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IT・システム判例メモ

2014-02-01

ホームページ記載内容の証拠提出 知財高判平22.6.29(平22行ケ10081)

ホームページの情報の証拠の信用性に関して言及された裁判例。当該部分に限定して紹介する。


事案の概要


YがXの商標768139号(本件商標)について商標登録取消審判(不使用。商標50条1項)を請求し,取消審決が出された(取消2008-301078)。Xは当該審決に対し,審決取消請求訴訟を提起した。


Xは,本件商標を使用しなかったことについて正当な理由がある(商標50条2項但書)と主張していた*1。正当な理由の一つとして,Yが「本件商標はYが所有している」などの虚偽事実をYのホームページに掲載し,Xの営業活動妨害行為をしていたというものがある。

ここで取り上げる争点


Yによる営業妨害行為の証拠として提出されたYのホームページをプリントアウトした書証の信用性


※その他の取消事由,争点については割愛する。

裁判所の判断


Xが提出した上記証拠(甲第47号証―Yのホームページ)について,次のように述べた。

「file://C:\DOCUMẼ1\AE9E3̃1.KAR\LOCALS̃1\Temp\4LVDJ3A8.htm」(甲47左下欄)の記載からすると,それがインターネットのURLであると認めることはできず,むしろ前半部の「file://C:\DOCUMẼ」の記載からすれば,特定のコンピュータに記録されたホームページのデータであるものと推認される。この点について,原告は,当時の代理人弁護士がホームページを瑕疵なくプリントアウトするため,自己のパソコンのプリント・スクリーンに一度取り込んでから印刷したものであると主張する。しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,インターネットのホームページを裁判の証拠として提出する場合には,欄外のURLがそのホームページの特定事項として重要な記載であることは訴訟実務関係者にとって常識的な事項であるから,原告の前記主張は,不自然であり,たやすく採用することができない。


その結果,Yによる営業妨害行為は認定されず,取消事由はいずれも理由がなしとされ,棄却された。

若干のコメント


ウェブサイトの内容を印刷して証拠として提出するケースは少なくないです。書籍などの公刊物と違って,その内容が変遷しやすいことから,適切に保全して提出する必要があります。そもそも,ウェブサイトの内容を証拠として提出する場合には,情報を出力した紙を原本として提出するという新書証説が有力のようですが(このあたりは記憶頼りなので,自信がなく),「誰が」「いつ」「どのウェブサイトを」「どうやって」出力したのかは明らかにしておかねばならず,訴訟の途中で信用できない,とされても,その後,同一のものが入手できなくなります。


とはいえ,少なくとも裁判所においては,

インターネットのホームページを裁判の証拠として提出する場合には,欄外のURLがそのホームページの特定事項として重要な記載であることは訴訟実務関係者にとって常識的な事項である

とされているので,通常の場合には変な小細工をせず,デフォルトの機能で印刷するのがよいでしょう。

*1:商標50条2項では,不使用取消審判請求があった場合において,3年以内に当該商標の使用を被請求人が証明しないと取消になるとしつつ,但書で,使用していないことに正当な理由がある場合は「この限りではない」として,取消をまぬかれることとしている。この正当な理由は,「生産準備中に天災地変等によって工場等が損害した場合」など,極めて限定される。

2010-01-11

従業員による競合会社の設立等 東京地判平21.1.19判時2049-135

従業員の負う競業避止義務と,派遣における経歴の詐称が争われた事件


事案の概要


SIベンダXの従業員Yは,Xの顧客である会社A向けシステム開発のプロジェクトリーダーの地位にあったが,自ら会社Zを設立し,代表取締役に就任した。そして,Zは,Aからシステムのメンテナンス業務等を継続的に受注していた(取引1)。なお,Xのエンジニアの単価が人月200万円程度であったのに対し,Zのそれについては人月100万円程度であった。


また,Xと会社Bは,労働者派遣契約を締結し,XはCを派遣労働者として受け入れ,派遣料として合計約900万円(月額63万円)をBに支払った(取引2)。Xへの派遣が行われる際,Cのスキル表のうち,Javaの項目には「基礎研修終了レベル」とあったが,実際にはまったくの初心者であり,Xで行われた業務も庶務作業で,プログラミングは行われなかった。なお,Cは,もともとZからBに対して派遣されたものであって,XからBに支払われた派遣報酬も大部分はZに流れた。

ここで取り上げる争点

(1)取引1に関して,Yによる競業避止義務違反の有無と,Xに生じた損害額
(2)取引2に関して,Yによる詐欺の成否と,Xに生じた損害額

裁判所の判断


(1) について。


この点については,YがXの従業員の地位にありながら,同業会社の代表に就任し,事業活動を行っていたことから,XY間の労働契約上の競業避止義務に違反していることをあっさりと認めた。


しかしながら,

  • Xエンジニアの単価が200万円であったのに対し,Zは100万円程度で大きな違いがあったこと
  • Aの方針として,小規模な改修や機能追加については,X以外の安価なソフトハウスに発注していたこと
  • Xの役員と,Aの役員が参加する月例会議において,Xから異議が出されたり,取引1に関する特段の営業活動が行われたりしていないこと

から,Xが「単価の低いメンテナンス業務を受注しようとしたと考えることは困難である」として,Zが受注したことによって,Xに機会損失が生じたわけではない,とした。


すなわち,取引1について,確かにYの競業避止義務違反はあるが,それによってXに損害が生じたわけではないので,損害賠償義務を負わないと判断した。


(2)について


取引2については,

  • Xにおいては,庶務担当の派遣と,エンジニアの派遣とでは,採用部門が異なること
  • Yは,エンジニアの派遣採用部門に申請したこと
  • 申請書には,システム設計要員が不足しているために派遣の増員が必要である旨が書かれていたこと
  • 実際にCは,電話応対などの庶務業務を行い,プログラミング等は行っていないこと


から,詐欺による不法行為の成立を認めた。


次に,損害の点については,「Cの派遣報酬として支払われた額約900万円全額」が損害となるのか,「庶務担当の標準的な派遣報酬(月額30万円)との差額」が損害となるのかが争われたが,Yによる詐欺行為がなければXは派遣に応じなかったであろうから,全額が損害であるとした。


さらに,Xは,Cの派遣報酬相当額も顧客であるAへの委託報酬に含めているから,全額を損害として認めたのでは,かえってXに利益が生じるという反論もあったが,この点も認めなかった。

若干のコメント


本判決は,特に法的に注目される判断が行われたわけではないが,この業界でしばしば起こりうる「副業」「派遣の経歴詐称」に対する判断が行われたということで取り上げた。前者については,副業が労働契約違反であると認めたにもかかわらず,会社の利益を侵していないということで,損害を認めず,逆に後者については,現に派遣労働者は相当の仕事をしていたにもかかわらず,支払われた派遣報酬の全額を損害と認めたという点が参考になる。


SI会社やコンサルティング会社では,特定の顧客と長期間の関係が構築されると,会社が信頼されるというより,当該担当者の信頼性が上がる。その担当者からすると,「会社を通じて搾取されるより,自分に直接発注してもらったほうが儲かる」という考えを起こしがちだ。その場合には,競業避止義務違反(退職後も一定期間は義務を負う)に問われ,損害賠償責任を負う可能性があり,慎重な判断が必要である。