IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

ユーザの信義則上の協力義務 東京地判平9.9.24判タ967-168

プロジェクト管理義務・協力義務について言及されたかなり初期の判例

事案の概要

H2.12.27に,システム開発ベンダXと,図書教材販売会社Yとは,入金照合処理のシステムを代金741万円(消費税別)で,納期をH3.3とし,XからYに売り渡す旨の合意がなされた。


しかし,H3.3までにXは,Yとの間でプログラム開発の打ち合わせをしなかった。Xは,Yに,H3.4に打合せをして,6月末までに開発する旨の提案をしたところ,Yは,これを拒絶した。


結局,H3.8.27にXからYにシステムを納入したが,Yは,データ登録作業の魅了,納期遅延,不具合の存在などを理由に代金を支払わなかったため,代金支払い請求の訴訟を提起した。

ここで取り上げる争点

(1)作業の遅滞の責任

(2)納入物の瑕疵の有無

裁判所の判断

遅延したことは客観的に明らかだが,その責任論(争点(1))について,裁判所は次のように述べた。

おもうに、Xは、コンピューター関係の専門企業として、顧客であるYから提供された資料及び聴取等の結果に基き、本件システムの導入目的に適合したプログラムを作成すべき信義則上の義務を負担するものといえる。

ところが、右1で認定した事実によれば、四月が教材会社であるYにとって最も多忙な時期であるため、プログラム作成のための打ち合わせをそれまでに終了させておくべき必要性があったにもかかわらず、これを行わなかったXには非があるものといえる。

しかしながら、Yの主張どおり、平成四年四月に旧システムから本件システムへの切り替えが予定されていたとするならば、Yも一つの企業体として事業を行い、その事業のために本件システムを導入する以上、自らも、積極的にXとの打ち合わせに応じ、平成四年四月の本件システムへの切り替えにむけてXに協力すべき信義則上の義務を負担しているものといえる。

とした上,Yにおいて

平成三年四月以降のY代表者のXに対する対応(特に、登録作業の不実施)は、必ずしも好ましいものとはいえず、このことが、本件システムの本稼働へむけてのスケジュールを遅滞させた一因となっていることは否定できないのであるから、仮に、Yが主張するように、平成四年四月の本件システムへの切り替えが不可能な事態となっていたとしても、そのことを理由として本件システムについての契約を解除することは認められないものといえる。

不誠実な態度があったとして,Yによる契約解除を認めなかった。


争点(2)については,

たしかに、(略)本件システムに登録されたソフトについて、
(1)業務ソフトにつき伝票条件入力処理に際して正当な日付を登録しても日付エラーによりはじかれてしまう、
(2)入金伝票入力につき、入金総額を誤って過大に入力し、画面に表示されている金額との整合性がなくなった場合でも、これをチェックする機能が存在しない、
(3)入力情報の訂正作業を行って数字を書き換えても、再計算がなされず、訂正前の数字のままで計算されてしまう、
(4)入金伝票プルーフリストについて、意味不明の日付が表示される、
(5)得意先管理表について、日次更新をして、当日の締め業務を行い、得意先別の売上を出しても、合算されないものが出てくる、
(6)日次更新処理機能について、業務中断のために、画面上の操作説明に従ってキーを押しても、中断されず、続行されてしまう等の不具合が存在することが認められる。

しかしながら、証人Aの証言によれば、本件システムのソフトは、作成途上のものであるものの、右1の不具合を解消するのには、約二週間程度を要することが認められ、比較的容易に修復可能な不具合といえることから、右不具合をもって本件システムについての契約を解除することはできないものといえる。

として,瑕疵の存在を認めつつも,契約の目的を達することができない程度ではないとして,解除を認めず,Xの請求が全額認容された。

若干のコメント

スルガ銀行vs日本IBM事件でも争点となっている「プロジェクト管理義務」「協力義務」という用語は使われていないものの,この当時においてすでにシステム開発契約(本件では売買契約と認定されているが)においては,ユーザの協力も必要であるという認識であり,協力不十分なために遅延した場合には契約の解除権が生じないという判断がなされています。