Red cat の数学よもやま話 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2006-10-08 長かった

[]Fermat の最終定理に挑む(その 15・最終回) 18:14

では、n = 5 以降の歴史について、Wikipedia の記事なども参考にしながら見ていきましょう。

n = 7 の場合

n = 7 の場合の証明の途中経過として、n = 14 の場合に正しいことはディリクレ(Dirichlet)によって証明されました(1832 年)。

n = 7 を解決したのは、1839 年、ラメ(Lamé)と、ラメの誤りを指摘したルベーグ(V.A.Lebesgue)*1でした。

その 8 年後、ラメは「Fermat 予想を完全に解決した」と発表しますが、そのアイデアは x^n+y^n=z^n の左辺を、複素数の範囲で因数分解するもので、この分解が一意的でないことから、ラメの「解法」は思い違いであることが分かりました。

また、ラメの用いた議論があまりにも複雑だったことから、個別の n に対する研究の時代は終わりを告げることになります。

一般の n に対して

ソフィ・ジェルマン(Marie Sophie Germain)は、奇素数 p に対する Fermat 方程式 x^p+y^p=z^p について、¥gcd(p,xyz)=1 の場合(Case 1)とそうでない場合(Case 2)に分け、奇素数 p について、2p + 1 がまた素数であるならば、Fermat 予想は Case 1 の場合に正しいこと、すなわち

2p + 1 が素数であるような素数 p について、x^p+y^p=z^p が成り立つとき、x , y , z のいずれかが p で割り切れねばならない

ことを示しました。これが一般の n に対する結果としては(おそらく)最初の例です。状況は限定されていますが、一般の n に関する考察を行ったという意味では、大きな進歩でした。

が、何といっても一般の n に対して、この時代、最も大きな結果を残したのはクンマー(Kummer)でしょう。彼は

(x+y)(x+¥rho y)¥dots(x+¥rho^{p-1}y)=z^p(¥rho=e^{¥frac{2¥pi i}{p}})

と左辺を因数分解(このアイデア自体はラメと同じ)し、円分体 ¥mathbb{Q}(¥rho)*2整数環において、素因数分解の一意性が成り立つことを期待しました。この思惑は外れましたが、クンマーは諦めず、"理想数" というものを導入して、この "理想数" の世界にまで話を落とし込めば、素因数分解の一意性と同様のことが成り立つことを示したのです。後にデデキントイデアルの言葉を用いてこれを定式化しましたが、そもそもイデアルは英語では "ideal" と書きます。イデアルとは、まさに "理想数" そのものだったわけです。

こうした努力の元にクンマーは「正則素数」というものを定義し、正則な素数に対しては Fermat 予想は完全に正しいことを証明しました。残念ながら非正則な素数が無限に存在することがわかり、クンマーの Fermat 予想への挑戦はここで終わることになりますが、100 以下の非正則素数 (37 , 59 , 67) に対してはクンマーが個別に研究して解決したため、正則素数、及び 100 以下の素数に関しては Fermat 予想は完全な解決を見たことになります。

クンマーの理論については、機会があればいずれまたこの場を借りて紹介できればいいと思っています。

数論から楕円曲線論へ

1955 年、楕円曲線論の分野において、谷山豊と志村五郎が

ある楕円方程式の E 系列は、どれかの保型形式の M 系列である

という予想を立てます。世に言う「谷山・志村予想」です。これは楕円曲線論のみならず、それと関連の深い数論においても注目の話題になっていました。ところが、この予想が発表されてから 30 年ほど経った 1984 年、この予想と Fermat 予想を結びつける大きな出来事が起きます。ゲルハルト・フライが

フェルマーの最終定理に対する反例 a^n+b^n=c^n からはモジュラーでない楕円曲線(フライ曲線) :

y^2=x(x-a^n)(x+b^n)

が得られ

るという予想を打ち立てます。セール(J-P.Serre)によって定式化されたこの「フライ・セール予想」は言うまでもなく谷山・志村予想と Fermat 予想を結びつけるものです。そして 1986 年、アメリカの数学者ケン・リベット(Kenneth Alan Ribet)によってフライ・セール予想は解決し、Fermat 予想は一躍数論界のホットトピックとなるのです。

そして解決へ

1953 年、イギリスに生まれたアンドリュー・ワイルズ(Andrew John Wiles)は、10 歳のときにこの Fermat 予想に触れて、数学者を志します。しかし、数学者となってからは、Fermat 予想を封印し、主流数学の研究を行っていました。

ところが、フライ・セール予想の解決によって、Fermat 予想は一気に主流数学の一大予想の系となったことに衝撃を受けたワイルズは、他の研究を全て中止し、谷山・志村予想の解決に全力を注ぐこととなります。

あらゆる努力と苦心の結果、ついにワイルズは、1994 年 10 月に谷山・志村予想の部分的解決*3に成功します。かくして、1670 年に発覚した Fermat の人騒がせは、多くの数学者を巻き込みながら、実に 364 年という長い年月を経て、ようやく終結したのです。

結局、Fermat が見つけたという「驚くべき証明方法」とは、以前紹介した無限降下法のことであり、これは n = 3 , 4 のときにしか用いることが出来ないため、Fermat の勘違いであった、とする説が有力になっています。

このときワイルズ 41 歳。残念ながらフィールズ賞の獲得はなりませんでしたが、その功績が讃えられ、1998 年に ICM から異例の特別賞が送られました。

新証明 !?

ところが、ようやく解決したと思われた Fermat 予想(最終定理)に、一石を投じる(?)本が、昨年出版されました。

この本に書かれていることは、正しいとは限りません(著者自身もそう言っています)。この本はあくまで、著者自身が考えた Fermat の最終定理の別証明法を、広く一般の読者に検証して欲しい、という目的で出版されたそうです。一度は解決を見た問題ではありますが、興味があってそれなりに必要な知識をお持ちの方は、ぜひ一読をお勧めします。

尚、今回の記事を書くに当たって参考とした図書もあわせて紹介しておきます。

フェルマ予想入門 (数学選書)

フェルマ予想入門 (数学選書)

[]Fermat の最終定理に挑む(番外編) 05:03

これまでは整数のお話でしたが、整数の代わりに適当な環 R を持ってきて、

x^n+y^n=z^n,x,y,z¥in R

なる「非自明」な解はあるのか ? というお話を少ししたいと思います。

行列の場合

R=M_2(¥mathbb{Z}) として、

X^n+Y^n=Z^n

で、X,Y,Z の行列式が 0 でないものを「非自明な解」ということにします。すると、これは n が奇数の場合に以下のような非自明解を持ちます。

  • n¥equiv 3¥pmod{4} のとき X=¥begin{pmatrix}-1&-1¥¥0&1¥end{pmatrix},Y=¥begin{pmatrix}-1&-2¥¥1&1¥end{pmatrix},Z=¥begin{pmatrix}-2&-3¥¥1&2¥end{pmatrix}
  • n¥equiv 1¥pmod{4} のとき X=¥begin{pmatrix}-3&-5¥¥2&3¥end{pmatrix},Y=¥begin{pmatrix}1&2¥¥-1&-1¥end{pmatrix},Z=¥begin{pmatrix}-2&-3¥¥1&2¥end{pmatrix}

この例はバーネット(Barnett)とワイトカンプ(Weitkamp)によるものです。一方、n¥equiv 2¥pmod{4} のときは

X=¥begin{pmatrix}n&n¥¥-n&n¥end{pmatrix},Y=¥begin{pmatrix}n&0¥¥s&n¥end{pmatrix},Z=¥begin{pmatrix}n&s¥¥0&n¥end{pmatrix}

なる非自明解があります。ただし n=4m+2 とおくとき s=(-1)^m2^{2m+1} です。この非自明解を用いると n が奇数のとき (X^2,Y^2,Z^2) が非自明解になっていることも分かります。問題は n が 4 の倍数のときですが、n = 4 のときは

X=¥begin{pmatrix}0&2mn¥¥1&0¥end{pmatrix},Y=¥begin{pmatrix}0&m^2-n^2¥¥1&0¥end{pmatrix},Z=¥begin{pmatrix}0&m^2+n^2¥¥1&0¥end{pmatrix}

(ただし mn(m^2-n^2)¥neq 0)

が非自明解です。これはドミアティ(Domiaty)によるものですが、この他に

X=¥begin{pmatrix}0&1¥¥-2&1¥end{pmatrix},Y=¥begin{pmatrix}1&-1¥¥2&0¥end{pmatrix},Z=¥begin{pmatrix}1&0¥¥0&1¥end{pmatrix}

も n = 4 に対する非自明解の例になっています。

n = 8 の時には、何とこんな非自明解があります。

X=¥begin{pmatrix}0&-424830¥¥6797280&849660¥end{pmatrix},Y=¥begin{pmatrix}849660&-160118¥¥0&1699320¥end{pmatrix},¥¥Z=¥begin{pmatrix}-182070&173655¥¥-14444220&1881390¥end{pmatrix}

多項式の場合

R=¥mathbb{C}¥[x¥] として

F(x)^n+G(x)^n=H(x)^n … (*)

で、¥alpha^n+¥beta^n=¥gamma^n を満たす複素数を用いて

F(x)=¥alpha K(x),G(x)=¥beta K(x),H(x)=¥gamma K(x),K(x)¥in¥mathbb{C}¥[x¥]

と書けるものを「自明な解」とし、そうでないものを「非自明な解」とします。すると、(*) は n が 2 以上の自然数のときは何と非自明な解を持たないことが証明できます。

実際に (*) に非自明な解があったとしましょう。そのようなものの中で、

r=¥max¥{¥deg F(x),¥deg G(x),¥deg H(x)¥}

が最小となるものを選んでおきます。もちろん r>0 でないといけないはずです。

このとき、F(x)H(x) は互いに素です。なぜならもしある既約多項式 K(x)K(x)|F(x),K(x)|H(x) を満たすなら K(x)|G(x)^n となるので K(x)|G(x) であり、(¥frac{F(x)}{K(x)},¥frac{G(x)}{K(x)},¥frac{H(x)}{K(x)}) なる新しい非自明解を得ますが

¥max¥{¥deg¥frac{F(x)}{K(x)},¥deg¥frac{G(x)}{K(x)},¥deg¥frac{H(x)}{K(x)}¥}=r-¥deg K(x)

なので仮定に反します。さて (*) から

¥prod_{j=0}^{n-1}(H(x)-¥zeta^jF(x))=G(x)^n

です。ただし ¥zeta=e^{¥frac{2¥pi i}{n}} は 1 の原始 n 乗根。

この式の左辺の因子は、どの二つも互いに素です。もし H(x)-¥zeta^jF(x)H(x)-¥zeta^kF(x) が共通の因子 K(x) を持てば

F(x)=¥frac{1}{¥zeta^k-¥zeta^j}¥{(H(x)-¥zeta^jF(x))-(H(x)-¥zeta^kF(x))¥}

H(x)=¥frac{1}{¥zeta^k-¥zeta^j}¥{¥zeta^k(H(x)-¥zeta^jF(x))-¥zeta^j(H(x)-¥zeta^kF(x))¥}

が共通因子 K(x) を持つので矛盾。

従って各 j に対して

H(x)-¥zeta^jF(x)=G_j(x)^n

となる多項式 G_j(x) が存在します。

¥zeta=¥alpha^n,¥zeta+1=¥beta^n となる複素数 ¥alpha,¥beta を用いて

F_1(x)=¥alpha G_0(x),H_1(x)=¥beta G_1(x)

とおくと

¥begin{align}F_1(x)^n+G_2(x)^n&=¥zeta(H(x)-F(x))+H(x)-¥zeta^2F(x)¥¥&=(1+¥zeta)(H(x)-¥zeta F(x))¥¥&=H_1(x)^n¥end{align}

となるので、新しい非自明解 (F_1(x),G_2(x),H_1(x)) を得ます。ところがその作り方から

¥max¥{¥deg F_1(x),¥deg G_2(x),¥deg H_1(x)¥}¥leq¥frac{r}{n}<r

となるので最初の仮定に矛盾してしまいます。故に (*) は非自明解を持たないことが分かります。

*1ルベーグ積分論を打ち立てたルベーグとは別人です。

*2:より厳密には、拡大 ¥mathbb{Q}(¥rho)/¥mathbb{Q} の中間体を円分体と言います。

*3:この部分こそ、Fermat 予想の解決にちょうど必要な部分でした。

山田正治山田正治 2006/10/17 16:20 小著をまじめに取り上げてくださって、有難うございます.
この本を出版してから疑問に思った事は、非縮退と第1縮退で純平方剰余型の場合の取り扱いが、あまりにも無造作な事です.これを指摘した人は私以外、ただ一人だけいました.
結局、正しい命題とそれらの証明は見つかりましたが、ヒントになったのは次の事実です.
小著の34ページにpはウイーへリヒ素数に一致とありますが、もっと掘り下げる事ができます.それは(-2)がpを法として平方非剰余になるこをを数値計算で確かめる事ができるからです.この二つを組み合わせると、次が得られます.
(-2)の((p-1)/2)乗に1を加えると、pの2乗で割り切れる.
赤猫様              山田正治

redcat_mathredcat_math 2006/10/17 18:18 ご本人からコメントをいただけるとは光栄の極みです。
読み進める際の参考とさせていただきたいと思います