Hatena::ブログ(Diary)

Footprints このページをアンテナに追加 RSSフィード

2016-10-27

不正対局問題

| 00:28

私が将棋に関心を持ってから8年くらい経つが,かつてないほど将棋界が揺れている。


竜王戦の挑戦権を獲得した三浦九段が,対局中にスマホを操作するなどして将棋ソフトを利用したという不正の疑いがかけられ,挑戦権を喪った。


竜王戦は,将棋界の7大タイトルの中でも名人戦と並ぶ最高峰のタイトル。挑戦権を得た三浦九段はA級棋士で,まぎれもないトップ棋士の一人。まさかそんなトップ棋士が不正をするわけがない・・と,将棋ファンに衝撃が走った。


本日,ようやく但木元検事総長を委員長とする第三者委員会が発足して本格的に調査を開始することが公表された段階であり,本当に三浦九段が不正を働いたかどうかは明らかではない。そもそも,調査にも限界があるだろうし,私は,三浦九段が不正を働いていたかどうかにはあまり関心がない(不正をしていたのだとすれば残念だが)。


何より,この一連の騒動における連盟の対応が残念だと感じている。


A級順位戦の敗戦直後に,ソフト指し疑惑を指摘された渡辺竜王が,理事たちに申告したこと自体は特に問題だとは思わない。不正の疑惑があり,その張本人とタイトルを賭けて闘わなければならない状況にあれば,「何とかならないか」と言いたくなるのもわかる。


しかし,そこから連盟の対応は迷走する。


三浦九段が休場届を期限までに出さなかった(しかも設定された期限はわずか24時間後!)という意味不明な理由で,年内を出場停止にし,竜王戦の挑戦者は,挑戦者決定三番勝負の敗者,丸山九段に交代することになった。本当に不正をしているという確信があるのならば,不正行為を理由に処分するべきであるし,不正行為があったのならば,年内出場停止などという温い処分になるはずがない。これでは,まるで疑いをかけられたことを以って処罰する嫌疑刑*1と同じである。


週刊文春によれば,竜王戦の開幕が目前に迫っていて,スポンサーに迷惑をかけられないから迅速に対応せざるをえなかったという事情が窺えるが,誰を向いて行動しているのか疑問を感じる。いい加減な対応をしてスポンサーやファンが離れてしまえば,竜王戦だけでなく将棋界自体の存続が危ぶまれるはず。今年の竜王戦の開幕局を死守することがなんていうのは,これだけの問題の前ではトッププライオリティではなかったはずだ。


まもなく翌年度の竜王戦の予選が始まったりするとはいえ,竜王戦七番勝負の開幕はしばらく延期することができなかったのか。本格的に調査をして,不正の有無を明らかにするのには(少なくとも納得いくだけの情報を収集するには)それほど時間がかからないはずだ。延期するとなれば,ファンへの説明が必要だし,ストレートに「三浦九段に不正の疑いがあるため」と説明しては紛糾してしまうことも予想される。だったら,「竜王戦挑戦者を決定する過程において不正があったとの申立てがあったため,現在調査中」という発表でもよかったのではないか。


連盟は,挑戦者を出場停止処分にした上で,竜王戦七番勝負をスタートさせ,その後,「調査をしない」という方針を出して手じまいにしようとした。ところが,その方針を翻して第三者委員会を発足させて調査するという「手順前後」をしてしまった。確かに,「待った」をしてでもきちんと調査すべきだから,第三者委員会を発足させたことは評価できる。しかし,調査の範囲は,「出場停止処分の妥当性、三浦九段の対局中の行動」とされていることから*2,処分の適法性や不正の有無に及ぶ。そうなると,結果如何によっては,「あれ?なぜ丸山九段が指しているのだ?」ということになりかねない。だったら,今すぐにでも竜王戦七番勝負を中断すべきではないのか(本日は第2局の初日)。もちろん,関係者に迷惑がかかることは避けられない。しかし,将棋界全体の信用にかかわる事項だけに,特定の年のタイトル戦を延期することは許されるのではないか。対局を解説したり,検討したりするプロたちはその点に疑問を感じないのだろうか。


21日には棋士に対する説明会が開かれたようだが,時間切れで十分な討議もできず,棋士たち全員が納得したり,意思統一が図られたようには思えない*3。また,現役棋士たちが本件について何を考えているのか,あまり伝わってこない。上記説明会では,SNSでの情報開示の自粛が求められたようだが,多くの棋士はツイッターアカウントを有しながら,本件については口を噤んでいる。私が知る限り,西尾明,渡辺正和,上野裕和先生らは積極的に発言しているが・・*4 ファンは,沈黙,それ自体がメッセージであると受け取る*5


今回,三浦九段に疑惑がかけられた理由の一つが,ソフトの指し手との一致率だといわれている。しかし,本日の西尾先生のツイートによれば,同じソフトであっても,設定する条件等次第によってソフトの指し手には「ゆらぎ」があることがわかっている*6。つまり,三浦九段がどんなソフトを使っているのかが分かったとしても,指し手の一致率を算定して,それを以って不正の材料とすることには疑問がある。


少なくとも現時点では,直接証拠(三浦九段の自白,あるいは,記録係などの第三者による目撃証言)はなさそうだ。重要な間接証拠(例えば,離席したタイミングでの三浦九段の通信履歴)などもなさそうだ。刑事手続ではないのだから「疑わしきは罰せず」の法理は妥当しないのだ,という意見もあるようだが,本人の名誉,あるいは棋士人生がかかった処分をする際には,慎重な判断が求められることは間違いない。スマホからPCを遠隔操作するアプリの存在を後輩棋士に確認した,とか,頻繁に離席していた,というだけで不正行為を認定することはできないだろう。


3月のライオンがアニメ・映画化され,まもなく聖の青春が上映される。60年以上ぶりに最年少棋士が誕生するという明るいニュースが続いていた将棋界。かつてないほどのブームが来るはずだっただけに,今回の疑惑とそれに対する対応は残念としか言いようがない。


但木委員会には期待している。餅は餅屋。専門家が不正疑惑の調査をすることで事案の究明と適切な事後処理を期待したい。

*1:有罪の証明がなくとも,嫌疑をかけられたことを理由に課される処罰。現代社会においては,およそあり得ない。

*2http://www.shogi.or.jp/news/2016/10/post_1456.html

*3:例えば,田丸九段のブログ http://tamarunoboru.cocolog-nifty.com/blog/2016/10/45-293b.html では,「説明会では、三浦九段を批判する声と同情的な声に分かれましたが、私の実感では後者のほうが多かったと思います。」と述べられている

*4:このエントリを書いてほどなくして渡辺正和棋士のツイッターアカウントが消えるという「事件」があった。かなり過激な発言をしていたとはいえ。

*5:10/28 追記 片上理事のブログによれば,「軽々しく何かを書いて良いような事柄ではない」とする。http://blog.goo.ne.jp/shogi-daichan/e/8c83f6be315cd8962d9fa75b683dece6 その気持ちはわかるのだけれど,棋士全体が優等生過ぎる印象はぬぐい去れない。

*6https://twitter.com/nishio1979/status/791490919509872640 ほか

marukomaruko 2016/10/28 10:50 本当にその通りだと思います。
それがどれだけ困難でも、もう一度最初から(竜王戦も含めて)やり直して欲しいです。

motomoto 2016/10/28 13:02 一将棋ファンです。
ブログを読ませていただいて、今回の騒動でモヤモヤしていたものがすっきりしました。
私は現状ではどちらとも判断したくありませんが、少なくとも将棋連盟の対応には納得できません。

tactlesspapatactlesspapa 2016/10/28 16:58 ご無沙汰してます。第三者委員会に関するガイドラインに準拠した独立性の高い中立的な調査が行われることを期待します。不正の有無に関わらず、処分がなされた時点では処分の妥当性がないことは調査をするまでもなく明らかと思いますので先行してその判断をするような英断がなされるのが理想ではありますが難しいでしょうかね。

アユアユ 2016/10/28 17:07 今回の件が連盟の対応がおかしすぎるのは大前提として、
もし仮にクロだった場合、処分ってどんな根拠に基づいて行うつもりだったんでしょう?
「カンニング禁止!」のようなルールはあったのでしょうか?

redipsredips 2016/10/28 17:17 marukoさま,motoさま
コメントありがとうございます。真実がどこにあるのかはわかりませんが,対応を振り返って「待った」あるいは「負けました」がきちんとできるかが問われていると思います。

redipsredips 2016/10/28 17:21 tactlesspapaさん
ご無沙汰ですね。私も処分当時に処分理由がないことは明らかだと思うので,その点だけでもはっきりさせて竜王戦を中断させるべきだと考えます。

redipsredips 2016/10/28 17:23 アユさま
コメントありがとうございます。処分は,通常は,懲戒規程等に定められた事由に該当しなければできません。「カンニング禁止」はないかもしれませんが,「電子機器使用禁止」あるいは,より包括的な「不正行為」「背信行為」「信用失墜行為」などが定められている可能性が高いので,何かには該当すると思われます。

グンマーグンマー 2016/10/29 02:16 とても分かりやすい解説をいただきありがとうございます。
先生のご意見に賛同いたします。
処分に理由がないことは明らかなのに、連盟は処分前に顧問弁護士等に相談しなかったのでしょうか?法律家に相談していれば、普通はこんな処分を止めるよう連盟を説得するはずと思いまして。

bangkokeelbangkokeel 2016/10/29 11:58 私は将棋ファン歴42年の者です。
今回の連盟の処分は、痛恨の1手バッタリの大悪手だと思います。
何故ならば、決定的な証拠も出さずに三浦不出場を
決めてしまったからです。
そのうちに三浦のPCとスマホの通信履歴のデータ解析が
終了すると思います。
その時に疑惑とされる対局当日に遠隔操作ソフトへのアクセスが
あったのか、どうかが判明すると思います。
アクセスがあったとするデータが明白になれば
三浦のカンニング疑惑はクロで
強制的に引退させられるでしょう。
しかし、通信履歴に対局当日のアクセスの痕跡が
無かった場合は、連盟執行部は総退陣が余儀なく
されると思われます。
それと告発の当事者の渡辺竜王もタイトル剥奪のうえ
棋士引退で永久追放処分が妥当だと考えられます。
調査委員会に元検事総長を呼んで来たのは
そんな「最悪の事態」を避ける為に
玉虫色の判決を出す為なのじゃないのですか?
法曹界に身を置いている人間なら
政治的な玉虫色の解決では
世間の将棋ファンは納得しないと思いますよ。
三浦あるいは渡辺・谷川・島のどちらかが
将棋界から退場する結末でないと
納得しないと思います。

bangkokeelbangkokeel 2016/10/29 11:58 私は将棋ファン歴42年の者です。
今回の連盟の処分は、痛恨の1手バッタリの大悪手だと思います。
何故ならば、決定的な証拠も出さずに三浦不出場を
決めてしまったからです。
そのうちに三浦のPCとスマホの通信履歴のデータ解析が
終了すると思います。
その時に疑惑とされる対局当日に遠隔操作ソフトへのアクセスが
あったのか、どうかが判明すると思います。
アクセスがあったとするデータが明白になれば
三浦のカンニング疑惑はクロで
強制的に引退させられるでしょう。
しかし、通信履歴に対局当日のアクセスの痕跡が
無かった場合は、連盟執行部は総退陣が余儀なく
されると思われます。
それと告発の当事者の渡辺竜王もタイトル剥奪のうえ
棋士引退で永久追放処分が妥当だと考えられます。
調査委員会に元検事総長を呼んで来たのは
そんな「最悪の事態」を避ける為に
玉虫色の判決を出す為なのじゃないのですか?
法曹界に身を置いている人間なら
政治的な玉虫色の解決では
世間の将棋ファンは納得しないと思いますよ。
三浦あるいは渡辺・谷川・島のどちらかが
将棋界から退場する結末でないと
納得しないと思います。

telnarntelnarn 2016/10/29 12:43 今回の連盟の対応は非常に残念なものであったことは、全くの同意見です。
個人的な感想としては、タイトル戦の延期が厳しいのであれば、金属探知機の導入などが決定していた以上、タイトル戦での不正は不可能であるとしてそのまま行うしかなかったと思います。
仮に不正疑惑がすっぱ抜かれたとしても、確たる証拠が出ていない以上、処分には当たらないし、タイトル戦では不正は不可能であると、毅然と対応してほしかったです。
ことがここまで大きくなってしまった以上、理事への責任追及は免れないと思いますが、産経の報道によると、竜王自身が「疑念がある棋士と指すつもりはない。タイトルを剥奪(はくだつ)されても構わない」として強く要望したという話もあり、渡辺竜王への責任追及も話題に上らざるを得ないと言うところはあるかもしれませんね。
そうすると棋王戦をどうするかと言う話にもなるので、より拗れてしまっている感が拭えません。
誰が、止められなかったのか、残念でなりません。

たまたま 2016/10/29 14:08 残念ながら対局の中断や延期は現実的ではありません。
将棋連盟には対局を遂行する義務があって、
対局自体はカレンダー通りに進めなくてはいけません。
この程度の問題では延期という決断はできないのでしょう。
(過去にも震災とかあっても対局を行っていたはずです。)

対応として今回のような批判が出ても強行的手段で出場停止にするか、
クロである直接的な証拠がまだ出せていないならば、
仮にどんなに疑わしくても罰することが出来ずに対局を認めるかしかありません。

個人的には、このような事態が起こる恐れはチェスの例を見ても、
数年前から予見されており電子機器対策の遅れが許せないのですが、
今回の件は、証拠を抑えていないならば監視を強めて対局をさせればいいというスタンスではあるが、
PC・スマホ解析でクロという結果が出なければいいですね。

bangkokeelbangkokeel 2016/10/29 21:48 それともう一つ付け加えて書きたい事があります。
皆さんもご存知のように毎年3月初めにBSNHKで
A級順位戦の最終局がされます。
それには、成績第1位の勝者が
自動的に名人戦の挑戦権を得て、
最下位とビリ2位の敗者がB級1組に
降級すると決まっているからです。
そこには「八百長」は存在しません。
何故ならば故米長会長が生前こう言ってました。
「自分に関係無い勝負の時こそ大事だ。
その時に全力を出せば必ず後で報われる」
故米長会長は、自分に関係無い順位戦の最終局に
全力を出して勝ち、結果的に中原七段が救われて
A級八段に昇級しました。
その1年後米長七段もA級に昇級しました。
もう40年以上前の話ですが、私を含めて
コアな将棋ファンはこの話に感動しました。
そこには「美学」があるからです。
しかし、現在の連盟執行陣は
文春・新潮・ポストの記者を使って
盛んに三浦のカンニング疑惑の
「印象操作」をせっせとしています。
はっきり言ってこの好意は「八百長」臭いし
見苦しい事この上無いです。
日一日とコアな将棋ファンが去っていって
いる感じがします。
ぜひとも新設された「調査委員会」には
三浦側と連盟・渡辺側の「勝ち負け」を
キッチリつけて貰いたいです。
奨励会やC級2組でも毎年敗者は
去っているのです。
それを将棋ファンは当然のごとく
受け止めているのです。
もし元検事総長が玉虫色の裁定を
下したら、「なあんだ、将棋界も
ちゃらんぽらんなPCに負けるような
情けない世界だな。もう見る価値無しだな」
とファンや観客が受け止める事になると
思います。
ですから、キッチリと勝ち負けを付けて
どちらかを退場させてケジメを付けて
プロ将棋界のプライドを守って貰いたいと
思います。長文失礼しました。

たかたか 2016/11/01 07:39 会場のホテルの予定もあるので延期だ中止だは無理だったと思います

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/redips/20161027/1477582107