断片的なものの社会学

岸政彦『断片的なものの社会学』(朝日出版社、2015年)を読んだ。『中山英之|1/1000000000』(LIXIL出版、2018年)のなかで言及されていた本で、区立図書館で借りたもの。もっとじっくり読みたかったけれど、刊行から3年が経ってもまだ人気で予約待ちの人が多く、期限までに一通り目を通して返却した。評判どおり魅力ある本で、文学的であり哲学的。ある種の社会学に見られる結論ありきで現実を一括りに抽象化して語るような態度とは対照的で、現実のものごとを具体的な断片のまま定着させようとしている。そこでの現実や他者との距離のとり方にも共感する。

社会学者として、語りを分析することは、とても大切な仕事だ。しかし、本書では、私がどうしても分析も解釈もできないことをできるだけ集めて、それを言葉にしていきたいと思う。テーマも不統一で、順番もバラバラで、文体やスタイルもでこぼこだが、この世界のいたるところに転がっている無意味な断片について、あるいは、そうした断片が集まってこの世界ができあがっていることについて、そしてさらに、そうした世界で他の誰かとつながることについて、思いつくままに書いていこう。(『断片的なものの社会学』pp.7-8)

来月大阪の梅田蔦屋書店で、著者の岸氏と柴崎友香さんとの対談があるそうだけど()、確かにこの本のあり方は、このまえ(6月9日)の中山さん&柴崎さんとのトークでも話題になったような、「主題/背景」や「対象/環境」といった階層化を抜きにして世界をありのままに描きたいという柴崎さんの意識とも響き合うだろうと思う。また、岸氏は『建築と日常』No.2()でインタヴューに応えていただいた立岩真也さんと立命館大学で同僚とのことだけど、このお二人もその正義感とある種のドライさ、タフさみたいなところで、なんとなくイメージが重なる。