新設G1

  • 続報

 新設G1に関する続報です。しばらく話を聞かなかったのでどうなったのかと思っていたら、どうやら、阪神1400mのG1は消滅。しかし、春先の古馬牝馬G1の創設はほぼ決定らしい。そして、阪神牝馬Sも暮れから4月にトライアルとして移るとある。

  • 歴史(中央)

 10年前くらいから競馬を見させて頂いた者から言わせていただくと、G1の数はこの10年間で増えた。それは間違いない。

 フェブラリーS…1997年にG1に昇格。創設時は、フェブラリーハンデキャップでG3であったが、1994年にG2に昇格と共にフェブラリーSに改称。

 高松宮記念…1996年にG1に昇格。試行時期も施行条件もその歴史と共々変わってきたレース。古くは高松宮杯という名で中京芝2000mで施行されていたふが、現在は中京芝1200m。

 NHKマイルC…1996年に創設。3歳春のマイル王決定戦という触れ込みだったが、創設時は「マル外ダービー」と形容されたように、出走馬18頭中14頭が外国産馬であったが、現在は不況の影響もあり、外国産馬の影響は薄れており(2005年はわずか2頭)、当初の目的通り、3歳マイル王決定戦としての位置づけになっている(ようだ)。

 秋華賞…1996年に新設。(当時)マル外馬の出走出来なかったクラシック競走の開放と牡馬と同じように3冠の形を整えるために新設された。

 エリザベス女王杯…G1に昇格したのはグレード制導入時だが、秋華賞の新設に伴い、距離も2400mから2200mに短縮され、1996年より3歳馬と古馬のNo1牝馬決定戦としての位置づけになっている。

 ジャパンCダート…2000年に新設。現在もっとも新しいG1競走で、国際G1としての位置づけだが、海外への認知度は低いため強い外国馬はそう来日しない。


 大体、これらが新設G1なのだが、それよりも古いファンになると、グレード制導入(1984年)以降は、ほとんどが新設G1のような感覚を抱くかもしれない。また、これらは中央競馬だけであり、近年の地方交流競走の活性化により、様々な、例えば、JBCクラシック、スプリントやかしわ記念などが新設されている。

  • G1馬の看板

 日本経済新聞記者の野元賢一氏は香港発の黒船・安田記念から (2000/6/12)で以下のように述べている。
 『「G1勝ち馬7頭」の看板と中身にも、大きなズレがあった。タイトルの内訳はNHKマイルC(2頭)、朝日杯3歳S、阪神3歳牝馬S、高松宮記念スプリンターズSオークスで、旧八大競走の勝ち馬に限定するとウメノファイバー1頭だった。今や短距離G1は、他のG1を勝てなかった馬の救済の場のような感がある。いくらG1の数を増やしても、強い馬が質量とも十分でなければ、看板倒れのG1馬が乱造されることになる。今回の結果は、安易なG1増設に警鐘を鳴らすものだ。』


 いつまでも旧八大競走(「桜花賞」「皐月賞」「優駿牝馬」「東京優駿」「菊花賞」「有馬記念」「天皇賞・春」「天皇賞・秋」)を重要視する競馬観を持つ人々にとっては、新設G1というのは、価値のないものに映るのではないだろうか。


 では、競走馬の質とはどういったものなのか。それが明記されていない。確かにオグリキャップシンボリルドルフのような名馬と呼ばれる馬が強いことは想像に難くない。しかしながら、武豊騎手も折に触れて「日本馬の全体的なレベルは上がっている。海外でも活躍する馬が出てくる」と語っているように、海外で勝ち負け出来る馬が今後も出てくるはずである。

 氏は活躍する高齢馬の影で(2005/4/19)でもこのように述べている。
 『外国産馬を買えなくなった日本の競馬産業には、レベルダウンの影が忍び寄っているのではないか。ここ2年ほどは海外遠征馬も目立った成果をあげていない。』

 これはシーザリオゼンノロブロイの海外遠征前に書かれたものであるが、氏はこの結果を受けてどのように語るのであろうか。氏のような感覚のイメージで語るならば、ゼンノロブロイのようなシンボリクリスエスに子供扱いされた馬が現役最強馬では全体のレベルが大したことがないということになるが、そのゼンノロブロイが英インターナショナルSで2着した。すると、次は、「海外の一流G1はない」と評するのだろう。

  • 質という問題

 ナリタブライアンディープインパクトが勝負すればブライアンの方が強い。先日の菊花賞の帰り道で、30代ぐらいの男性から放たれた言葉だが、その理由が「あの強さは半端じゃなかった」というのを聞いて理由になっていないじゃないか、と苦笑いしたものだ。


 競馬に限らず、プロ野球などにも言えることだが、昔の方がよかったという年輩者の声を良く聞き、それを聞いた我々若い世代は「そうなのか」と思うことがあるが、実際に、同じようにプレーし、あるいは同じレースに走ってみないことには、強さの比較など出来はしない。スペシャルウィークグラスワンダーの雌雄を決した有馬記念が同日の条件戦よりもタイムが遅かったからといって、この馬たちがその条件馬に劣るとは思えないし、どうようのことが、高速馬場となった現在の競馬にもいえる。

 つまり、比較する基準として不適切な「質」という言葉で、表現しても、実態は語れないということだ。

  • 繁殖馬としてのG1

 かつては「G1馬の称号を持って繁殖入り」という言葉が聞かれたし、現在でも何とかこの馬に称号をという関係者の思いは強いが、近年の種牡馬事情、特にサンデーサイレンス産駒を巡る生産界の動きは、もはやG1の看板ではない。現役時のパフォーマンスが一つの基準であることは確かだが、それよりも母系の優秀さが優遇される時代である。

 ニューイングランドアドマイヤボスがG1の看板を持つ他のG1勝ちの種牡馬よりも繁殖牝馬を集める現状に、質を語る人たちは、何を思うのであろうか。

  • 最後に

 秋華賞が創設当時、格の低いG1といわれたが、先日の秋華賞杉本清氏が番組中で「もう10年になりますか。ようやく馴染んできましたね」と語った。それぐらいの年数を経て、ようやく形として認められるものである。
 また、このようにG1が新設されなければ、外国産馬は輸入されていなかったのかもしれない。アグネスデジタルクロフネといった名馬が日本競馬で活躍することはなかったともいえる。


 新設G1に関して、G1馬の格や競走馬の質という言葉で語ることは無理なことであると思う。10年後、20年後になれば、この新設G1が国際G1としての地位を確立し、世界中の最強牝馬決定戦となっているかもしれない。つまり、「全ては時が流れなくてはわからない」ということだ。

 今後も賛否両論が出てくるだろうが、「質」という言葉を出した人に問うてみるといい。「競走馬の質はどうやって量るのか」と。