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2009-08-10

「交通事故はなぜなくならないか リスク行動の心理学」

| 00:54 | 「交通事故はなぜなくならないか リスク行動の心理学」を含むブックマーク 「交通事故はなぜなくならないか リスク行動の心理学」のブックマークコメント

「交通事故はなぜなくならないか リスク行動の心理学」 ジェラルド・J・S・ワイルド著 芳賀 繁訳 新曜社

コンピュータセキュリティを交通安全に例えて説明することが多いので、何かヒントになるものが無いかと期待しつつ購入した本。

リスク・ホメオスタシス理論をベースにリスク行動の心理学から交通事故などのリスクがなぜなくならないかを解説している。

リスク・ホメオスタシス理論は、どのような活動であれ、人々がその活動(交通、労働、飲食、服薬、娯楽、恋愛、運動、その他)から得られるだろうと期待する利益と引き替えに、自身の健康、安全、その他の価値を損ねるリスクの主観的な推定値をある水準まで受容すると主張する。

ホメオスタシス=絶え間ない変化の中で平衡状態を保つこと(サーモスタットなどが一例)

人はリスクを取り除くと受容できるリスクと感知(推測)されるリスクの差を比較し、両者の差をゼロにしようと努力する。

つまり、感知されるリスクを取り除く/減らすと、その分受容できるリスクが大きくなるので、交通事故に当てはめると、自動車の安全性や道路の安全性を高めるとその分スピードを上げたり危険な運転をする傾向が強くなって、事故件数は変わらないという話。

人々は健康・安全対策の施行に反応して行動を変えるが、その対策によって人々が自発的に引き受けるリスク量を変えたいと思わせることが出来ない限り、行動の危険度は変化しない。

河口に三角州を持つ川がある。三角州には3本の水路があり、どれも同じ川幅である。ならば、そのうち2本の水路を堰き止めれば、海に注ぐ水量は3分の1になる、という事はあり得ず、川の水路を3本とも堰き止めれば、単に4番目の水路が出来るだけだ。

このため対策としては、予防の動機づけアプローチを提示している。

  • 慎重な行動によって感じられる利益を増やす(戦術A)
  • 慎重な行動によって感じられるコストを減らす(戦術B)
  • 危険な行動によって感じられるコストを増やす(戦術C)
  • 危険な行動によって感じられる利益を減らす(戦術D)

事例:年間無事故へのインセンティブ、罰則の強化、懲罰的インセンティブ(事故を起こすと研修や経済的に不利益になる、など)

ただし、下手にインセンティブプログラムを導入すると、ドライバーの運転が余計悪化したケースもあるなど、単にインセンティブだけを与えるのは良くない結果をもたらす。

<効果的なインセンティブ・プログラムの要件>

  • 経営者の熱意
  • 結果を評価する
  • 報酬の魅力
  • 累進的な安全特典(1年無事故報酬より10年無事故報酬の方が10倍以上の利益があるなど)
  • 単純なルール(理解しやすいこと)
  • 公平感(運、不運による部分もあるので、付加的な要件を加えても良い)
  • 達成できると感じる(目標である)こと
  • 短い評価期間
  • 個人の成果と同様にグループも評価する
  • プログラムの設計に対象者が参加する
  • 事故の過小報告を防ぐ(インセンティブプログラムの弱点であり、効果的な対策は今のところ無い?)
  • 組織の全ての改装を評価する(全員参加、経営層も対象)
  • 安全訓練に補助的報酬をつけるかどうか
  • 最終的な節約分を最大化するか、利益/費用比を最大化するか
  • 研究・調査の側面(インセンティブプログラムを始めるに当たって、短期と長期の成否の可能性とその最良の形態について、事前に検討すること、また、実行のための費用と事故率の削減効果に対する科学的に適切な評価を行う用意も必要である)*1

現在の交通事故に関する統計情報は、前提や原因が正しく分析されていることを確認する方法が無いため、本当に事故対策によって効果が上がったのかを示しているとは言い切れない(逆に言えば、リスク・ホメオスタシス理論を裏付ける統計データも存在していない)、また、変数は実験室に持ち込むと必ず変化するため、正しいデータを取る手法がまだ無い、と言っている。

このため、リスク・ホメオスタシス理論は感覚的、経験的には理解できるが、実際の統計データによる裏付けが提示できていないのが本書全体を通して残念なところである。

でも、サーモスタットの例えは分かりやすい。

*1:そう簡単に評価できないから苦労しているのでは?とも思うが。

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