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2010-11-20

契約不成立と契約締結上の過失

| 19:09

金・土の出張の往復新幹線の中で読んだ判例メモから,争点が同じだった判例を二つ。


どちらもシステム開発プロジェクトが,進みかけていたところで,ユーザが「やっぱり別で頼む」ということになり,ベンダが損害賠償等を求めた事件。どちらの事件でも,署名捺印ある契約書の取り交わしがなかったことなどから,契約の成立は認めなかったが,前者の事件では,ユーザ側の注意義務違反を認め,一定額の損害賠償を認めたのに対し,後者の事件では一切の請求が認められなかった。


内容を比較すれば,納得いく結論だが,似た状況はよく起きているので,参考までに。


東京地判平20.7.29

http://d.hatena.ne.jp/it-law/20101119/1290152309


東京地判平20.9.30

http://d.hatena.ne.jp/it-law/20101120/1290218323

2010-11-09

発注者としての協力義務 東京地判平19.12.4

| 01:19

最近,もう一つのブログ(仕事モード)が完全に休眠状態になっていたが,久しぶりに更新したので,こちらにもクロスポスト


システムが完成しなかった場合においてユーザが発注者としての責任を果たしていたかどうかが問題となった事例


事案の概要

コンサルティング会社Xは,ソフトウェア開発会社Yに自社システムの開発を委託した。XY間の契約に基づいて,開発代金2000万円のうち,1800万円(税抜き)が支払われたが,結局,システムは完成しなかったことから,Xは,Yに対して,契約を解除した上,損害賠償として既払いの代金の返還を求めた。なお,開発の過程で,Yの開発リーダーが病気で離脱し,ほとんど引き継ぎがなされなかったという事情があった。


ここで取り上げる争点

本件では,一応の納品が行われていたが,Yも未完成であることを自認していたため,仕事の完成自体はほとんど争点となっていない。システムが完成しなかったことの責任は,協力義務を果たさなかったXにあるのかどうかが争点となった。


裁判所の判断


従来の裁判例でも指摘されていたとおり,裁判所は,


具体的な仕様の確定は,発注者の要望をまとめた要求仕様と受注者の提案の基本設計をもとに双方が協議して確定されるものであり,その意味で発注者側の協力は欠かせないものである


として,一般論として,発注者の協力義務を認めている。


結局,Yは,協力義務を果たしていないことの理由として,(1)要求が肥大化したこと,(2)調査・分析資料を提供していないこと,(3)要求の変更を繰り返したこと,(4)Xの代表者が威圧的態度であったため,Yの開発リーダーが離脱せざるを得なかったことなどの主張をしたが,裁判所は,


  • (1)については,事前に仕様の合意もなかったまま作業を進めたのであるから,当初の契約と違うといった疑問は呈されていなかった,
  • (2)については,Yが資料に関する作業量を見積もるべきであったし,作業を見積もっていないのであれば資料がそろわないことの負担は,ベンダが負うべきであった,
  • (3)については,ブロックごとにデザイン案を検討するという流れにおいては,すでに確定したデザインの変更を行うことも尋常ではないとはいえない,
  • (4)については,ストレスが原因で離脱したとしても,ベンダにおける労務管理上の問題で,ユーザに帰責することはできない

などとして,解除は有効,既払い金の全額についての返還請求を認めた。おまけに,YがXの承諾なく再委託を行ったことが,XY間の契約違反であることも認めている。


さらに,システム開発が失敗したことが,Xの信用低下をもたらしたことを認め,「信用低下による損害を金銭的に評価することは極めて困難」としながらも,「諸般の事情を考慮すると信用棄損による損害は100万円をもって相当」とした(ただし,Xの過失を5割認め,この部分については50万円の請求を認めるにとどめている)。


若干のコメント

本件では,裁判所から開発のずさんな実態について指摘されている。例えば,


そもそも,本件請負契約においては,要件定義書も作成されないまま契約が締結されており,ベンダがどのようにして請負金額を算出したのかは不明というほかなく,これは一般的なシステム開発の請負契約の締結の流れとは異なるものである。


など。また,契約締結前の事情として,Yの代表者が提案時のプレゼンテーションにて,


本件システム(注:現行システム)について,今のままであれば自分は使おうと思わないなどの辛辣の批評をし,


さらには,Xの代表者の反応として,


このようなベンダの提案は,ユーザ代表者が抱いていた前記の本件システムの問題点を解消するものであり,ユーザ代表者らは,ベンダの提案に感銘を受けた。


とある。いつの開発においても,開発前はユーザとベンダはバラ色の成果を夢見ている。


本件のベンダYの対応を見ていると,相当ひどいな,と感じるが,現に,このような紛争を取り扱う立場からすると,数千万円規模の開発案件で,契約締結前には実質的に何も決まっていないまま動き出すことはそれほど珍しくない。その結果生じる代償はあまりにも大きい場合があることをユーザ,ベンダとも留意しておきたい。

2009-12-24

ジェイコム株誤発注事件一審判決

| 01:07

東京地裁平成21年12月4日判決(金融・商事判例1330号16頁)。例の61万円で一株売り注文を出すべきところ,1円で六一万株の売り注文を出してしまったという事件の一審判決が今月4日に出された。最近になってようやく判決の全文を入手したので,ざっと目を通してみた。


はじめに

原告(みずほ証券)代理人筆頭には西村あさひの岩倉正和弁護士。対する被告(東証)側は中村直人弁護士。ともに企業法務の分野では「超」がつくほどの有名人である。


事件の概要はいまさらなぞるまでもないが,みずほ証券が,注文の際に「Beyond price limit」という警告を無視して大量売り注文を出してしまったことや,東証側の情報システムに不具合があって取消注文が入らなかったことなどが評価のポイントになるかと思われた。


争点

本件の争点は,


(1)取引参加者規程中の,免責規定の適用有無。

(2)東証の債務不履行とその程度(重過失があったとまでいえるか)。

(3)損害の額と,過失割合。


といったところである(判決文とは,書き方の順序とグルーピングの方法は異なる)。


裁判所の判断

(1)免責規定の適用有無


まずは,取引参加者規程の免責規定の解釈について,過去の判例に照らし,「重過失を除外した過失責任の免除を規定したものである」としている。すなわち,いくら「責任を負わない」と規程に定めても,「故意またはほとんど故意に近い著しい注意欠如」の場合には,免責を主張できないということである。


もっとも,本件のような取引の場面で,免責規定が適用されることはあっさりと認められているから,「東証の過失の程度が『重過失』とまでは言えない程度の過失であれば,免責される」ということになる。


(2)重過失の有無


東証のシステムにバグがあったことにはほとんど争いがない(この点については,日経コンピュータ2007.4.30号14頁においても,やや詳しく書かれている)。ただし,本件では,


(引用者注:テスト中に発覚した不具合の)修正との関係で求められる回帰テストの確認を怠ったことだけでは重大な過失があるとまではいえないにせよ,


として,取消注文の検索ロジックの誤りそのものが「重過失」とされたわけではなく,


有価証券市場の運営を現に担っていた被告の従業員としては,その株数の大きさや約定状況を認識し,それらが市場に及ぼす影響の重大さを容易に予見することができたはずであるのに,この点についての実質的かつ具体的な検討を欠き,これを漫然と看過するという著しい注意欠如の状態にあって売買停止措置を取ることを怠ったのであるから,被告には人的な対応面を含めた全体としての市場システムの提供について,注意義務違反があったものであり,このような欠如の状態には,もとより故意があったというものではないが,これにほとんど近いものといわざるを得ないものである。


と,被告に大変厳しい判断をしている。つまり,みずほ証券から「注文が取り消せません」という話があったにもかかわらず,売買停止措置を取らなかったという人的な面について重過失を認めている。


(3)過失割合


もっとも,みずほ証券側にも,


売り注文行為における原告従業員の警告表示の無視を含む不注意は著しいものであって,原告には,過失相殺を基礎づけるに足りる過失があったというだけではなく,その注意義務違反の程度においても故意に準じる著しいもの,すなわち重過失があった


と,こちらにも厳しい判断を加えた結果,「原告3割,被告7割」と認定し,賠償額を約105億円とした(前提として,損害全体額は約150億円と認定している)。


コメント(その1)

本件では,情報システムにとどまらず,広く市場開設者および取引参加者の役割分担等についてさまざまな議論がなされた。まったく同種の紛争が多く発生するとは思えないが,最近では,SaaS,クラウドコンピューティングがはやっており,サービス事業者と,サービス利用者との関係で,提供するサービスに不備があった場合の事業者の責任,という場面での参考になる判例だと思われる。


サービス事業者から,よく「利用規約」等の作成,レビューを依頼されるが,ほとんどすべてに「免責規定」(もしくは責任限定)が入っている。この場合,本件のように,行為の態様によっては免責規定は無力になることをあらかじめ理解してもらわなければならない(そもそも消費者契約法8条1項の問題もある)。


そして,事業者側に何よりも大事なのは,そのサービスを提供することによって,利用者にどのような便益がもたらされるかを理解するだけではなく,万が一の場合にどんな不利益が生ずるかということを正しく理解し,そのリスクをヘッジする仕組み,体制を作り込んであるかということである。たとえば,「給与計算ソフトをSaaSで提供します」ということは簡単だが,万が一,ソフトにバグがあったり,利用者の利用したいときに使えないという事態が発生した場合に,どういったフォローができるのか,ということを事前に考えておかなければならない。


コメント(その2)

どうやら東証は100億円以上もの賠償金を命ぜられながらも控訴しなかったようである。そして,みずほ証券はもともとの請求が400億円以上だったことから,控訴したらしい。そうすると,まだ判決は確定しないのだが,東証は賠償金をすでに支払ったという報道もある。これはかなり珍しいケースではないか*1

*1:確かに,本判決には仮執行宣言が付せられているので,みずほ証券がその気になれば強制執行もできるだろうが,通常,このようなケースで強制執行するとは考えにくい。

しんたろうしんたろう 2009/12/28 15:25 そういう場合は、取材を受ける条件として、事前に
「わたしの発言部分については、メールでも良いから、ゲラを確認させてください。」
といっておくと、件のリスクは回避できます。

ただ、編集権の侵害をたてにとって、チェックさせてくれない文字媒体も一部には存在(具体的には、新聞と、日経系の雑誌です笑)するので、そこは注意が必要ですけどね。

マスコミは勝手なことばかリ書く、と怒る方は実際に多いんですけど、僕から見ると、一般人は「質問事項を文面でやり取りしない」とか、「ゲラチェックの可否を条件に出さない」とか、「安易に電話インタビュー(=証拠が残らない)を受けすぎ」など、脇が甘すぎる、というのが僕の実感なんですよね。。
経営者に対して、こういったマスコミ対策のアドバイスも、してあげられる弁護士さんが増えると良いのかもしれませんね。。。

redipsredips 2009/12/29 11:16 コメントありがとうございます。
私はまだ取材を受けることについてはシロートなので,今回のように不安を感じてしまいました。
まだこれから経験が必要です。

2009-04-14

退職従業員による同種ソフトウェアの開発

| 23:39

約1か月ぶりのIT判例の紹介。今回は,システム開発に関する知的財産権の問題を取り上げます。


東京地裁平成18年12月13日判決(東京地裁(ワ)12938号)

事案の概要

Xは,ソフト開発会社Zに編み機用ソフトウェアの開発を委託し,Z従業員のYがその作業に従事しました。Zは,Xにソフトウェアを納入し,当該ソフトウェアの著作権は,XとZとの契約により,無償でXに譲渡されました。その後,Zを退職したYは,個人で同種のソフトウェアを開発し,第三者に譲渡したため,XがYに対して,Yの開発したソフトウェアの製造や譲渡の差し止めや,損害賠償請求を求めました。

争点

例によって,今回取り上げる争点のみを挙げます。


(その1)

Yは,Zに対して負っていた秘密保持義務に違反したか(なぜ,YZ間の雇用契約に関する秘密保持義務が問題になるか,というと,Xが債権者代位権(民法423条)という法律構成を主張したためですが,この点に関する詳細は割愛します)。


(その2)

Yの開発したソフトウェアは,Xが著作権を有するソフトウェアのプログラムの著作権を侵害した(複製権侵害など)といえるか。


裁判所の判断

(その1)について。


この判決の一般論部分として,以下のような判断方法を定立しています。


  • (雇用契約に明示していなくとも)信義則上,秘密保持義務に違反する場合がある
  • システムエンジニアやプログラマが開発によって得たものは,委託者の委託による成果物であるが,もともと有していた技術を適用した結果だともいえる
  • そこに広く秘密保持義務を負わせると,同種の開発に関与することが事実上禁止され,職業選択の自由を制約することになってしまう
  • そこで,秘密保持義務に違反したかどうかは,(1)アルゴリズムの一致割合,(2)従来から有していた技術の適用といえるか,(3)技術上の合理性からその手順を採用することが当然といえるか,(4)委託者らのノウハウが開示される結果となるか,などを総合して判断する

両ソフトウェアの関数を比較した結果,Yの開発したソフトウェアは,技術的な合理性から当然採用される手法であるなどとして,秘密保持義務に違反したとはいえないとしています。


(その2)について。


この点は,Xが「同じ処理がされている」「65行のソースコードのうち,7行の記述が実質的に同じである」などと主張しましたが,裁判所は,「ごく一部のソースコードの表現や処理内容が類似しているにとどまる」として,複製権侵害を認めませんでした。


若干のコメント

退職したSEが,同種のソフトウェアを開発した場合に,秘密保持義務や競業避止義務に違反するのではないか,という問題があります。結局のところ,個別事情をよく見てみないと明確な答えはでませんが,不正競争防止法に基づく差止や,労働契約の債務不履行などを認めるためのハードルは高いといえます。


会社側としては,労働契約にこれらの義務を明確に規定することでヘッジしたいと考えますが,あまりにきつい義務を負わせると,職業選択の自由を過度に制限する,ということで,契約条項が無効とされる場合もあります(有効とされるための要件,考慮要素については裁判例がありますが,ここでは割愛します)。


次に,よく似たソフトウェアが出回ったから「著作権違反だ!」という話もよく聞きますが,機能が似ているだけでは著作権侵害にはなりません。著作権法が保護しているのは,「表現」であって,「機能」や「アルゴリズム」ではないからです。そのため,ソースコードが同じである(または類似している)ということを立証しなければなりませんが,自社のソースコードならともかく,相手方のソースコードは通常はわからないので,立証は極めて困難でしょう。

2009-03-18

プロジェクト管理責任

| 22:31

IT関連判例の紹介シリーズ第4回。今回は,システム開発が遅延した場合の契約解除にかかわる事例です。


東京地裁H18.6.30判時1959-73

事案の概要

ユーザXが自己の会員データに関するデータベースシステムの開発をベンダYに委託しました。それと同時に,XはYの勧めにより,当時使用していたマッキントッシュに代えて,前記データベース用にウィンドウズサーバをYから購入し,代金約1500万円を支払いました。しかし,システムは完成せず,XはYに対して開発委託契約を解除しました。さらに解除の前には,前記サーバ中に格納してあったXのメールデータが大量に消失するというアクシデントがあり,バックアップもとっていませんでした。Xは,Yに対し,データベースの開発費用として支払った約700万円と,支払済みの前記サーバ代,さらにはメール喪失による損害賠償の支払いを求めました。

ここで取り上げる争点

(争点1)Yは,システムが完成しなかった(遅延した)のはユーザXの要望が多かったことなど,X側の責任であると主張したことから,遅延の責任がどちらにあるのかという点が問題になりました。


(争点2)Xは,開発契約の解除をするとともに,サーバ購入に関する売買契約も解除しています。Xとしては,開発がとん挫したのであるから,サーバの代金も返せ,ということになるわけですが,Yとしては,それぞれ別契約で,サーバに問題がない以上,売買契約の解除もできず,代金を返還する必要はないと主張しています。すなわち,開発契約を解除したことが,売買契約の解除原因にもなるかという点も争われました(契約の個数や一体性の問題)。


裁判所の判断

争点1については,裁判所は次のように判断しています。


Yは、コンピュータ・ソフトウェアの開発及びそれに関するハードウェアの導入支援という業務を約一五、一六年行っており、マイクロソフトの認定パートナー及び情報処理技術者認定試験の資格を有していることからすれば、Yは、本件契約上の義務として、自らが有する高度の専門的知識経験に基づき、本件契約の目的である本件データベースの開発に努めるべき義務を負担していたと解される


そして,遅延したのは,Xが要望の変更を繰り返したというYの主張に対し,


要望の変更に対しても開発の進行如何によっては受入れられない要望があることは明らかであり、そうであればこれを拒否することもでき、またそうすべきであったというべきであり、単にXの要望が多く変更されたということから、その遅延がXの責任であったと評価することはできない


として,遅延の責任はYにあるとしました。


また,争点2の売買契約の解除の可否については,開発に関する請負契約とサーバの売買契約は別個の契約であるという前提判断をした上で,


  • ウィンドウズサーバによるデータベースの開発を前提にウィンドウズサーバに買い替えた。
  • 本件データベースの開発がなければウィンドウズサーバは購入していないという関係にある。

と認定しました。


本件サーバーにかかる売買契約は本件契約と一体であり、本件契約の解除事由は当然に本件サーバーの購入にかかる売買契約の解除事由に該当するものというべきである


よって,サーバ売買に関するYの債務不履行はなかったものの,Xによる解除を認めています。


なお,メールデータの喪失に関しては,Yの善管注意義務違反を認めたものの,Xから具体的な損害,機会損失についての立証がないことから,損害賠償は認められませんでした。


若干のコメント

この判決の前にも,ベンダによる「プロジェクト管理義務」について判断した判決がありました。


本判決もその延長上にあると考えられ,ベンダはもはや単に「ユーザの意思決定が遅い,仕様変更が多い」と主張するだけでは,プロジェクト遅延の責任から逃れることはできないといえます。


ただし,理不尽な要求を繰り返すユーザがいることも確かです。そういったユーザの対処のためにプロジェクト管理スキルを向上させることはもちろん必要ですが,万が一の際に「プロジェクト管理義務を果たした」ことのエビデンスを充実させることも防衛策として必要になってくるでしょう。