『忍剣花百姫伝』とほほ外伝・夢さん旅日記1
◆「夢さん旅日記1この世の花」
夢候(ゆめそうろう) 「なあ、天ちゃん、今夜は、この宿場で泊まろうぜ。酒はうまいし、ほら、この世の花が手招きしてるじゃねえか」
天兵(てんぺい) 「夢さんは、どうぞ、泊まってください。わたしは、もう少し先まで行きますから。(せっせ、せっせ)」
(まったく、足を止めない天兵)
宿場女A 「まあ、なんていい男なの! そこの若旦那、泊まっていきなよ。サービスするからさ。」
宿場女B 「ちょっとちょっと、そこの急いでいる兄さんも凛々しくていい感じ。ねえ、かたいこといわずに、お泊まりな」
夢 「ほらほら、あんなに誘ってるじゃねえか。天ちゃん、なんで、そんなに急ぐんだよ。せっかくこの世の花が……」
(その時、背後から「てんぺー」と、かすかな呼び声。と、天兵は速歩の術で、あっという間にその場から消えた)
夢 「お、おい。天ちゃーん!」
宿場女A 「いいじゃないか、若旦那。カタブツはほっといて、お泊まりよ。」
夢 「そうかい、そうだな、可愛いおめえにいわれたんじゃ、断れねえな」
(とその時、背後から、ギラリと白い抜き身が、でれでれ顔の夢候を襲った)
夢 「なんだなんだ、宿場のやくざか。ふざけんじゃねえっ!」
(素手で相手をはね飛ばした夢候、相手を見て、ぎくっとする)
火海姫(ひあまひめ) 「無礼者っ!」
(美しい眉じりをつり上げていたのは、だれあろう、天下に名高い男装の麗人、火海姫であった)
夢 「あれえ、ひーちゃんじゃねえか。どうしたんだ?」
火海姫 「だれが、ひーちゃんだ! 無礼な奴め。おまえ、天兵をどこへやった!?」
夢 「え、天ちゃん? 天ちゃんなら、とっくに……」
火 「逃がしたなーっ」
夢 「あ、そうか。天ちゃんは、怖くて逃げたのか。ちぇっ、八忍剣一ノ者の腕が泣くぜ。」
火 「夢候、今、なんといった。だれが怖くて、天兵が逃げただと?」
夢 「あ、いや。天ちゃんは、あんたっていう絶世の花に惚れてるから、宿場の女が怖くて逃げたんだよ。」
火 「それは、本当か?」(照れる火海姫)
夢 「本当、本当。まあ、おれは宿場の女は怖くないから、ここで泊まっていくわ。さいなら〜」
(さっさと、宿場の女としけこもうとする夢候)
火 「……きさま、このわたしを、ひとりにするのか」
夢 「え?」
火 「わたしをひとりにするのか、といっている」
夢 「……」
(その夜、街道には、夢候の呼び声がこだました)
夢 「天ちゃーん。どこだよ〜。ひーちゃんが泣くぞぉ〜! 出てきてくれ〜。おーい、天ちゃーん!」
(しかし、泣きそうなのは、夢候の声であった)
夢 「ああ、宿場の花が…うまい酒が……」
火 「なんだ」
夢 「いや、なんでも(…ふう)」
※この話は本編に関係ありません。キャラ絵は『忍剣花百姫伝』シリーズ(絵/陸原一樹さん)よりお借りしました。
それにしても、ああ、眠たい…
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