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小人さんの妄想 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2008-05-13

油滴鍋の天下統一

私の好きな料理の1つに「鳥モモの蒸し焼き」というのがある。

大きな鍋に醤油とコショウ、鳥のモモ肉を入れて蒸し焼きにする。

子供の頃これが好きで、親に作ってくれとせがんだら、

「なんでこんな簡単な料理が好きなんだろう」

みたいなことを言われた。

私はおよそ料理というものはほとんどできないのだが、

どうやらこの「鳥モモの蒸し焼き」は比較的簡単な部類に属するらしい。


さて、この「鳥モモの蒸し焼き」を美味しく食べ終えた後の調理鍋には、

水面の上に点々と油滴が浮いたものが残る。

油滴模様は、ちょうど大小の円で不規則に、びっしりと平面を埋め尽くした形となる。


2つの油滴の境い目を箸でつつくと、油滴はくっついて1つの大きな油滴となる。

これがおもしろくて、私は水面上の油滴を全部くっつけて、

鍋の世界を1つに「天下統一」できないものかどうか盛んに試みた。

大きな油滴の間には、虫眼鏡で見なければわからないほどの小さな油滴がたくさんある。

こういった小さな油滴まで1つ1つ見ていったのではきりがない。

こういう場所はめくら打ちで、とにかく箸でつつき続けると、

最後には不思議と全ての油滴が1つにくっついて、大きな油滴に吸収されるのである。


ここで何が不思議なのかというと、水面は目に見えぬほどの小さな油滴で「完全に」覆われているのか、という点である。

大きな油滴と油滴の間は、小さな油滴が埋めている。

その小さな油滴と小さな油滴の間は、さらに小さな油滴が埋めている。

その小さな油滴と小さな油滴の間は、、、といった具合に、この油滴の列はどこまでも(実際には油の分子1個まで)続いているだろうか。

もし果てしなく続くのであれば、油滴の「隙間」とは、どのようになっているのだろうか。


もう1つ不思議なことがある。

油滴は箸でつつくと1つにまとまるのだから、バラバラになっているより1つにくっついていた方が安定なはずである。

ではなぜ、最初から油滴は1個ではなく、あのようにバラバラになっているのか、という疑問である。


私にとって、2つ目の疑問の方が先に解けた。

2つ目の疑問は、統計力学によって答が示されていた。

「油滴が1つにくっついた方が安定だ」ということは、油滴の持つエネルギーが小さくなるように状態が移行する、ということである。

油滴は境界面をできるだけ小さく保つべく、円になろうとする。

この仕組みはいわゆる表面張力と同じだ。

ところがその一方で、油滴は自然に、バラバラになろうとする傾向も持つ。

簡単に言えば、かき混ぜればぐちゃぐちゃになるということであり、

難しく言えば、エントロピーが増大するということである。

およそ自然界にあるものは、この2つの傾向〜エネルギーエントロピーが兼ね合って程良い分布を保つ。

油滴の様相は、その1つの例になっていたのだ。


最近、なんとなく思っていた積年の疑問に応えてくれる記述を見つけた。

 高安秀樹著『フラクタル』(朝倉書店)

「一見フラクタルのように見えても、実はフラクタルでないものもたくさんある。

たとえば、中華料理などの表面に浮かんでいる油、大小様々な大きさの油が浮かんでいる様子は、

フラクタル的に感じられるが、油の直径の分布を調べてみるとベキの分布ではなく、指数分布に近いことがわかる。」

http://www.h7.dion.ne.jp/~konton/0508.html

よそ様からの孫引きですまん。

世の中にはちゃんと油滴に興味を持っている人がいると知って、ちょっと嬉しく思った。


油滴と油滴の小さな隙間は、実際はどのようになっているのだろうか。

恐らく現実の油滴には

 ・最小の大きさが存在すること、

 ・必ずしも全て円ではなく、不定形であること、

 ・水面は油滴だけで完全に覆われているのではなく、ちょっとした隙間が空いていること、

などが絡み合って指数分布となるのであろう。


また、現実の物理的な油滴ではなく、仮想的、数学的な油滴の場合はどうなるか。

平面の上に、たとえば6角形配置に円をびっしりと敷き詰める。

その円と円の隙間にぴったりと収まるように、小さな円を埋める。

まだ残っている隙間に、ここにもぴったりと収まるような円を埋める。

この操作をどこまでも続けると、円は平面を「全て、完全に」覆い尽くすのだろうか。

それとも、円と円の間には「隙間が残る」のだろうか。

もし隙間が残るとすれば、その面積はいくつ?

難しい積分の本とかを見ると、どうやら「限りなく0に近づく」らしいのだが、いまひとつ実感が湧かないというのが本音である。


ところで、せっかく集めた油滴を捨ててしまうのではなく、試しに飲んでみるとどんな味がするか。

これが実に「まずい」のだ。

なんというか、ねっとりした油特有の膜が舌を覆ってしまい、味が細かく伝わってこないような感じだ。

実際の油料理でやってみるとよくわかる。

どうやら人間の舌は「強制的に操作した」油滴より、「自然にばらけた」油滴をおいしいと感じるらしい。

やはり油滴鍋は、あれこれつつくより素直に食べるのが一番良い。

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