Hatena::ブログ(Diary)

remcat: 研究資料集 RSSフィード Twitter

2016-05-28 高校保健副教材「健康な生活を送るために」国会質疑

「妊娠のしやすさ」改竄グラフ作成者は吉村泰典氏であることを内閣府が確認

5月25日(水) 参議院行政監視委員会で、高校保健副教材「健康な生活を送るために」(2015年版) についての質疑がありました。委員会の動画は http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=3704&type=recorded でみられます (委員会開始後38分20秒あたりから)。質問者は神本美恵子委員(民進党)。副教材全体の改訂のいきさつのほか、38ページの「子供はどのような存在か」のグラフと、40ページの「女性の妊娠のしやすさの年齢による変化」のグラフを取り上げています。

38ページの「子供はどのような存在か」のグラフについては、まだちゃんとまとめていません。概要と問題点は https://twitter.com/twremcat/status/647607430730268672 前後のツイートをごらんください。

40ページの「女性の妊娠のしやすさの年齢による変化」のグラフに関しては、重要な点はつぎの3つと思います。

作成者は吉村泰典氏

これまで、「女性の妊娠のしやすさの年齢による変化」グラフを提供したのが吉村泰典内閣官房参与 (慶應義塾大学名誉教授、元日本産科婦人科学会理事長) であったことは、有村内閣府特命担当大臣 (当時) 2015年10月2日の記者会見 などであきらかになっていました。しかし、誰がこのグラフをつくったのかは、政府側の見解としては示されていませんでした。今回の質疑では、内閣府からの回答として、当該グラフの作成者は吉村泰典氏であることを確認している、と明言されました。

グラフの元データは「正しい」ほうのグラフなのか、という質問に対しては、吉村氏がグラフをどのような経緯でどの時点でどのようにして作成したかは把握していないとの回答。質問者 (神本議員) からは、もし元のグラフを正確に写そうとして作ったグラフならこんなラインには絶対にならないだろう、という主旨のコメント。

文部科学大臣の評価

馳浩文部科学大臣からは、この教材について、早く産んだほうがいいという印象をあたえることはまちがいないと思う、という旨の答弁

厚生労働省の動画サイトについて

副教材40ページの「妊娠のしやすさと年齢」グラフの訂正前とおなじものが厚生労働省の動画サイトで使われている問題 (現在は視聴不可。http://d.hatena.ne.jp/remcat/20160331/falsified 追記部分のほか、http://d.hatena.ne.jp/remcat/20160528/mhlw の書き起こしを参照) についても質問あり。厚生労働省からは、今後、閲覧者が必ず見る冒頭のページに「正しい」グラフを掲載して訂正の説明を加える、との回答。

なぜまだ訂正していないのかという重ねての質問に対しては、誤ったグラフが使用されていたことの把握に至っていなかったとの答弁 (おい)。質問者 (神本議員) から、誤ったグラフが政府の他のウェブサイトや広報資料で広く使われているのではないか、調査が必要との指摘。

雑感

この質疑で、政府側見解をいろいろ確認できたのはよかったと思います。ただ、質問者が「正しいグラフ」と言っちゃっているのはどうか。「訂正」後のグラフもおかしいのであり、本来、こういう形で参照すべき研究ではないので。→http://d.hatena.ne.jp/remcat/20160331/pr

特に、厚生労働省が動画に入れると回答した訂正文がどうなるのか。つぎのようなものであればまあいいと思うのですが。

6分30秒からの「妊娠の適齢期」セクションに出てくるグラフは、改ざんされていることに加え、そもそもデータ操作がおかしい研究結果だという批判を受けているものです。ビデオ中では講師の吉村泰典氏が具体的な数値をあげながら女性の「妊娠の適齢期」について説明していますが、この部分は信用しないでください。

あとは、当該部分にさしかかったところでも、画面に同様の字幕表示を出すべきですね。

厚生労働省 動画「妊娠と不妊について」書き起こし (一部)

5月25日の国会質疑 のせいか、Youtube 上の厚生労働省動画サイト MHLWChannel にあった「妊娠と不妊について」の動画が閲覧不能になっている。どんな内容だったのかを紹介するために、全体の構成と問題部分の書き起こしを掲載しておきたい。

f:id:remcat:20160528203037p:image

URL
https://www.youtube.com/watch?v=mgW51MUELqI
作成者
厚生労働省
表題
妊娠と不妊について
日付
2014-03-05
再生時間
12分5秒

登場人物は2人:

  • 松本 亜樹子 (NPO法人 Fine 理事長)
  • 吉村 泰典 (慶応義塾大学 教授)

f:id:remcat:20160528203036p:image

動画の内容は、基本的に、松本さんが質問し、それに吉村さんが答えるかたちで進んでいく。

目次

  • 妊娠のしくみ (0'34)
  • 不妊の原因 (1'18)
  • 不妊症の検査 (2'20)
  • 少子化の問題点 (4'10)
  • 高齢者の妊娠・出産の問題点 (5'30)
  • 妊娠の適齢期 (6'39)
  • 妊娠する能力の低下の原因 (7'19)
  • 不妊治療による妊娠の可能性 (8'36)
  • 不妊治療の助成制度の変更点 (9'44)

「女性の年齢と妊孕力」グラフ使用箇所の書き起こし


この動画では、22歳をピークとして、加齢とともに直線的に妊孕力が低下するよう改竄されたグラフ が登場する。このグラフの解釈にかかわる部分 (6分40秒から7分40秒くらい) について書き起こしたのが以下。

f:id:remcat:20160528203035p:image

見出し
妊娠の適齢期 (6'39)
松本亜樹子
先生、そうすると、いくつぐらいが女性の妊娠の適齢期といえるんでしょうか。
吉村泰典
〔「女性の年齢と妊孕力」のグラフを指しながら〕このフィリップに、女性の年齢と妊娠する能力、というのがかいてあります。女性が妊娠する能力を妊孕力と申しますが、22歳をこの妊孕力を1といたしますと、年齢とともに妊孕力は下がり、ま、35歳前後になりますと40%前後、40歳になりますと20%前後まで低下いたします。

f:id:remcat:20160417210518p:image

見出し
妊娠する能力の低下の原因 (7'19)

f:id:remcat:20160528203034p:image

松本亜樹子
先生、妊娠する能力は、なぜ低下してしまうんでしょうか。
吉村泰典
それは、卵子の数の減少と、一個一個の卵子のクオリティの低下が非常におおきな原因となってくると思います。ここに、卵子の数の変化をこのフィリップにしめしておりますが、〔以下省略〕

f:id:remcat:20160528203033p:image

参考資料

2016-04-30

Menken ほか (1986) の Science 論文から「代表的なデータを抜粋」したと称する日本生殖医学会サイトのグラフについて

問題の所在

日本生殖医学会のサイトにある「女性の年齢による妊孕力の変化」のグラフがいろいろ変なので、以下検討する。

女性の加齢と不妊症を考えるデータとして、避妊法が確立されていない17〜20世紀における女性の年齢と出産数の変化について調べた研究があります。出産数は30歳から徐々に減少し、35歳を過ぎるとその傾向は顕著になり、40歳を過ぎると急速に減少します(図1)。つまり、女性の年齢による妊孕性の低下は、平均寿命がのびてもあまりその変化は変わらない現象であることがわかります。
〔……〕
図1.女性の年齢による妊孕力の変化
f:id:remcat:20160422075510j:image
Menkenらの報告(Menken J, et al. Age and infertility. Science. 233: 1389-1394, 1986)をもとに17〜20世紀における女性の年齢と出産数について代表的なデータを抜粋し作成。年齢の増加に伴い(特に35歳以降)出産数の低下が認められる。

-----
日本生殖医学会広報部 (2013年4月) 「年齢が不妊・不育症に与える影響: Q18.女性の加齢は不妊症にどんな影響を与えるのですか?」『不妊症Q&A よくあるご質問』

http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa18.html

『不妊症Q&A よくあるご質問』の日付は「2013年4月」となっているが、このグラフがいつからあるかはよくわからない。Internet Archive の記録では、遅くとも 2014年7月17日 には存在していたことが確認できる。

さて、出典として提示されている Menken ほかの Science 論文の図を見てみよう。

f:id:remcat:20160422075511p:image
Fig. 1. Marital fertility rates by 5-year age groups

-----
Jane Menken + James Trussell + Ulla Larsen (1986) "Age and infertility". Science. 233: 1389-1394 DOI:10.1126/science.3755843

http://dx.doi.org/10.1126/science.3755843

これは「Marital fertility rates」(婚姻内出生率) のデータであるから、これを単に「出産数」「出生数」として紹介するのは不正確である。さらにそのグラフに「女性の年齢による妊孕力の変化」という見出しをつけるのは問題外であるが、それはともかく。

2枚のグラフをくらべてみると、ずいぶん印象がちがう。どのラインに目が行くかにもよるが、日本生殖医学会のグラフのほうが全体的に上方に偏っており、傾きが大きく見える (後述)。

また、日本生殖医学会のグラフで「▲ 17世紀」となっているラインは、Science 論文 Fig. 1. の注釈では「Hutterites, marriage 1921-30」とある。これは「17世紀」のデータじゃないだろう。「■ 20世紀」のラインは、「Geneva, bourgeoisie, husbunds born 1600-49」だから「20世紀」じゃなさそうだし、右下に行くにしたがってプロット位置がずれていってるような気がする。

データを確認する

Science 論文 Fig. 1. は線が入り組んでいてわかりにくい。この図の元データが載っている本を見てみよう。

f:id:remcat:20160422075513p:image

-----
Jane Menken + Ulla Larsen (1986) "Fertility rates and aging". Ed.= L. Mastroianni + C. A. Paulsen. Aging, reproduction, and the climacteric. Plenum Press. ISBN 0306421429
色線は引用時に追加したもの。
注釈 b の (5) の最後の部分が「1840-1959」となっているが、これはたぶん間違いで、「1840-1859」であろう (Science 論文でも、後述の Henry (1961) でも、そうなっている)。

色枠で囲った数値が、日本生殖医学会のグラフにプロットされていた数値に合致する部分。

  • 「▲ 17世紀」となっていたラインは、20世紀の Hutterites (キリスト教フッター派) のもの (赤枠:番号1)
  • 「■ 20世紀」となっていたラインは、17世紀のジュネーブのブルジョアジーのデータで始まり、途中から19世紀のノルウェーのデータに入れ替わっている (緑枠:番号4と8)

これらの数値をプロットして日本生殖医学会のグラフに重ねてみると、こんな感じである。

f:id:remcat:20160422075514p:image

なんで正確に写さないんだろうかね?

印象のちがい

さて、日本生殖医学会のグラフには「代表的なデータを抜粋し作成」という注釈がついている。しかし「代表的」であることの基準については何も書いていない。だから、なぜこれらのデータだけが描画されているのかはよくわからない。

上の表には、典型的な年齢パターン (Typical age pattern) の数値も載っている (mean polish という方法で求めたものらしい (Menken + Larsen 1986: 152))。これを日本生殖医学会のグラフに加えてみよう。

f:id:remcat:20160425174048p:image

4本のラインのうち、1本 (▼) はほぼ Typical age pattern に沿っている。のこる3本はこれより上方にある。つまり、元の10本のデータのなかで、相対的に高い出生力をもつ集団のものが抜き出されていることがわかる。

ラインの傾きという点で見ると、Typical age pattern から外れている3本のうち2本 (▲ ■) は30代前半までの傾きが大きいため、「多数決」で減少幅が大きく感じられるということがある。また、30代後半では、■ の数値が大きく落ち、20代前半よりも238下がっているため、その点でも減少幅が大きいように感じられる (Typical age pattern では、20代前半から30代後半までの減少幅は141)。

Menken + Larsen (1986: Table III) の10本のデータのうち、このグラフに出てこない残り5本についても、おなじように Typical age pattern を加えて表示してみよう。

f:id:remcat:20160425174047p:image

どのラインも、Typical age pattern との差が小さい。特に30代前半までの間は、ほとんどおなじ傾きのラインになっていることがわかる。

他所での使用例

この日本生殖医学会サイトのグラフとおなじものが、吉村泰典監修『生殖医療ポケットマニュアル』(医学書院 2014) に載っている。

生殖医療ポケットマニュアル

生殖医療ポケットマニュアル

f:id:remcat:20160427100147j:image

-----
高橋 俊文 (2014) "年齢と妊孕力". 編集= 大須賀 穣 + 京野 廣一 + 久慈 直昭 + 辰巳 賢一 (監修= 吉村 泰典)『生殖医療ポケットマニュアル』医学書院. pp. 23-28. ISBN 9784260020350 (p. 24)

この本の23ページには、「Menkenらは北米フッター派 (避妊が禁じられている) の各コホート集団について16〜19世紀後半の記録から女性の年齢と出産数の変化について報告している」とある。しかし、Menken ほかのScience 論文 Fig. 1 の注釈では、フッター派 (Hutterites) とあるのは2件だけ。あとの8件は、ヨーロッパ5、アジア1、アフリカ1、北米1である。

また、『日経DUAL』2014年5月2日の記事にも、おなじグラフが出てくる。

f:id:remcat:20160428145020j:image
図1 女性の年齢別、1000人当りの出生数 Menken J(*1)より改編。4世紀にわたり、環境や栄養状態などが変化しても、出産年齢に大きな変動はなく、35歳を過ぎると急激に低下している

〔記事を最後まで読むと、つぎの注がある: 1.Menken J, et al. Age and infertility. Science. 233: 1389-1394, 1986〕

-----
樽井智子 "30歳が1カ月で妊娠できる確率は20%、40歳で5%". 『日経DUAL』 (2014.05.02)

http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=2574

このグラフは、 http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=8230&page=2 にも転載されている (2016年4月4日付)。当初はグラフの出典をふくめて何の説明もなかったが、現在は追記されている。

データの出所について

Menken ほかが使用したデータは、Louis Henry の1961年の論文からとられている。

f:id:remcat:20160425174936p:image

-----
Louis Henry (1961) "Some data on natural fertility". Eugenics quarterly. 8(2): 81-91. DOI:10.1080/19485565.1961.9987465

http://dx.doi.org/10.1080/19485565.1961.9987465

データは13件あり、出生力の高い順 (正確には、20歳で結婚した女性の完結出生児数 (Mean no. of childern per completed family of women married at 20) の高い順) に並んでいる。「Average」の下の「Great Britain」は、避妊法の普及した社会のデータを比較用に載せてあるものである。

Menken ほかの Science 論文は、これらのうち10件だけをプロットしている。これについての説明は、「The ten populations judged to have reasonable age reporting were retained in later analyses.」(p. 1394 注10) とあるのみ。Menken + Larsen (1986: 151) でも「We (following Coale and Trussell, 1974) have retained the ten for which age reporting is relatively accurate.」とある。後者で言及されている Coale and Trussell (1974) Model Fertility Schedules: Variations in The Age Structure of Childbearing in Human Populations (Population Index 40(2):185-258) によれば「Ten schedules of natural fertility were averaged after discarding schedules known to be based on surveys in which age misreporting was especially prevelant and might have distorted the pattern of fertility.」(p. 188) ということになっている。これらの説明を信じるなら、年齢の記録が不正確なデータを除いて10件を使用した、ということになる。しかし、要するに Henry (1961: Table 1) の13件のうち上から10件を取り出したものが Menken + Larsen (1986) のTable III なのだから、出生力の相対的に低い3件のデータを除いただけなのかもしれない。

Henry (1961) Table 1 下の注釈2によれば、ノルマンディーのデータ (Menken + Larsen (1986: Table III) の番号では6と7) はグラフから求めた (ので精度が低い) とのことである。イランのデータ (番号9) も精度が低いように見える (下一桁が0か5) が、これについては注釈がない。

さらにその下の注釈3 (画像ではつぶれていて読めないが) には、ノルウェーのデータ (Menken + Larsen (1986: Table III) の番号では8) は死産を含んでいたので0.96をかけて補正した、みたいなことが書いてある。大丈夫なんだろうか。

Henry (1961) Table 1 の13件のデータについて http://d.hatena.ne.jp/remcat/20160430/henry に出典を示す。いずれも、Henry (1961) の Bibliography セクションの記述と簡単なデータベース検索で分かったことだけを記している。これらの文献については、私は内容を確認していない。

Sources: Some Data on Natural Fertility (Louis Henry 1961)

Sources for Table 1 of Louis Henry (1961) "Some data on natural fertility". Eugenics quarterly. 8(2): 81-91. DOI:10.1080/19485565.1961.9987465.

The list below is based on Table 1 and the Bibliography section of Henry (1961) as well as additional information from online databases. Diacritical marks are deleted from French titles. I have not yet read any of the listed documents.

1. Hutterites: marriages from 1921-1930

2. Canada: marriages from 1700-1730

  • Jacques Henripin (1954) La population canadienne au debut du XVIII[e] siecle: Nuptialite - Fecondite - Mortalite infantile (Travaux et documents / Institut national d'etudes demographiques, cahier no. 22). Presses universitaires de France. http://ci.nii.ac.jp/ncid/BA37121582

3. Hutterites: marriages before 1921

No refenence. Maybe the same sources as 1 (Hutterites: marriages from 1921-1930).

4. Bourgeosie of Geneva: wives of men born between 1600 and 1649

  • Louis Henry (1956) Anciennes familles genevoises: etude demographique: XVIe-XXe siecle. (Travaux et documents / Institut national d'etudes demographiques, Cahier no. 26). Pressses univ. de France. http://ci.nii.ac.jp/ncid/BA55001312

5. Europeans of Tunis: (notabilities excluded) marriages from 1840-1859

  • Jean Ganiage (1960) La population europeenne de Tunis au milieu du XIXe siecle: etude demographique. Presses Universitaires. http://ci.nii.ac.jp/ncid/BA80918125
  • L. Henry (1960) "De quelques caracteristiques demographiques de la population europeenne de Tunis au milieu du XIXe siecle". Population (French Edition). 15(5):885-888. http://doi.org/10.2307/1526928

6. Sotteville-les-Rouen (Normandy): marriages and births from 1760-1790

  • Pierre Girard (1959) "Apercus de la demographie de Sotteville-les-Rouen vers la fin du XVIIIe siecle". Population (French Edition). 14(3):485-508. http://doi.org/10.2307/1526799

7. Crulai (Normandy): marriages from 1674-1742

  • Etienne Gautier + Louis Henry (1958) La population de Crulai, Paroisse Normande: etude historique. (Travaux et documents / Institut national d'etudes demographiques, no 33). Presses universitaires de France. http://ci.nii.ac.jp/ncid/BB10880998

8. Norway: marriages from 1874-1876

  • Statistique generale de la France (1907) Statistique generale du mouvement population 1749-1905.

9. Iran (villages): marriages from 1940-1950

  • Mohammad B. Mashayekhi + Pauline A. Mead + Guy S. Hayes (1953) "Some Demographic Aspects of a Rural Area in Iran". Milbank Memorial Fund Quarterly. 31(2):149-165. http://doi.org/10.2307/3348549
  • Louis Henry (1953) "Aspects demographiques d'une region rurale de l'Iran". Population (French Edition). 8(3):590-592. http://doi.org/10.2307/1525217

10. Bourgeosie of Geneva: wives of men born before 1600

No refenence. Maybe the same sources as 4 (Bourgeosie of Geneva: wives of men born between 1600 and 1649).

11. Taiwan: (rural region of Yunlin) women born about 1900

12. India: (Hindu villages of Bengal) marriages from 1945-1946

  • Frank Lorimer + Meyer Fortes + et al. (1954) Culture and human fertility : a study of the relation of cultural conditions to fertility in non-industrial and transitional societies. UNESCO. http://ci.nii.ac.jp/ncid/BA37962837

13. Guinea: (villages of Fouta-Djalon) marriages from 1954-1955

  • Etude demographique par sondage en Guinee, 1954-1955: resultats definitifs. Administration generale des services de la France d'outre-mer, Service des statistiques. http://ci.nii.ac.jp/ncid/BA80976008

2016-04-06

6月18日【シンポジウム】少子社会対策と医療・ジェンダー ― 「卵子の老化」が問題になる社会を考える

最近、「高齢妊娠」や「卵子の老化」、「妊活」などの言葉をよく耳にするようになりました。社会経済的な理由で出産を決意するまでに年齢が高くならざるをえない状況がある一方で、国や自治体の少子社会対策が、「産めなくなる」不安をあおっています。生殖医療技術、妊娠・出産をとりまく生活環境、そして少子社会対策。これらが複雑に絡み合う状況を解きあかし、「卵子の老化」が問題になる社会の核心に迫る公開シンポジウムを開催します。是非、ご参加ください。

少子社会対策と医療・ジェンダー ― 「卵子の老化」が問題になる社会を考える

日時:2016年6月18日(土)午後1時〜5時(開場12時半)
会場:日本学術会議講堂 (〒106-8555 東京都港区六本木 7-22-34)
   東京メトロ千代田線「乃木坂」駅5出口より徒歩1分

参加費無料、参加申し込みの必要はありません、直接会場にお越しください。(先着300名まで)
f:id:remcat:20160406161656j:image

総合司会

河野銀子(山形大学教授、学術会議連携会員)

企画主旨説明・ファシリテーター

柘植あづみ(明治学院大学教授、学術会議連携会員)

研究報告

  • 田中慶子(家計経済研究所研究員) 「妊娠・出産をめぐる女性の意識 ― インターネット調査から」
  • 白井千晶(静岡大学教授) 「卵子提供で子どもをもった高齢妊娠女性への調査から」
  • 菅野摂子(電気通信大学特任准教授) 「出生前検査と高齢妊娠の不安と選択」
  • 田中重人(東北大学准教授) 「高校副教材『妊娠しやすさグラフ』をめぐり可視化されたこと」

問題提起・提言 

  • 阿藤誠(元国立社会保障・人口問題研究所・所長)
  • 早乙女智子(産婦人科医、京都大学・客員研究員)

コメンテーター

  • 江原由美子(首都大学東京・教授、学術会議連携会員)
  • 小浜正子(日本大学・教授、学術会議連携会員)

(敬称略)



主催:日本学術会議第1部会社会学委員会ジェンダー研究分科会
協力:日本学術振興会科学研究費助成事業 基盤研究(B)「医療技術の選択とジェンダー:妊娠と出生前検査の経験に関する調査」(研究代表者 柘植あづみ 25283017)研究グループ(略称 妊娠研究会)

ポスター (PDF 日本学術会議サイト内) [2016-05-27 追記]

2016-04-01

柘植 あづみ (2016)「少子化対策の教育への浸潤: 「医学的・科学的に正しい知識」とは」『現代思想』44(9):218-227

 本稿では、この副教材「健康な生活を送るために(高校生用)』(平成二七年改訂版)のうち、少子化社会対策としてぺージ数が増やされ、内容が改訂された妊娠・出産のページ(全四ページ)を検討することによって、行政と専門家集団(ここではおもに産婦人科医)が「医芋的・科学的に正しい知識」という看板を掲げてなりふり構わずに少子化対策に邁進している状況を伝え、それが教育に浸潤する問題について考えたい。
(p. 219)

報道で取り上げられた箇所だけは修正し、そうでない部分については対応しないという姿勢に問題がある…少子化社会対策のイデオロギーで歪めた知識を高校の副教材に持ち込むことを止めるべきである
(p. 224)

生殖が国家の大きな関心事であり、管理の対象となってきたことと、それが女性だけではなくその社会に生きるすべての人にとって窮屈で息苦しい社会をもたらしてきたことは歴史が示している。
(p. 225)

『現代思想 2016年4月号』(青土社)
特集=教育サバイバル
http://www.seidosha.co.jp/?9784791713202

2016-03-31 図解:「妊娠のしやすさ」をめぐるデータ・ロンダリングの過程

【解題】高校保健副教材「妊娠しやすさ」グラフの適切さ検証: 人口学データ研究史を精査

2016年3月30日 東北大学から下記論文に関するプレスリリースを発表

田中重人 (2016)「「妊娠・出産に関する正しい知識」が意味するもの: プロパガンダのための科学?」『生活経済政策』230: 13-18.
http://tsigeto.info/16a

以下、内容について解題。最初にポイントをならべておくと、つぎのとおり:

  • 「妊娠のしやすさ」グラフの原典は早婚女性限定の「受胎確率」の変化を推定したもので、結婚からの時間経過による性行動変化と加齢の効果を混同している
  • 論文出版の翌年(1979年)にすでに批判があり、それへの反論はおこなわれていない
  • 「22歳ピーク」は原典のグラフにはなかったものであり、その後(1989年以降)のグラフ操作で作られた
  • 副教材公表当初の改竄グラフは吉村泰典内閣官房参与が作成したもの
  • 訂正後も、原典を不正確に写した別論文からの曾孫引きで不正確

問題の所在

高校保健副教材「妊娠しやすさ」グラフの適切さ検証
人口学データ研究史を精査

東北大学大学院文学研究科の田中重人准教授は、2015年の高校保健副教材 (文部科学省作成) の「妊娠のしやすさと年齢」グラフに関し、その元データを掲載した1978年の論文(1) とそれを引用した文献を網羅的に調べました。その結果、このデータは早婚の女性に限定して推定したものであり、結婚からの時間経過による性行動変化と加齢の効果とを混同している との専門家からの批判がある(2) こと、この批判への反論や再検証はないまま放置されてきたことがわかりました。また、副教材グラフは、原典の論文ではなく、それを不正確に写した別の論文からの曾孫引きであるために本来の値からはずれた曲線になっており、原典には存在しない「22歳がピーク」という印象 を作り出しています。このようなグラフを学校教材に採用するのは不適切と田中准教授は指摘しています。

この研究成果は『生活経済政策』230号に掲載されました。


〔強調とリンクは引用時に付加したもの。以下同様。〕

http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2016/03/press20160330-02.html

この「妊娠のしやすさと年齢」グラフ問題というのは、2015年8月に文部科学省が出した副教材に変なグラフが載っていたというもの:

【背景】
高校保健副教材『健康な生活を送るために (高校生用)』改訂版 は、妊娠・出産に関する医学的・科学的知識をはじめて盛り込んだものとされ、2015年8月に公表されました。この教材には、「妊娠のしやすさと年齢」の関係を示すものとして、22歳をピークとして急激に下降するグラフが掲載されていました。これは1998年の論文からの引用とされていましたが、出典表示が不正確 であるうえに、曲線が改竄されていた ことが判明し、文部科学省は、年齢による変化がより緩やかなグラフに差し替えました。

http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20160330_02web.pdf

当初のグラフと差し替え後のグラフはそれぞれつぎのもの:
f:id:remcat:20160201171332p:image
http://web.archive.org/web/20150822025627/http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/08/17/1360938_09.pdf

f:id:remcat:20160201171333p:image
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/09/30/1360938_09.pdf

この対応に対しては、差し替え後のグラフも不適切だとの指摘(毎日新聞2015年9月2日) があります。これに対し、日本生殖医学会は、このグラフは「長年用いられてきたグラフで」「適切である」とする 理事長コメント (2015年9月7日) を出しています。しかしこの議論は、グラフに批判的に言及した2次資料(3)(4) の断片的な説明しか参照しておらず、 原典資料 に基づいた議論はおこなわれてきませんでした。

http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20160330_02web.pdf

ちょっと信じがたい話だが、学会理事長名で「本会としてもこのグラフを推奨する」と主張したコメント で、そのグラフを導いた論拠となる論文を参照していないのである。文中に出てくる O'Connor et al. (1998) や Wood (1989) は批判すべき先行研究に言及する際にグラフを載せているだけで、データの性質と計算方法がわかるような説明はない。要するに、日本生殖医学会は、グラフの根拠を何も示さずに正当性だけ主張して、それが通ると考えたらしい。(この理事長コメントの問題点はほかにも山ほどあるのだが、今は省略。)

また、このグラフについては、内閣官房参与が副教材用に提供したものであること、同人が ウェブサイトや講演資料で使用 していたこと、日本産科婦人科学会などの学術団体が内閣府に「学校教育における健康教育の改善に関する要望書」を共同提出した際の参考資料に含まれていたこと (日本家族計画協会『家族と健康』732号) がわかっています。しかし具体的な作製過程について、同人は「誰が作製したのか分からないが、産婦人科では長年広く使われてきたグラフだった」と語ったと報じられており (毎日新聞2015年8月26日)、経緯は不明なままでした。

http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20160330_02web.pdf

ここで「このグラフ」というのは、 副教材に当初載った改竄グラフ のこと。「内閣官房参与」というのは、吉村泰典・慶應義塾大学名誉教授 (日本産科婦人科学会元理事長、日本生殖医学会元理事長、吉村やすのり生命の環境研究所 所長) のこと。問題の「妊娠のしやすさ」改竄グラフは、これまでに5点見つかっているが、それらすべてに吉村氏がかかわっている。特に、自身が所長をつとめる「吉村やすのり生命の環境研究所」サイトに載せた記事では、「22歳時の妊孕力を1.0とすると、30歳歳では0.6を切り」などと、改竄グラフ以上に数値の落ち込みを誇張した説明文つきである。これらの記事は、現在でも修正されることなくそのまま掲載されている。

本来なら、日本産科婦人科学会、日本生殖医学会等が調査委員会を設定し、また改竄グラフを教材を載せてしまった内閣府・文部科学省も責任の所在をきちんと追及すべきところであったはずだが、そうしたことは一切なされていない。有村内閣府特命担当大臣 (当時) は 2015年10月2日の記者会見 で「なぜこうなってしまったのかの経過を、私自身がやはり責任を痛感しておりますので、しっかりと御本人〔吉村氏〕から聞いて、そして陳謝を御本人もされていました」と述べている。しかし、そこで聞き取ったという「なぜこうなってしまったのかの経過」は、現在に至るまで公表されていない。

原典 (Bendel and Hua 1978) は何を推定したのか

【研究の内容】
田中准教授は、このグラフの元データ (図1) を算出した 1978年の人口学論文(1) と、 それを引用した文献23本 を網羅的に調べました。その結果、このデータの25歳以上の部分は、20代前半までに結婚した早婚女性に限定しての推定であるため、結婚からの時間経過による性行動変化を反映している可能性が高いことがわかりました。一般に、結婚から時間がたつにつれ、夫婦間の性交渉は不活発になります。このため、ある特定の年齢のときに子供ができる確率は、早く結婚した夫婦のほうが、遅く結婚した夫婦より低いのです。したがって、 早婚女性だけの分析では、加齢による受胎確率の低下を実態よりも大きく見積ってしまう ことになります。

http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20160330_02web.pdf

f:id:remcat:20160309184317p:image

http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20160330_02web.pdf

図1に書き込んであるように、この原典 (Bendel and Hua 1978) は、台湾における1960年代の調査による結婚−妊娠間隔 (Jain 1969) と北米ハテライト (宗教的な理由から避妊と人工妊娠中絶を拒否してきたキリスト教フッター派の人々) の1950-60年代の年齢別出生率 (Sheps 1965) を主なデータとしている。台湾データの20-24歳の平均値を1.0とおいて、それを基準に、10代 (台湾) と25-47歳 (ハテライト) の1か月あたり受胎確率 (fecundability) を求めている。なお、この論文は Jean-Pierre Bendel と Chang-i Hua の連名であるが、Bendel が Carnegie-Mellon 大学に提出した博士論文 (Bendel 1978) にほぼおなじ内容のモデル推定が載っていることから、モデル構築と推定は Bendel 単独でおこなったものと考えてよいのではないかと思う。

24歳までの台湾データを利用した fecundability の求めかたについては d:id:remcat:20150915 を参照されたい。

25歳以降がハテライトの年齢別婚姻内出生率 (age-specific marital fertility rate: ASMFR) を利用した推計であるが、これはつぎの式によっている。

f:id:remcat:20160331153632p:image
Bendel and Hua (1978) p. 215 式 (11)。 赤線は引用時に付加したもの。〕

式 (11) 左辺の F が ASMFR であり、これが積分をふくむ右辺の式で求められることになる。この右辺の分母の中に入っている ρ*i が女性i の基準年齢 (20-24歳) 時の受胎確率で、ベータ分布にしたがうと仮定されている。その前にかかっている q というのが、年齢の効果を表す係数であり、最終的にこれを求めたいわけである。その他の記号の意味はつぎのとおり:

f:id:remcat:20160331153630p:image
Bendel and Hua (1978) p. 214。〕

問題は、これだけ未知パラメータがあるのにハテライトのデータからは F だけしかわからないというところ。当然この式はそのままでは解けない。そこで、強引にさまざまな制約を置き、(ハテライト以外の) さまざまな集団についての既存のデータから、パラメータの値を適当に代入していく。たとえば流産の確率 (式11では Q2) について、Bendel and Hua (1978: Table B.3) は年齢による影響はあまり受けないという理屈を立てて、年齢による増加があまりない数値を代入している。今日では、流産は加齢とともに急速に確率が上がるという説明が一般的で、吉村泰典氏も日本生殖医学会もふだんそう主張している (これが正しいのかどうかは私は判断できない) のだが、そういうのとは全然ちがう数値である。


さて、この式 (11) のFすなわち年齢別婚姻内出生率 (ASMFR) はハテライトのデータからえられるわけだが、ここでなぜか Bendel and Hua (1978) は、20代前半までに結婚した女性のデータだけに限定するのである。

f:id:remcat:20160331153631p:image
Bendel and Hua (1978) p. 220 Table B.1。赤線は引用時に付加したもの。〕

赤線部は「結婚時に25歳以下」ということなのだが、これは書きまちがいで、「結婚時に24歳以下」のはず。というのは、データ元である Sheps (1965: 68) の Table 2 は下記のようになっていて、Bendel and Hua (1978) はこの赤枠内の数値を使っているからである。(25歳時出生率のデータだけは、結婚時20歳未満だった女性のみ。それ以外は、結婚時に20歳未満だった女性と20-24歳だった女性の2列分を足して2で割っている。)

f:id:remcat:20160331153633p:image
Sheps (1965) p. 68 Table 2。赤線は引用時に付加したもの。〕

こうして求めた値は年齢ごとに不規則に上下するので、それを平滑化して「Smoothed ASMFR」(Bendel and Hua (1978: 220) Table B.1 の右側の列) を求め、それを先にみた式 (11) の F の値として使っている。

なぜ25歳以上で結婚した女性のデータを使わなかったかについて Bendel and Hua (1978) は何も述べていない (この論文は総じてそういう傾向があって、何をやったかは数式から正確にわかるのに、なぜそうしたかがわからないデータ操作が多い)。ともかく、この操作の結果として、年齢が上がるにしたがって新婚の人がいなくなり、結婚から長い年数が経過した人が増えていくデータを使っていることになる。(現代でもそうであるが) 新婚直後がいちばん夫婦仲がよく、時間がたつにつれて仲が悪くなったり疎遠になったりするので、性行動もそれにしたがって変化する。実際、データ元の Sheps (1965) の Table 2 (上記) やその前の Table 1 はあきらかにその傾向を示しており、Sheps 自身も論文中でそのことを指摘している。Bendel and Hua (1978) 推定の25歳以上の部分は、結婚からの年数経過による性行動の不活発化という要因の影響を受けているのであり、加齢による受胎確率の低下を過大に推定していることになる。

この問題点は、論文出版の翌年に専門家によって指摘されていました(2) が、それに対する反論や再検証はおこなわれていません。また、このデータ推定の過程には、ほかにも種々の問題がありますが、それらについては妥当性のチェックすらない状態です。

http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20160330_02web.pdf

当然のことながら、そんなことは専門家が読めばすぐわかるわけである。Bendel and Hua 論文出版の翌年 (1979年) には William H. James (1979) が Sheps (1965) を引いて上記とおなじことを指摘 し、40歳までの受胎確率低下の主要因は性交頻度の低下じゃないの、と書いている。下記の Wood (1989) なども基本的にこれと同じラインに乗った批判を展開している (ただし Sheps (1965) の元データには触れていない)。

でどうなったかというと、Bendel and Hua (1978) はその後ほとんど引用されていないのである。各種データベースで探せる引用文献は23本しかない。それらのほとんどは、先行研究のひとつとして簡単に紹介しているだけ。結果として、推定方法とデータ処理のさまざまな問題がほとんど検討されないまま放置されている。この時点で、学界内で批判にさらされて生き残った研究成果といえるようなものでないことはあきらかなのであって、高校生に限らず、一般向けに「科学的な知識」として紹介していいものではなかろう。

グラフがどのように改変されてきたか

しかも、教材のグラフは、この原典ではなく、それを加工して批判的に引用した 1989年の論文(3) のグラフを写した 1998年の論文(4) からの曾孫引きによるものです。 コピーされるたびに曲線が変形 してきた結果、このグラフは原典の推定値にほとんど重ならず、 本来データ上の根拠がない「22歳がピーク」という印象 を作り出しています (図2)。

http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20160330_02web.pdf

O'Connor et al. (1998) までに曲線が変形されていく過程は d:id:remcat:20150915 にまとめてあるので、そちらを参照されたい。どこまで意図的なのかはわからないのだが、どの段階でも、グラフが正確に写されてはいないのである。さらに、今回の問題が発覚して文部科学省が副教材の正誤表をつくったあとの段階で、また写しまちがい (というか横軸の目盛りの打ちまちがい) によるずれが発生している。なんで正確に写せないのだろうか。Bendel and Hua (1978) の表には小数第2位までの精度の数値が載っているのだから、そこから曲線を描きなおせばいいだけなのだが。

f:id:remcat:20160309184318p:image

http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20160330_02web.pdf

ともかく、「女性の妊娠のしやすさは22歳がピーク」という今回流布してしまった言説には データ上の根拠は何もない ということを強調しておきたい。

以上のように、妥当性に問題がある人口学研究の推定値を不正確に写したグラフをさらに改竄して、22歳をピークに急激に低下していく印象を与えるグラフを、産婦人科・生殖医学の専門家が作り、政府に売り込んで高校生向け教材に載せた (図3)、というのが今回の事件の経過です。田中准教授は、このほかに、教材公表当初のグラフは内閣官房参与が自ら作成した、と本人が認めていた (市民団体の質問への回答 2015年12月) ことも指摘しています。

http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20160330_02web.pdf

吉村内閣官房参与の「市民団体の質問への回答」というのは、高校保健・副教材の使用中止・回収を求める会による「高校保健・副教材作製に関わった関連専門団体および有識者への質問状と回答」 のこと。この回答のなかで、吉村氏は、副教材に当初掲載されたグラフについて「当該グラフは当方が内閣府に提供したもの」と答えている。また 毎日新聞2015年8月25日の記事 に関して、「訂正後のグラフは、生殖医療関係の研究会や講演会などで使われていました。当初のグラフは当方の手違いにより誤ったグラフとなってしまい、大変申し訳ないと感じている」と答えている。つまり、22歳をピークに直線的に妊娠のしやすさが低下していく「当初のグラフ」は、それ以前から使われていたようなものではなく、吉村氏が作ったものだというのである。ちなみに、その「当初のグラフ」とは、本来は1歳刻みのプロットであった曲線から7つの点だけを抽出し、うち3つを内側に動かしてほぼ直線上にならべた というものであった。どのような「手違い」でこんなことが生じうるのか、ぜひ実演していただきたいものである。

図解:「妊娠のしやすさ」をめぐるデータ・ロンダリングの過程

結局、一連の事件の大雑把な見取り図は次のような感じになる。

f:id:remcat:20160309184319p:image

http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20160330_02web.pdf

プレスリリース本文の最後は次のようになっている。これについては解説は不要であろう。

データ改竄は専門家の提供する「科学的知識」への信頼を揺るがします。それに加え、問題のあるデータを無批判に利用してきたこと、不正確な引用を繰り返してきたこと、そして原典資料と研究史のチェックを怠ってきたことは、この研究分野における根深い問題があることを示唆しています。

http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20160330_02web.pdf

【文献】
(1) JP Bendel, C Hua (1978) "An estimate of the natural fecundability ratio curve." Social biology. 25(3): 210-227.
(2) WH James (1979) "The causes of the decline in fecundability with age." Social biology, 26(4): 330-334.
(3) JW Wood (1989) "Fecundity and natural fertility in humans." Oxford reviews of reproductive biology, 11: 61-109.
(4) KA O'Connor, DJ Holman, JW Wood (1998) "Declining fecundity and ovarian ageing in natural fertility populations." Maturitas, 30(2): 127-136.

http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20160330_02web.pdf

吉村泰典「妊娠のしやすさ」改竄グラフコレクション

22歳をピークとして「妊娠のしやすさ」が急激に低下する改竄グラフをつくったのが吉村泰典内閣官房参与 (慶應義塾大学名誉教授、日本産科婦人科学会元理事長、日本生殖医学会元理事長、吉村やすのり生命の環境研究所 所長) であることがはっきりしたところで、これまでに確認されている改竄グラフ5枚の情報をまとめておきたい。

以下、日付順に並べる。いずれもグラフの曲線の形状は同一であり、横軸の21歳の位置に「22歳」の目盛りがあること、その位置に縦点線を引いてピークを強調してあること、縦軸のラベルは「妊孕力」であること、出典表示が第1著者名+年号だけであることなどの特徴がある。

最古のグラフは2013年6月25日。吉村やすのり生命の環境研究所サイトのブログ記事。Fecundability を「妊孕性」=「妊娠する生物学的能力」と呼んでいるところに、いかにも「わかってない」感が漂っている。30歳時の値はグラフ上は0.64くらいなのだが、説明文では「30歳では0.6を切り」となっており、改竄グラフ以上に値の減少が強調されている。

加齢とともに妊娠できる能力は低下する。この妊娠する生物学的能力を妊孕(にんよう)性とか妊孕力と呼ぶ。妊孕力のある状態はFecund、妊孕性はFecundability(F)と表記される。
……
f:id:remcat:20150904063811j:image
女性の年齢と妊孕力との関係を図2に示す。22歳時の妊孕力を1.0とすると、30歳では0.6を切り、40歳では0.3前後となる。これらの結果は、自然妊娠にもとづくデータであるが、この妊孕力は、体外受精・胚移植などの生殖補助医療を受けることを考慮に入れても、有意な上昇はみられないとされている。つまり、35歳以降の妊孕性低下にともなう出生数の減少は、生殖補助医療を用いてもカバーすることができないと考えられている。

吉村やすのり「卵子の老化―続報― 女性の年齢と妊孕力との関係」
http://yoshimurayasunori.jp/blogs/卵子の老化―続報―-女性の年齢と妊孕力との関係/ 2013年6月25日

http://htn.to/iwLzgH

つぎは、おなじブログの2014年8月11日の記事。「生命と女性の手帳」(いわゆる「女性手帳」) についての言い訳のあと、「女性の理想的な妊娠時期は25歳から35歳」であることを示す根拠として登場する。「22歳を1とすると35歳に0.4」とあるのだが、グラフの35歳時点の値はそれより高い (というか37歳の時に0.4くらいである)。

f:id:remcat:20160201170021j:image
女性が妊娠できる能力、つまり妊孕力は、22歳を1とすると35歳に0.4、40歳前後には0.2まで減少する

吉村やすのり「女性の生殖年齢の適齢期とは」
http://yoshimurayasunori.jp/blogs/女性の生殖年齢の適齢期とは/ 2014年8月11日

http://htn.to/6F5YjR

3つ目は、おなじブログの2014年11月15日の記事。グラフの値についての説明はない。出典表示が手書きであるところが特徴。

f:id:remcat:20160201170020j:image
※妊孕力(にんようりょく)とは、女性あるいは夫婦が子どもを産む能力のこと
 妊娠するヒトは人間である前に哺乳動物であり、生殖年齢には適齢期があることをご存知でしょうか。
妊娠適齢期は、「25歳~35歳」であるといわれています。いくら晩婚化が進んだとしても女性の身体がそれと比例していくつになっても妊娠・出産が可能な身体であるわけではないのです。月経があるうちは妊娠できると思い込んでいる女性が多いようですが、残念ながらそうではありません。妊娠適齢期はずっと昔から変わっていないのです。初潮年齢は低年齢化していますが、閉経年齢については明治時代初期とほぼ変わりがないことからも明らかです。

吉村やすのり「妊娠年齢の適齢期」
http://yoshimurayasunori.jp/blogs/妊娠年齢の適齢期/ 2014年11月15日

http://htn.to/CGJ3GCJo

4つ目は、9団体 (日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本生殖医学会、日本母性衛生学会、日本周産期・新生児医学会、日本婦人科腫瘍学会、日本女性医学学会、日本思春期学会、日本家族計画協会) が共同で内閣府に提出した要望書の資料にふくまれていたというグラフ。「吉村泰典内閣官房参与から有村治子内閣府特命担当大臣に「学校における健康教育の改善に関する要望書」が手渡された」という。他の4つのグラフにくらべて横幅が狭い。またキャプションに「妊娠しやすさ」という文字列が入っている。

f:id:remcat:20150904063810g:image
近年の顕著な晩婚化・晩産化により、第1子出産時の母の平均年齢はこの30年でおよそ4歳上昇。年齢が高齢化すれば、女性の妊娠する能力は低下する(図1)。さらに不妊・不育症となる確率や妊産婦死亡率、出生児に染色体異常が起こる確率などは上昇する。要望書では、「結婚や妊娠・出産は、個人の選択によるもの」とした上で、「子どもを生み育てたいという希望がかなうためには、正しい知識に基づき判断できることが必要」と、現在の社会状況に合った学校教育の改善を求めている。

日本家族計画協会『家族と健康』732号 2015年3月

http://web.archive.org/web/20150826040308/http://www.jfpa.or.jp/paper/main/000430.html#1

5つ目は、2015年3月4日の講演資料。慶應義塾大学のマーク入りである。グラフについての説明はなし。

f:id:remcat:20150904063809p:image

吉村泰典「女性のからだと卵子の老化」2015年3月4日 講演資料

http://www.kenko-kenbi.or.jp/uploads/20150304_yoshimura.pdf


最後に、文部科学省作成の教材『健康な生活を送るために (高校生用)』改訂版 (2015年版) に載ったグラフを参考までに見ておこう。縦軸ラベルが「妊娠のしやすさ」になっている。また、「22歳」の目盛りも正しい位置にある。有村内閣府特命担当大臣 (当時) は 2015年9月4日の記者会見 で「国家公務員が内容について手を加えたということは一切ございません」と明言していたので、これを信用するとすると、吉村氏が間違いに気が付いて修正したのであろう。

f:id:remcat:20160201171332p:image
文部科学省『健康な生活を送るために (高校生用)』 2015年8月

http://web.archive.org/web/20150822025627/http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/08/17/1360938_09.pdf

厚生労働省 動画「妊娠と不妊について」(2014年)[2016-04-21 追記]

このグラフを使って説明する吉村泰典の動画を厚生労働省 YouTube サイト MHLWchannel で見つけたので、追加。

厚生労働省「妊娠と不妊について」
f:id:remcat:20160417210518p:image
2014/03/05 に公開
この動画は、妊娠のしくみや不妊の原因等について、約12分でわかりやすく解説したものです。この機会に、年齢と妊娠・出産のリスクの関係等について知ってください。

https://www.youtube.com/watch?v=mgW51MUELqI

グラフが登場するのは、6'36あたりからの「妊娠の適齢期」セクション。「22歳を1とすると35歳前後で40%前後、40歳になると20%前後まで低下」(正確な書き起こしではない) という感じの説明なので、ほぼ2014年8月11日のブログ記事「女性の生殖年齢の適齢期とは」 と同じ。

f:id:remcat:20160417210520p:image