超短編『破』

 あの土手は、築しては貫かれる。
 何度も何度も、何度も何度も積み直された。
 夢のようだ夢のようだと、叫びながら駆け抜ける誰かの幻覚が見える。
 恐怖の声は裏返って、歓喜の声にさえ聞こえる。
 その誰かも、飲み込まれてもう居ない。
 今はただ、穏やかな桜並木の頑丈な土手に、通りかかった人が時折そっと手を合わせる。