次世代光メモリとシステム技術

技術者・研究者向けの専門書籍紹介

次世代光メモリとシステム技術

刊行のねらい
 次世代型の「光メモリ」としては幾つかの提案がある。古い時代から少しずつ研究が進み,近年では大規模な研究開発が推進されてきたホログラムメモリや1980年代から急速に注目が集まった近接場光学を利用する光メモリや,その後に続くSuper-RENS等々がある。しかし未だに実用の意味では可能性が見いだされていない。その時代に活躍する「光ディスク」が追いかけたからであろう。すなわち光ディスクの多層化などにより,新しく提案される光メモリの仕様が陳腐化されるのである。技術の進歩の混沌が光メモリの進歩の“筋”を読めなくしてきた訳である。
 メモリ(ストレージ)のこの様な状況下において,本書は光メモリの有るべき道を主として技術の観点から探ろうとするものである。
 HD DVDの撤退の後に,次世代型のDVD(光ディスク)の盟主となったBlu-rayの可能性を先ず知り,その上に立って,新しい展開が見込めるテーマを幾つか取り上げてこれを論じた。それぞれの執筆者は斯界の第一人者であり,その分野で大きな功績を残している方々であるので,余計な調整をせず各分担範囲で自由に信ずるところを述べて貰うことにした。概ね各テーマで「理論」「材料」「システム」「応用」の小テーマを入れてその立場から述べられている。多少の技術的見解の相違が有っても,それは現状技術の段階を示すものであり,言わばそれ程に難しい状況判断が必要な局面を持つものと理解して頂きたい。
 できうる限り可能性を持つテーマを拾い上げたが,ページ数の関係も有り本書では光メモリや光が関係する技術に特化した。この点で光以外のテーマについては取り上げられなかった事をご理解頂きたい。本書によって光メモリの将来技術の議論を行う切っ掛けを作って貰えることになれば執筆者一同大いに了とするところである。賢明な読者におかれては,延べ33名からなる執筆者の論を知り,次世代光メモリの“筋”を読み取って頂ければ幸いである。
(「はじめに」より抜粋)

沖野芳弘

書籍の内容
序章 光メモリのこれから
(沖野芳弘)
1. 光ディスクメモリ
2. 開発の経緯
3. 光ディスクの現状
  3.1 HD DVD

  3.2 Blu-ray(BD)の特徴

  3.3 最新の開発

4. これからの光メモリ
第1章 次世代DVD技術
1. 青色DVDシステムBlu-ray Disc(小林昭栄)
  1.1 はじめに

  1.2 エラー訂正

  1.3 変調方法

  1.4 RE,Rのアドレス方式

    1.4.1 ウォブルアドレスフォーマットの機能

    1.4.2 ウォブルアドレスの変調方式

    1.4.3 アドレス評価

    1.4.4 ADIP format and alignment with main data

    1.4.5 アドレスのまとめ

  1.5 おわりに

2. 青色DVD用光ピックアップの光学技術と記録技術(篠田昌久,竹下伸夫)
  2.1 はじめに

  2.2 多層化メディアでの球面収差補正技術

    2.2.1 基板の厚みと球面収差の関係

    2.2.2 レンズ移動による球面収差の補正方法

    2.2.3 液晶素子による球面収差の補正方法

  2.3 多層メディアでの迷光除去

    2.3.1 多層メディアでの迷光の発生とその問題点

    2.3.2 回折素子を用いた迷光除去の例

    2.3.3 偏光性を用いた迷光除去の例

  2.4 光ピックアップの記録技術

    2.4.1 光ピックアップと記録技術の現状

    2.4.2 記録ストラテジーの自動最適化システム

    2.4.3 自動最適化システムの性能評価

  2.5 まとめ

3. 書換形/追記形光ディスク媒体の技術(山田昇)
  3.1 はじめに(次世代DVDとは?)

  3.2 BDメディアの構造

  3.3 BD-REに用いる相変化材料

    3.3.1 3つの組成

    3.3.2 光学的な課題と対策

    3.3.3 熱的な課題と対策

  3.4 BD-Rに用いる追記形材料

  3.5 まとめ

4. BD用光ディスク媒体の製造技術(錦織圭史)
  4.1 はじめに

  4.2 ディスク製造プロセス概要

    4.2.1 マスタリング工程1

    4.2.2 マスタリング工程2(PTM)

    4.2.3 成形

    4.2.4 カバー層の作製プロセス

    4.2.5 中間層の作製プロセス

  4.3 評価技術

  4.4 まとめ

5. BD用ピックアップ光学系と互換方式(大利祐一郎)
  5.1 はじめに

  5.2 BD用ピックアップ光学系の特徴

  5.3 BD用ピックアップ光学素子

  5.4 BD用ピックアップ光学系と互換方式

  5.5 今後の動向

6. Ultra Density Optical(UDO)の技術(今野久司)
  6.1 序文

  6.2 UDO2ドライブ技術

    6.2.1 収差補正機構

    6.2.2 リードチャンネル

  6.3 UDO2追記型ディスク技術(UDO2 WORM)

  6.4 UDO2書き換え型メディア技術(UDO2 RW)

  6.5 結論

第2章 多層構造の光ディスク
1. ブルーレイディスク媒体の多層化技術(山田昇,児島理恵,西原孝史,槌野晶夫,土生田晴比古)
  1.1 はじめに(多層BD)

  1.2 2層BDメディアの構成

  1.3 2層BDメディアの記録再生原理1:層間クロストークの除去

  1.4 2層BDメディアの記録再生原理2:透過率一定の不思議

    1.4.1 L1透過率変動の影響

    1.4.2 透過率一定のメカニズム

  1.5 相変化材料

  1.6 BDで用いられる誘電体材料

    1.6.1 透明材料(界面層)

    1.6.2 高屈折率材料(透過率向上層)

  1.7 多層BD-Rメディアへの挑戦

  1.8 まとめ

2. 0.1mm厚薄型光ディスクスタック型テラバイト光ディスク(SVOD)(粟野博之)
  2.1 SVODは光ディスクの大容量化に有望―技術比較(面密度向上,多層化,薄型化)

  2.2 薄型ディスクの作製方法(新しくナノインプリント技術を導入)

  2.3 SVOD-BDの性能評価

  2.4 15000回転における面ブレ量と面ブレ加速度評価

  2.5 薄型基板の内周穴はドライブへのクランピングストレスに耐えられるか?

  2.6 SVODカートリッジと薄型ディスク用ミニチェンジャー

  2.7 SVODライブラリシステム

  2.8 薄型ディスクオートチェンジャーのディスク交換方法

3. 媒体の多層構造化技術(川田善正)
  3.1 はじめに―多層光ディスクへの期待―

  3.2 多層構造を有する媒体を用いた光メモリ

  3.3 粘着剤を用いた多層記録媒体

  3.4 ロール型媒体を利用した高密度光メモリ

  3.5 まとめ

第3章 近接場光を利用する光メモリ
1. 近接場光学の基礎・光メモリへの展開(中野隆志)
  1.1 近接場光

  1.2 近接場光の解析

  1.3 近接場光の光メモリへの展開

2. 高速大容量近接場光メモリ用表面プラズモン増強ヘッド(後藤顕也)
  2.1 はじめに

  2.2 原理

  2.3 VCSEL二次元アレイ光ヘッドの構成

  2.4 二次元アレイ光ヘッドの効果

  2.5 表面プラズモンの周期構造金属により近接場光を100倍以上も増強させる新方式

  2.6 試作実験

  2.7 金属周期構造ヘッドの近接場光透過効率測定

  2.8 おわりに

3. SIL(Solid Immersion Lens)を用いた,高密度記録技術(中沖有克)
  3.1 近接場の応用

  3.2 SILの基本設計

  3.3 ナノギャップ制御技術

  3.4 光ディスクへの高密度記録

  3.5 実用化に向けて

4. プラズモンヘッドを利用するシステム(渡辺哲)
  4.1 はじめに

  4.2 近接場光の作り方

  4.3 磁界発生手段

  4.4 小型新プラズモンヘッドの開発例

  4.5 今後の課題

5. Super-RENS(島隆之)
  5.1 開発初期

  5.2 酸化白金記録層

  5.3 再生機構の解明に向けて

  5.4 実用化に向けて

  5.5 本節のまとめ

第4章 ホログラフィック・メモリ
1. ホログラフィックメモリその技術と課題(田中拓男)
  1.1 はじめに

  1.2 ホログラフィックメモリの光学系

  1.3 空間周波数帯域を用いた記録密度の比較

  1.4 記録密度の解析的導出と比較

  1.5 数値計算結果,ビット型メモリとホログラフィックメモリの比較

  1.6 まとめ

2. ホログラム記録材料の開発状況と課題(桜井宏巳)
  2.1 はじめに

  2.2 WORM用記録材料の開発動向

  2.3 RW用記録材料の開発動向

  2.4 旭硝子のRW用基本材料コンセプト

  2.5 今後の課題と展望

3. ホログラムメモリシステム(小笠原昌和)
  3.1 角度多重方式

    3.1.1 原理

    3.1.2 ポリトピック方式

    3.1.3 ポリトピック方式記録光学系

  3.2 シフト多重方式

    3.2.1 原理

    3.2.2 コリニア方式

    3.2.3 コリニア方式記録光学系

  3.3 ホログラムメモリシステムの課題

    3.3.1 要素技術

    3.3.2 環境信頼性

4. 認識機能を持つホログラム(小舘香椎子,渡邉恵理子)
  4.1 はじめに

  4.2 光相関演算

    4.2.1 光相関演算原理VanderLugt Correlator(VLC

    4.2.2 マッチトフィルタの作製

    4.2.3 マッチトフィルタによる光相関演算

  4.3 ホログラフィック光メモリと光相関演算システム

    4.3.1 コアキシャルホログラフィックマッチトフィルタによる光相関演算システム

    4.3.2 試算演算速度

  4.4 アプリケーション

  4.5 まとめ

第5章 2(多)光子励起を利用する光メモリ
1. 2光子励起過程の理論と光メモリ(川田善正)
  1.1 はじめに―2光子励起過程を利用した光メモリ―

  1.2 集光レーザーによる非線形過程の誘起

  1.3 2光子励起過程

  1.4 光メモリにおける2光子過程

    1.4.1 媒体の深い位置にデータを記録することが可能

    1.4.2 2乗効果による面内の記録密度の向上

    1.4.3 レーリー散乱光の現象

  1.5 フォトンモード記録媒体

  1.6 まとめ

2. 2光子吸収記録材料(秋葉雅温)
  2.1 はじめに

  2.2 2光子3次元記録材料の報告例

    2.2.1 再生方式と媒体構造

    2.2.2 2光子記録材料

    2.2.3 2光子記録材料の課題

  2.3 2光子記録材料の感度向上指針

  2.4 高効率2光子吸収化合物の分子設計

    2.4.1 理論的取り扱い

    2.4.2 分子構造への翻訳

  2.5 実用化へ向けて

3. 2光子吸収材料を使ったシステム(沖野芳弘)
  3.1 装置・システム化の課題

    3.1.1 2光子吸収材料による高密度化

    3.1.2 記録材料の感度と光源

    3.1.3 多層化の課題と光学系

  3.2 装置化の事例

    3.2.1 屈折率変化を利用する方式

    3.2.2 蛍光による再生

4. 二光子吸収現象を利用した一括再生型光メモリ(香取重尊,藤田静雄)
  4.1 はじめに

  4.2 二光子吸収材料

  4.3 有機ホウ素ポリマーの二光子吸収特性

  4.4 二光子吸収反応による吸収変化と屈折率変化

  4.5 光記録再生方式の提案

  4.6 おわりに

第6章 その他の方式
1. フォトクロミック分子の電子機能と関連メモリ技術(辻岡強)
  1.1 フォトクロミック反応に伴う分子物性変化と応用

  1.2 光反応による電子物性変化

  1.3 電気的な反応による電子物性変化

2. 熱アシスト磁気記録(松本拓也)
  2.1 ハードディスクドライブの記録密度

  2.2 熱アシスト磁気記録の基本原理

    2.2.1 磁気勾配記録

    2.2.2 熱勾配記録

    2.2.3 熱・磁気勾配記録

  2.3 近接場光発生素子

  2.4 局在プラズモンを利用した高効率近接場光発生素子

  2.5 記録実験結果

  2.6 ドライブ用光学系

第7章 大容量光メモリの課題
1. 光源の技術(庄野昌幸)
  1.1 はじめに

  1.2 光メモリ用半導体レーザ開発の歴史

  1.3 半導体レーザの構造と製造方法

    1.3.1 半導体レーザの構造

    1.3.2 半導体レーザの製造方法

  1.4 半導体レーザの特性

    1.4.1 半導体レーザの基本特性

    1.4.2 光メモリ用半導体レーザに必要とされる特性

  1.5 半導体レーザの高性能化

    1.5.1 赤外半導体レーザ

    1.5.2 赤色半導体レーザ

    1.5.3 青紫色半導体レーザ

    1.5.4 2波長半導体レーザ

    1.5.5 その他の半導体レーザ

  1.6 今後の展望

2. 信頼性測定とデータマイグレーション(入江満)
  2.1 光ディスクの信頼性評価に関する研究と標準化の動向

  2.2 光ディスクの信頼性評価

    2.2.1 ISO規格にもとづく期待寿命の推定方法

    2.2.2 ISO/IEC 10995にもとづく期待寿命評価例

  2.3 電子データの長期保存方法−マイグレーション

    2.3.1 光ディスクにおける媒体移行(データマイグレーション

    2.3.2 JIS Z 6017におけるデータマイグレーション

  2.4 おわりに

3. 大容量光ディスクの期待される応用と市場性(松井猛)
  3.1 はじめに

    3.1.1 爆発する情報量と,これとどう向き合うのか

  3.2 大容量光ディスクの最適市場

    3.2.1 オフィスにおける情報管理と,情報の2次利用

    3.2.2 米国で先行するオフラインメディアの利用

  3.3 既存のメディアを乗り越えて,大容量光ディスクが生き残っていく上での課題

  3.4 まとめ

4. 赤色レーザでの挑戦(松井勉)
  4.1 赤色レーザによる高速高密度記録への挑戦

  4.2 赤色から青色レーザへの挑戦

  4.3 中国規格が生き残るためには