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2016-11-14 Probrem of ”New Femininity Test”

I Lady 「新・女子力テスト」問題

電通ギャルラボと国際NGOジョイセフが作った「粉かけ罰ゲーム」CMの件

http://grapee.jp/153401 日本女性の「女子力」は先進国で最下位レベルだった…!ってどういうこと?
http://togetter.com/li/1047549 新・女子力テスト。「コンドームを自分で買ったことある?」→「NO」で粉ぶっかけ懲罰される「日本女性のリプロダクティブ・ヘルスの知識、先進国の中で最下位レベル」広告の意味不明。
http://togetter.com/li/1047527 「女性に粉かけ罰ゲーム動画」が「国際NGOジョイセフ(妊産婦支援団体)×電通」のディストピア
http://gallabo.com 電通ギャルラボ
https://www.joicfp.or.jp JOICEP

https://twitter.com/ykhre/status/797231929602949120 「新・女子力テスト:日本の女子たちは本当に女子力が高いのか?」(雪原さんによる複製版)
https://twitter.com/ykhre/status/797739088568676352 "A Famininity Test: Do Japanese Women Have the High Femininity for Real?" (雪原さんによる英語字幕付き)

ここで取り上げたいのは、CMそのものというより、CMの最後のほう (1'57 くらいから) に出てくる「日本女性のリプロダクティブ・ヘルスの知識、先進国の中で最下位レベル」という字幕。

f:id:remcat:20161114031511p:image
「新・女子力テスト:日本の女子たちは本当に女子力が高いのか?」(雪原さんによる複製版) 1分57秒

https://twitter.com/ykhre/status/797231929602949120

いったい何を指して「最下位レベル」と言っているのだろうか?

「スターティング・ファミリーズ」調査またはIFDMSの問題

CM自体には根拠は提示されていないのだが、製作者の記事を読むと、次のように書いてある。

妊娠に関する知識、ワースト2位の事実
女性の活用が政策に盛り込まれ、多様な施策が検討されている日本ですが、「妊娠に関する知識の習得度」を調べた研究論文では日本は先進国18カ国の中トルコに次ぐ下位から2番目の17位でした。女性のライフプランニングに大きく関わっていくリプロダクティブ・ヘルス/ライツの知識が、普及していないことが証明されたのです。

〔表「妊娠に関する知識の習得度 (2013)」省略〕

(出典:Human Reproduction,28:385-397, 2013)

小川 愛世 (2016-03-08)「ガールミーツガールプロジェクト リレーコラム #03自分を幸せにする「女子力」ってなんだろう。長寿の国、日本女子が抱える「健康の課題」。」(ウェブ電通報)
http://dentsu-ho.com/articles/3775

ここで引用されている論文 (Human Reproduction, 28:385-397, 2013) は Bunting + Tsibulsky + Boivin (2013) "Fertility knowledge and beliefs about fertility treatment" http://doi.org/10.1093/humrep/des402 である。これは、 http://d.hatena.ne.jp/remcat/20160314/ifdms で紹介した、いわゆる「スターティング・ファミリーズ」調査 (または International Fertility Decision-making Study: IFDMS) の論文。この論文中には、国連の人間開発指数 (HDI) がすごく高い国とそうでもない国にわけたグラフが載っており、日本はその「すごく高い」国の中でいちばん低い得点となっている。

日本ではこの調査結果を真に受けて「日本はトルコの次に知識が低い」などと吹聴して回る産婦人科医や学会やジャーナリストが続出し、ついには「少子化社会対策大綱」(2015年) の数値目標の根拠として採用されるところまで行ってしまったのだが、調査の内容はきわめて質の低いもので、とうてい国際比較に使えるようなものではない。そのあたりのことは http://synodos.jp/science/17194 にまとめたので、そちらを参照していただきたい。なお、調査内容について詳しいことを調べるまでもなく、そもそも 当の論文自体 に、対象者選択の問題で偏りがあることが再三警告されており、研究のスポンサーであった製薬会社が出したプレスリリース でも「調査結果は一般集団を代表するものではなく」「文中に登場する国名についても、〔……〕必ずしもその国を代表するものではありません」とわざわざ断っているくらいなので、論文をちゃんと読みさえすれば、「妊娠に関する知識、ワースト2位の事実」などという根拠に使えないデータであることは明白である。

さらに、この調査で使われている質問項目は次のようなもので、要するに、子供が欲しくなった時に確実に妊娠するにはどうしたらよいか、という系統の知識しか聞いていない。不妊カウンセリングなどを受けて、医師が推奨するハウツー的な知識を仕入れてくれば正解できるのであって、確実に避妊する方法とか、妊娠までに体内で何が起こるかとかいった体系的な知識は必要ないのである。

(1) 女性は36才を過ぎると受胎能力が落ちる
(2) 避妊法を用いずに1年間定期的に性交をして妊娠しなかった場合に、夫婦は不妊であると分類される
(3) 喫煙は女性の受胎能力を低減する
(4) 喫煙は男性の授精能力を低減する
(5) 健康なライフスタイルであれば受胎能力がある
(6) 夫婦10組のうち約1組は不妊である
(7) 男性が精子を産生するなら授精能力がある
(8) 今日では40代の女性でも30代の女性と同じくらい妊娠する可能性がある
(9) 男性が思春期後におたふくかぜに罹った場合には、後で授精能力の問題につながる可能性が高い
(10) 月経が無い女性でも受胎能力がある
(11) 女性が13キロ以上太りすぎていると妊娠できないかもしれない
(12) 男性が勃起できることは、授精能力があることを示す
(13) 性病に罹ったことのある人は受胎能力が減少する

そして、質問文を並べれば一目瞭然だが、翻訳の質が低い。論文 のAppendixに載っている英語版と突き合わせると、13問のうちすくなくとも10問は翻訳に失敗している というべきである。

「子宮頸がん検診受診割合」の問題点

もうひとつ、「知識が最下位レベル」であることの根拠になっているらしいのが、婦人科 (子宮頸がん) 検診の受診率 (37.7%)。「調査対象国22カ国中最下位」とか書いていて、引用しているデータは "OECD Health Data 2013" なのだが、日本のデータ源は2010年の「国民生活基礎調査」のようである。OECD サイトにある現在のデータ には2013年のデータが搭載されていて、もう少し高い値 (42.1%) になっている。こういうデータ集は、各国でちがうやりかたで集めたデータを無理やり接合しているわけで、比較可能かどうかは慎重に検討する必要があるが、上で見たように、IFDMSのようなトンデモ調査を信じている人たちに、そうした検証作業は期待できまい。

ちなみに国民生活基礎調査の各年の結果は http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21kekka.html
調査票は http://www.mhlw.go.jp/toukei/chousahyo/#00450061
2013年版のがん検診の質問項目は http://www.mhlw.go.jp/toukei/chousahyo/koku25ke.pdf 7ページにある。

2013年国民生活基礎調査による各種がん検診 (胃・肺・子宮頸・乳・大腸) の受診率は、日本医師会 https://www.med.or.jp/forest/gankenshin/data/japan/ がまとめている。これによれば、男女とも、検診受診率が全体的に低いのであって、女性の婦人科関連検診だけが低いわけではない。相対的にみれば男性のほうが高いが、これは男性のほうが正規雇用の形で職場健診に組み込まれていることが多いということで説明がつくのではないか。実は、この「新・女子力テスト」を作った「I Lady」のサイト自身の記事にも、次のように書いてあるのである。

有職者女性は職場の健康診断の「オプション」として婦人科検診の機会はあるものの、学生・主婦・非正規雇用の方などはその機会がありません。市町村から案内が来る地域もありますが、強制力はないので本人が自発的に「行こう」と思わなければその機会は失われてしまいます。

「LADY COLUMN あなたのリプロダクティブ・ヘルスのレベルは? ―女性がもっと、「性」に主体的になるために」(2016-07-06)

http://ilady.world/repro/2016/07/06/376/

非正規雇用は「有職者」にふくまないというのがいったいどういう認識からくるのかよくわからないところであるが、それはともかく、これは健康診断の制度がどうなっているかによって受診率が大きく変わることを示している。そうした要因を検討せずに国別の受診率の高低を個人の「知識不足」に結びつけることはできない。

というわけで、「子宮頸がん検診受診割合」が低いからといって、そこから女性のリプロダクティブ・ヘルス/ライツの知識不足を導くのは、3つの点で誤っている可能性がある:

  • 男女共通の問題を、女性特有の問題と取り違えている
  • 健康一般の問題を、リプロダクション特有の問題と取り違えている
  • がん検診の制度の問題を、個人の知識の問題と取り違えている

「模範解答」の根拠の問題

以上のように、「日本女性のリプロダクティブ・ヘルスの知識、先進国の中で最下位レベル」というキャッチフレーズには根拠がない。しかし、これが間違っていたとしても、「新・女子力テスト」であつかっている知識自体がちゃんとしたものであれば、正しい知識を広める役割を持っているという点では肯定的に評価できるかもしれない。

ところが、「新・女子力テスト」の「模範解答」の根拠として http://ilady.world/question_model/ に上がっているのは、つぎのようなものである:

  • オムロンのヘルスケアサイト
  • フランスベッドの睡眠サイト
  • ユニチャームの生理用品サイト
  • 化粧品会社の美容情報サイト
  • 情報通信会社の社会調査レポート
  • テレビ局の医学番組サイト
  • カイロプラクティック治療院サイト
  • オーソモレキュラー療法サイト
  • 産婦人科医院サイト
  • 製薬会社の医療情報サイト
  • 厚生労働省の報告書

適当なキーワードで検索して出てきたウエブサイトを並べているようで、まともな医学書・医学論文が1件もない。しかも、ウエブサイトのほとんどには出典が示されておらず、内容の検証自体ができない。

なかでもひどいのは、つぎのようなサイト。

粉をかけられるべきなのは誰か?

結局、「新・女子力テスト」がやったのは

  • IFDMSのようなトンデモ研究を無批判に受容し
  • 「子宮頸がん検診の受診率が低いのは女性の知識不足が原因」と思い込み
  • ネットで手軽に探した適当なサイトのいい加減な記述を「女子力がUPする模範解答」として示す

ということだった。誰が粉をかぶるべきなのかは明白であろう。

付録:「模範解答」参考資料一覧 [2016-11-20 追加]


「新・女子力テスト」の「模範解答」http://ilady.world/question_model/ の「参考一覧」に上がっているURLの一覧をつくりました。リンク先は、動画公開当時 (2016-03-03) に近い時点のアーカイブにしてあります。

履歴

2016-11-14: 記事作成・公開
2016-11-15: 『Web電通報』コラムがなくなっていたので、The Internet Archive にリンク先を変更: http://web.archive.org/web/20160930122513/http://dentsu-ho.com/articles/3775
2016-11-20: 「模範解答」参考資料一覧を追記

※ 『messy』に次の論稿を寄稿しました:「I LADY. 「新・女子力テスト」とニセ医学:ジョイセフ×電通「粉かけ罰ゲーム動画」の背景」(2016-22-21) http://mess-y.com/archives/37878

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