障碍者の家族は不幸なのか(2)

「(重度障碍者の妹)亜由未を撮影し、障碍者の家族は不幸ではない」と伝えたい。
声を挙げたNHK青森放送ディレクター、坂川裕野(26)さん。
仕事として取材、報道…に労を惜しまないことは難しいことではないと思う。
カタルシスもあるだろう。
しかし、それが身内、もっとも近しい妹…となれば、話は別だ。
今回、実の妹を取材、報道…するには、少なからぬ勇気や覚悟、決意を要しただろう。それを決行させたのは、

障碍者は不幸を作ることしかできない」
という、戦後最大の大量殺人を引き起こした犯人の心ない発言への怒りであり、
障碍者である妹が、「不幸」を作ってはいない。家族や周囲の人間に労苦を越えた喜びも与えている、という確信からではないか?
ともかく、この若きジャーナリスト、坂川裕野さんの決断に拍手を送りたい。
ジャーナリストとして、その志(こころざし)の高さに敬服した。
そして、両親の許可を得て、妹、あゆちゃんの撮影及び介助に取り組むことになった坂川D。

首と右手以外、動かない。
知的障害もあり、鼻から胃に通したチューブで栄養と水分をとる。
床ずれと痰のつまりから、一日中、体位交換しなければならない。
…そんな妹、あゆちゃん。
テレビ映像の中では、坂川Dは悪戦苦闘しながら笑っているが、内心、かなり音を上げているのではないか…?
NHK青森放送でディレクターやってた坂川D、それまで妹の介助にはノータッチらしかったから、実際、介助してみて、あゆちゃんの現状に、かなり衝撃を受けたのではないか…と察する。あゆちゃんを手押し車に乗せて近所を散歩する坂川D。行き過ぎる近所の人があゆちゃんに声をかける。
ヘルパーさんが言うのに、
「あゆちゃんは顔が広い」
ご近所に笑顔をふりまくあゆちゃん。坂川Dも、
亜由未の笑顔を見るとほっ、とする。

「亜由未を笑わせることが、僕の介助の目標となった」
あゆちゃんが寝ている間も体位交換を1時間毎に行う母。
そんな母は、
「(あゆちゃんは)想像つかないほど大変だと思うのよ。(中略)息を吸うのも肺を膨らませるのも物凄い力が必要でしょ?そんな状況で、よく笑ってられるって…」「裕野が前にさ、『お母さん、幸せなの?』とか聞いたけどさ、なんかもう、どうだってよくなっちゃうよね」
こういうことを、平然と、普通の口調で話すあゆちゃんの母。
想像つかないほど大変なのは、あなた(あゆちゃん母)もでしょ?
1ヶ月の期限付きであゆちゃんの世話をしている坂川Dは、きっと、思ったと思う。自分は1ヶ月の期限付きだから、何とか頑張れるけれど、母は、「期限なし」でこれをやってきたのだ。
その事実に改めて、母の偉大さを実感したのではないか?
確かに、首と右手以外動かず、歩くなどもってのほか。知的障碍で本も読めず会話もできず、食を愉しむこともない。鼻からチューブを通され、一日中、体位交換させられる。
こんな23歳女性が「笑う」というのは…奇跡のようなことかもしれないと、ようやく気づく。
当然のことながら毎月生理があり、生理になると体調が悪くなるという。
少しでもあゆちゃんの体調が悪いと、母はつきっきりで看病するという。
そんな母、智恵さんは18年前、大病を患い大腸を全摘出した。
子どもの成長は親にとって喜ばしいものだが、あゆちゃんが成長し体重も増えるということは、
介助の負担が増える
ということでもある。そして智恵さんは、自分が介助できなくなった後の準備を始めている。
自分の亡き後をリアルに考える。
介護サービスの拠点を設け、顔見知りの人達に囲まれて、あゆちゃんが暮らしていくことを願っている。
もうじき56歳。60歳までに何とかしたい、ととても焦っていると語る。
あゆちゃんが、痛くて痛くて吐き気しそうな時、背中や髪をさする智恵さんを薄目を開けて、「あー、居た!」と確認してる、その顔。
誰も知られてないけど幸せ。
重度の障碍であっても、当事者の母と子にしかわからない、濃密な世界があるのだ、と思う。
ここでいきなりなのだが、あゆちゃんの妹、由里歌さんが登場。な、なんと…亜由未と由里歌は双子の姉妹なのである。その上、
由里歌さんは群馬の大学で医師を目指しているという。
な、なんか…凄すぎる。(終わらへん)
「将来は亜由未の主治医になりたい」
と語る由里歌さんだが…その心情は複雑である。当然だ。両親がいなくなった時、亜由未をどう支えていくのか?
坂川Dは真剣に考えたことがなかった。
由里歌さんにも、様々な葛藤がある。
そうして…母、智恵さんが由里歌さんに電話をする。ここまでカメラが入るか、と思った。
智恵さんは、群馬の大学に通う由里歌さんに、

「(将来的に)東京か埼玉に住んでほしい」
と言う。
亜由未のために身軽に動くには群馬は遠すぎる。
「強制ではなく母の願い」
と言いながら、
「検討する」
と答えた由里歌さんに、
「検討ではなく約束してほしい」
…これ、強制じゃないの?
「『自由に人生、選びなよ』ってカッコ良く言いたいけど、お母さんの代で無理そう…」
さすがの知恵さんも涙ぐむ。
60歳までのカウントダウンが始まった智恵さんと、「亜由未の主治医になりたい」と願いながら恋も結婚も…無視するわけにはいかない23歳の由里歌さん。
難しすぎる。