『それでも人のつもりかな』#岩崎書店
心を通わせる人と出逢えないまま中学生になった美少女、亜梨紗の、とがって怒りに満ちた心を追いながら展開してゆく物語に、読みながら息詰まりそうになりました。
手酷いいじめに遭って、追い出されるように転校した亜梨紗は、母にも無視されるように育ったために、誰に対しても渇いた怒りを感じないでいられず、常にボロボロと崩れ落ちそうな自分の心と必死に戦っています。
けれど、転校先の学校で出会ったのは、真っ向から挑んでくるような担任教師と、父親の虐待に耐えている同級生、大友美有でした。かつて、これほど追い込まれた少女を描いた児童文学があっただろうか…と思うほど、どこにも逃げ場のない亜梨紗、そして美有。
そんな中、授業に出てくる小林一茶の句とその人生を、学校祭で朗読することになった美有は、父親の暴力で大怪我を負って、代役は亜梨紗になってしまいます。その朗読と句のみの発表会のシーンに、私は、つい泣きそうになりました。というのは、一茶の不幸な人生と、亜梨紗の不幸が、私の中で重なったからでした。
けれども、誰も信頼できなかった亜梨紗に、思いもよらぬ光が射し込んでくるのです。人と人が出逢えば、そこに希望はあると信じられるようになるのは亜梨紗だけでなく、きっと、傷ついた心を抱いた読者みんなではないでしょうか? 痩せ地に植えられても、柔らかなピンクの房を揺らすハンノキが見えるような気がして、ハンノキにも癒される物語でした。