『ガールズ&パンツァー劇場版』は何故ロングラン上映になり、かつ大ヒットしたのか?

 興行収入やディスクの記録的な数字となった『ガールズ&パンツァー劇場版』ですが、当初はここまでのヒットになるとも思いませんでしたし、ここまでずっと映画館で上映されることになるとも思っていませんでした。それは1ファンである僕だけではなく、制作関係者もそうだったのではないでしょうか。
 ロングラン上映になった理由の1つとして挙げられるのが「映画館でこそ映える音響の作り込み」や「3DXや各種特殊上映スタイルと合致した内容」などがあるのでしょうが、それが再現できないBD/DVDの売上については説明できません。深夜アニメの劇場版としては『魔法少女まどか☆マギカ』や『けいおん!』などを超え、この上にはもう『ラブライブ!』くらいしか見当たらないの大ヒットとなったわけですが、テレビシリーズの円盤の売上については、原作付きの『けいおん!』はともかくとして、『まどマギ』あたりには遠く及ばない数字でしかありませんでした。
 では、どうして『ガルパン劇場版』は記録的な大ヒットとなったのでしょうか? 『けいおん!』や『まどマギ』などとも比較しながら考えてみたいと思います。

  • 劇場版上映開始前の知名度の低さ

 『ガルパン』で一番思うのは、テレビシリーズやアンツィオOVAの特別上映の頃は、さほどファンが多くなかったことです。テレビシリーズの円盤が3万以上売れていてそれはないだろう、と言われそうですが、売上ほどみんな観ているわけではない、というのが個人的な感触でした。観た人は、一度は大洗にも足を運んでみたりと熱心なファンになりやすく、恐らくはテレビシリーズを観てる人のうち、円盤まで買ったという割合は相当高いものになったような感じだと観ています。要は、好きだけど円盤まで買うようなライトなファンが少なく、コアな人気のアニメだったんじゃないかと思うわけです。何せ、知り合いで劇場版観に行った人が多いどころの話ではなく、ある程度アニメを観てる人の中で、観に行ってない人のほうが圧倒的に少ないくらいの感じでしたから。
 それが、劇場版上映開始当初に流行った「ガルパンはいいぞ」ブームからのリピーター続出……までは、深夜アニメの劇場版あるあるだったと思いますし、興行収入もそれなりのものでしかありませんでした。ただ、何処かで潮目が変わったのか、あるいは客入りが何時まで経っても衰えないからか、徐々にテレビシリーズは観ていない層が興味をもつようになってきたように見えました。そして「テレビシリーズは観てないけど劇場版観に行った」的な報告が増えて、そこからテレビシリーズやOVAを観たりするようになり、気がつけばかなりの数の二次創作が生み出されるようになってました。
 二次創作は人気のバロメーターになると思っていて、例えば『けいおん!』や『まどマギ』だと、テレビシリーズの頃からかなりの数の同人誌が出ていたわけです。特に『まどマギ』は最終回後が特に増えましたが、放送中からすごかったように記憶しています。ところが『ガルパン』は、テレビシリーズの放送中や最終回の放送後に出た同人誌は本当に少なくて、あっても戦車の解説本とか用語集みたいなお堅い内容のものがメインで、キャラクターに焦点を当てていたり、ましてやカップリング本なんて本当に少なかったと思います。どんなに男性向けな作品だとしても、同人誌を描く人のかなりの割合は女性なわけですが、テレビシリーズ当時のファンといえばほとんどが男だったことを考えると、同人誌を描くような女性が、劇場版以降にかなり入ってきたのではないか、と推察することが出来ます。女性だけではなく男性もですが、二次創作に需要ありということで、そこから更にファンが増えたのではないかとも思います。
 話を戻しまして、結果的に円盤がこれだけ売れたのですから、ライトなファンばかりを増やしたことにはならないんじゃないの? と言われそうですが、あくまでそれは劇場版の円盤の話です。劇場版公開後に、アンツィオOVAやテレビシリーズの円盤もじわじわと売上を伸ばしてはいるものの、劇場版の数字には遠く及びません。テレビシリーズ+OVAが入ったBD-BOXを出したらめちゃくちゃ売れそうではありますが、それでも高価なBOXが10万セットも売れるとは考えにくいと思います。
 深夜アニメで、テレビシリーズの円盤と比較して、総集編じゃない劇場版の円盤が数倍以上売れること自体は普通です。これは、何も劇場版効果でファンが増えているわけではなく、テレビシリーズの円盤を揃えるほとお金は無いけど、劇場版の円盤だけなら買える(買う)ような人が多い、のだろうと観ています。
 ただ『ガルパン』の場合、テレビシリーズやOVAの売上と劇場版の売上の差があまりにも大きいので、テレビシリーズから好きだったけど円盤までは買ってないファン+劇場版から入ったファンの合算でより大きい数字になったのではないでしょうか。
(注:統計など何も取っておらず、あくまでも僕の観察範囲での推測です。あしからず)

  • 劇場版がテレビシリーズと同じ構成だった〜作品に入りやすかった?

 以前にも記事にしましたが、劇場版がテレビシリーズと同じということで、「ストーリー的には見どころが無かった」だとか、「また廃校ネタかよ」という話は複数出ていたと思います。見どころが無かったとまでは思いませんが、僕も初見では、構成的には同じなんだなあ、とは思いました。
 劇場版観た直後に、この構成の意味するところを考えた時は「テレビシリーズからのファン向けムービー」として作りたかったからだと思いましたし、テレビシリーズのスペシャル版を目指したんだろうなあと思っていました。キャラクターも、テレビシリーズやOVAで出てきた主要なキャラを勢揃いさせたオールスターズ的なものにした上に、劇場版から登場した新キャラも加わるなどしたためキャラの数が膨大になり、代わりにストーリーのほうを出来るだけシンプルにしたかった意図もあったのだろうとも思いました。なのですごく納得していたわけですが、先ほどの項でも書いたとおり、劇場版からの新規ファンが大量に参入した、あるいはテレビシリーズの頃にはそこまでハマっていなかったような人が劇場版のリピーターになった理由にはならない気がします。なので、実はそのストーリーが同じようなものだったことが、より新規ファンを集められた理由の1つになっているのではないかと考えてみました
 簡単に結論を書くと、「劇場版を観ればテレビシリーズの流れとか面白さをある程度味わうことが出来る」ということだったのかな、と考えています。先ほど、テレビシリーズと同じ構成だったと書きましたが、ある程度駆け足かつ、テレビシリーズよりも段階を踏んではいませんが、

「エキシビジョンでの大洗市街戦」
     ↓
「日常パート(戦車戦してない時のパート」
     ↓
「決戦(決勝戦)」

という流れは、テレビシリーズを観なくとも劇場版だけ観てもわかるものです。そしてシンプルこの上ありません。そして、『ガルパン』の最大の見せ場はストーリーではなく、もちろん戦車戦です。その戦車戦を楽しませるために、ストーリーが邪魔になってもいけないわけです。そして、戦車戦を最大の見せ場とするための構成が、テレビシリーズのそれだったとすると、そこをいじることで『ガルパン』という作品の面白さを損なうおそれもあるわけです。それを避けるために、敢えていじらない決断をしたのだろうと考えています。
 結果的には、二次創作ほかでキャラクターの人気に火がついて、その中でも新キャラの人気が高くなったことから、劇場版の成功がより証明されたのだろうと思うと同時に、新規で入ってきた人たちの影響も大きいのだろうなとも思っています。
 では逆に、テレビシリーズの構成をいじった場合はどうなっていたのでしょうか? こちらはたらればになるのでわかりませんが、もし例えば、大洗女子側が負けてバッドエンド的なものだったら……と考えると、これほどまでにリピーターがついたとはとても思えません。
 他の作品の例を挙げると、例えば前述の『まどマギ』や『けいおん』です。『まどマギ』では、テレビシリーズではまどかが神様みたいになりハッピーエンド(?)的なものでしたが、劇場版ではそのまどかをほむらが取り込んで、また別の世界が出来た、みたいな終わり方でした。構成的には、前半のぬるい魔法少女ものからの、テレビシリーズ以上にハードに魔法少女同士がやり合ったりして、ハッピーエンドで終わりそう……という流れでしたから、テレビシリーズとそこまで大きくは違わなかったのかなとも思います。『けいおん』では、まずテレビシリーズの最終回の後に続く後日談でもありませんでした。そしてテレビシリーズでも旅行には行っていたとはいえ、日本を離れてイギリスに行ってしまうという展開に。後半は学校に戻ってきてあれこれ……でしたが、個人的にはテレビシリーズとは違うものを見せられている感がありました。
 どちらも、リピーターがつかなかったわけではありませんが、テレビシリーズからのファンの多さや、劇場版公開しての初動からの興行収入の伸びや円盤の売上に関しては、『ガルパン』に及ばないという数字でした。順番が逆なのでどうかはわかりませんが、これら2作品に関して言えば、テレビシリーズと異なることをやった結果、思ったほど伸びなかったのかな、と観ています。結果として『ガルパン』がテレビシリーズと同じ構成を取ったのは、『映画けいおん!』の脚本も書いた吉田玲子さんあたりの意見もあったのかもしれませんね(そんなことが表に出てくることも無さそうですが)。
 ちなみに、『けいおん』は1度しか観に行ってませんが、『まどマギ』は3,4回観に行ったくらいには好きなんですけどね。

                  • -

 とまあ、スタッフインタビューとかもほとんど観れてませんので、ほぼ推測で書いてしまいましたがどうでしょうか。
 個人的に、水島努監督は割と商業的なことを気にしていて、他のヒットした作品の動向なども観ながらジャッジしてると思っていますので、そんなに大きくハズれているとは思いません。ただ、公式の見解では無いので、あくまでも1ファンが言ってることに留めておいてほしいと思います。
 この『ガルパン劇場版』の大ヒットを受けて、続く作品があるのかが今はとても気になってます。さすがに、色んな幸運が重なったり、映画というコンテンツでこそ映える要素をいくつも持っているようなアニメが、テレビシリーズからヒットすることも難しいことだとも思いますが。

ガールズ&パンツァー 劇場版 コンプリートブック

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