『天の磐笛(一)』

天の磐笛(第一巻)

天の磐笛(第一巻)

あの『水の精霊』から八年。時代はさらに混迷を深め、世界は文明の行き詰まりに喘いでいる。そんな現代を舞台にして、人間の作りあげた文明の根幹に迫る物語が電子書籍として上梓された。横山充男が放つ新たな大長編第一巻目である。『水の精霊』の姉妹編ともいえる本編は、高校生の主人公が、古代史の謎を解きながら人間の観念の本質である言霊や音霊に迫っていく。高校二年生である石上琅は、幼いときに両親を交通事故で亡くし、それ以来マンションでひとり暮らしを続けてきた。叔父の竜次が後見人であったが、月に一度やって来ればいいほうだった。亡き父親は信州大学で古代史を専門とする教員であったが、高校生になった琅も、いつしか縄文から弥生にかけての祭祀に興味をもつようになる。所属している民俗歴史研究会で、勾玉が楽器と関係していたのではないかという仮説をたて、友人の沢木洋介と資料集めをしていた。そんなとき、マンションに子鬼が出現し、死ぬほどの恐怖を味わう。その原因は、叔父の竜次にあった。土佐祭文流の呪術師であり、呪術師同士の争いに琅は巻き込まれたのであった。その争いの中で、亡き父親の家系が「太夫」と呼ばれる呪術師であったことが明らかに……(amazon内容説明より)

一気に読みました。今二巻目の半ばです。
登場する人物に、単純なキャラクターはいません。主人公の琅は高校生でありながら、内面に抱えている思い、葛藤、心の闇と光……の深みは、一巻を読み終えてなお、まだ計り知れません。そして、琅の叔父の竜次もまた、まだまだ謎めいています。
この琅と竜次にとって「敵」である若い呪術師、その妹、りんという少女はある種の特殊な能力を有する石笛吹きですが、この少女については、二巻の半ばでもまだ何も知らされてはいないのです。

そして、琅の亡き母親が、少女時代を過ごしたという奈良県山越村というのは、拙作『忍剣花百姫伝』にては「星鏡の磐座」とした実際に壮大な磐座のある地です。
物語は、この壮大な星鏡の地、山越村へつながっていくのではないかと、わくわくして読んでいます。
「天の磐笛」とは、握りこぶし二つ以上の大きさをもつ石笛をさす宗教楽器だそうです。
その磐笛をめぐる謎、事件が次々と起こって、読み出したら止まりません。しかも、謎が謎を呼んで、この先どうなるのか予測さえできません。
3.11の大震災、原発事故も物語の中に取り込まれていて、この困難な時代の文学ともいえるのではないかと思っています。