思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

フレンチ・コネクション


☆☆☆★

フリードキンという、巨匠として聞いたことのある監督の、よく聞くタイトルの映画。モロにフィルムで、画質からは70年代かな? という印象。事前情報ほぼゼロなので。
ニューヨークの鬼刑事が、麻薬密売ルートを暴くべく、長期間の張り込みや、決死のカーチェイスや尾行などを繰り広げる。いちおうバディものなのだが、今のイメージなら、ロイ・シャイダーのほうがシュッとして主人公っぽいのに、ゴツい禿げたおっさんのほうが主人公なのだ。
犯人が逃亡中に、特に関係ない人が巻き添えで次々殺されるところとこを除けば、特に印象的な場面はないのに、全編、緊張感にあふれて、目が離せない。
ちなみに、タイトルは、ニューヨークのギャングたちの、麻薬密売ルートが、フランスのマフィアたちとの繋がりのこと。

楽園の真下

荻原浩
☆☆☆★
文春文庫

ジャガモンド斉藤推薦の「和製モンスターパニック」もの。
そのモンスターとは、カマキリ。カマキリと言えば、カマキラスが有名だが、怪獣ではなくモンスター扱いなので、サイズに人間と戦えるサイズ(具体的なサイズはネタバレなので、詳しくは後述)になっている。
ストーリーは、まあ言ってしまえば、オーソドックスなアメリカのモンスター・パニック映画のそれ。
効果音を一音ごとに改行するあたりは、和製ホラー小説の作法。
最初は、15センチくらいのギネス級のカマキリのうわさから始まり、主人公が取材に訪れた島には、自殺率が高いという不穏なデータがある。
普通に面白い娯楽小説といえる。映画にしたら、さぞ手堅く面白いだろう。

以下ネタバレ

自殺とカマキリの関係は、自殺の原因が水死だと分かれば、ある程度生物に興味がある人なら、ほとんど想像が付くだろう。ハリガネムシである。
それが明かされるのも、半分くらい(本作はトータル500ページもあるのだ)で、本来ならこの後すぐにオチにして、300ページでまとめても良かったくらい。
そとあとは、徐々にデカいサイズとカマキリと追いつ追われつのバトルとなるのは、エメリッヒ版『ゴジラ』のようだ。
最後に1メートルの大物が出てくるのは、『エイリアン2』を思わせるが、ずっと前から伏線を張っているあたりが上手い。
ただし、カマキラスとかエイリアンを見ていると、1メートルのカマキリと言われても、あまり怖そうに思えない(^^;)その生態や、狩りのスタイルは、十分に脅威であると、描写は充分なのに。不思議だ。このあたりは映画で、しかもエイリアン的にちゃんと演出すれば、より怖く感じると思うのに。
1メートルのゴキブリなら、十二分に恐ろしいのになぁ(^^;)

さらにネタバレ

ラスト、エピローグ的に主人公が島から東京に戻るシーン。主人公がハリガネムシに寄生されていたかと思わせる描写がある。実は吐いたらスッキリしました、ということにされて(なんだ猫か)、カマキリ以外の巨大昆虫が船に潜んでいた、というオチになっている。これもモンスターパニック映画あるあるで悪くないのだが、どうせなら主人公が海に飛び込むか、ハリガネムシに腹を食い破られるシーンで終わったら、読後感は☆は追加されただろうになぁ……。続編の期待を(作者的にも読者的にも)もたせる効果は、どちらでも変わらないと思うのだが。続編でも主人公を務めさせたいほど魅力的な主人公とは思えなかったけどなぁ(^^;) 続編の主人公は島の女研究者・秋村で十分でしょ。『リング』の続編『らせん』でもそんな人物配置だったでしょう?

すずめの戸締まり

☆☆☆★

良かった点は、『天気の子』とかでは、クライマックスでミュージックビデオか!? というくらい全面に出していたのに、本作ではエンディングに収めていたこと。
あとは、椅子の動きが、アニメーション的な快楽を実現していたこと。でもこれ、関節がないから、リアルに考えたら、あのようには動けないけどね。『インターステラー』のターズみたいな、ガチャガチャしたものにしからならないはず。明らかに、子犬を参考にしたアニメートだよねぇ。
背景美術の美しさについては、新開誠クオリティなので、今から言うまでもない。
神戸人としては、神戸弁はわりとちゃんと喋っていたのがマル。アクションの舞台となった遊園地は架空だけどね。須磨ロープウェイの上に簡単な遊園地はあったような気はするけど。

すずめが草太に恋愛感情を抱く過程がないのが問題。初期の新開誠作品には、厨二病的な片思いとか、若い恋愛感の共感要素があったが、一般的に解放された作りゆえに、椅子になった草太に命懸けで助けに向かう必然性が感じられなかった。子供用椅子の姿になった草太に感じるのは、ペット的な愛玩性でしょ?
草太が少女マンガ的な美男子だから一目惚れした、という説も聞いたけど、そうは見えないけどなぁ。なんか長髪でキモい変人としか。セリフもベタだし。
主人公のほうも、セリフは良いが、顔に特徴がなくて、よほどのファンじゃないと、イラスト描いて、と言われても描けないんじゃないかなぁ。
何より、アクション多目なのと、ロードムービーのように、九州から日本を東に向かってゆくのを除けば、映画の骨格は『天気の子』とまったく一緒やん(´Д`)
東日本大震災を物語の主軸に据えたことも、あんまりうまく料理できているようには思えなかった。

以下ネタバレ

地震が起きないように封印を刺している陰陽師みたいな仕事だが、東日本大震災は起きている。草太または当時の「閉じ師」(病院で寝たきりのじいさん?)がボンクラだったのか、封印しきれなかったのか。彼らがいる世界だから、せめて阪神大震災東日本大震災は起きなかった、というパラレルな世界線にすれば良かったものを、東日本大震災に主人公が被災して、それをきっかけに、主人公は才能に目覚めていた。
それがあの世にいる母だと思って、主人公は実家を目指すのだが、たどり着いた先にあったのは、当時見たのは、未来の自分だった、というのは単にどんでん返ししたいがためのオチにしか見えない。言ってることも綺麗事で薄っぺらいし。むしろ、扉をくぐったら子供の自分に戻って、母親から「私がいなくても大丈夫」という肯定感を与えるほうが良かったのでは?
あと、おばさんの本音が出るところは良かった。すぐに悪霊に憑依されたから、と明かされるのは「なんやそれ」とがっかりさせられた。
細かいツッコミはめんどくさいので省略(^^;)
妖怪ネコのダイジンが子供っぽいのは、先代の閉じ師が子供だったら、という解説動画にはなるほどと思わされた。観ている間には、ネコが主人公を好きにさせようとしているのは、主人公の母親が転生または呪いで変化させられたからだと思っていたので。

懺悔 松岡真知子の秘密

☆☆

時東ぁみっぽい感じの音楽の先生と、その姉の話。ピンク映画。
城定秀男監督なのでちょっと期待した。同居する足の不自由な姉に、家政婦のように精神的に支配されているのを除けば、生徒とのいけない恋愛もので、学校でセックスしてしまう、よくある話
……かと思わせて、ポツポツと、キラリと光るセリフがあるのは、さすが城定秀男作品。
タイトルは、(序盤で明かされるのでネタバレではないと思うが)姉の足が不自由なのは、姉の恋人と家でセックスしているのを目撃され、そのまま窓から飛び降りた結果。はっきり言ってバカな姉だが、姉の恋人を寝取ったのと、大怪我をしたので、それが負い目になって、姉の言いなりになっている。
反面、夜な夜なエッチなビデオを見たり、音楽室でタバコを吸っていたり、そこから生徒たちの様子を神の視点で観ていたりと、一味違う作家性を感じさせる。
全般的には、低予算かつ凡庸なのだが、キラリと光る個性があり、知らないで見たら、ゾクっとさせられるだろう。私のように、それを目当てで見るほどでもないが。

以下ネタバレ

見るべきところは、主人公である妹を精神的に支配する姉が、彼女をいたぶるセリフの数々。その白眉は、自分がテレクラで誘い出した男と妹を、部屋の、自分の目の前で騎乗位させるシーン。その間も(脅迫かいじめという意味の)言葉責めで、最後には下にいる男の服に嘔吐してしまうのだ。
後は、音楽室の窓から、校庭で放課後に遊んでいる生徒たちの上に吸い殻を落とそうとするあたり。ちょっとした出来心、いたずら心、魔が差したなどの多重の意味を感じさせる。もちろん、主人公が、単なる純粋な被害者ではなく、ある種の反骨というか、不良気質がある表現でもある。

暗殺の森

☆☆☆★

見たような気になっていたが、それは同じ監督の『暗殺のオペラ』だった。「沈黙」シリーズよろしく、この監督の作品はなんでも「暗殺」なのか?
同作にあった、全てのカットの構図が決まりまくっている感じもなく、色彩的な見どころも、エピローグのドラクロア的な、闇に浮かぶ絵画的な色彩くらい。
ムッソリーニ政権下で、ファシストを暗殺するフランスから夫婦で派遣されたスパイが主人公。
何より、その場面がフランスなのかイタリアなのか、混乱しっぱなし。イタリアなのにフランス語を話したりするから。
主人公がかつての恩師を暗殺する任務を帯びて、家を訪れると、若い妻が出迎え、妻ともども親しくなる。
主人公のスパイの相棒がマンガネッロだかなんだか、マンガみたいな名前なのがおかしかった(^^;)

以下ネタバレ

親しくなった教授の妻が、森の中で、教授に続いて殺されるあたりが本格スパイものらしい非情な展開。ただ、本命の教授のほうは、大の男が、数人がかりで、10回くらい腹を刺すという、とてもプロとは思えない不細工な手口なのは気になったかな。
ラストは、主人公が幼い時にレイプされた挙句に殺した男が生きていて、それを終戦後に地下で見つけた主人公が、共産主義達のなかで彼を告発するという、シュールなのか不条理なのか、悲劇なのかよく分からん幕切れ。
フランスとイタリアの赤化と反共の歴史を知らないとよく分からんオチだった。

走れ!走れ走れメロス

☆☆★

同名の舞台演劇を演じた小さな高校の演劇部をテーマにしたドキュメンタリー。
気になるのは、前歴もなく、名演出家が顧問でもないのに、なんでドキュメンタリーを撮影したのか、という部分だ。もしかして、顧問の先生自体がカメラを回していたのか??
インタビューは結果が出て、公開を決めてから撮影したとしても。
最初は、コロナ騒動の中で観客が必須の舞台演劇に挑んだ高校生、というテーマで作るつもりだったのかな。いや、本作も半分以上はそれがテーマなんだけど、それ以上に、演劇にハマった学生たちのドラマになっている。
小さな演劇部なので、衣装もなく(もしかしたら、制服というレギュレーションなのかも)、舞台美術も、机と椅子だけ、みたいなミニマムなもの。
演劇の内容は、『走れメロス』をスラップスティックにした感じ。とりあえず、途中でパンツ一丁にらなったり、波を擬人化したり、校歌を歌うとかのメタ演出など、勢いは感じたが、高校生の演劇として、面白いのかどうかはよく分からなかった。
断片的ながら、そういう独自性は分かったが、濱口竜介監督映画みたいに、作中に全編ノーカットで演劇シーンを入れても良かったんじゃないかなぁ……。
どうでもいいが、王様役の少年が、なんとなくADHDっぽいのが気になった。だからこそ、演技にのめりこめたのかもしれないが。

以下ネタバレ

要するに、本作のポイントは、この学生たちが、優秀賞をとって、東京に上京して、プロの演出家たちの前で演技して、評価された、という結果を出してしまったこと。それによって、本作が「へっぽこ高校生が、一発ぶちかました」的なものになってしまったのだ。むしろ、予選落ちしたけど、演劇の面白さに目覚めた、というほうが、テーマ的には綺麗にまとまったんだけど。

燃える勇者

☆☆☆★

真田広之主演のJAC映画。千葉ちゃんの空手映画に雰囲気がよく似ている。
オープニングは、ご機嫌なアフリカ映像と音楽なのに、そこから全くの唐突に暗闇で真田広之が座っている映像に変わり、音楽も地味なものになる。まるでDVDの針(はないけど)が飛んだような乱暴さ。
アフリカに行こうと貨物列車い潜り込ん真田広之が、目的地に着けずに、降りたところでトラブルに巻き込まれる。最初は、乗馬クラブから逃げ出した馬をいさめて、そこで働くことになる。革ジャン姿といい、なんか『ギャバン』のようだ。
そこで、本作がデビュー作という、女学生の伊藤かずえを守るために戦う。私的には、ロングヘアなのはいいが、最初から最後までお下げなのが残念(^^;)
劇伴は、随所に入るどれもが、ベースが結構全面に出た格好いいのに、どれもズレた曲調なのが不思議だ。
特撮ものの悪役的な大企業と戦うのだが、会社の秘密を盗んだ伊藤かずえを拉致したのに、数時間攻め立てたのに吐かせられない大人達って、小学生以下(´Д`)
クライマックスのチーム戦も、ただたの記者が、戦いのプロである傭兵と互角以上に渡り合うとか、ご都合主義は気になるところではあった。
真田広之のアクションは、カンフーやケンカではなく、それこそ『ギャバン』的な、飛んだり跳ねたり的なダイナミック系。印象に残る動きはなかったものの、スピードというか、動きのキレはとんでもない。
若きかまやつひろしも出演しているが、髪も黒いし、なんかバカリズムみたいだったなぁ。