フラクタルの不人気さを分析してみた

 個人的には非常に楽しみにしている作品になっている「フラクタル」ですが、どうも世間的な評価がめちゃくちゃ低いようです。というかあまり褒められているのを観たことがないという……。批評家でもあるヤマカンこと山本寛氏に対する視線の厳しさももちろんあるんでしょうが、それ以上に全体的にdisられている気がするんですよね。
 自分としても、面白いと思って観てはいますが、これが万人ウケする類の作品ではないことは理解しています。ただ、面白い作品だというレッテルを3話で張ってしまった自分からすると、もう少し評価されてもいいのではないか? とも思うんですよね。色使いは綺麗だし音楽も悪くないし、作り手側の見せたい部分も凄くよく伝わってきますしね。それでも何故あまり評価されていないのかを、面白いと思ってる側から考えてみたいと思います。

  • 主人公のクレインが格好良くない

 ここのところの流行りアニメの特徴として、主人公が「格好いい・魅力的」だったり「可愛い」だったりというのが定番になってきています。禁書や俺妹、AB!やスタドラなんかは前者に入りますし、今期ならISあたりも前者でしょうか。後者としては、けいおんイカ娘、今期ならまどか☆マギカという感じになるかと思います。これらを観てもわかるように、魅力的な主人公像が求められているように考えています。
 その点、フラクタルのクレインはその辺がめちゃくちゃ弱いですよね。個性は……ようやく出てきた気がしますが、秀でているのはハッキングなど電子機器の取り扱いくらいのもので、強かったり、決断力があったりするわけではありませんから。言わば「モテるために必要な要素が少なすぎる」ということなのかもしれません。
 もちろん、クレインをこんなキャラで描いているのはわざとでしょうし、後天的に格好良くなっていく類のキャラなのかもしれません。が、中盤でもこの程度ですから、そこに不満を持ってたり面白くないと感じる人はそれなりにいるような気がします。

  • ストーリーの軸がハッキリしない

 これは割と言われていることですが、この作品は何処へ向かっているのかとか、どうなったら終わりなのかが全くわからないですよね。オリジナルアニメなんだから、ある程度は描きたい主題みたいなものが見えないと続けて見ようという気が起きにくいとも思うんですが、その点においてフラクタルは非常に厳しいような気がしています。
 感じ的にこの先は、僧院とグラニッツ一家が戦う展開になるのでしょうが、その時にクレインやフリュネがどう行動するのかは見えませんし、ネッサが「世界の鍵」である理由との繋がりもまだ見えてきていません。また、グラニッツ一家と他のロストミレニアムとが共闘するのか仲間割れのようなことをするのかもわかりませんしね。つまりはアテのない旅をしているように話が進んでいるのがつまらないと感じたり、観ていて居心地がよろしくないと感じてしまうのではないかと思いました。
 ただこの部分って、ヤマカンさんがフラクタルは「冒険モノ」というメッセージと一致しているんですよね。冒険モノってつまり、未踏の土地に行って知らない物や人と出会い、狭かった自分の世界がどんどん広がっていく、という感じだと思うんですが、フラクタルではまさにそれをやってるんだと思います。ほぼ主人公のクレインの視点のみで描いていますし、謎めいた部分は知りすぎないように描いているとさえ感じます。要は、計算された上での設計や描き方なんだと思うんですよね。
 なのでもし、ここが受け入れられないって人が多いのだとしたら、そもそもの作品コンセプト自体がミスっている可能性が高いのでしょう。そう言えば、フラクタルジブリっぽいと言ってる人が多かったように思うんですが、ジブリ作品のような未知の世界に放り込まれる感じの冒険ものを目指したのだとしたら、深夜アニメ視聴者のニーズには全く合っていないとも思いますし、逆にもっと作りこまないと比較されて劣る部分ばかりが目立ってしまうとも思います。TVアニメという媒体も合っていない気がしますしね。

  • 女性ウケ要素がなさすぎた

 岡田麿里さんの脚本アニメは割と多いような気がするんですが、このフラクタルに関しては、とにかく女性ウケしそうな要素がことごとくなさすぎる気がします。別に女性アニメ視聴者に媚びろ、というわけではないのですが、男性視聴者がむしろ女性向けの要素にも関心を示したり、そこに面白さを見出すケースも出てきていることから、女性が観ていて面白いと思える部分は必要なんじゃないかと思うわけです。しかもフラクタルは、男性視聴者向けのキャラ萌えに特化した作品ではないわけで。この点に置いてもどっちつかずというか、突き詰めていない弱さを感じてしまいます。この女性ウケしない傾向は、脚本というよりはそもそもの作品の枠組みに由来するような気はしてますけどね。

  • 放送時期と面白くなるタイミングが遅すぎた

 編成との絡みになるわけですが、フラクタル1話は関東では1月13日放送でした。同じく今期の大型オリジナルアニメであるまどか☆マギカは関西では1月6日、関東でも7日には1話が放送されています。1週間遅いんですよね。しかも、俄然注目されてきたまどか☆マギカ3話をやっていた時期に、フラクタルはネッサがちょこちょこ動いてる2話が放送されていたわけで……。片や始まりすぎているのに、フラクタルはまだ始まってもいないという状態でした。
 アニメを観ていると、どうしても他作品と比較してしまう傾向はあると思うんですよね。比較しないで観る見方が一番だとは思うんですが、やはり1週間で何本も他のアニメも観るというのが普通だと思いますし、どうしてもそういう見方をしてしまう人が出てくるものだと思います。そうすると、片や序盤からぶっ飛ばしていく作品と、スローな展開の作品を比較してしまうことになってしまいます。おまけに、放送日や進行が遅いですからね……。関西だと、まどか☆マギカは今夜9話放送なわけですが、フラクタルはまだ6話を観終わったばかりなんですよね。スローな展開な上に放送が遅いというのは、比較されてしまう中でどうしても大きな差になっている気がしています。途中で放送休止が入ったのも悪かったでしょうね。他のアニメがテンポよく次の話を繰り出してくる中での休止ですから、何気に痛かったような気がします。

  • 深夜アニメの潮流と違っていた?

 以前に書きましたが、フラクタルってアンチけいおん!!的な作品だと思っています。つまりはけいおん!!で築かれた深夜アニメの潮流に逆らいまくったということです。露出は自重しませんし、事件や事故的なイベントも起こしますし、そもそも箱庭的な世界観ではないですしね。程よい緊張感もいいとは思うんですが、いずれも突き詰めてはいないんですよね。
 今期であれば、魔法少女ものでありながら極度の緊張感のあるまどか☆マギカもありますし、生死の面も露出も自重しないこれはゾンビですかとか、トラブルに巻き込まれてばかりの禁書とか、フラクタルが使っているお約束的な要素は他の作品では突き詰められているんですよね。だからフラクタルが相対的に中途半端に見えてしまう可能性もあります。
 兄と妹の異常な(?)関係性に終始した俺妹や、イカ娘が可愛いことに集中したイカ娘など、流行る作品は何かしら突き詰めたものが必要だと思うんですが、その点でフラクタルは中途半端ですよね。各要素のつまみ食いをしながら話を進めていく感じなので余計にそう感じてしまうような気がします。
 また、冒険ものそのものが深夜アニメ的に求められていない可能性もあります。1話を観てある程度この作品がどんな作品であるかを考えながら楽しむのが深夜アニメの見方……とするならば、世界観の説明と……あとは寸劇をしていただけな感のあるフラクタル1話の作りは致命的とさえ思えました。
 もちろん、これらは敢えてそう作った、的な部分だと思います。トータルで観れば面白いと感じるだろうからこれまでの深夜アニメのテンプレ的な部分は潰したい、とも考えているでしょうからね。ただ、そう思って見てくれなければ既に詰んでるのかもしれません…………。

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 個人的には、全てが裏目裏目に出てしまっているような気がしています。完璧な作品なんてあるわけないと思いますし、どの作品もそこを目指して作られているわけではないと思いますが、この「フラクタル」に関しては、そうでもしない限りは賛同を得にくいんじゃないかと感じました。作り手側の意図や仕掛けを考えると非常に面白いと思うんですが、それも却って鼻につくという人もいるんでしょうね……。
 自分としては「面白い!」と感じた作品なので、これだけマイナス面を挙げてみても面白いアニメだということに変わりは無いんですけどね。でも、同じノイタミナでやってる「放浪息子」がかなりいい出来なので、よりフラクタルの立場が弱くなってるようにも思います……。

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