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風雲童話城ブログ

2013-09-17

[][][] 続・小説、物語の書き出しってどう書く? 

先日書いた記事「小説物語の書き出しってどう書く?」が、沢山の方に読まれて面白がって頂き、FBにも多くのコメントを頂いたりしたので、続編です。

前の記事を読んでらっしゃらない方は、↓ここをクリック!

http://d.hatena.ne.jp/rieko-k/20130913/P1

あれから、書き出しに注目して手持ちの本を見てみると、書き出しの傑作というのが、いろいろ出てきました。まずは、前回のテーマ、空は晴れているか?について、傑作を見つけました。

夜のピクニック (新潮文庫)「晴天というのは不思議なものだ、と学校への坂道を登りながら西脇融は考えた。」

夜のピクニック恩田陸

この書き出しの傑出しているところは、ただ舞台の晴天を描くだけでなく、これから始まる青春小説の足掛かりになるピースが幾つもはめ込まれているところです。西脇君は、これから、高校生活の最後を飾るイベント「歩行祭」(全校生徒が夜を徹して歩き続ける)にいどむのです。

進学校の鍛錬歩行祭を通じて描かれる胸を焦がす思い、友情……ただ歩くだけなのに、その内なる物語はとても印象的で、長く心に残ります。読後、書き出しに戻ると、この物語を、最初の一行が予告しているような気がします。

六番目の小夜子 (新潮文庫)「こんなゲームをご存知であろうか」

六番目の小夜子恩田陸

これも、恩田さんですが、いやあ、ぎゅっと、つかまれてしまう書き出しではありませんか?

はめ込まれているピースは少なく見えますが、これは「プロローグ」の書き出しで、物語全体をなんとなくイメージしてしまいます。本章の最初も、これまたうまい!

「__その朝、彼らは静かに息をひそめて待っていた。」

はい、もうつかまってしまいましたよね。

ある高校に十数年間受け継がれた奇妙なゲームが、青春に輝く高校生を恐怖に包み込んでいくという、恩田さんのデビュー作です。こうしてみると、恩田さんの書き出しだけでこの記事は書けそうですが、せっかくですから、ジャンルを変えてみます。

では、晴天から入ったので、次は夜から……。

しゃばけ (新潮文庫)「厚い雲が月を隠すと、江戸の夜の闇は、ずしりとのしかかるように重かった。」

しゃばけ畠中恵

おなじみ若旦那と妖怪の番頭が活躍する江戸妖怪話です。

情景描写から入る書き出しですが、畠中さんも、物語の舞台となる妖しさを十分にピースにはめこんでいます。

嗤う伊右衛門 (中公文庫) [ 京極夏彦 ]「伊右衛門は蚊帳越しの景色を好まない。」

嗤う伊右衛門京極夏彦

妖しさといえば、この短文の中にあるピース「蚊帳越しの景色」の凄味。

妖気が立ちのぼってくるようです。

さすが!と手を打ちたくなる闇の貴公子京極夏彦さまの書き出し。

いやはや、恐れ入りました、京極さま!(土下座…) m(_ _)m



視点を変えて、壮大な書き出しといえば、これ。

草原の記「空想につきあっていただきたい。」

草原の記司馬遼太郎

二行目はこう続きます。

モンゴル高原が、天に近いということについてである。」

読者は、もう二行目で壮大な景色を思い浮かべ、書き出しにつかまれてしまいます。

文献取材の解説が多く、一部の評論家からは「悪文」といわれた司馬さんですが、私はこの書き出しの魅力にはまった読者でした。

と、ここまでは一冊ごとの書き出しをご紹介しましたが、物語も人気のものは、続刊が続きます。

それも、長くなれば、最初の一行にはめこむピースの数より、これから始まる物語のための、象徴的で簡潔な書き出しも重要になってきます。

燦(1) 風の刃 (文春文庫) [ あさのあつこ ]「風が野を分けて、走る。」

燦1 風の刃あさのあつこ

あさのさんの時代小説は、鮮やかな書き出しが多いのですが、二行目はこう続きます。

「雲が割れ、陽が一筋、地に注ぐ。」

ここまで読んで、シリーズとなるこの物語で描かれようとするのが、風の刃だけでないことが象徴されています。二巻は『燦2 光の刃』『燦3 土の刃』……と続きます。

シリーズになってゆく物語は、二行目も鍵かも…というのは、私的考えですが。

陰陽師 (文春文庫) [ 夢枕獏 ]「奇妙な男の話をする。」

陰陽師夢枕獏

この二行目は、「たとえて言うなら、風に漂いながら、夜の虚空に浮く雲のような男の話だ。」と続きます。ほら、二行目に見えてきましたね、奇妙な男が……!

陰陽師(付喪神ノ巻) (文春文庫) [ 夢枕獏 ]「大きな柿の木の下で、十人あまりの下衆が休んでいる。」

陰陽師 付喪神ノ巻』の書き出し。

陰陽師 夜光杯ノ巻』では、

安倍晴明の屋敷の庭では、すでに春の化粧(けわい)が始まっている。」

となります。

つまり、巻ごとに描かれるのは、物語の醸し出す季節や情景で、物語を読めば、実は象徴的とわかりますが、書き出しだけ読めば、ゆるやかな始まりとなっています。つまり、シリーズものともなれば、それほど、書き出しにピースを埋め込む必要がないのです。

シリーズの書き出しの多くをご紹介するのは、作者さんに遠慮があるので、拙作のシリーズで試してみます。

忍剣花百姫伝(2) 魔王降臨 (ポプラ文庫ピュアフル) [ 越水利江子 ] 「未明の空に、冷たい雨が降っていた。」

忍剣花百姫伝 魔王降臨越水利江子

「殿さまが、朱虎さまが討ち死になされましたぞっ」と、セリフが続きます。

戦国の緊迫感と沈潜した哀しみを表現しています。花百姫の二巻です。

忍剣花百姫伝(七)愛する者たち (ポプラ文庫ピュアフル)「いにしえに、天から巨大な磐船が降ってきた。」

忍剣花百姫伝 愛する者たち越水利江子

一、二巻あたりでは、書き出しも、戦国ファンタジーの印象が強いのですが、三巻以降は、タイムスリップを繰り返し、舞台も、過去、未来、世界へと飛んでしまうので、後半の書き出しは、一、二巻では予想できない拡がりになっていきます。とはいえ、書き出しにそれほど苦心してはいません。

前回の物語を引き継ぐシリーズというのは、基本的に一つの物語を始めるのとは違って、ゆるやかに世界観を拡げていく余裕があることも事実です。

2013-09-13

[][][]小説、物語の書き出しってどう書く?

FBでの話題、森くまちゃんの記事で、素敵な同人の集まりのお話がありました。そのおひとりに、「書き出しに悩んだ時は、いつも、『今日も晴れです』と、書き出します」という方が……!

その話が面白すぎて、ついつい、自分の書き出しや売れっ子作家さんの書き出しをしらべてみました。まず、拙作から。

風のラヴソング(完全版) (講談社青い鳥文庫)「れんげ畑の向こうから、白いレースのパラソルが泳いでくるみたいに見えた」

風のラヴソング

うーん、これは、晴れた空に近いかも。

竜神七子の冒険 (文学の散歩道)「その日は、ずっと釣れなかった」

竜神七子の冒険

この書き出しは、空は晴れてても、行動的に暗い書き出しかも。

でも、この物語のコンセプトは、超明るい「人生は、逆転満塁ホームラン!」です。

あした、出会った少年―花明かりの街で (for Boys and Girls)「桜が咲き始めると、京都の夜は、ほのかに明るくなる」

あした、出会った少年

これは、しなだれる満開の桜のかもしだす空気感と、闇に浮かぶほの白い花明りの情景描写で始めてますが、晴れるどころか、夜景です。

じゃ、ミステリーのベストセラー作家さんたちはどんな書き出しを?

オーデュボンの祈り (新潮文庫)「胸の谷間にライターをはさんだバニーガールを追いかけているうちに、見知らぬ国にたどり着く、そんな夢を見ていた」

伊坂幸太郎さん『オーデュボンの祈り

秘密 (文春文庫)「予感めいたものなど、何ひとつなかった」

東野圭吾さん『秘密

ブレイブ・ストーリー (上) (角川文庫)「最初はそんなこと、誰も信じていなかった」

宮部みゆきさんブレーブストーリー』

さすがに、ミステリー作家さんたち、一行目から謎めいた書き出しです。

じゃ、ヤングアダルト系は?

(P[あ]2-1)光車よ、まわれ! (ポプラ文庫ピュアフル)「さっきから、まるで校舎をたてにゆさぶるばかりに雨が降っている」

天沢退二郎さん『光車よ、まわれ!

これは完全にどしゃぶり。

ハルさん (創元推理文庫)「彼岸には墓参りの人たちでにぎわう霊園も、今朝はひっそりしていた」

藤野恵美さん『ハルさん

な、な、墓参りとな!?

月の影 影の海〈上〉 十二国記 (講談社X文庫―ホワイトハート)「漆黒の闇、だった」

小野不由美さん『十二国記

闇……しかも、漆黒!

西の魔女が死んだ (新潮文庫)西の魔女が死んだ

梨木香歩さん『西の魔女が死んだ

いきなり、お亡くなりに……

つまり、晴れた本はそんなにないのかな? 

あ、ありました!

マジカル・ドロップス「空は真っ青に晴れ渡っていた」

風野潮さん『マジカル・ドロップス

というわけで、空の晴れ渡り度は低いけれども、書き出しポイントは、みんな、面白いです。

晴れた、降った、明るい、暗いなど…物語を象徴する簡潔な情景的書き出しと、思った、見たなど、行動的描写で始まっているのが、プロの書き出しみたいです〜