100字レヴュー

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2017-12-06

[] 旦部幸博 / 珈琲の世界史

2017年10月18日初版 講談社現代新書

医学博士による著者ながら珈琲を巡る政治や社会の動きをしっかり抑えて会心。珈琲ハウスなど欧州での普及の動きも面白いが、アフリカ・中東から東南アや中南米に広がるコーヒーノキの増産と生産統制の歴史にも興奮。

2017-11-27

[] 村上春樹 / 騎士団長殺し 第2部 遷ろうメタファー編

2017年2月25日初版 新潮社

戦中の雨田兄弟に起きた悲劇描き謎を追求する展開は伊豆の病室から始まる異界への冒険譚でらしさ増す。終盤少女まりえ軸の空白の日々回想も面白く、その後の日々描いた64章ですべて決着つき、3部刊行期待薄れる。

2017-11-14

[] 沼田真佑 / 影裏

2017年7月30日初版 文藝春秋

岩手の職場で働く釣りが趣味の男の地味な生活描きデビュー作で芥川賞受賞快挙。同じ職場だった日浅との微妙な友情興味深く、職場変わってから怪しさ増し、被災という現実の発生後に深まる日浅の生き様の謎が効果的。

2017-10-31

[] 延江浩 / 愛国とノーサイド 松任谷家と頭山家

2017年3月17日初版 講談社

昭和生きた両家を描くノンフィクションは脱線の連続なエピソード重ね、政治部分は粗さ目立つも、松任谷正隆筆頭に松本隆や細野晴臣ら70年前後のミュージシャンのプロフィールに迫った部分は迫力で圧倒的な情報量。

2017-10-11

[] 上原善広 / 路地の子

2017年6月15日初版 新潮社

大阪の更池で生まれ育った父の半生描く意欲作は食肉業で成功する過程面白く、上原龍三のキャラ強烈で、身内の交友関係も赤裸々に描いて迫力。往時の屠場の雰囲気や実情も詳述され、同和利権の構造も解き明かし興奮。

2017-09-21

[] 田中修 / 日本人と資本主義の精神

2017年8月10日初版 ちくま新書

元大蔵官僚の筆者異色の日本版資本主義論は全般に興味深いも石門心学から一揆、山本七平の思想引用が多過ぎやや冗長。ただ、バブルの発生と実態、財政再建の難しさなどの解説は持ち味で、現状の課題をしっかり提示。

2017-09-04

[] 都築響一(編) / 捨てられないTシャツ

2017年5月25日初版 筑摩書房

都築発行の有料メルマガ掲載のTシャツにまつわる半生記に興奮。同じ時代生きた匿名の告白は華麗や地味なもの、些細な趣味のこだわり、波瀾万丈な遍歴語られ70本の半生に衝撃。超有名作家やタレント登場も楽しい。

2017-08-29

[] 堀川惠子 / 戦禍に生きた演劇人たち 演出家・八田元夫と「桜隊」の悲劇

2017年7月7日初版 講談社

築地小劇場に集った演劇人たちを襲った戦時体制のきつい現実描いて会心の労作。土方与志の出国場面興奮、丸山定夫ら苦楽座から桜隊への動きも切なく、原爆描写も流石。森下彰子と川村禾門の悲恋も新味で見事な仕事。

2017-08-08

[] 小林エリカ / 彼女は鏡の中を覗きこむ

2017年4月10日初版  集英社

芥川賞候補作家新作は切れ味抜群の4作収録。光が丘で育った4姉妹描く「宝石」が力作で猫啼温泉への家族旅行、MAで遊んだ日々のエピソードや関係性の描写が秀逸。原子力と女性の個人史が交差する冒頭作も面白い。

2017-07-24

[] 綿矢りさ / 手のひらの京

2016年9月30日初版 新潮社

京都の三姉妹描き「細雪」というか京都版「海街diary」の趣き。司書のおっとり長女やOLで恋愛上手の次女、真面目な大学院生の三女とキャラ立ち抜群。次女恋愛トラブルなど刺激的もリアルな日常描写こそ見事。

2017-07-13

[] 金成隆一 / ルポ トランプ王国

2017年2月3日初版 岩波新書

16年の大統領選の明暗分けたオハイオなどラストベルトでトランプ支持者たちを丁寧に取材した労作で選挙結果への理解進む。石炭や鉄鋼で栄えた町の労働者たちの過去懐かしむ姿、荒廃していく社会への不満がリアル。

2017-06-23

[] 村上春樹 / 騎士団長殺し 第1部 顕れるイデア編

2017年2月25日初版 新潮社

1Q84から7年ぶり長編は小田原の東山魁夷風な日本画家宅舞台にミステリアスな日々描き興奮。深夜の鈴の音、穴から出てくる小人や免色の存在不気味で、主人公の30代の肖像画家の生活ぶり面白く第2部にも期待。

2017-05-07

[] 町田康 / 珍妙な峠

2016年11月20日初版 双葉社

「小説推理」連載作は「バイ貝」に続く買い物テーマの変形小説。全体長くホームパーティに向け買いそろえる展開で途中冗長な面あるも、終盤の一軒家購入からは面白く、強みの作風も威力発揮し不気味な世界感も奏功。

2017-02-11

[] 津村記久子 / 浮遊霊ブラジル

2016年10月20日初版 文藝春秋

注目短編集は川端賞受賞も書籍化遅れた「給水塔と亀」が素晴らしくうどん工場近くの故郷に戻る老人の一人暮らしの始まり描き成功。ウルグアイ人サッカー選手の妻が同級生だった「アイトール…」も展開面白く持ち味。

2017-02-08

[] 山下澄人 / しんせかい

2016年10月30日初版 新潮社

FICTION主宰者の芥川賞作は自身の富良野塾での日々を描き会心。倉本聰「先生」を信者的に崇拝するコミュニティを独自の文体で描いて成果。題材のよさが最大の勝因だが、試験前夜に新宿さまよう併録作も見事。

2017-01-23

[] 仲村清司 / 消えゆく沖縄 移住生活20年の光と影

2016年11月20日初版 光文社新書

傑作「本音の沖縄問題」に比べ此花区での少年時代含め私的エピソード中心に沖縄の現状へ失望たっぷり。現政権への批判は絶望感が前面。失われる沖縄の景色への切ない思い、沖縄を去った同志・ごうさんの話が泣ける。

2017-01-20

[] 前田司郎 / 道徳の時間、園児の血

2016年6月11日初版 キノブックス

禁止されたカンチョーした犯人を巡って5年2組の人間関係、微妙な勢力図を描く道徳の時間は、教師も含め次々と視点を移し、一人一人の個性も掘り下げ見事な文学的意欲作。園児の覇権争いは得意の脱力感発揮し流石。

2017-01-11

[] 長嶋有 / 三の隣は五号室

2016年6月10日初版 中央公論新社

神奈川県の私鉄沿線にある第一藤岡荘五号室の歴代住人の細かなエピソード積み上げ谷崎賞受賞も納得の傑作。70年、80年代、90年代の風俗盛り込み方も巧みで、ベタにテレビ番組ネタ散りばめた禁じ手六話が圧巻。

2016-12-18

[] 長谷川康夫 / つかこうへい正伝1968-1982

2015年11月20日初版 新潮社

三田詩人でのつか誕生から仮面舞台、早大に乗り込み暫の活動、独立とつか芝居の軌跡を現場にいた強みも発揮し抜群の臨場感。「口立て」稽古の実際から執筆活動の意外な事実。人間関係の機微生々しく3賞受賞も納得。

2016-12-07

[] 森見登美彦 / 夜行

2016年10月30日初版 小学館

10年目の集大成作は間抜けな笑い抑えめに連作絵画を巡り尾道から奥飛騨、津軽、天竜峡での怪談話披露し百鬼夜行な恐さ抜群。鞍馬に消えた英会話スクールの女友だち長谷川さん探す展開も意外な結末を用意して流石。