生の感覚が存在していた。しかしモントリオールに生きるレズビアンたちのライフスタイルをスタイリッシュに描いたWebシリーズ“FÉMININ/FÉMININ”を経た後の監督の演出はもっと自由なものだ。音楽はその当時流行っていた曲やSimon Bertrandによる融通無碍なジャズの響きを多様、映画的ギミックも撮影監督Jessica Lee Gagnéのカメラを存分に活用しその動きで登場人物の心情を掬い取っていく。そしてベスコ島の周囲に広がる崇高なる自然を捉える視線も頗る鋭い。

そして物語は“Personal is Political”という言葉をなぞるように、個人の問題から社会の問題を抉りだそうとする。フェリックスの苦境は職場におけるセクシズムと密接に関わっているし、カナダ人とベスコ島人の対立は国家間の交流がいかに難しいものかを饒舌に語っている。そして仕事と家庭に板挟みになるダニエルやエミリーの姿は、いわゆる仕事と家庭の両立というものをどうコントロールすればいいのかという、特に女性に顕著な問題を反映していると言えるだろう。

そんな3人の女性を演じる俳優たちは皆熱演と言っていいだろう。エミリー役のエミリー・ヴァンキャンプは普段は「リベンジ」やマーベル映画など娯楽作品での活動が主だが、この文芸作品においては大人らしい立ち振舞いの中に苦しみや悲しみを隠しながら生きる女性を巧みに演じている。ダニエル役のマーシャ・グレノンはリーダーとしての貫禄を持ちながら、そんなポジションにありからこそ誇りと重圧のジレンマに悩む女性を上手く表現している。だが最も印象的なのはフェリックス役のNathalie Doummarだ。仕事上では苦渋を舐め続け、知らない町で孤独を深めていく姿は悲哀を誘いながら、それでも前に進もうとする力強い姿は感動的だ。

そして物語の中において彼女たちは静かに距離を近づけていく。会議での論争はもちろん、その後のトイレでの一瞬の交錯、偶然再会を果たしたバーでの語り合い。そういった交流の数々によって女性同士の連帯が築かれていく様が繊細に描かれていく光景は、他の映画では余り見かけられないからこそ印象的な感触を残していく。

冒頭、私たちは正面から3人の顔を眺めることになる。その表情は少しぎこちなく、不安げな印象を与える。だが最後にも全く同じ構図でカメラは3人の顔を捉えていく。その時の表情には複雑な感情が滲み出ながらも、それらは晴れやかなものだ。そんな3人の女性の道行きを類い稀なる豊かさで以て描き出した作品こそがこの“Pays”なのだ。きっと今作を作り上げたRobichaud監督にも晴れやかな未来が広がっているに違いない。

そんな監督の新作は何と、4年越しに製作された先述のWebシリーズ“FÉMININ/FÉMININ”シーズン2だ。新しい登場人物も交えながら紡がれるレズビアンたちの愛と人生の物語に期待が高まるが、しかし今回のシーズンは前回が好評だったのかWebシリーズからTV番組に昇格、日本にいる私には手が届かないのが現状となっている。世界配信はないのだろうか、私は今度問い合わせしてみたいと思っている。ということでRobichaud監督の今後に超超超超超期待。な訳だが、この記事はRobichaud監督のプロダクションノートの訳出によって幕を下ろすことにしよう。

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"政治は男性中心の世界で下が、最近は女性もその世界を共有し始めています。それでも統計学が語るのは、政治という道を選ぶ女性は男性よりも未だに少ないということです。この珍しさが私を登場人物を女性にするということへ導いたんです。加えて私は、女性たち――調停役や政治家という職務には欠かせない大きな課題に直面している人々――が古典的な家族の固定概念、最近やっと脱構築されてきたこの概念と対峙しなければならないという事態に興味を持ってきました。そんな既に築かれていた理想の脱構築こそ正に、私が自分の作品において興味を抱くものだった訳です。

この考えは政治や政治家への興味ゆえ、すぐさま肩に重くのしかかってきました。私は成熟し、女性として、市民として、映画監督としてより強い存在として自分を位置づける必要があったんです。映画の構想が進展していくのには――私自身と同様に――3年もの時間がかかりました。作品はこの変わりゆく世界における市民としての主張への反映に関係していました。しかしその殆どは伝統から解放されたいという欲望にも関係していたんです。

'Pays'はどんな領域にも見られる観念――それは境界線であり、資源、政治、市民、法律、風景を意味してもいます――を描き出そうとしています。これらの同じような観念が全ての中心にあるのだと明らかにすることこそ今作の目的だったんです。映画の登場人物は自分の限界や居場所、共同体で自身がいかに役に立つのかについて理解しようと努めています。3人それぞれが自分たちの信じるものこそベスコ島にとってベストだということに邁進しているんです。ですが必然的に、彼女たちは自身のアイデンティティーの発展にも関わることとなるんです。

3人には異なる性格をしていますが、相互的な内面の強さを共有しています。キャスティングについて考えた時、私は自分が会った俳優たちの存在感に霊感を受けようとしていました。マーシャ・グレノンと合った時、私は即座に自分が素晴らしい感情的知性を持った女優と対面していると悟りました。彼女は複雑なキャラクターを容易に演じてくれると。エミリー・ヴァンキャンプの優しさには感銘を受けました。調停役を演じるにあたって、彼女は安心感を与えるような注意深いキャラクターに命を吹き込んでくれると感じたんです。Nathalie Doummarは大発見でした。今作が彼女にとって初めての映画出演ですが、オーディションの過程で彼女の真実味には驚かされました。Nathalieはカメラの前で一瞬に身を任せて、魔術的な瞬間を作り上げたんです。

物語が架空の島で繰り広げられるにあたって、私はいわゆる集合的な創造力の産物から遠く離れた場所を探し出す必要がありました。ベスコ島の存在に真実味を与えるにはそれしかなかったんです。そして私はニューファンドランド島に惹かれました。どう地域が広がっているか、私に何を考えさせてくれるかにです。剥き出しになった大地と壮大な風景のコントラストはとても詩的でした。

撮影監督のJessica Lee Gagnéとは17歳からの付き合いで、初めての撮影体験は彼女と一緒にやり遂げました。共に学び成長してきたんです。時が経つにつれ、私たちは素晴らしい仕事上での絆を紡いできました。彼女は私のスタイルに対し気配りが行き届いていながらも、私を新しい場所へ押し出してくれたり良い意味で私を不安にさせてもくれます。"Pays"に関してはいつも通り、多大な注意を以て準備を進めました。議論したり様々なバージョンの脚本を読んだり、映画や写真を見たりすることで映画の外形は象られていきました。そしてニューファンドランド島へのスカウト旅行のほとんどは、フレームや構成のテスト、想像の国へと自分たちを浸す試みに費やされました。

同様に私は政治や鉱山産業、思索など様々なリサーチに自分を注ぎ込む必要がありました。脚本をよりリアルにするためです。たくさんの資料を読んだ上で、政治家や彼らの随行員、マスコミの人々、エッセイストなど多くの人々に出会いました。登場人物や私の故郷に広がる現実に対してもっと深く理解したかったからです。

ケベックヨーロッパで出会った調停役の人々との出会いにも元気づけられました。彼らはその職務についてプロとしても、そしてより感動的な形でも私の目を開いてくれたんです。彼らと彼らの直面する現実はエミリーというキャラクターの設定を固める助けとなってくれたんです。

観客には"Pays"というショーを楽しんでもらいたいと思っています。何故ならこの作品は映画的なショーとして考えてきたからです。ですが同時に、観客たちが映画によって内省し、少しでも心を揺り動かされてくれたなら嬉しく思います"*1

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カナダ映画界、新たなる息吹
その1 Chloé Robichaud &”Sarah préfère la course” /カナダ映画界を駆け抜けて
その2 ソスカ姉妹&「復讐」/女性監督とジャンル映画
その3 Chloé Robichaud&”FÉMININ/FÉMININ”/愛について、言葉にしてみる
その4 アンヌ・エモン&「ある夜のセックスのこと」/私の言葉を聞いてくれる人がいる
その5 Julianne Côté &”Tu Dors Nicole”/私の人生なんでこんなんなってんだろ……
その6 Maxime Giroux &”Felix & Meira”/ハシディズムという息苦しさの中で
その7 ニコラス・ペレダ&”Juntos”/この人生を変えてくれる”何か”を待ち続けて
その8 ニコラス・ペレダ&”Minotauro”/さあ、みんなで一緒に微睡みの中へ
その9 Lina Rodríguez&”Mañana a esta hora”/明日の喜び、明日の悲しみ
その10 フィリップ・ルザージュ&「僕のまわりにいる悪魔」/悪魔たち、密やかな蠢き
その11 Kazik Radwanski&”How Heavy This Hammer”/カナダ映画界の毛穴に迫れ!
その12 Kevan Funk&”Hello Destroyer”/カナダ、スポーツという名の暴力
その13 Ashley McKenzie&”Werewolf”/あなたしかいないから、彷徨い続けて
その14 Winston DeGiobbi&”Mass for Shut-Ins”/ノヴァスコシア、どこまでも広がる荒廃

私の好きな監督・俳優シリーズ
その201 Yared Zeleke&”Lamb”/エチオピア、男らしさじゃなく自分らしさのために
その202 João Viana&”A batalha de Tabatô”/ギニアビサウ、奪われた故郷への帰還
その203 Sithasolwazi Kentane&”Woman Undressed”/ Black African Female Me
その204 Victor Viyuoh&”Ninah’s Dowry”/カメルーン、流れる涙と大いなる怒り
その205 Tobias Nölle&”Aloys”/私たちを動かす全ては、頭の中にだけあるの?
その206 Michalina Olszańska&”Já, Olga Hepnarová”/私、オルガ・ヘプナロヴァはお前たちに死刑を宣告する
その207 Agnieszka Smoczynska&”Córki dancingu”/人魚たちは極彩色の愛を泳ぐ
その208 Rosemary Myers&”Girl Asleep”/15歳、吐き気と不安の思春期ファンタジー!
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その210 Massoud Bakhshi&”Yek khanévadéh-e mohtaram”/革命と戦争、あの頃失われた何か
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その217 Sofia Exarchou&”Park”/アテネ、オリンピックが一体何を残した?
その218 ダミアン・マニヴェル&”Le Parc”/愛が枯れ果て、闇が訪れる
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その228 アリス・ロウ&”Prevenge”/私の赤ちゃんがクソ共をブチ殺せと囁いてる
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その247 Ralitza Petrova&”Godless”/神なき後に、贖罪の歌声を
その248 Ben Young&”Hounds of Love”/オーストラリア、愛のケダモノたち
その249 Izer Aliu&”Hunting Flies”/マケドニア、巻き起こる教室戦争
その250 Ana Urushadze&”Scary Mother”/ジョージア、とある怪物の肖像
その251 Ilian Metev&”3/4”/一緒に過ごす最後の夏のこと
その252 Cyril Schäublin&”Dene wos guet geit”/Wi-Fi スマートフォン ディストピア
その253 Alena Lodkina&”Strange Colours”/オーストラリア、かけがえのない大地で
その254 Kevan Funk&”Hello Destroyer”/カナダ、スポーツという名の暴力
その255 Katarzyna Rosłaniec&”Szatan kazał tańczyć”/私は負け犬になるため生まれてきたんだ
その256 Darío Mascambroni&”Mochila de plomo”/お前がぼくの父さんを殺したんだ
その257 ヴィルジル・ヴェルニエ&”Sophia Antipolis”/ソフィア・アンティポリスという名の少女
その258 Matthieu Bareyre&“l’Epoque”/パリ、この夜は私たちのもの
その259 André Novais Oliveira&”Temporada”/止まることない愛おしい時の流れ
その260 Xacio Baño&”Trote”/ガリシア、人生を愛おしむ手つき
その261 Joshua Magar&”Siyabonga”/南アフリカ、ああ俳優になりたいなぁ
その262 Ognjen Glavonić&”Dubina dva”/トラックの棺、肉体に埋まる銃弾
その263 Nelson Carlo de Los Santos Arias&”Cocote”/ドミニカ共和国、この大いなる国よ
その264 Arí Maniel Cruz&”Antes Que Cante El Gallo”/プエルトリコ、貧しさこそが彼女たちを
その265 Farnoosh Samadi&”Gaze”/イラン、私を追い続ける視線
その266 Alireza Khatami&”Los Versos del Olvido”/チリ、鯨は失われた過去を夢見る
その267 Nicole Vögele&”打烊時間”/台湾、眠らない街 眠らない人々
その268 Ashley McKenzie&”Werewolf”/あなたしかいないから、彷徨い続けて
その269 エミール・バイガジン&”Ranenyy angel”/カザフスタン、希望も未来も全ては潰える
その270 Adriaan Ditvoorst&”De witte waan”/オランダ映画界、悲運の異端児
その271 ヤン・P・マトゥシンスキ&「最後の家族」/おめでとう、ベクシンスキー
その272 Liryc Paolo Dela Cruz&”Sa pagitan ng pagdalaw at paglimot”/フィリピン、世界があなたを忘れ去ろうとも
その273 ババク・アンバリ&「アンダー・ザ・シャドウ」/イラン、母という名の影
その274 Vlado Škafar&”Mama”/スロヴェニア、母と娘は自然に抱かれて
その275 Salomé Jashi&”The Dazzling Light of Sunset”/ジョージア、ささやかな日常は世界を映す
その276 Gürcan Keltek&”Meteorlar”/クルド、廃墟の頭上に輝く流れ星
その277 Filipa Reis&”Djon África”/カーボベルデ、自分探しの旅へ出かけよう!
その278 Travis Wilkerson&”Did You Wonder Who Fired the Gun?”/その”白”がアメリカを燃やし尽くす
その279 Mariano González&”Los globos”/父と息子、そこに絆はあるのか?
その280 Tonie van der Merwe&”Revenge”/黒人たちよ、アパルトヘイトを撃ち抜け!
その281 Bodzsár Márk&”Isteni müszak”/ブダペスト、夜を駆ける血まみれ救急車
その282 Winston DeGiobbi&”Mass for Shut-Ins”/ノヴァスコシア、どこまでも広がる荒廃
その283 パスカル・セルヴォ&「ユーグ」/身も心も裸になっていけ!
その284 Ana Cristina Barragán&”Alba”/エクアドル、変わりゆくわたしの身体を知ること
その285 Kyros Papavassiliou&”Impressions of a Drowned Man”/死してなお彷徨う者の詩
その286 未公開映画を鑑賞できるサイトはどこ?日本からも観られる海外配信サイト6選!
その287 Kaouther Ben Hania&”Beauty and the Dogs”/お前はこの国を、この美しいチュニジアを愛してるか?


Kaouther Ben Hania&"Beauty and the Dogs"/お前はこの国を、この美しいチュニジアを愛してるか?

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以前、“À peine j'ouvre les yeux”というチュニジア映画をこのブログで紹介したアラブの春直前を舞台に、バンド活動に明け暮れる少女の姿を通じて若者の未来への絶望感や家父長制社会からの抑圧を描き出した青春映画が本作だった。今回紹介するKaouther Ben Hania監督の長編映画“Beauty and the Dogs”もまたチュニジアのそういった現状を、若者の目から描く作品である。

Kaouther Ben Haniaは1977年8月27日、チュニジアのシディ・ブジドに生まれた。最初は大学で貿易業について学んでいたが、2002年からチュニス美術映画学校に通い、映画製作について学ぶ。そして2004年からはフランスの名門La Femisに留学し、勉学を続けていた。在学中から短編製作を始め"La Brèche"(2004)や"Moi, ma sœur et la chose"(2006)などを監督し、映画祭で賞を獲得するなどする。

2006年にはアルジャジーラドキュメンタリー部門に勤務し、更に2007年からはソルボンヌ大学ドキュメンタリー制作について学び修士学位を取得した。そして2010年には彼女にとって初の長編ドキュメンタリー"Les imams vont à l'école"を製作、こちらはパリのモスクで勉学に励むイマーム見習いの若者たちを描いた作品だった。幾つかの短編を経て、2013年には初の劇長編"Le challat de Tunis"を手掛ける。アラブの春直前のチュニス、とある女性監督が10年前に起こった自転車の男が女性の尻を切り付けるという事件の謎を追う……という物語で、アミアン国際映画祭、トラヴァース・シティ映画祭で賞を獲得するなど話題になる。2016年には第3長編"Zaineb n'aime pas la neige"を監督、父の死をきっかけに母とカナダへ移住したチュニジア人の少女を描いた作品でロカルノヨーテボリ映画祭で上映される。そして2017年には第4長編となる"Beauty and the Dog"を完成させる。

D

主人公は21歳の大学生マリアム(Mariam Al Ferjani)、この日彼女は学校主催のパーティーへと赴き、友人たちと共に羽目を外してはしゃぎ回っていた。その途中で彼女はユセフ(Ghanem Zrelli)という若者と合流することになる。少し話し込んだ後、2人はパーティー会場を抜け出して、外へと出ていく。

まず目を惹くのは撮影監督Johan Holmquistによる流麗な長回しの技術だ。まずトイレでの化粧直しから幕を開け、友人たちとのお喋りに鏡の前での自撮り、そして会場へと戻って音楽に身を任せて踊り始める。この一連の流れを彼は長回しで連綿と紡いでいくのだが、浮かんでは消えるチュニジアの若者文化も私たちの目には興味深く映るだろう。自撮りなど私たちにもお馴染みな行為はアフリカの遠き国の若者に親近感を感じさせる類いのものであり、極彩色に包まれたパーティー会場の活気もまた同様だ。それでいて流れる音楽はEDMに加えてこの国の伝統音楽など、日本とは異なる部分もある。そうした文化をもHolmquistは長回しで映し取っていく。

だが約10分にも渡る長回しが終りカットが変わった後、状況は一変する。外の通りを走るのは、ドレスが乱れたのも気にせず号泣しているマリアムの姿だ。ユセフはそんな彼女を必死に追いかけて、落ち着かせようと言葉をかける。そして2人は病院へと向かうのだが、受付の女性にIDが無ければ診察は受けられないと拒否されてしまう。マリアムたちは仕方なく別の病院へと向かうことになる。

観客は上述した2つの場面を観ながら、あることに気づくだろう。それは1つの場面ごとにカットが一切途切れないという事実だ。そう“Beauty and the Dogs”はいわゆるワンシーンワンカットの手法で撮影された作品であり、たった10個の長回しで以て本作は構成されているのである。そんな長回しが描き出すのはマリアムたちが巡る1夜の悪夢だ。2つ目の病院へと辿り着いたは良いのだが、夜なのに病人たちで犇めく姿はさながら地獄のようだ。更にここでも自分たちの要望は否定されてしまい、事態は官僚主義的なたらい回し劇の様相を呈し始める。

だがマリアムたちは何とか警察と接触し、自分たちが遭遇した事件について語り始める。2人が夜の砂浜で散歩していた時、警察官らしき男たちが車でやってくる。そして突然ユセフを逮捕したかと思うと、マリアムを車へと拉致し彼女をレイプしたというのだ。だがその話を聞いた警察官は信じられない言葉を口にする。“お前そんな露出の多い格好でレイプされたなんて主張するのか?悪魔が聖母マリア様を妊娠させようってか、ええ?”

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ここで長回しの効能が遺憾なく発揮されることとなる。薄暗い部屋の中、マリアムとユセフは横暴な警察官に詰め寄られて危機に陥っていく。マリアムの震えるような恐怖、ユセフの事態を把握できない故の当惑、警察官たちの剥き出しになった軽蔑、そういった感情の数々が一繋ぎに描かれていくことで、その感触がより生々しく迫ってくるのだ。

そしてこの警察署内においてチュニジアの家父長制の悪夢が繰り広げられることとなる。警察官たちはドレス姿のマリアムに卑猥な視線を向け続けるが、彼女の主張を真面目に聞くことは殆どない。なかには女性警官もいるのだが、彼女ですらマリアムの話を怪訝そうに聞き、告訴したいのなら袋の中に下着を入れなさいと冷淡な態度を取る。先に記した“”は警察官の横暴をやはり描き出していたが、同時に女性同士の連帯をも描き出していた。だがこの苛烈な家父長制下においては、女性同士の連帯すらも潰される地獄絵図が広がることになるのだ。

さて、私は当初この映画の題名“Beauty and the Dogs”に疑問を持っていた。“the Dogs”というのは横暴な警察官らを表現した言葉というのは理解できるとして*2では“Beauty”とはレイプ被害に遭ったマリアムを指すのだろうか。それは自身が非難しようとしている性差別の陥穿に自分で嵌まってしまっては居ないだろうか、そう思えたのである。

しかしその理解は誤りだったと後に分かる。ある時尋問する警察官がマリアムに対してこんな言葉を吐きかけるのだ。“こんな告訴をしたら、この国や警察が汚されてしまうのが分からないのか。お前はこの国を、この美しい国を愛してるのか?愛してるならどうしてこんな愚行を犯せる?” この発言から察せられる通り、つまり“Beauty”が指し示すのはこの腐敗した国チュニジアなのだ。国には冠詞が付くことはない。だから単に“Beauty”な訳であり、ここには腐敗への皮肉とマリアムたちの絶望感が濃厚に反映されているのだ。

"Beauty and the Dogs"は1人の大学生がレイプされた事から起こる悪夢の1夜を描き出した作品だ。チュニジアに広がる絶望、警察に内在する下劣な腐敗、悍ましき女性差別の実態が、息詰まる臨場感の張り詰める長回しで描き出される様は正に圧巻という他ない。そして見終わった後もまたこの言葉が頭に響き渡り続けるだろう。"お前はこの国を、この美しいチュニジアを愛してるか?"

今作はカンヌ国際映画祭ある視点部門でプレミア上映後、バリャドリッド国際映画祭の若き審査員賞を獲得するなど高評価を得た。2018年には新作短編"Sheikh's Watermelons"がお披露目予定、とあるイマームが巻き込まれる事件を描き出したコメディ作品だそうだ。ということでBen Hania監督の今後に期待。

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その202 João Viana&”A batalha de Tabatô”/ギニアビサウ、奪われた故郷への帰還
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その285 Kyros Papavassiliou&”Impressions of a Drowned Man”/死してなお彷徨う者の詩
その286 未公開映画を鑑賞できるサイトはどこ?日本からも観られる海外配信サイト6選!

*1https://mubi.com/notebook/posts/chloe-robichaud-introduces-her-film-boundaries

*2:だが納得はしていない。何故なら犬は忌むべき相手ではなくもっと平和的な存在だからだ。私の“犬”を否定的に使う言葉への不信感はこの記事を参照

2018-08-27

未公開映画を鑑賞できるサイトはどこ?日本からも観られる海外配信サイト7選!

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さてTwitter上で“一体どうやって未公開映画を観ているんですか?”という問い合わせを頂いた。確かに私が何故にこんなにも凄まじい勢いで以て未公開映画を観ているのか、というか観られるのか疑問に思っている方は少なくないだろう。な訳でいい機会だしと、私がどこから未公開映画を観ているのかをこの記事に書いていきたいと思う。未公開映画が観たい人、自身の英語を鍛えたい人、今後の足掛かりとしてくれたら幸いだい!

https://mubi.com/showing/
1つ目は私が最も贔屓にしていると言ってもいい映画配信サイトMUBIだ。筋金入りのシネフィルが選んだ30本の新作・旧作が配信されているサイトだ。30本しか配信されてない理由は、作品は1日1本ペースで配信されているのだが、1ヶ月(つまり30日)が経つと自動的に消える仕組みとなっているからだ。日本からでもクレジットカードが登録可能で、月額は750円。30本だけなのに750円?と思う人もいるかもしれないが、ここでしか観られない珍しい旧作や、特に映画祭で上映されたばかりの新作など多く配信しているので、日本でしか上映されていない映画しか配信しない(まあそりゃ当然ではあるが)サイトなんかより、全然得であると私は考える。余りに選択肢が多くて選べないなんてこともあるだろうし。英語作品含めて全てに英字幕が付いているので、リスニングが下手な方も安心である。

最近このサイトで観た映画
Ashley McKenzie&”Werewolf”/あなたしかいないから、彷徨い続けて
Gürcan Keltek&”Meteorlar”/クルド、廃墟の頭上に輝く流れ星
Filipa Reis&”Djon África”/カーボベルデ、自分探しの旅へ出かけよう!
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Winston DeGiobbi&”Mass for Shut-Ins”/ノヴァスコシア、どこまでも広がる荒廃


https://www.festivalscope.com/all/
2つ目はFestival Scopeというサイトだ。毎月、世界各国で映画祭が開催されているが、そこで上映される作品を開催と同時にリアルタイムで観られる凄すぎるサイトだ。という訳で作品の新鮮度はこちらが最も高い。もちろんのこと日本からでもクレジットカードが登録可能で鑑賞が出来る。この記事を書いている8月27日現在はロカルノ映画祭の新世代部門の作品が無料配信中、かつ8月末に開催のヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門で上映される作品のチケットを4ユーロで予約販売中だ(5作品以上まとめて買うと1本2ユーロで予約できる。もちろん私は全18本一気に買った)英字幕もちろんついている。ちなみにここで配信される映画祭はロッテルダム、カンヌ監督週間と批評家週間の短編、コロンビアカルタヘナフランスのクレルモン=フェラン、ロカルノヴェネチアなどなどかなり幅広い。

最近このサイトで観た映画
ヴィルジル・ヴェルニエ&”Sophia Antipolis”/ソフィア・アンティポリスという名の少女
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Xacio Baño&”Trote”/ガリシア、人生を愛おしむ手つき
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Nicole Vögele&”打烊時間”/台湾、眠らない街 眠らない人々


https://enjoypclife.net/2014/06/23/north-america-uc-itunes-account-apple-id-japan/
3つ目は北米版iTunesだ。ここは一番作品が豊富な代わりに登録が一番面倒臭い。日本のクレジットカードが登録できない故に、上記のアドレスに記されたスゲー面倒臭いやり方で北米版iTunesのIDを取得、かつ北米版iTunesカードをAmazonから輸入購入して登録しやっと映画を鑑賞できるようになる。だがそのラインナップの豊富さには面倒臭さを経る価値がある。アメリカの娯楽大作からインディー映画まで(当然英語字幕つき)日本で上映されるより数ヶ月早く観られるのはもちろんのこと、時々アメリカの劇場で公開されると同時に配信されるという作品もあって、全くタイムラグなく観ることすら可能な時もあるのだ。日本とは比べものにならない外国映画の豊穣っぷりはマジに圧倒されるくらいだ。多分ここで配信されている未公開映画が、このブログで一番紹介されていると思われる。基本新作・準新作は6ドルか5ドルでレンタルできる。カード分の金額が無くなったら、いちいちiTunesカードを輸入しなくてはならないのはやはり面倒だが、個人的にはとても重宝させてもらっている。

最近このサイトで観た映画
アリス・ロウ&”Prevenge”/私の赤ちゃんがクソ共をブチ殺せと囁いてる
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Izer Aliu&”Hunting Flies”/マケドニア、巻き起こる教室戦争
Russell Harbaugh&”Love after Love”/止められない時の中、愛を探し続けて


https://www.iffrunleashed.com/
4つ目はIFFR Unleashedだ。名前の通りこのサイトはロッテルダム映画祭が直接運営している配信サイトであり、ここで上映された主にゼロ&テン年代の作品が多く配信されている。日本からでもクレジットカード登録ができる。ここは月額ではなく長編1本ごとに4ドル、短編1本ごとに1ドルが払われるという体裁を取っている。ここもかなり外国映画の種類が多く、アメリカフランスなどはもちろん、エクアドルキプロスベトナムブルキナファソ映画などが配信されていて、未公開映画マニアとしては垂涎のラインナップである。映画祭の最高賞を獲得した映画までも配信していたりと、本当ロッテルダム映画祭様様すぎである。

最近このサイトで観た映画
Ana Cristina Barragán&”Alba”/エクアドル、変わりゆくわたしの身体を知ること
Kyros Papavassiliou&”Impressions of a Drowned Man”/死してなお彷徨う者の詩


https://www.youtube.com/channel/UCpQPK7GybEu20M45BQwPG7w
5つ目はYoutubeの映画チャンネルCINEPUBだ。ここはルーマニアの国立映画アーカイブ的な所が運営している公式ルーマニア映画配信チャンネルである。ということでルーマニア映画しか配信されていないが、読者はご承知の通りルーマニア映画マニアの私は、本当に本当にここにお世話になっている。韓国にも同じような映画配信チャンネルがあるが、こちらは旧作と共にゼロ年代の“ルーマニアの新しき波”を牽引した作品や、公開したばかりの新作までかなり多くの作品を配信しててマジに有り難すぎる。長編、短編、ドキュメンタリーアニメーション、メイキングまで種類も多いので、ルーマニア文化に浸りたい人は是非ともここで映画を観ていって欲しい。

最近このサイトで観た映画
Ana Lungu&”Autoportretul unei fete cuminţi”/あなたの大切な娘はどこへ行く?
アドリアン・シタル&”Pescuit sportiv”/倫理の網に絡め取られて
Mihaela Popescu&”Plimbare”/老いを見据えて歩き続けて


https://tao-films.com/
6つ目はtao-filmsだ。いわゆるスローシネマという映画ジャンルがある。美しい風景や静かな日常を静かに映し出すことで、観客に思索を促すような“遅い”作品群を指す言葉だが、この言葉を世に広めた人物Nadin Maiが主催しているスローシネマ専用配信サイトがここな訳である。短編作品が多めで長編は他のサイトに比べると少ないが、本物の文芸映画というものが観たい方にはオススメしたい配信サイトで、日本からでもクレジットカード登録が可能である。ちなみにここも月額ではなく作品ごとに料金を支払うタイプ。ラインナップはともかく、再生ページに詳しいレビューや監督インタビューが付いていたりと映画以外の内容も充実しているのは他にない美点である。

最近このサイトで観た映画
アレクサンドラ・ニエンチク&”Centaur”/ボスニア、永遠のごとく引き伸ばされた苦痛
Liryc Paolo Dela Cruz&”Sa pagitan ng pagdalaw at paglimot”/フィリピン、世界があなたを忘れ去ろうとも


https://sovietmoviesonline.com/
https://easterneuropeanmovies.com/
7つ目はSoviet and Russian Moviesと姉妹サイトEastern European Moviesだ。読んで字の如くソ連/ロシア映画と東欧映画を配信しているサイトである。前者はセルゲイ・アイゼンシュタイン戦艦ポチョムキンからアンドレイ・ズビャギンツェフラブレスまで旧作・新作を徹底的に網羅、もちろん日本未公開作品も多く配信している。後者においてはチェコのミロシュ・フォアマンユライ・ヘルツポーランドアンジェイ・ワイダクシシュトフ・キシェロフスキ、その他ハンガリールーマニアブルガリアユーゴスラビア東ドイツ映画などなど主に旧作が充実、名前すら知られていない監督の日本未公開作な旧作も超充実していて東欧映画ファンは感涙ものである。料金体系は3ドルで1日映画見放題、10ドルで1週間見放題、20ドルで1ヵ月見放題、100ドルで永久に見放題という形を取っている。まあここは旧作を楽しむべき場所と言えるだろう。旧作にも日本未公開映画なんて腐るほどあるしね。

取り敢えずこんな感じだ。試してはないので日本からクレジットカード登録できるか分からないが、外国にはアート映画専門配信サイトFandor、ホラー映画専門配信サイトShudderクライテリオンが提携しているFilm Struckなど色々ある。クレジットカードが登録できても、時々アメリカなどの国外からは観られないとかいう罠の存在するサイトもあるので、まあそういう時はVPNで位置情報いじくれば登録できるかもしれない、が私は未確認だ。ということで、皆さん素晴らしい未公開映画ライフを!バイバーイ!

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私の好きな監督・俳優シリーズ
その201 Yared Zeleke&”Lamb”/エチオピア、男らしさじゃなく自分らしさのために
その202 João Viana&”A batalha de Tabatô”/ギニアビサウ、奪われた故郷への帰還
その203 Sithasolwazi Kentane&”Woman Undressed”/ Black African Female Me
その204 Victor Viyuoh&”Ninah’s Dowry”/カメルーン、流れる涙と大いなる怒り
その205 Tobias Nölle&”Aloys”/私たちを動かす全ては、頭の中にだけあるの?
その206 Michalina Olszańska&”Já, Olga Hepnarová”/私、オルガ・ヘプナロヴァはお前たちに死刑を宣告する
その207 Agnieszka Smoczynska&”Córki dancingu”/人魚たちは極彩色の愛を泳ぐ
その208 Rosemary Myers&”Girl Asleep”/15歳、吐き気と不安の思春期ファンタジー!
その209 Nanfu Wang&”Hooligan Sparrow”/カメラ、沈黙を切り裂く力
その210 Massoud Bakhshi&”Yek khanévadéh-e mohtaram”/革命と戦争、あの頃失われた何か
その211 Juni Shanaj&”Pharmakon”/アルバニア、誕生の後の救いがたき孤独
その212 済藤鉄腸オリジナル、2010年代注目の映画監督ベスト100!!!!!
その213 アレクサンドラ・ニエンチク&”Centaur”/ボスニア、永遠のごとく引き伸ばされた苦痛
その214 フィリップ・ルザージュ&「僕のまわりにいる悪魔」/悪魔たち、密やかな蠢き
その215 ジョアン・サラヴィザ&”Montanha”/全てはいつの間にか過ぎ去り
その216 Tizza Covi&”Mister Universo”/イタリア、奇跡の男を探し求めて
その217 Sofia Exarchou&”Park”/アテネ、オリンピックが一体何を残した?
その218 ダミアン・マニヴェル&”Le Parc”/愛が枯れ果て、闇が訪れる
その219 カエル・エルス&「サマー・フィーリング」/彼女の死の先にも、人生は続いている
その220 Kazik Radwanski&”How Heavy This Hammer”/カナダ映画界の毛穴に迫れ!
その221 Vladimir Durán&”Adiós entusiasmo”/コロンビア、親子っていうのは何ともかんとも
その222 Paul Negoescu&”O lună în Thailandă”/今の幸せと、ありえたかもしれない幸せと
その223 Anatol Durbală&”Ce lume minunată”/モルドバ、踏み躙られる若き命たち
その224 Jang Woo-jin&”Autumn, Autumn”/でも、幸せって一体どんなだっただろう?
その225 Jérôme Reybaud&”Jours de France”/われらがGrindr世代のフランスよ
その226 Sebastian Mihăilescu&”Apartament interbelic, în zona superbă, ultra-centrală”/ルーマニアと日本、奇妙な交わり
その227 パス・エンシナ&”Ejercicios de memoria”/パラグアイ、この忌まわしき記憶をどう語ればいい?
その228 アリス・ロウ&”Prevenge”/私の赤ちゃんがクソ共をブチ殺せと囁いてる
その229 マッティ・ドゥ&”Dearest Sister”/ラオス、横たわる富と恐怖の溝
その230 アンゲラ・シャーネレク&”Orly”/流れゆく時に、一瞬の輝きを
その231 スヴェン・タディッケン&「熟れた快楽」/神の消失に、性の荒野へと
その232 Asaph Polonsky&”One Week and a Day”/イスラエル、哀しみと真心のマリファナ
その233 Syllas Tzoumerkas&”A blast”/ギリシャ、激発へと至る怒り
その234 Ektoras Lygizos&”Boy eating the bird’s food”/日常という名の奇妙なる身体性
その235 Eloy Domínguez Serén&”Ingen ko på isen”/スウェーデン、僕の生きる場所
その236 Emmanuel Gras&”Makala”/コンゴ、夢のために歩き続けて
その237 ベロニカ・リナス&「ドッグ・レディ」/そして、犬になる
その238 ルクサンドラ・ゼニデ&「テキールの奇跡」/奇跡は這いずる泥の奥から
その239 Milagros Mumenthaler&”La idea de un lago”/湖に揺らめく記憶たちについて
その240 アッティラ・ティル&「ヒットマン:インポッシブル」/ハンガリー、これが僕たちの物語
その241 Vallo Toomla&”Teesklejad”/エストニア、ガラスの奥の虚栄
その242 Ali Abbasi&”Shelly”/この赤ちゃんが、私を殺す
その243 Grigor Lefterov&”Hristo”/ソフィア、薄紫と錆色の街
その244 Bujar Alimani&”Amnestia”/アルバニア、静かなる激動の中で
その245 Livia Ungur&”Hotel Dallas”/ダラスとルーマニアの奇妙な愛憎
その246 Edualdo Williams&”El auge del humano”/うつむく世代の生温き黙示録
その247 Ralitza Petrova&”Godless”/神なき後に、贖罪の歌声を
その248 Ben Young&”Hounds of Love”/オーストラリア、愛のケダモノたち
その249 Izer Aliu&”Hunting Flies”/マケドニア、巻き起こる教室戦争
その250 Ana Urushadze&”Scary Mother”/ジョージア、とある怪物の肖像
その251 Ilian Metev&”3/4”/一緒に過ごす最後の夏のこと
その252 Cyril Schäublin&”Dene wos guet geit”/Wi-Fi スマートフォン ディストピア
その253 Alena Lodkina&”Strange Colours”/オーストラリア、かけがえのない大地で
その254 Kevan Funk&”Hello Destroyer”/カナダ、スポーツという名の暴力
その255 Katarzyna Rosłaniec&”Szatan kazał tańczyć”/私は負け犬になるため生まれてきたんだ
その256 Darío Mascambroni&”Mochila de plomo”/お前がぼくの父さんを殺したんだ
その257 ヴィルジル・ヴェルニエ&”Sophia Antipolis”/ソフィア・アンティポリスという名の少女
その258 Matthieu Bareyre&“l’Epoque”/パリ、この夜は私たちのもの
その259 André Novais Oliveira&”Temporada”/止まることない愛おしい時の流れ
その260 Xacio Baño&”Trote”/ガリシア、人生を愛おしむ手つき
その261 Joshua Magar&”Siyabonga”/南アフリカ、ああ俳優になりたいなぁ
その262 Ognjen Glavonić&”Dubina dva”/トラックの棺、肉体に埋まる銃弾
その263 Nelson Carlo de Los Santos Arias&”Cocote”/ドミニカ共和国、この大いなる国よ
その264 Arí Maniel Cruz&”Antes Que Cante El Gallo”/プエルトリコ、貧しさこそが彼女たちを
その265 Farnoosh Samadi&”Gaze”/イラン、私を追い続ける視線
その266 Alireza Khatami&”Los Versos del Olvido”/チリ、鯨は失われた過去を夢見る
その267 Nicole Vögele&”打烊時間”/台湾、眠らない街 眠らない人々
その268 Ashley McKenzie&”Werewolf”/あなたしかいないから、彷徨い続けて
その269 エミール・バイガジン&”Ranenyy angel”/カザフスタン、希望も未来も全ては潰える
その270 Adriaan Ditvoorst&”De witte waan”/オランダ映画界、悲運の異端児
その271 ヤン・P・マトゥシンスキ&「最後の家族」/おめでとう、ベクシンスキー
その272 Liryc Paolo Dela Cruz&”Sa pagitan ng pagdalaw at paglimot”/フィリピン、世界があなたを忘れ去ろうとも
その273 ババク・アンバリ&「アンダー・ザ・シャドウ」/イラン、母という名の影
その274 Vlado Škafar&”Mama”/スロヴェニア、母と娘は自然に抱かれて
その275 Salomé Jashi&”The Dazzling Light of Sunset”/ジョージア、ささやかな日常は世界を映す
その276 Gürcan Keltek&”Meteorlar”/クルド、廃墟の頭上に輝く流れ星
その277 Filipa Reis&”Djon África”/カーボベルデ、自分探しの旅へ出かけよう!
その278 Travis Wilkerson&”Did You Wonder Who Fired the Gun?”/その”白”がアメリカを燃やし尽くす
その279 Mariano González&”Los globos”/父と息子、そこに絆はあるのか?
その280 Tonie van der Merwe&”Revenge”/黒人たちよ、アパルトヘイトを撃ち抜け!
その281 Bodzsár Márk&”Isteni müszak”/ブダペスト、夜を駆ける血まみれ救急車
その282 Winston DeGiobbi&”Mass for Shut-Ins”/ノヴァスコシア、どこまでも広がる荒廃
その283 パスカル・セルヴォ&「ユーグ」/身も心も裸になっていけ!
その284 Ana Cristina Barragán&”Alba”/エクアドル、変わりゆくわたしの身体を知ること
その285 Kyros Papavassiliou&”Impressions of a Drowned Man”/死してなお彷徨う者の詩
その286 未公開映画を鑑賞できるサイトはどこ?日本からも観られる海外配信サイト6選!

2018-08-25

Kyros Papavassiliou&"Impressions of a Drowned Man"/死してなお彷徨う者の詩

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さて、キプロスである。地中海に浮かぶ、日本と同じく島国であるこの国はギリシャ語が公用語である、ことしか私は知らない。観光地としては結構有名、タックスヘイブンとして投資の拠点地となっていることも有名である。ニュースでは後者について聞いたことがあるような、ないような……と、紹介したのは良いのだが、今作確かにキプロス人映画作家によるキプロス資本中心のキプロス映画であることは間違いないのだが、主人公はギリシャ人で舞台もギリシャなのだ。だからタイトルにキプロスとは使えない類いのキプロス映画なのである。まあでも一応キプロス映画ではあるので、今回はこのブログとして初のキプロス映画である、Kyros Papavassiliou監督作“Impressions of a Drowned Man”を紹介していこう。

とある湿地帯、茶色く群生する醜い植物の数々、一瞬動物の死骸のようにも見えてしまうような泥に穿たれた穴、荒々しく掘り起こされた風に思える轍の軌跡、そんな物に囲まれながら、打ち捨てられていた1人の中年男性(Thodoris Pentidis)が起き上がる。彼は呆然自失のままに周りを見渡すが、何かを理解した様子も見せないままに何処かへと歩き始める。

まず印象的なのは、撮影監督Konstantinos Othonosが映し出す何処とも知れぬ大地の風景の壮大さだ。細やかな雨が降りしきり霧が舞う道を男は歩き続け、緑を煌めかせる背の高い植物がビッシリと繁茂した野原を男は歩き続け、道路を駆け抜ける車たちの犇めく街並みの真っ只中を男はやはり歩き続ける。それらは頗る美しく旅を彩っていくのだが、特に自然を映し出した光景の数々にはギリシャの偉大なる先達テオ・アンゲロプロスの影響すらもかいま見えてくる。

男は町を彷徨するのだが、そこでマリア(Marisha Triantafyllidou)という女性と知り合いになる。そのまま一夜を共にするのだが、彼女の様子が何かおかしいことに男は気づく。そしてマリアは自分の子を妊娠していると主張し始める。更に当惑する男に対して、彼女は信じられないことを告げるのだ。男は過去自ら命を絶ちながらも、自殺した日がやってくると甦り、最期の日々を繰り返しているのだと。その話を信じられない男は、真実を見つけるため再び町へと赴く。

この物語の核となるのは“自分は一体何者であるのか?”という普遍的な問いだ。この世において自分という存在に何の意味があるというのか、自分はただ歴史の海へと消えゆくだけの定めなのか。男は自身の存在意義を見つけるために、ただひたすら歩み続ける。

そうして彼は自分が何者だかを知ることになる。名前はKostas Karyotakis1920年代に活躍した表現主義/シュールレアリズムの詩人であり、しかし誰にも認められぬ不遇の末、1928年に32歳で入水自殺を遂げたというのだ。現代においては彼の伝記ドラマがTVで放映され、美術館では自殺を遂げた詩人の1人として彼の似姿が展示されている。そんな真実は彼を生の迷宮へと追い込んでいく。このメタ的な構造が物語を更に深いものにもしていくのだ。

この“Impressions of a Drowned Man”は歴史上の人物をモチーフとして紡がれていく、実存主義的な作品だ。世界における自分という存在が真実と虚構、現実と幻によって常に震わされ続ける。そうして再びの自殺の時が迫りくる時、男が選ぶ道筋とは……

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私の好きな監督・俳優シリーズ
その201 Yared Zeleke&”Lamb”/エチオピア、男らしさじゃなく自分らしさのために
その202 João Viana&”A batalha de Tabatô”/ギニアビサウ、奪われた故郷への帰還
その203 Sithasolwazi Kentane&”Woman Undressed”/ Black African Female Me
その204 Victor Viyuoh&”Ninah’s Dowry”/カメルーン、流れる涙と大いなる怒り
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その257 ヴィルジル・ヴェルニエ&”Sophia Antipolis”/ソフィア・アンティポリスという名の少女
その258 Matthieu Bareyre&“l’Epoque”/パリ、この夜は私たちのもの
その259 André Novais Oliveira&”Temporada”/止まることない愛おしい時の流れ
その260 Xacio Baño&”Trote”/ガリシア、人生を愛おしむ手つき
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その262 Ognjen Glavonić&”Dubina dva”/トラックの棺、肉体に埋まる銃弾
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その282 Winston DeGiobbi&”Mass for Shut-Ins”/ノヴァスコシア、どこまでも広がる荒廃
その283 パスカル・セルヴォ&「ユーグ」/身も心も裸になっていけ!
その284 Ana Cristina Barragán&”Alba”/エクアドル、変わりゆくわたしの身体を知ること


Ana Cristina Barragán&"Alba"/エクアドル、変わりゆくわたしの身体を知ること

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さて、エクアドルである。赤道上に位置することが国名の由来、ということしか知らない。調べてみるとジャングルアンデス山脈ガラパゴス諸島が有名らしい。そしてこの国で製作された映画は、正直1本も知らない。だがそんな国の映画こそ紹介しがいがある訳である。ということで今回は世にも珍しいエクアドル映画である、Ana Cristina Barragán監督作“Alba”を紹介していこう。

11歳の少女アルバ(Macarena Arias)は荒んだ生活を送っていた。学校に友達は一人もおらず孤独に打ちひしがれ、自宅には身体の不自由な母(Amaia Merino)がいつものようにベッドで呻き声を上げており、彼女を介護しなければならない。アルバは希望など一切ない世界で、息を潜めながら人生をやり過ごす日々を送っていた。

まずこの“Alba”は題名にもなっているアルバの孤独の様相を丹念に描き出そうとする。極度の恥ずかしがり屋であるアルバは授業中も昼休み中ももちろん一人きりだが、ある時勇気を以て女子の話の輪に入っていくのだが、全員から軽蔑的な視線を向けられた後、無視されて全てが終わってしまう。そんな中で彼女たちから密かに筆箱を盗んだ彼女は、家に帰ってから中に入っていた文房具や小さな人形を友人に見立ててごっこ遊びを始める。それが毎日続くのだ。幼い少女にとってこの孤独は地獄以外の何物でもないだろう。

そんなある日、母親の病状が重篤なものになったことにより、彼女は病院へと移されてしまう。それ故にアルバは疎遠だった父のイゴール(Pablo Aguirre Andrade)と共に暮らすこととなる。しかし父親もまたアルバと同じく内省的な性格でその間に会話はほとんどない。新しく転校してきた学校でも前と同じようにハブられてしまい、ドン詰まりの状況は少しだって変わりそうにはなかった。

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そんな息詰まるような物語の中で、Barragán監督が大切に描き出したい物が徐々に明らかになっていく。アルバがベッドに寝転がる時、ふと胸にある黒子に目を向けることがある。黒々しく大きな黒子。彼女はそれに嫌悪感を催すらしく摘まんで取ろうとすらする。ある時はプールにいる時、突然生理の血が流れ始め、羞恥心と共にシャワー室へ駆け込まざるを得なくなる。こういった身体の変化は思春期を生きる上で避けられない。それをアルバは受け入れることが出来ないのだ。

その一方でアルバは身体に対して、嫌悪感だけでなく好奇心をも抱くことになる。彼女は着替えを行うイゴールの姿を盗み見て、その裸を密やかに眺めるのだ。プールでは水泳のインストラクターである父が担当する老女たちの老いた身体をじっと見つめていく。彼女は身体への嫌悪感と好奇心の合間にいて、その渦巻く思いを御しきれないでいる訳だ。

正にここに、つまりは思春期の少女が浸る身体性にこそ監督は意識を向けているのだ。身体的な当惑の後、あるきっかけからアルバに友達ができて、彼女たちと共にパーティーでダンスを披露することになる。最初は全く身体を上手く動かせないアルバだが、家に帰って映像を再生しながら繰り返し踊り続けることで、彼女は自分の身体というものを理解していくのだ。

その過程はまた、父イゴールとの関係性にも影響してくる。最初、アルバに対して彼はダンスの音楽がうるさいと強制的にTVを消してしまうような態度を取る。それでも海へのドライブへと出掛けることになる2人は、たどたどしくも小学生の頃の思い出について話し始めて、段々と互いに心を開いていく。そして一緒に海に入るのだ。アルバは少し怯えながらも、最後には海へと飛び込んでいき、水に自分の身体を浮かべていく。その隣には同じく自由に漂うイゴールがいる。自分の身体を受け入れることが、また父との絆を紡ぐことへとも繋がるこの場面は、映画のテーマを端的に象徴すると共に、深く静かな感動を観客に宿していく。

石灰色の世界で身体を通じて、その動き――例えば踊ることや泳ぐこと――を通じて自分を見つけようとする青春の旅路を描き出した作品が、この“Alba”だ。その旅路の最中には苦しみや孤独もまた存在しているだろう。それでも確かに、そこには温もりもあってくれるのだと“Alba”は優しく語る。

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私の好きな監督・俳優シリーズ
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その248 Ben Young&”Hounds of Love”/オーストラリア、愛のケダモノたち
その249 Izer Aliu&”Hunting Flies”/マケドニア、巻き起こる教室戦争
その250 Ana Urushadze&”Scary Mother”/ジョージア、とある怪物の肖像
その251 Ilian Metev&”3/4”/一緒に過ごす最後の夏のこと
その252 Cyril Schäublin&”Dene wos guet geit”/Wi-Fi スマートフォン ディストピア
その253 Alena Lodkina&”Strange Colours”/オーストラリア、かけがえのない大地で
その254 Kevan Funk&”Hello Destroyer”/カナダ、スポーツという名の暴力
その255 Katarzyna Rosłaniec&”Szatan kazał tańczyć”/私は負け犬になるため生まれてきたんだ
その256 Darío Mascambroni&”Mochila de plomo”/お前がぼくの父さんを殺したんだ
その257 ヴィルジル・ヴェルニエ&”Sophia Antipolis”/ソフィア・アンティポリスという名の少女
その258 Matthieu Bareyre&“l’Epoque”/パリ、この夜は私たちのもの
その259 André Novais Oliveira&”Temporada”/止まることない愛おしい時の流れ
その260 Xacio Baño&”Trote”/ガリシア、人生を愛おしむ手つき
その261 Joshua Magar&”Siyabonga”/南アフリカ、ああ俳優になりたいなぁ
その262 Ognjen Glavonić&”Dubina dva”/トラックの棺、肉体に埋まる銃弾
その263 Nelson Carlo de Los Santos Arias&”Cocote”/ドミニカ共和国、この大いなる国よ
その264 Arí Maniel Cruz&”Antes Que Cante El Gallo”/プエルトリコ、貧しさこそが彼女たちを
その265 Farnoosh Samadi&”Gaze”/イラン、私を追い続ける視線
その266 Alireza Khatami&”Los Versos del Olvido”/チリ、鯨は失われた過去を夢見る
その267 Nicole Vögele&”打烊時間”/台湾、眠らない街 眠らない人々
その268 Ashley McKenzie&”Werewolf”/あなたしかいないから、彷徨い続けて
その269 エミール・バイガジン&”Ranenyy angel”/カザフスタン、希望も未来も全ては潰える
その270 Adriaan Ditvoorst&”De witte waan”/オランダ映画界、悲運の異端児
その271 ヤン・P・マトゥシンスキ&「最後の家族」/おめでとう、ベクシンスキー
その272 Liryc Paolo Dela Cruz&”Sa pagitan ng pagdalaw at paglimot”/フィリピン、世界があなたを忘れ去ろうとも
その273 ババク・アンバリ&「アンダー・ザ・シャドウ」/イラン、母という名の影
その274 Vlado Škafar&”Mama”/スロヴェニア、母と娘は自然に抱かれて
その275 Salomé Jashi&”The Dazzling Light of Sunset”/ジョージア、ささやかな日常は世界を映す
その276 Gürcan Keltek&”Meteorlar”/クルド、廃墟の頭上に輝く流れ星
その277 Filipa Reis&”Djon África”/カーボベルデ、自分探しの旅へ出かけよう!
その278 Travis Wilkerson&”Did You Wonder Who Fired the Gun?”/その”白”がアメリカを燃やし尽くす
その279 Mariano González&”Los globos”/父と息子、そこに絆はあるのか?
その280 Tonie van der Merwe&”Revenge”/黒人たちよ、アパルトヘイトを撃ち抜け!
その281 Bodzsár Márk&”Isteni müszak”/ブダペスト、夜を駆ける血まみれ救急車
その282 Winston DeGiobbi&”Mass for Shut-Ins”/ノヴァスコシア、どこまでも広がる荒廃
その283 パスカル・セルヴォ&「ユーグ」/身も心も裸になっていけ!
その284 Ana Cristina Barragán&”Alba”/エクアドル、変わりゆくわたしの身体を知ること

2018-08-23

パスカル・セルヴォ&「ユーグ」/身も心も裸になっていけ!

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あなたはポール・ヴェキアリ Paul Vecchialiというフランスの映画作家を知っているだろうか。ヌーヴェルヴァーグの影で個性的な作品を作り続けた映画団体ディアゴナール社のリーダー的存在であり、80代を越えても現役で映画を製作し続ける生ける伝説というべき映画作家である。私はためしにそんな作家が2015年に監督した“Nuits blanches sur la jetée”を観たのだが、これが余りにも酷い代物であり、ブレッソン被れもいい加減にしろ(同じ理由でウジェーヌ・グリーンも嫌いだ)とその年のワースト作品に入れたりした。それでもここに出演していた俳優の存在感は印象的であり、しかも彼は映画作家としても活躍しており、実際作品を観てみると巨匠の作品よりも何倍も面白かったりした。ということで今回は俳優としても監督としても活躍する人物Pascal Cervo パスカル・セルヴォと彼の短編作品“Hugues”を紹介していこう。

今作の主人公である中年俳優ユーグ(Arnaud Simon)は、郊外の一軒家で同性のパートナーであるセルジュ(Gaëtan Vourc'h)との共にのほほんと暮らし続けていた。だがある日、家に舞台の演出家であるミシェリーヌ(Dominique Reymond)がやってくる。彼女はユーグに対して自分の作品に出て欲しいと直談判し台本を見せるのだったが、そんな状況に恋人のセルジュは浮かない顔を見せる。

そんな中でユーグは良い顔をしないセルジュよりも仕事の方を選び、それがきっかけで彼とは別居状態になってしまう。その上いざ演技に繰り出したは良いものの全く本調子にならず、ユーグはスランプ状態に陥ってしまう。だがある時彼は家の周りをうろつく裸の人間を見かける。かと思って少し経ってからまた外を見ると、何と全裸の男女が芝生の上で走り回ったり体操をしているではないか?何なんだ一体これは……

この前、フランス人の友人とNetflixでチャーリーズ・エンジェルなどコテコテのアメリカン・アクション映画を作りまくっているマックG監督のザ・ベビーシッターを観たのだが、観賞後彼女は「アメリカ的すぎるんだよなぁ」と不満を漏らしていた。その経験を踏まえた上で、私が言いたいのはこの“Hugues”は「フランス的すぎる!」ということだ。しかしそれは悪い意味ではなく良い意味で、である。

今作は日常の中に紛れ込んだシュールな情景を笑う映画だろう。たくさんのチンコ、たくさんのマンコが芝生の上で振り乱れる様とは何とおかしいものだろうか。そして裸の一群に当惑するユーグはとにかく狼狽えるしかなく、へりょへちょな外見を更に縮こまらせて何と滑稽なものであろうか。更に怪我をしたらしいダンディーな中年男のムキムキ筋肉にドギマギしながら応急処置をするユーグの姿なんか少女漫画も斯くやのキュンキュンっぷりである。

さて、真面目に書くと今作において裸とは正に自由や解放の象徴として描かれている。それはヌーディストたちの晴れやかな姿や、逆に警察たちによって弾圧される彼らの姿からも明らかだろう。だがユーグは庭にトタンでフェンスを設置したりとその解放を受け入れることが出来ない。その癖、梯子を使ってトタンの上からヌーディストたちを盗み見て、自由の時を夢見る。彼は自由になることが出来るのか。それは本編を観てのお楽しみである。2018年9月5日まで映画配信サイトMUBIで絶賛配信中です(英語字幕つき)

私が裸の面白さを知ったフランス映画イヴァン・アタル監督作「ぼくの妻はシャルロット・ゲンズブールなのだが、あの時に感じた、笑いに満ちた新鮮な驚きをこの作品は再び味あわせてくれた。正にフランス的であるこの“Hugues”、フレンチ・コメディが好きな方は是非ともご覧になって欲しい所である。

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私の好きな監督・俳優シリーズ
その201 Yared Zeleke&”Lamb”/エチオピア、男らしさじゃなく自分らしさのために
その202 João Viana&”A batalha de Tabatô”/ギニアビサウ、奪われた故郷への帰還
その203 Sithasolwazi Kentane&”Woman Undressed”/ Black African Female Me
その204 Victor Viyuoh&”Ninah’s Dowry”/カメルーン、流れる涙と大いなる怒り
その205 Tobias Nölle&”Aloys”/私たちを動かす全ては、頭の中にだけあるの?
その206 Michalina Olszańska&”Já, Olga Hepnarová”/私、オルガ・ヘプナロヴァはお前たちに死刑を宣告する
その207 Agnieszka Smoczynska&”Córki dancingu”/人魚たちは極彩色の愛を泳ぐ
その208 Rosemary Myers&”Girl Asleep”/15歳、吐き気と不安の思春期ファンタジー!
その209 Nanfu Wang&”Hooligan Sparrow”/カメラ、沈黙を切り裂く力
その210 Massoud Bakhshi&”Yek khanévadéh-e mohtaram”/革命と戦争、あの頃失われた何か
その211 Juni Shanaj&”Pharmakon”/アルバニア、誕生の後の救いがたき孤独
その212 済藤鉄腸オリジナル、2010年代注目の映画監督ベスト100!!!!!
その213 アレクサンドラ・ニエンチク&”Centaur”/ボスニア、永遠のごとく引き伸ばされた苦痛
その214 フィリップ・ルザージュ&「僕のまわりにいる悪魔」/悪魔たち、密やかな蠢き
その215 ジョアン・サラヴィザ&”Montanha”/全てはいつの間にか過ぎ去り
その216 Tizza Covi&”Mister Universo”/イタリア、奇跡の男を探し求めて
その217 Sofia Exarchou&”Park”/アテネ、オリンピックが一体何を残した?
その218 ダミアン・マニヴェル&”Le Parc”/愛が枯れ果て、闇が訪れる
その219 カエル・エルス&「サマー・フィーリング」/彼女の死の先にも、人生は続いている
その220 Kazik Radwanski&”How Heavy This Hammer”/カナダ映画界の毛穴に迫れ!
その221 Vladimir Durán&”Adiós entusiasmo”/コロンビア、親子っていうのは何ともかんとも
その222 Paul Negoescu&”O lună în Thailandă”/今の幸せと、ありえたかもしれない幸せと
その223 Anatol Durbală&”Ce lume minunată”/モルドバ、踏み躙られる若き命たち
その224 Jang Woo-jin&”Autumn, Autumn”/でも、幸せって一体どんなだっただろう?
その225 Jérôme Reybaud&”Jours de France”/われらがGrindr世代のフランスよ
その226 Sebastian Mihăilescu&”Apartament interbelic, în zona superbă, ultra-centrală”/ルーマニアと日本、奇妙な交わり
その227 パス・エンシナ&”Ejercicios de memoria”/パラグアイ、この忌まわしき記憶をどう語ればいい?
その228 アリス・ロウ&”Prevenge”/私の赤ちゃんがクソ共をブチ殺せと囁いてる
その229 マッティ・ドゥ&”Dearest Sister”/ラオス、横たわる富と恐怖の溝
その230 アンゲラ・シャーネレク&”Orly”/流れゆく時に、一瞬の輝きを
その231 スヴェン・タディッケン&「熟れた快楽」/神の消失に、性の荒野へと
その232 Asaph Polonsky&”One Week and a Day”/イスラエル、哀しみと真心のマリファナ
その233 Syllas Tzoumerkas&”A blast”/ギリシャ、激発へと至る怒り
その234 Ektoras Lygizos&”Boy eating the bird’s food”/日常という名の奇妙なる身体性
その235 Eloy Domínguez Serén&”Ingen ko på isen”/スウェーデン、僕の生きる場所
その236 Emmanuel Gras&”Makala”/コンゴ、夢のために歩き続けて
その237 ベロニカ・リナス&「ドッグ・レディ」/そして、犬になる
その238 ルクサンドラ・ゼニデ&「テキールの奇跡」/奇跡は這いずる泥の奥から
その239 Milagros Mumenthaler&”La idea de un lago”/湖に揺らめく記憶たちについて
その240 アッティラ・ティル&「ヒットマン:インポッシブル」/ハンガリー、これが僕たちの物語
その241 Vallo Toomla&”Teesklejad”/エストニア、ガラスの奥の虚栄
その242 Ali Abbasi&”Shelly”/この赤ちゃんが、私を殺す
その243 Grigor Lefterov&”Hristo”/ソフィア、薄紫と錆色の街
その244 Bujar Alimani&”Amnestia”/アルバニア、静かなる激動の中で
その245 Livia Ungur&”Hotel Dallas”/ダラスとルーマニアの奇妙な愛憎
その246 Edualdo Williams&”El auge del humano”/うつむく世代の生温き黙示録
その247 Ralitza Petrova&”Godless”/神なき後に、贖罪の歌声を
その248 Ben Young&”Hounds of Love”/オーストラリア、愛のケダモノたち
その249 Izer Aliu&”Hunting Flies”/マケドニア、巻き起こる教室戦争
その250 Ana Urushadze&”Scary Mother”/ジョージア、とある怪物の肖像
その251 Ilian Metev&”3/4”/一緒に過ごす最後の夏のこと
その252 Cyril Schäublin&”Dene wos guet geit”/Wi-Fi スマートフォン ディストピア
その253 Alena Lodkina&”Strange Colours”/オーストラリア、かけがえのない大地で
その254 Kevan Funk&”Hello Destroyer”/カナダ、スポーツという名の暴力
その255 Katarzyna Rosłaniec&”Szatan kazał tańczyć”/私は負け犬になるため生まれてきたんだ
その256 Darío Mascambroni&”Mochila de plomo”/お前がぼくの父さんを殺したんだ
その257 ヴィルジル・ヴェルニエ&”Sophia Antipolis”/ソフィア・アンティポリスという名の少女
その258 Matthieu Bareyre&“l’Epoque”/パリ、この夜は私たちのもの
その259 André Novais Oliveira&”Temporada”/止まることない愛おしい時の流れ
その260 Xacio Baño&”Trote”/ガリシア、人生を愛おしむ手つき
その261 Joshua Magar&”Siyabonga”/南アフリカ、ああ俳優になりたいなぁ
その262 Ognjen Glavonić&”Dubina dva”/トラックの棺、肉体に埋まる銃弾
その263 Nelson Carlo de Los Santos Arias&”Cocote”/ドミニカ共和国、この大いなる国よ
その264 Arí Maniel Cruz&”Antes Que Cante El Gallo”/プエルトリコ、貧しさこそが彼女たちを
その265 Farnoosh Samadi&”Gaze”/イラン、私を追い続ける視線
その266 Alireza Khatami&”Los Versos del Olvido”/チリ、鯨は失われた過去を夢見る
その267 Nicole Vögele&”打烊時間”/台湾、眠らない街 眠らない人々
その268 Ashley McKenzie&”Werewolf”/あなたしかいないから、彷徨い続けて
その269 エミール・バイガジン&”Ranenyy angel”/カザフスタン、希望も未来も全ては潰える
その270 Adriaan Ditvoorst&”De witte waan”/オランダ映画界、悲運の異端児
その271 ヤン・P・マトゥシンスキ&「最後の家族」/おめでとう、ベクシンスキー
その272 Liryc Paolo Dela Cruz&”Sa pagitan ng pagdalaw at paglimot”/フィリピン、世界があなたを忘れ去ろうとも
その273 ババク・アンバリ&「アンダー・ザ・シャドウ」/イラン、母という名の影
その274 Vlado Škafar&”Mama”/スロヴェニア、母と娘は自然に抱かれて
その275 Salomé Jashi&”The Dazzling Light of Sunset”/ジョージア、ささやかな日常は世界を映す
その276 Gürcan Keltek&”Meteorlar”/クルド、廃墟の頭上に輝く流れ星
その277 Filipa Reis&”Djon África”/カーボベルデ、自分探しの旅へ出かけよう!
その278 Travis Wilkerson&”Did You Wonder Who Fired the Gun?”/その”白”がアメリカを燃やし尽くす
その279 Mariano González&”Los globos”/父と息子、そこに絆はあるのか?
その280 Tonie van der Merwe&”Revenge”/黒人たちよ、アパルトヘイトを撃ち抜け!
その281 Bodzsár Márk&”Isteni müszak”/ブダペスト、夜を駆ける血まみれ救急車
その282 Winston DeGiobbi&”Mass for Shut-Ins”/ノヴァスコシア、どこまでも広がる荒廃
その283 パスカル・セルヴォ&「ユーグ」/身も心も裸になっていけ!


Winston DeGiobbi&"Mass for Shut-Ins"/ノヴァスコシア、どこまでも広がる荒廃

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さて、ノヴァスコシアである。カナダ東部の大西洋へ突き出た半島部に位置するこの州は幾度となく映画の舞台となっており、以前紹介したAshley Mackenzieの“Werewolf”も正にこの州にあるケープ・ブレトン島が舞台となっていた。 カナダにおいては田舎として扱われるこの地域だが、自然はとても豊富で様々なアウトドアが楽しめることで有名でもある。世界遺産にも登録されているルーネンバーグ市街地や首都ハリファックスのシタデルを知ってる方も多くいるだろう。ということで今回はそんなノヴァスコシア州を舞台とした作品の系譜、その最先端に位置するWinston DeGiobbi監督作“Mass for Shut-ins”を紹介していこう。

Winston DeGiobbiノヴァスコシア州ニューウォーターフォードを拠点とする映画作家・俳優だ。俳優としては先述した同郷の映画監督であるAshley McKenzieの短編"When You Sleep"(vimeoで全編鑑賞可)に主演、家に蔓延するネズミの被害に悩むきょうだいの姿を描いた作品で、今作はアトランティク映画祭の監督賞を獲得する。そして映画作家としては2012年には"Buggery"を、2013年には"Bright Rubber Cones"を、2015年には"Higgy Wants In"(vimeoで全編視聴可)などを製作し、着実にキャリアを重ねていく。そして2017年には初の長編監督作となる"Mass for Shut-Ins"を手掛ける。

この物語の主人公はKJ(Charles William McKenzie)という25歳の青年だ。彼は仕事もせずに、毎日毎日を無意味に彷徨いながら過ごしている。彼にはほとんど友人もおらず、心を開ける相手は自分よりもずっと歳上の老人ルーパーズ(Stephen Melanson)と、自分に対して兄貴面してくる青年セプテンバー(Joey Lee MacLean)くらいのものだ。そんな状況でノヴァスコシアでのKJの人生は無為に浪費されていく。

英国の映画にいわゆる“キッチンシンク映画”というジャンルが存在する。労働者階級の人々の逼迫した生活風景を、過度な装飾など一切加えることなくリアルに徹しながら描き出していくというジャンルだ。今作はその“キッチンシンク映画”の系譜に属する作品と言えるだろう。生活感が画面から匂いたつような空間の描写や、苔色の明かりに照らされながら蜘蛛の糸を垂らしているパイプ、登場人物に身体を埋められて皺だらけになる埃臭いソファー、そういった生々しい生の感覚がこの映画には満ちているのだ。

撮影監督も兼任するDeGiobbiのカメラは常時極端なクロースアップで以て対象に肉薄していく。コップや車などの物質は即物的な感覚を宿し、観る者に冷ややかな印象を与えることになる。そして登場人物の肌に迫る時にはまた別の印象を与えることになる。感じるのは様々な手触りの肌だ。KJの若さ故の成熟を伴わない白の色彩、彼とは逆に老いて尚も不気味なまでの老成した白を誇るルーパーズの膨らんだ腹、介護が必要な老女のシミだらけな茶色い肌、そのどれからも彼らが纏う淀んだ空気感がとらえられていく。

全体的に物語には息苦しさが張りついて離れないのだが、セプテンバーの存在は物語を奇妙に変化させる。車に乗って現れたかと思えば、散歩するKJに対して気楽に話しかけ、KJがいる部屋にやってきたかと思えば、彼やルーパーズの前で奇妙なダンスを披露する。彼の登場は物語の停滞を撹拌するように作用していくのだ、しかしそれは酷く不快な形でだが。

こうして本作が停滞と不快な撹拌を繰り返す中で、DeGiobbi監督は奇妙なヴィジョンをも私たちに提示する。唐突にコマ送りで早送りと巻き戻しを反復する映像、画面に映るものとはまた別の何かを映し出すワイプ映像、この実験的な技法の数々は唐突さや不可解さで以て私たちを不安にさせる。そしてそれらが反映しているのは、つまり登場人物たちが味あわざるを得ない歪んだ現実や抜け出すことの出来ない不条理的なドン詰まりの状況だ。監督は私たちにそれらを追体験させようと試みているのである。

“Mass for Shut-ins”とは何処へも行き着くことのない荒廃した人生と孤独についての物語だ。終わりも糞もない突発的に過ぎる終末は、私たちを寒々しい荒野へと捨て置くような驚きに満ちている。そして私たちはただただスクリーンの前で、この生の救い難さに対して途方に暮れるしかないのだ。

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参考文献
https://screennovascotia.wildapricot.org/widget/Sys/PublicProfile/44244980/3972881(監督プロフィール)
https://vimeo.com/user32013120(監督公式vimeo)

カナダ映画界、新たなる息吹
その1 Chloé Robichaud &”Sarah préfère la course” /カナダ映画界を駆け抜けて
その2 ソスカ姉妹&「復讐」/女性監督とジャンル映画
その3 Chloé Robichaud&”FÉMININ/FÉMININ”/愛について、言葉にしてみる
その4 アンヌ・エモン&「ある夜のセックスのこと」/私の言葉を聞いてくれる人がいる
その5 Julianne Côté &”Tu Dors Nicole”/私の人生なんでこんなんなってんだろ……
その6 Maxime Giroux &”Felix & Meira”/ハシディズムという息苦しさの中で
その7 ニコラス・ペレダ&”Juntos”/この人生を変えてくれる”何か”を待ち続けて
その8 ニコラス・ペレダ&”Minotauro”/さあ、みんなで一緒に微睡みの中へ
その9 Lina Rodríguez&”Mañana a esta hora”/明日の喜び、明日の悲しみ
その10 フィリップ・ルザージュ&「僕のまわりにいる悪魔」/悪魔たち、密やかな蠢き
その11 Kazik Radwanski&”How Heavy This Hammer”/カナダ映画界の毛穴に迫れ!
その12 Kevan Funk&”Hello Destroyer”/カナダ、スポーツという名の暴力
その13 Ashley McKenzie&”Werewolf”/あなたしかいないから、彷徨い続けて

私の好きな監督・俳優シリーズ
その201 Yared Zeleke&”Lamb”/エチオピア、男らしさじゃなく自分らしさのために
その202 João Viana&”A batalha de Tabatô”/ギニアビサウ、奪われた故郷への帰還
その203 Sithasolwazi Kentane&”Woman Undressed”/ Black African Female Me
その204 Victor Viyuoh&”Ninah’s Dowry”/カメルーン、流れる涙と大いなる怒り
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その206 Michalina Olszańska&”Já, Olga Hepnarová”/私、オルガ・ヘプナロヴァはお前たちに死刑を宣告する
その207 Agnieszka Smoczynska&”Córki dancingu”/人魚たちは極彩色の愛を泳ぐ
その208 Rosemary Myers&”Girl Asleep”/15歳、吐き気と不安の思春期ファンタジー!
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その226 Sebastian Mihăilescu&”Apartament interbelic, în zona superbă, ultra-centrală”/ルーマニアと日本、奇妙な交わり
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その228 アリス・ロウ&”Prevenge”/私の赤ちゃんがクソ共をブチ殺せと囁いてる
その229 マッティ・ドゥ&”Dearest Sister”/ラオス、横たわる富と恐怖の溝
その230 アンゲラ・シャーネレク&”Orly”/流れゆく時に、一瞬の輝きを
その231 スヴェン・タディッケン&「熟れた快楽」/神の消失に、性の荒野へと
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その233 Syllas Tzoumerkas&”A blast”/ギリシャ、激発へと至る怒り
その234 Ektoras Lygizos&”Boy eating the bird’s food”/日常という名の奇妙なる身体性
その235 Eloy Domínguez Serén&”Ingen ko på isen”/スウェーデン、僕の生きる場所
その236 Emmanuel Gras&”Makala”/コンゴ、夢のために歩き続けて
その237 ベロニカ・リナス&「ドッグ・レディ」/そして、犬になる
その238 ルクサンドラ・ゼニデ&「テキールの奇跡」/奇跡は這いずる泥の奥から
その239 Milagros Mumenthaler&”La idea de un lago”/湖に揺らめく記憶たちについて
その240 アッティラ・ティル&「ヒットマン:インポッシブル」/ハンガリー、これが僕たちの物語
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その250 Ana Urushadze&”Scary Mother”/ジョージア、とある怪物の肖像
その251 Ilian Metev&”3/4”/一緒に過ごす最後の夏のこと
その252 Cyril Schäublin&”Dene wos guet geit”/Wi-Fi スマートフォン ディストピア
その253 Alena Lodkina&”Strange Colours”/オーストラリア、かけがえのない大地で
その254 Kevan Funk&”Hello Destroyer”/カナダ、スポーツという名の暴力
その255 Katarzyna Rosłaniec&”Szatan kazał tańczyć”/私は負け犬になるため生まれてきたんだ
その256 Darío Mascambroni&”Mochila de plomo”/お前がぼくの父さんを殺したんだ
その257 ヴィルジル・ヴェルニエ&”Sophia Antipolis”/ソフィア・アンティポリスという名の少女
その258 Matthieu Bareyre&“l’Epoque”/パリ、この夜は私たちのもの
その259 André Novais Oliveira&”Temporada”/止まることない愛おしい時の流れ
その260 Xacio Baño&”Trote”/ガリシア、人生を愛おしむ手つき
その261 Joshua Magar&”Siyabonga”/南アフリカ、ああ俳優になりたいなぁ
その262 Ognjen Glavonić&”Dubina dva”/トラックの棺、肉体に埋まる銃弾
その263 Nelson Carlo de Los Santos Arias&”Cocote”/ドミニカ共和国、この大いなる国よ
その264 Arí Maniel Cruz&”Antes Que Cante El Gallo”/プエルトリコ、貧しさこそが彼女たちを
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その267 Nicole Vögele&”打烊時間”/台湾、眠らない街 眠らない人々
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その282


Bodzsár Márk&"Isteni müszak"/ブダペスト、夜を駆ける血まみれ救急車

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さて救急車映画である。私的にまず思いつくのはニコラス・ケイジ主演の「救命士」だ。名前の通りケイジ演じる救命士が眠らない街ニューヨークを、救いを求めて疾走する今作は個人的にマーティン・スコセッシ監督作でも1,2を争うほどお気に入りの作品だ。「アンビュランス/地獄の殺人救急車 狙われた金髪の美女」なんかもいい。邦題の通り現れる殺人救急車の謎を追うサスペンスで、B級映画界のトリックスターであるラリー・コーエンの作家性が遺憾なく発揮された作品となっている。そして世界に目を向けると、ブルガリアにはIlian Metev監督(ブログで特集記事書いてます)によるドキュメンタリー“Poslednata lineika na Sofia”がある。こちらはブルガリアの首都ソフィアに13台しかない救急車に乗って人々を救護する救命隊の姿を追った作品だった。さて今回はハンガリー産の救急車映画である、Bodzsár Márk監督作"Isteni müszak"を紹介していこう。

Bodzsár Márkは1983年ハンガリーブダペストに生まれた。若い頃から映画作家を志しており、2006年に恋人に振られた青年の懊悩を描く"A masculinum felé"で監督デビュー、オムニバス作品である"Decameron 2007"(2007)や"East Side Stories"(2012)に参加、"Különös történetek"というTVのドキュメンタリー番組のエピソード監督を務めるなど着実にキャリアを重ねていく。そして2013年には初の長編監督作"Isteni müszak"を完成させる。

時代は遡り1992年、主人公であるミラン(Ötvös András)という若者はボスニア・ヘルツェゴビナ紛争に参加する兵士であったが、その苛烈さに恐れを成し脱走、ハンガリーブダペストまで逃げ帰ってきた。しかし戦地にはまだ恋人である医師のターニャ(Stork Natasa)が残っている。彼女を連れ帰るためには何よりも金が必要だ。そして八百屋でアルバイトをしていたミランだったが、ひょんなことから自身の医療のスキルを認められ、救急隊にスカウトされることになる。だがその救急隊には秘密があった。

という訳で彼はリーダーのフェーク医師(Rába Roland)や運転手のタマシュ(Keresztes Tamás)と共に、現場へと駆けつけるのだが、様子がおかしい。彼らは医療行為を行うこともなく、患者を見殺しにしようとしていたのだ。そして敢えなく死んでしまった患者の戸籍や個人情報を売っ払う姿を見てしまう。そう、この救命隊は患者の死によって金を荒稼ぎする極悪救命隊だったのだ……

さて今作はなかなか珍しいハンガリー産コメディだが、ブログ読者の方には“いや、最近そういうの観た気がする……”という方も居られるかもしれない。そう、変な日本描写で話題になった「リザとキツネと恋する死者たち」は正にハンガリー産コメディだった。この「リザ」と本作品、妙なテンションや設定の突飛さなどが結構似ていて、しかも変な日本描写が出てくる所まで似ている。運転手のタマシュはいつも傍らに刀を携えているのだが、ミランに“そのサムライソードは何なんだ?”と聞かれた時、こう答える。“これはサムライソードじゃねえ、ニンジャソードだ!「アメリカン忍者」で観たんだ!”

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その他にも今作独特の魅力的な要素は数多くあるが、刺激的なブダペストの夜の風景はその1つだろう。刑務所ではネオナチのハゲ野郎が同房の囚人をボコボコにしたり、カップルはわざわざ真夜中にジェットスキーだか何だかをして案の定事故ったり、ホームレスの女性はギャアギャア喚きまくり、その他大勢がヤバい目に遭ったりと、ブダペストの夜には凄惨なまでに笑える暴力と不条理なまでに軽やかな死が蔓延しているのだ。

そして撮影監督Reich DánielとプロダクションデザイナーValcz Gáborによるブダペストのビジュアルも素敵だ。胃液の黄色に染まり不穏な美しさを湛える道路を救急車は疾走するかと思えば、ミランたちが仕事終わりに立ち寄る中華料理店は華美な装飾に溢れ、皆の憩いの場になるトップレス美容室(どういうものかは映画を観れば分かります)の極彩色の内容は脳髄をトリップさせるような魅力に満ちているのである。

ミランの仕事はしばらくの間は快調に行くのだが、そうずっと上手く行くはずもないのが道理だ。ミランたちはある事件をきっかけに商売の元締めであるヴィナイに目をつけられて、絶体絶命の危機に陥ることとなる。さあ、どうする?彼らは知恵を絞りに絞るが、それが血まみれの道行きを辿るのにそう時間はかからなかった。

この“Isteni müszak”は鮮血にも似たグロテスクなユーモアで以て、社会主義崩壊後のハンガリーに広がる猥雑で凄惨な現実と不条理なる死の光景を笑い飛ばしながら描き出していくブラック・コメディだ。観た後になかなかに複雑な余韻を抱かされるような変な東欧映画をご所望の方には正にうってつけと言うべき作品だろう。

さて監督の今後であるが、まずは日本でも「悪童日記」が一般上映されたハンガリーの俊英ヤーノシュ・サースによる最新作“A hentes, a kurva és a félszemü”では脚本を担当している。第1次世界大戦後の混乱したハンガリーで繰り広げられる三角関係を描いた作品だ。そして自身の監督新作としては2018年完成予定の"Drakulics elvtárs"がある。70年代冷戦下のハンガリーを舞台に、体制に反旗を翻す吸血鬼と体制に忠誠を使った女性の愛と裏切りを描いたラブストーリーだという。ということでBodzsár監督の今後に期待。

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