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2015-08-23 「妊娠のしやすさ」をめぐるデータ・ロンダリングの過程

http://togetter.com/li/863911 あたりで問題になっていることについて、そもそもの「Apparent fecundability」データがどういう来歴のものか、現時点 (2015-08-28 08:15) で見当がついている情報を並べてみた。なお、私が読んでいるのは、下記にあげた文献のうち、Wood (1989), Wood (1994), O'connor et al. (1998), 吉村 (2013), 日本家族計画協会 (2015), 吉村 (2015), 有村 (2015), 文部科学省 (2015) だけ。不確定な情報もあるので、今後修正する可能性あり。

[この問題に関する私のツイート →https://twitter.com/twremcat/status/634999819711283200 から会話を辿る]

[Togetter http://togetter.com/li/865888 に途中までまとめられている]

・ハテライトの自然出生力の年齢別データを出したのは Mindel C. Sheps (1965) An analysis of reproductive patterns in an American isolate. http://doi.org/10.1080/00324728.1965.10406005

・台湾の自然出生力の年齢別データを出したのは Anrudh K. Jain (1969) Fecundability and its relation to age in a sample of Taiwanese women. http://doi.org/10.1080/00324728.1969.10406029

・これらを利用して年齢別の fecundability 曲線を描いたのが Bendel + Hua (1978) An estimate of the natural fecundability ratio curve. http://doi.org/10.1080/19485565.1978.9988340

・これを使って再計算したのが James W. Wood (1989) Fecundity and natural fertility in humans. http://www.popline.org/node/376892 の Fig. 2.7 (p. 77)。縦軸は「APPARENT FECUNDABILITY (AGE 22=1.0)」(数値範囲は 0.0 - 1.0)。注釈に、データ源について記されている。

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・これとほぼ同じグラフが Wood (1994) _Dynamics of human reproduction_ ISBN:0202011798 Figure 7.5 (p. 322)。縦軸は「Apparent fecundability (Age 22=1.0)」(数値範囲は 0.0 - 1.0)。注釈に、データ源と計算方法について Wood (1989) より詳細な内容が記されている。Wood (1989) はこの図の引用元としては記載されていない (書籍末尾の文献一覧にはある)。

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・バングラデシュの自然出生力集団でデータをとって total fecundability と年齢の関係を調べたのが
O'Connor + Holman + Wood (1998) Declining fecundity and ovarian ageing in natural fertility populations. http://doi.org/10.1016/S0378-5122(98)00068-1 Wood (1989) から引用した図として、Fig. 3. が出てくる。縦軸は「Apparent fecundability (Age 22=1.0)」(数値範囲は 0.0 - 1.0)。見出しは「Composite age pattern of fecundability compiled from birth interval data from several natural fertility populations. Redrawn from Wood [1].」。データ源についての注釈がなく、なんのデータかわからなくなっている。

・吉村やすのり (2013) のブログ記事「卵子の老化―続報― 女性の年齢と妊孕力との関係」 http://t.co/XqIydy95wa に問題のグラフが登場。縦軸は「妊孕力」となっていて、この時点で、Wood や O'Connor et al. が形容詞「Apparent」をつけていたことが無視されている。縦軸の数値最大は1.0だが、軸はそれより上に伸びている。横軸下に「22歳時の妊孕力を1.0とする」とある。出典は「(O`Connor et al, 1998)」とだけあり、データについての説明はない。このグラフについて、「22歳時の妊孕力を1.0とすると、30歳では0.6を切り、40歳では0.3前後となる。」との解説。O'Connor et al. (1998) がこのデータは total fecundability を反映したものではないと結論付けていることには、まったく言及されていない。

・日本家族計画協会 (2015) 機関紙 (第732号, 2015年3月1日) http://www.jfpa.or.jp/paper/main/000430.html 記事「学校教育の改善求め要望書提出:本会、日本産婦人科学会など9団体」の図1「女性の妊孕力 (妊娠しやすさ) の年齢による変化 (要望書・参考資料より)」に吉村 (2013) と同様のグラフ。ただしモノクロ。縦軸ラベルは「妊孕力」(数値最大値は1.0だがその上部まで軸が伸びている)、単位についての説明なし。22歳のところに縦点線。出典は「O'Connor et al, 1998」。データについての説明はない。記事には次のように書かれている。

1月下旬、本会を含む学際的9団体(日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本生殖医学会、日本母性衛生学会、日本周産期・新生児医学会、日本婦人科腫瘍学会、日本女性医学学会、日本思春期学会、本会)を代表して、吉村泰典内閣官房参与から有村治子内閣府特命担当大臣に「学校における健康教育の改善に関する要望書」が手渡された。

http://www.jfpa.or.jp/paper/main/000430.html

なお、内閣府のページ「日本産科婦人科学会等9団体からの要望書手交」 http://www.cao.go.jp/minister/1412_h_arimura/photo/2015-010.html によると「平成27年3月2日(月)、小西郁生日本産科婦人科学会理事長など9団体の代表が有村治子少子化対策担当大臣を訪れ、「学校教育における健康教育の改善に関する要望書」を提出しました。」とある。1月に提出したのと同じ9団体だが、要望書タイトルの冒頭が「学校における」ではなく「学校教育における」になっている。こちらのほうは内容不明。

・吉村泰典 (2015) 女性のからだと卵子の老化 (講演資料) http://www.kenko-kenbi.or.jp/uploads/20150304_yoshimura.pdf に吉村 (2013) と同様のグラフ。出典表記なども吉村 (2013) と同じ。

・有村治子 (2015) 平成27年4月20日全国知事会配布資料 http://www.nga.gr.jp/ikkrwebBrowse/material/files/group/2/03%20150420syousika.pdf p. 4 に O'Connor + Holman + Wood (1998) Fig. 3. に酷似したグラフが登場。縦軸ラベルはなし。図中に「女性の妊孕力(妊娠しやすさ)の年齢による変化(22歳を1とする)」との注釈あり。22歳付近に水色の縦線が加えられている。データに関する記述なし。出典表記なし。

・文部科学省 (2015) 健康な生活を送るために(平成27年度版)【高校生用】. http://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/hoken/08111805.htm が p. 40 に問題のグラフを掲載。図上部に「女性の妊娠のしやすさの年齢による変化」という見出し。縦軸は「妊娠のしやすさ」(数値最大値は1.0 だが、その上部まで軸が伸びている)。22歳のところに水色の縦点線。横軸下に「22歳時の妊娠のしやすさを1.0とする」との注記。出典は「(O'Connor et al. 1998)」とのみ表記。データについての説明はない。なお、教材作成に使用した資料の一覧はない模様。教材の「委員」「支援者」「作成協力者」一覧は http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/08/17/1360938_01.pdf にある。

この記事の履歴


2015-08-23 16:26 作成

2015-08-25 20:00 以下の点を修正

  • Bendel + Hua (1978) について、「妊孕力」→「fecundability」に修正
  • Wood (1989) を追加し、Wood (1994) と項目を分離
  • Wood (1994) について情報を追加
  • O'Connor + Holman + Wood (1998) の項、「fecunditabiligy」→「fecundability」に訂正。情報を追加
  • 吉村 (2013) について説明を追加
  • 有村 (2015) を追加
  • 文部科学省 (2015) について情報を追加

2015-08-28 08:15 以下の点を修正

  • Togetter へリンク追加
  • 日本家族計画協会 (2015) 追加
  • 下記の「修正以外の付加的な情報」に私のツイートへのリンクを追加

修正以外の付加的な情報

問題の大枠がわかっていない人は、中澤港さんの解説 http://minato.sip21c.org/bulbul2/20150824.html に目を通しておくとよい。

私なりの説明は https://twitter.com/twremcat/status/636463613587271682 以下のツイートを参照。ただし、私はこの分野の専門家ではないので、ツイート情報の利用には十分注意されたい。

結局 Wood ほかの研究では「妊娠のしやすさ」はどうなってるのよ、という疑問を持たれたかたは下記のツイートを参照:

2015-08-25 21:58 注記

25日午後以降の報道の内容は、上記修正には反映していない。