『しゅるしゅるぱん』著/おおぎやなぎちか・絵/古山拓(福音館)

ずっと読みたいと思っていた一冊です。
夏までの〆切地獄の中ですが、今読まずに、いつ読む!?の合言葉のもと、三冊目のご紹介です〜

しゅるしゅるぱん (福音館創作童話シリーズ)

しゅるしゅるぱん (福音館創作童話シリーズ)

住み慣れた東京を離れ、家族で父親の田舎、岩手の朱瑠町に引っ越すことになった解人。その町を見下ろす朱明山には、すこしイタズラ好きといわれる山神様が古くから祀られていた。不本意ながらも、ひいおばあちゃん、おばあちゃんとともに、慣れない新生活をはじめた解人だったが、身のまわりで、立てつづけに奇妙なことが起こる。ところがおばあちゃんも両親も、「山神様のしわざだ」と、まともに取り合わない。山神様の好きなおまじないをとなえればいい、という説明にいぶかり、苛立つ解人の前に、とつぜん謎めいた男の子が現れた。じぶんのことを「しゅるしゅるぱん」と名乗る彼は、いったいだれなのか。なぜ解人にだけ姿をみせるのか。4世代にわたる家族の過去と現在を行き交いながら、その謎がだんだんと解き明かされていく。BOOKデータより
面白かった!充分に大人の読者を愉しませると思います。
時代が行き来して、ふいに過去に飛んだり、現在にもどったり、一人の人物だけにポイントをおきたい読者もいますが、そういう我儘を、ここは捨てて読むと、この世界観に入っていけます。そして、この時間と空間を行き来する物語の主人公こそ「しゅるしゅるぱん」なのだと気付けるはずです。
私が感動したのは、自然描写、古き良き時代の田舎の描写の美しさ……それに、生まれて育って、やがて老いて、死んでゆく人間への愛の深さです。
物語の最後のシーン、しゅるしゅるぱんが、ようやくかあさんに気付いて貰って、甘えるシーンに泣きました。命あるものの愛しさ……いえ、人ではなく物言わぬものであったとしても、そこにある思いが、一つの命を生み出す不思議。
いいえ、それは不思議でも何でもなく、当然そうなんだと、書き手である私は思います。
命を生み出すほどの思いを知らない読者の中には、自分が知っている知識のみで作品評を書く人がいますが、知識など、思いの深さに比べれば、紙のように軽いものでしかありません。
知る努力、知識を重ねることが大切なのは、その知識に思いを重ねるからこそなのです。人が人であること、それは知識の量ではなく、いかに生きて暮らしているちっぽけな自分に、得た知識を重ね合わせる感性を持っているかなのです。
人の思いの深さや悲しみを知らない、それを想像だにしない人は、佳き人間とはいえません。そんなことを考えさせてくれた佳作でした。