あほ聖人と小悪魔シリーズ2・今日の小悪魔

「おーい、あほ聖人! ヒマやからあそぼ〜」
と、いきなり、降ってわく小悪魔りえ子。
「あほかっ。どこがヒマやねん! 見てみい。けんめいに仕事しとるやろ」
キーボードを叩きながらこたえるあほ聖人。
小悪「それ、いつ、終わんの」
あほ「終わらん。来年まで」
小悪「来年になったら、終わるの?」
あほ「そやな。今年の仕事は終わる」
小悪「なんやと」
あほ「そやからやな、今年の仕事は今年に終わる。来年にはまた来年の仕事が……」
小悪「ぼけーーーーーっ」
あほ「な、なんや、いきなり!」
小悪「それやったら、一生終わらんっちゅうことやないか! いつ遊ぶねん!?」
あほ「ええっと、それはやな……」考えこむあほ聖人。
ずるずるずる
あほ「こらっ。はなせっ。なに、ひきずっとんねん!」
小悪「らちがあかん。強制連行や」
あほ「どこへやっ」
小悪「どこって……どっかや」
あほ「小悪魔、おまえ、もしかして、遊ぶとこ、知らんのちゃうか?」
小悪「知ってるわっ。遊ぶとこいうたらな、ディスコやろ、夏やったら海水浴場やろ、それから、ドレスアップして、バーでカクテル飲んだり、ちょっとかっこええ洋モク吸うたりやな……」
あほ「けけけけ」
小悪「むっ。なに笑(わろ)とんね!」
あほ「小悪魔、おまえ、古いなあ。いまどき、ディスコって! 今はクラブや、クラブ。海水浴場って、おい。昭和初期か? ビーチやろ! カクテルに洋モクって、洋モクって外国産煙草のことか? ぎゃははは、かんぺき死語や〜〜〜」 
ぼかっ
あほ「なに、なぐんねん!」
小悪「おまえにバカにされたら、生きとられん。もう、死ぬ!」
あほ「待て。なに、はやまっとんね。なにも、死ぬことないやろ。わしらには未来があるやろ。すんばらしい作家になるという大きな夢が!」
小悪「作家になってなんになんねん。わしは、古い小悪魔や。小悪魔が古いってことは死んだも同然なんや。小悪魔っちゅうのは、ピチピチしてキュートで、知性で武装した中年男もイチコロ!やからこそ、小悪魔なんや。ああ、わしはもうおしまいやぁ」
小悪魔号泣する。
あほ「いや。そんなことはない。おまえは、まだ、じゅーぶん小悪魔や。なんでかというとやな、つまり……そのう……」
小悪「ぎゃああああん」
あほ「なっ、なんで、泣き伏すねん」
小悪「み、みつからんのや、じゅーぶん小悪魔の理由がーっ、みつからんのやーっ。もう死ぬ!」
あほ「待ていうてるやろ!それはやな、おまえが、まだ充分小悪魔の理由はやな……」
小悪「ひっく、ひっく……その理由は?」
あほ「さあ、その理由は……」
小悪「さあ、その理由は?」
あほ「さあ……」
小悪「さあ!」
あほ「さあ」
小悪「さあ、さあ」
あほ&小悪「さあ、さあ、さあ、さあ、さあ……」
と、いきなり、歌舞伎調の見得をきりだすあほ聖人。
あほ「知らざあ言って聞かせやしょう〜
浜の真砂と五右衛門が歌に残せし小悪魔の
種は尽きねえ七里ヶ浜、その小悪魔の夜働き
以前を言やあキャピキャピで、年季勤めのOLが淵
おまえが散らす色気をもとに おごりの小皿の一文字
百が二百と空けた大皿段々に
体重のぼる上の宮
プレアデスで講中の、交わすビールも度重なり
底なし女と札付きに、とうとう島を追い出され
それから小悪魔りえ子の名も高く
ここやかしこの文壇で、小耳に聞いた小悪魔の
似ぬ声色で尽きねえ毒気
名せえゆかりの小悪魔りえ子たぁ、おまえがことだぁ!」
小悪「……」
あほ「気にいらん?」
小悪「おまえ、ヒマやなあ」
あほ「なんやと。わしはおまえのために……」
小悪「さあ帰ろ。よう遊んだワ」
あほ「あっ、あっ、あそびやったんかーーーーっ」
小悪魔、去る。
あほ「うう、小悪魔め〜っ。わ〜〜〜ん、〆切が〜〜〜〜っ」
あほ聖人、泣きながらキーボードに向かう。
注・作者はヒマではありません。念のため。