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2017-09-06 22:11

(企業訴訟実務問題シリーズ)システム開発訴訟

この7月に中央経済社から出版されたシステム開発訴訟に関する実務書。


森濱田松本法律事務所は,「企業訴訟実務問題シリーズ」というのをすでに10冊くらいリリースしていて,本書はその最新刊にあたる。著者は,IT関連のプラクティスを担当されている飯田耕一郎先生らである。


また,『弁護士』が書くシステム開発『紛争』を取り扱う書籍としては,拙書「システム開発紛争ハンドブック」や,「裁判例から考える」

*1に続いて三冊目となる(私の知る限り。)。

【BUSINESS LAW JOURNAL BOOKS】システム開発紛争ハンドブック―発注から運用までの実務対応 Legal Handbook for Resolution of Disputes Over System Development裁判例から考えるシステム開発紛争の法律実務



本文ページ数が188頁と,かなりコンパクトになっている上に,メインの「システム開発紛争の主な争点」(第1章)は,判例の紹介に多くのスペースを割いているので,ざっと通読するとしてもそれほど時間がかからない。要点は網羅され,説明もわかりやすいので,入口として読む本としては最適である。


システム開発紛争や契約について語る場合,ユーザ側,ベンダ側とで利害が異なるため,どのような立場で書くのか悩ましい面があるが,本書では,比較的ニュートラルにバランスよくまとめられている。


ユーザ・ベンダの考え方が衝突しがちなテーマとして契約の構成として「請負vs準委任」「一括vs多段階」というものがあるが,多段階契約が実務上,定着してきていること,無理に一括請負契約を締結させてもユーザに不利益が生じうることなどを踏まえてユーザの取るべきスタンスを示していたり(30頁),プロジェクトマネジメント義務とユーザの協力義務の関係は,同一・対等のものではないとするところ(89-90頁)などは,両者のバランスをよく考えられているものだと感じる。


というわけで,以前示した曼荼羅のアップデート版を貼り付けておく。

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本書の特徴として,第2章「紛争の段階ごとの必要な対応」という章を設けて,実体法的な分析のみならず,「トラブルになったらどうするか」ということをベンダ,ユーザのそれぞれの視点から示していることが挙げられる。紛争内容が千差万別であるだけにここで書かれている「対応」は,ごく一般的なものであって,通常の危機対応で求められるものと大きな違いはないように思われるが,いくつか印象に残るフレーズもある。

システム開発訴訟を取り扱った経験が少ない弁護士は,ユーザ,ベンダいずれの立場から助言する場合も,往々にして楽観的な見込みの下で極端に強気のアドバイスをしたり,逆にシステム開発のことがよくわからないために相手方当事者に迎合的なアドバイスをしたりすることが多い。(147頁)

逆にシステム開発訴訟を取り扱った経験が少ない弁護士が出てきて極端に強気の要求に固執することにより,まとまりかけていた交渉が決裂することもある。(148頁)

いずれも裁判外交渉における「あるある」なのだが,ここまで明確に書いている例も珍しい。とはいえ,これもまたシステム開発紛争固有のものではなく,専門型紛争においてよくある話だろう。


本書では全般的に紛争対応については慎重な姿勢を示している(当然だろう)。自分が関わっている中でも,相談を受けた案件で訴訟になるのは10分の1にも満たないし,自分も現時点ではシステム開発紛争の解決手段として訴訟が最適だとは思えないので,最後まで避けたいと考えている*2


また,3つ目の特徴は,民法改正とシステム開発との関係についてページが割かれていることである。この点は,「裁判例から考える」でも解説がったが,分野を問わず,これから刊行される契約関係の書籍には必須のテーマであろう。


というわけで,冒頭にも書いたように,本書は短時間で通読できる上に,ニュートラルかつコンパクトに論点を網羅しているため,この種の案件の入門として最適である。


システム開発に関係する判例は割と頻繁にチェックしているほうだと思うので,こういう本が出ると巻末の「判例索引」が気になる。システム開発紛争プロパーの裁判例については,ほぼ本ブログの別館にて紹介していたり,(ブログで紹介はしていないが)目を通していたものだったりするので安心したが,それでもまだ自分の目に触れていないものもあったりするので,こういう本や論考が出るたびに,情報のインプットを欠かすことができないなと強く思う。

*1http://d.hatena.ne.jp/redips/20170327/1490541780 にて紹介している。

*2:この種の紛争は,訴訟よりも,裁判所で行う調停や,ADRが適しているし,実際にうまく解決に至ったケースもそれなりにあるのだが,相手方の協力が得られなかったり,依頼者が訴訟による解決を求めることもあるので,メインストリームには至っていない。

2017-08-22 21:31

最新判例にみるインターネット上のプライバシー・個人情報保護の理論と実務

松尾先生より題記の書籍を恵投いただいた。


この執筆スピードからすると,松尾先生の中の人は最低でも5人くらいいないと無理なのではないかと思われる。


せっかく送っていただいたものの,実はまだ全部に目を通せてはおらず(というか,かなりのボリュームなのである。),目次を見て気になるトピックを選んで拾い読みした程度である。この本はどんな本か?と聞かれれば,はしがきにあるとおり,

本書は,名誉毀損本*1と同様に,2008年1月1日以降の約10年間を中心とした約1000件以上にも及ぶプライバシーに関する膨大な裁判例の蓄積を元に,果たして違法なのかそれとも適法なのかという,いわば「セーフかアウトか」のラインについて,個別具体的な論点毎にこれを探ることをコンセプトとしている。(本書iii頁)

と答えるのが良い。


近時熱いテーマとなっている個人情報保護法とプライバシーとの関係についても,15章(244頁以下)で丁寧に論じられている。同法に関する裁判例は決して多くはないが,関連する裁判例をこれでもかというくらい拾い集めて体系的に整理されており,この種の実務を取り扱う際にはぜひとも手元に置いておきたい一冊である。

*1:松尾先生が2016年に出版した「最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務」をいう。

2017-08-02 23:17

不正競争防止法によるデータの保護

不正競争防止法改正によってビッグデータを保護の対象にしようとうい動きが急ピッチで進んでいる。


先日の日経記事。「ビッグデータ、保護対象に 経産省、改正不正競争防止法で検討 」

http://www.nikkei.com/article/DGKKASDF25H0B_27072017EE8000/


経済産業省はパスワードや暗号化などで管理されたビッグデータを、不正競争防止法の保護対象に追加する。あらゆるモノがネットにつながる「IoT」などの普及でデータの流通は活発になっている。データの正しい取得と、不正な取得の線引きをはっきりさせ、企業がデータを活用しやすくする。

27日に産業構造審議会(経産相の諮問機関)に新たな委員会を設け、不競法改正に向けた検討を始めた。今秋をめどに報告書をまとめ、2018年の通常国会に改正案を提出する。


来年の通常国会で改正案が出される動きだったとは。


よく知られているとおり,いわゆる「ビッグデータ」を法的に保護しようとすると(ここでは,無断コピー,不正持ち出ししようとする者に対して民事的に差止め等を求めることを想定している。),次のような問題があった。



これからIoTだ,AIだ,ビッグデータだといっている中で,データの流通が阻害されないよう,どういった形で法的保護を与えるかが産業構造審議会・知的財産分科会・不正競争防止小委員会で議論されることとなった。


まだ第1回が7月27日に開催されただけだが*1,保護の対象(客体)についての議論がなされ,第2回には規制対象となる行為について議論が行われるようである。確かに,このペースなら今秋には報告がまとめられ,来年通常国会で改正案が出されるというのも現実味を帯びている。


では,どのようなデータが保護対象となるのか。そこは,第1回会議の配布資料7「行為規制の前提となるデータの要件に係る検討」

*2が参考になる。


営業秘密との対比で考えるとわかりやすい。簡単にいうと,秘密管理性が緩和され,非公知性については特に問わないということ話で議論が進んでいるようだ。


管理の程度については,資料7スライド3によれば,事務局としては,ID・パスワード,暗号化など,一定の技術的な手段を施してあるデータが対象になるのであって,その他の要件(投資の程度,データの量・件数,営利目的等)は導入されない見込みのようである。


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技術的な手段を施せばよいということで,その技術の高低は問われていない。営業秘密と比べれば,ずいぶんと保護範囲が拡大するように思われる。


保護範囲をここまで広げてしまってよいのかという疑問もあるが,実際には,顕出の問題がある。データを不正取得した場合,それを取得者がウェブサイト等で違法に販売していればわかりやすいが,AIの学習用データとして用いたり,分析に用いていたりするだけで,その成果(学習済モデルや,マーケティング施策)からは,当該データが使用されたかどうかが判別が難しい。救済のための手続的な規定の整備も併せて検討する必要性もあるだろう。

*1:配布資料:http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/chitekizaisan/fuseikyousou/001_haifu.html

*2http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/chitekizaisan/fuseikyousou/pdf/001_07_00.pdf

2017-07-24 23:47

サイバー判例回顧2016-2017

毎年恒例の,北大・町村泰貴先生*1の「サイバー判例回顧」勉強会(東弁消費者問題特別委員会,インターネット法律研究部共催)に出席してきた。


2011年ころからほぼ毎年出席しているが*2,当ブログでは触れたことはなかったようだ。今年も,2016年7月から2017年6月に出されたインターネット関連,サイバースペース関連の裁判例を合計で「106件」紹介されている。なお,判例集,判例DBからだけではなく,各種新聞記事等からもピックアップされているので,判決文にあたれるわけではないものも紹介されている。例年よりも件数は少な目か。


「注目事件」ということで詳しめに紹介されたのは,以下のところ。


しかし,発信者情報開示請求,削除請求の事案が毎年多い。枯れたテーマかと思いきや,少しずつ新しい論点が表れてきているようなので,自分ではほとんど取り扱わないけれど,きちんとキャッチアップしておかなければならないなと思う。


最近,別館の判例ブログの更新頻度が低いので,ここで紹介された事案からいくつかピックアップして掘り下げてみようかなと。


自分が取り扱った事件も2件,収録されていた。

*1:Twitter ID: @matimura, ブログ http://matimura.cocolog-nifty.com/

*2:先生の渡仏中は1回休みだったかと思う。

*3http://d.hatena.ne.jp/redips+law/20170219/1487510875 にて紹介している。

2017-06-22 23:21

第1回情報法制シンポジウム・オンラインゲーム業界の資金決済法問題

先週末,6月17日に第1回情報法制シンポジウムに参加した。


情報法制学会・情報法制研究所

第1回情報法制シンポジウム プログラム

https://www.jilis.org/conference2017.html


無線LANのただ乗り問題など,多くの興味深いテーマがあったが,パネルディスカッション「オンラインゲーム業界の資金決済法対応の解決にむけて」で行われた議論を一部紹介する。


パネリストは,LINEの江口さん,弁護士の板倉さんらのほか,資金決済法といえばということで,MHMの堀先生も登壇。


議論の題材となったのは,昨年話題になったLINEの二次通貨問題に端を発するオンラインゲームのコインやアイテムの取り扱い。「宝箱の鍵」のようなアイテムが,資金決済法の「前払式支払手段」に該当するかという極めて実務的な論点はありつつも,もっと根源的な問題として,現在のAndroid/iPhoneのプラットフォームで動くスマホのオンラインゲームにおいて,同法の規制は本当に適切なものなのだろうか,具体的には,発行残高の50%もの供託金を積むことが本当に必要な規制なのだろうかといったことが議論された。


確かに,先に対価を得てコインやポイントなどを与えておきながら,ゲームの運営会社が倒産してしまってゲームの運営が停止してしまった場合,先に払った対価に見合うサービスを受けられなくなってしまう。そのような場合に消費者を保護する必要性があることについては理解できる。しかし,実際に自家発行型でそのような供託義務を定めている国はほとんどないようだ。その上で,



f:id:redips:20170622231902p:image:w540

資料 の9頁より引用)


といった疑問について,単なるゲーム事業者のボヤキといったレベルではなく,事実関係の調査を踏まえて中身の深い議論が行われた。そのうえで,いくつかの提言もなされた(詳細は,前掲資料を参照。)。


立法を担当された堀先生によれば,前払式支払手段の規制が導入される時点では,スマホのゲームでの課金が一般的ではなかったから,規制内容の議論の際に,これらを念頭に置かれたものではないし,規制を避けるためには180日の有効期限を設定すればよいのだから,大きな問題になるとは考えられていなかったようだ。しかし,Appleの規約により,アイテム等に有効期限を設けることができないから,現実には資金決済法の規制を形式的に交わすことができない*1


私も実務でオンラインゲームと資金決済法の問題を扱う際には,そもそも前払式支払手段該当性のレベルから悩むことも少なくない。「有償・無償は区別しておかないと無償分も供託しないといけなくなりますよ」と語りつつも,なんだか不合理というか過剰な誰得規制だなあと感じていたところ。正直なところ,法に触れないとしても,欺瞞的な手段で課金を煽るサービスも中にはあって,そういったものには感心しないが,規制は懲罰でもないわけで,保護法益に対して適切なバランスでなければならない。

*1:AppleやGoogleのルールは「教会法」だという指摘があった。教会法については私はまったく知見がないが,国家が定めたものでもないのに,国家が定めた法と同等かそれ以上の通用力を有する規範という意味で用いられており,興味深い。

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弁護士。IT法務,法科大学院・新司法試験,子どもの将棋について。