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IT・システム判例メモ

2015-11-19

ユーザ事情による解除 東京地判平27.3.24(平24ワ6128)

システム開発プロジェクトが頓挫したが,その原因がユーザ側の事情によるものであるとして,ユーザの損害賠償義務が認められた事例。


事案の概要


Yは,総合通販用の基幹システムの刷新を目的として,平成22年8月9日に,ベンダXに対し,要件定義を委託した(本件個別契約1。委託料1億4550万円)。Xはシステムフロー設計書等を納品し,YからXに上記委託料が支払われた。


同年11月1日には,XY間で,本件基本契約が締結された。その内容は,本件業務(要件定義作成支援,外部設計書作成業務,ソフトウェア開発業務,ソフトウェア運用準備,移行支援業務から構成される。)をXに委託すること,開発を3フェーズに分けて,フェーズごとに個別契約を締結すること,本件業務の対価の上限を約13億とすることなどが定められていた。本件基本契約締結時点において,第1フェーズはすでに終了しているという位置づけだった。


同日,XY間で第2フェーズを対象とする本件個別契約2が締結された。その内容は,外部設計書作成業務からソフトウェア開発業務であり,委託料は約2億3000万とされた。Xは,詳細設計書等の成果物を納入し,Yから,Xに対し,ハードウェア設置費用等を含めて,約2億4000万円が支払われた。


平成23年4月25日には,XY間で第3フェーズを対象とする本件個別契約3が締結された。その内容は,ソフトウェア開発業務,ソフトウェア運用準備,移行支援業務であり,委託料は合計約8億5500万円とされた。契約形態は,ソフトウェア開発業務が請負,ソフトウェア運用準備,移行支援業務は準委任とされた。委託料は,検収終了時に一括して支払うとしつつ,前渡金として毎月支払う方式が採用された。


YからXに対し,同年10月までに,前渡金として合計約4億5000万円が支払われたが,その後は,Yは前渡金の支払いを拒絶した。


その後のXY間の交渉過程で,Y担当者からXに対し,Yの代表者を説得するためという理由で「確認書」へのサインが求められ,X代表者は確認書にサインした。その後,Y代表者は,X代表者に対し,確認書に新たな条件が付した「新確認書」へのサインを求めたが,X代表者は,Xの担当外となっていたシステムの影響を受ける内容が含まれていたため,これを拒絶した。その後も,XY間で交渉が持たれたが,プロジェクトの継続について合意が得られなかった。


Yは,同年12月28日に,Xに対し,「貴社に開発を委託しておりました当社新基幹システムの開発委託契約については,本年2011年12月末日をもって終了することになりましたので,その開発を終了していただきますようお願い申し上げます。」という文書(本件通知)を送付した。


その後,平成24年3月8日には,YからXに,別途民法541条(履行遅滞)に基づく解除通知を送付した。


Xは,Yに対し,注文者であるYが一方的に開発契約を解除させたとして,民法641条または536条2項に基づいて委託料の残額等,合計で約4億8200万円を請求したのに対し(本訴請求),YはXに対し,期限までに成果物を納品しなかった等として,債務不履行に基づく損害賠償等合計約17億円のうち,4億5000万円の支払い(反訴請求)を求めた。

ここで取り上げる争点


(1)本件通知により開発委託契約は解除されたか
(2)Xに債務不履行はあるか
(3)損害の額

裁判所の判断


争点(1)「本件通知により開発委託契約は解除されたか」について

Y代表者が自ら主導して開始した本件システム開発の終了を希望したのに対し,Xはその続行を希望し,(略)また,平成23年12月27日の面談の際におけるY代表者の言動から,契約の続行を断念し,未払となっている平成23年11月分及び12月分の委託料及び契約済みの下請代金等の支払については別途協議することとしてYに解除通知を求め,それに応じてYが同年12月28日付けの契約を終了させる旨の本件通知を発出したのであるから,本件個別契約3は,Yの本件通知によって解除されたと認められる。

Yは,本件通知は合意解約の申込み又は平成23年12月27日に成立した合意解約の事実を確認するものにすぎないと主張する。確かに,本件通知の文面上は合意解約が成立したかのような表現ぶりになっているが,合意解約が成立したのであれば,合意書を作成すればよく,XがYに解除通知の発出を求める必要はないし,清算の合意を留保したまま解除についてのみ合意するのも不自然である


上記のとおり,本件通知は,YからXに対する解除通知であることが認められた。


争点(2)Xに債務不履行はあるか


Xは,本件通知は,民法641条(注文者による請負契約の解除)に基づく解除通知であるから,Yは損害賠償責任を負うと主張したのに対し,Yは,Xに債務不履行があったのであるから,本件通知は,民法541条(履行遅滞による解除)に基づく解除通知であると主張していた。


Yは,Xの債務不履行として,(a)Xが,Yの了解を得ることなく,パッケージベースの開発からスクラッチ開発へと方針を変更したこと,(b)Xにはシステム開発に係る経験や能力が十分ではないこと,(c)成果物には多数の未納や遅延,不備があることを主張していた。


裁判所は,(a)(b)については,いずれも否定し,(c)についても下記のように述べて否定した。

同「インターフェース一覧」については,Yの分担に係る外部インターフェース仕様整理がされていないために未納であること,(略)同「システム/データ移行設計書」については,Xがチケット#996で移行作業方針及び移行処理方式の確認を求めたのに対し,Yの回答がないために作成できなかったこと,(略)同「DR環境」については,DR環境構築がYの都合で延伸されたため未納となっていることが認められる。

上記前提事実によれば,Yが未納と主張する成果物は,納品されているか,又は未納となっていることについてXには帰責事由はないと言わざるを得ない。また,各フェーズにおいて,納期に遅れて納品された成果物があることがうかがわれるが,証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,各フェーズにおける個別の成果物の納品の遅滞は,主にYによる情報提供等の遅れやXの受注範囲外のWMS及び商品企画システムの仕様確定の遅れ等に起因するものであって,Xには帰責事由がないと認められる。


そして,裁判所は次のように述べて,Xの債務不履行を否定した。

以上によれば,Xに債務不履行があるということはできない。したがって,Xが平成23年12月末日以降本件システム開発を継続したとしても,Yが最終成果物を検収することができなかったことが明らかであったということもできない。

そうすると,Yによる本件個別契約3の解除が債務不履行に基づく解除として有効であるということはできないのであり,Yは民法641条の規定に基づく損害賠償債務を免れない。



争点(3)損害の額

Yは,Xに債務不履行がないにもかかわらず,本件個別契約3を解除したのであるから,それによってXに生じた損害を賠償しなければならない(民法641条)。ところで,Yは,ソフトウェア運用準備・移行支援業務に関する部分は準委任契約であると主張する。確かに,本件個別契約3に係る契約書上,契約類型として,わざわざソフトウェア開発業務は請負形態,ソフトウェア運用準備・移行支援業務は準委任形態と記載されている。しかし,委託料は一括して8億5499万9000円としか記載されていないのであって,上記二つの業務は密接不可分の関係にあるものとして一個の契約として締結されているものと認められる。そうすると,Yは,民法641条に基づいてソフトウェア運用準備・移行支援業務を含む本件個別契約3を解除できるというべきであり,この解除によって請負人たるXに生じた損害を賠償すべきである。なお,仮にソフトウェア運用準備・移行支援業務に係る部分は,民法651条1項による解除であったとみるとしても,Yは民法651条2項ないし民法536条2項により委託料相当額を損害賠償又は反対給付としてXに支払わなければならない。


としたうえで,損害の額は,委託料(8億5499万9000円)から,支払済みの委託料と支払いを免れた外注費,未発注のハードウェア費用を控除した合計3億4050万円とされた。


Yは,Xの過失による過失相殺規定の類推適用を主張したが,これも退けられた。

若干のコメント


比較的大規模の開発プロジェクトが途中で頓挫したという事案において,本件のようにユーザの非が全面的に認められたのは比較的珍しいと思われます。


本件固有の特徴として,強硬な態度を取っていたユーザの代表者*1の対応に苦慮したYの従業員や監査役が,Xに配慮していたという事情が残っていた点があげられます。本件通知が送られた後には,Yの監査役が,Y代表者に対して,「不信感を持たざるを得ませんでした」などと述べて監査役を辞任する旨のメールを送っていたようであり,ユーザ内部も一枚岩ではなかったことがうかがえます。


それはさておき,ベンダにおいて,スケジュールをすべて完璧に遵守し,納品物に一切の欠落,不備もないという状況を作り出すことは不可能です。本件でもユーザから多数の不備の主張がありましたが,判決においては,欠落,遅滞,不備一つ一つにおいてユーザ側に理由があるということが認定されました。ベンダのプロジェクトマネジメント責任が重く認定される事例がある中で,ベンダが欠落,遅滞,不備の理由が一つ一つ立証できたことは大きいと思われます。

*1:事実認定の中で,Y代表者からX代表者に,「裏でこそこそと,疑心暗鬼をしているようですね。」「貴方は,私の気持ちを理解できないどうしようもない人たちです。」「もう君たちツラは見たくありません。」などといったメールが送られたことが示されている。

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