IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

リアルアフィリエイト成果報酬 東京地判平27.3.17(平26ワ9468)

リアルアフィリエイト報酬の請求可否が問題となった事例。

事案の概要

ネット広告代理業者であるXは,スマホアプリbの運営事業者Yとの間で,業務開始日を平成24年12月1日とする成果報酬型広告に係る契約を締結した(基本契約と個別契約から構成されており,これらを合わせて「本件契約」という。)。


本件契約に基づく成果報酬は,飲食店等に来店した顧客に対し,スタッフが会員登録等の誘導を行い,会員登録した件数に応じて(1件3000円。後に交渉により2000円に減額)支払われることとなっていた(このように,リアル店舗での成果に応じた広告を「リアルアフィリエイト」と呼んでいた。)。


Xは,本件契約に基づいて,飲食店等に営業し,来店する顧客に対してスマホアプリbの有料会員となるよう誘導するよう求めた。


Xは,より多くの顧客が有料会員となるようにするため,キャッシュバックや景品の付与などのインセンティブを付与して業務開始から1か月間で約2700名の会員を集めたとして合計で約670万円の報酬を請求したが,Yはインセンティブを付与することによって会員獲得することは予定されていなかったなどとして,支払を拒んだ。

ここで取り上げる争点

掲載料(成果報酬)請求の可否

裁判所の判断

Yは,インセンティブを付与することによって会員獲得するということについては説明を受けておらず,合意もしていないと主張した。この点に関し,裁判所は次のように述べた。

リアルアフィリエイトを実施する際に顧客に対してインセンティブを付与する場合には,広告主のサービス自体には関心を示さない顧客が比較的容易に会員登録する可能性があり,そのために広告業者の報酬もインセンティブを付与しない場合に比べて低額とされることもある。他方で,リアルアフィリエイトの実施にあたり,個別の店舗の担当者が顧客を会員登録に誘導するための具体的な方法は,当該店舗の担当者にゆだねられている実情にあるというべきであり,契約当事者間において,明示的に顧客に対する特定のインセンティブを付与するか否かの合意をしない限りは,飽くまでもリアルアフィリエイトの実情を前提とした合意をしたものといわざるを得ない。

Yは,個別契約1を締結するに当たり,Xとの間で,顧客に対してインセンティブを付与しないことの合意をした旨主張するが,少なくとも契約当時,明示的にそのような合意をしたことを認めるに足りる証拠はない。YがXに対してリアルアフィリエイトの停止を求めた平成24年12月4日の時点においても,Y告の主たる関心は,報酬額の多寡にあったものといえ,インセンティブの付与の有無を問題にしていたということはできない。

Yは,同月15日ころ以後,Xに対し,インセンティブの付与の有無を尋ね,Xにおいて付与していないとの回答をした経緯は上記のとおりであるが,その回答は,XとXが依頼した広告代理店又は個別の店舗とが,契約の際に,インセンティブの付与について明示の合意をせず,当該店舗の担当者の裁量にゆだねられていたことの表れと理解することができる。Xが,Yに対してインセンティブを付与していないという回答をした事実があることをもって,XとYとの間で個別契約1の締結の際にインセンティブを付与しないことの合意があったということはできない。ほかにYの主張を認めるに足りる的確な証拠はない。

以上のとおり,インセンティブの付与を問題とする合意はなかったのであるから,合意どおり(1人あたり3000円,途中から2000円)の割合によって算出された掲載料の支払は免れないとした。

若干のコメント

(その他の争点はあるにせよ)裁判所は,インセンティブ付与の可否に関する合意がなかったとして,合意が認められる範囲で会員獲得件数あたりの対価の支払いを認めました。確かに,エンドユーザにとって関心のないサービスであっても,インセンティブ(キャッシュバック等)目的で会員登録することがあり,そういう場合には,成果報酬は低額に定められがちであるということは裁判所も認めています(実際に,このような手法によって獲得された会員のARPU(ユーザ1人あたりの売上)が低いとされています。)。


とはいえ,裁判所は,1人あたり3000円という成果報酬が業界としてみた場合に不相応であるとか,インセンティブ付与を認めない場合の単価であるかどうかは判断することはできません。結果的にほぼ合意どおりの請求を認めました。広告手法は日々進化・進歩していることから,発注者側も業界慣習,手法,単価等についての理解が求められます。