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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

個人情報・パーソナルデータに関すること(25)またまたパブコメやってます

先日,個人情報保護法の改正を受けた政令と,施行規則(委員会規則)が公示された*1。それを受けて次に4本立てのガイドラインが現在パブコメにかけられている。


http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=240000025


個人情報保護法の管轄が個人情報保護委員会に一本化されることに伴って,ガイドラインも幹となるものが整理された。ただし,改正法から新たに導入される,下記の3つは外出しされて,全部で4本立てになっている


意見募集期間は11月2日まで。


まだ読み込んだという状態には程遠いのだけれど,トレーサビリティに関する「第三者提供時の確認・記録義務編」について気づいたことを。


改正法において導入された25条・26条の記録義務については,以前,個人情報保護委員会の資料に疑問を呈していたところである(「簡単にみなしていいの?」)。そこでは,具体例を挙げながら,「提供をうけていないとみなし」などの禁じ手が出されて,規制を緩和する動きが見られた。表現こそ変わったものの,今回のガイドラインでは,法律の文言から離れた解釈が展開されている。


まず,法文上,明示的に確認・記録義務が適用されないケースを挙げたうえで,「解釈により確認・記録義務が適用されない第三者提供」という類型を挙げている(6頁以下)。

形式的には第三者提供の外形を有する場合であっても、確認・記録義務の趣旨に鑑みて、実質的に確認・記録義務を課する必要性に乏しい第三者提供については、同義務の対象たる第三者提供には該当しない。

とする。「第三者提供」ではない,という整理にしようとすると,23条5項との関係が問題になるからか,第三者提供にあたるが,確認・記録義務を課さないとしている。法律・政令・規則にはそのような除外を示す規定はないのだけれども。


具体的に挙げている例(規制から外している例)は,そんなに突拍子もないものではなく,「そんなものに確認・記録義務を課したらかなわないな」というものが多いので,結論についてあまり異議を唱えるつもりはない*2


こうした解釈論をガイドラインで展開するのは,法が課した網を,政令規則への委任なくしてガイドラインで緩めているという意味では禁じ手だと思われるのだが,改正法成立時に,下記の附帯決議に対して配慮したものだろう。

四 第三者提供に係る記録の作成等の義務については、その目的と実効性を確保しつつ、事業者に過度な負担とならないように十分に配慮するとともに、悪質な事業者への対策については一般の事業者に過度な負担とならないよう実態調査を行った上で、有効な措置を講ずること。

このようないびつな形になってしまったことについては理解に苦しむ。


ガイドラインには法的拘束力がないから,ここで書かれているような「義務の対象たる第三者提供には該当しない」の例に挙げられている場合でも,法律上の義務を果たしていないという評価がなされるリスクがないわけではない。しかし,法を執行するのが個人情報保護委員会である以上,現実に,そういうリスクが顕現することは考えにくく,この問題が裁判所に持ち込まれることも多分ないだろう。


また別の話として,2-2-2-2「提供を受けるに際して」の解釈(11頁)が気になる。

法第 26 条の確認・記録義務は、受領者にとって、「第三者から個人データの提供を受ける」行為がある場合に適用されるため、単に閲覧する行為については、「提供を受ける」行為があるとは言えず、法第 26 条の義務は適用されない。

個人データは,個人情報データベース等を構成する個人情報である(法2条6項)。「閲覧」といっても,確かにほんの短時間,チラ見せするぐらいであれば,閲覧者のどこにも何も残らないので「提供」とは評価し得ないかもしれないが,通信回線を経由してディスプレイに表示されている状態で「閲覧」したとしても,「提供を受ける」行為にならないとすると,それには違和感がある。ダウンロード,メモ,スクリーンショットの保存などの行為をしなければ「提供を受ける」に当たらないという解釈なのだろうか。


個人的には,25条,26条の確認・記録義務は,文言上広すぎるため,規制緩和するという方向性には賛成だし,個人情報保護委員会が,確認・記録義務に関し,できるだけ事業者の負担を軽くしようという立場にあることはよく理解できる。しかし,このやり方では,ガイドライン修正によって,義務内容が変わってしまうわけだから,もうちょっとうまく法文の作成段階でうまく整理できなかったものかという疑問は残る。

*1:http://www.ppc.go.jp/personal/preparation/

*2:とはいえ,個別の記載には気になるところもあるが・・