Hatena::ブログ(Diary)

小人さんの妄想 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2008-06-24

口コミがブレークする数は

それは自然対数の底、eである。

1人が平均してe人以上に伝達すれば、その情報はブレークする。

e人未満の場合、その情報はやがて自然消滅する。


e = 2.718281828... (鮒、一鉢二鉢 一鉢二鉢)は、不思議な数だ。

円周率と同様、超越無理数であり、規則性のない数列がどこまでも続く。

しかし、円周率が何の数字か直感的に明らかなのに対して、

「eとは何か」という問に、一言で素早く答えるのはなかなか難しい。

私も長い間よくわからないままに来たのだが、最近ようやくその本質を掴みかけてきた気がする。


eとは何か、その答は「口コミがブレークする数」のことである。

もしあなたが、何らかの噂話を聞いたとき、その信憑性をどのようにして決めるだろうか。

まず重要なのは、情報源が単数か、複数かの違いだろう。

たった1人から聞いた話は、あくまでも「その人個人の意見」に過ぎない。

ところが、もし異なる2人から同じ話を聞いたなら、それは個人の意見ではなく「一般的な事実」となる。

しかし、事実に留まっているだけでは、さらに他の人に伝搬するまでには至らない。

口コミのレベルにまで達するには、2人では足らず、もう少しプラスアルファが必要なのだ。

3人いれば、ほぼ確実にブレークするが、それではやや多い。

ブレークに至る、ギリギリの数が2.71人、つまりe人なのである。


このブレークする数には、数学的な理由がある。

それは、次の問題を考えることからわかる。

---------------------------------------------------------------

2人がトランプの札をAからKまで、13枚ずつ持つ。

同時に1枚ずつ札を出していったとき、最後まで1度も同じ数があたらない確率はいくつか。

---------------------------------------------------------------

この問題は、「出合いの問題」、あるいは「モンモールの問題」という名で知られている。

先に答を言うと、この確率はほぼ 1/e となる。

上ではトランプの札の数、13枚で考えたが、対象となる札の数が大きくなればなるほど、確率は 1/e に近づく。

しかも、収束はとても速く、対象となる札数が7枚程度であっても、すでに小数点4桁目まで 1/e に一致している。


この出合いの確率と、口コミとの間にどのような関係があるのだろうか。

口コミメカニズムは、出合いを何度も繰り返すものだと考えることができる。

例えば最初の世代に、13人の人がそれぞれ情報を有していたとしよう。

この13人をトランプの札のようにシャッフルして、次の13人に情報を伝達する。

そのとき、自分と同じ数に当たった場合は情報が伝わり、違う数に当たった場合は情報が途絶えてしまうと考える。

そうすると、次の世代で情報が完全に途絶えてしまう確率は 1/e である。

そこで情報が途絶えないようにするためには、試行回数をe回まで増やすか、1人ではなくe人に伝達を行う。

世代交代のたびに、ちょうどe倍すれば、平均して情報は減ることもなく、増えることもなく、次世代に受け継がれてゆく。

もし伝達の「濃度」がe倍よりも低ければ、何度も伝達を繰り返すうちに、情報は尻すぼみになる。

反対に伝達の「濃度」がe倍よりも高ければ、何度も伝達を繰り返すうちに、情報はどんどん膨れあがってブレークを生むことになる。


世代ごとにある一定の規則でもって生成、消滅を繰り返すものは、平均してe倍以上になるか、それ未満かによって挙動が分かれるのではないかと思う。

わかりやすいのは、計算機シミュレーションで「セルオートマトン」であろう。

次世代のセルが 1/e = 0.3678 程度生きのこるあたりに、まず第一の境界線があるように思う。


参考サイト:「よく目にするラングトンのλとは、結局なんなのか」

http://www.asahi-net.or.jp/~li7m-oon/thatta01/th9802/lambda.html

この記事は「計算機シミュレーション入門」というサイトの中の「関連コンテンツ」に入っていました。

http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~kikuchi/kougi/simulation/


あるいは、最近よく話題に上がる「社会ネットワーク」みたいなものも、平均してe個以上のノードにつながっているかどうかが、生き死にの分かれ目なのではないか。


それでは、どのようにして 1/e という答が求まるのだろうか。


まず、カードの順序を並べ替える全順列のうち、同じ位置にカードがこないものだけをピックアップしてみる。

例えば、3枚のカード(1,2,3)を、全て異なる位置に置き換える並べ方は、(2,3,1), (3,1,2) の2通りとなる。

具体的に書き出すと、こんな風になる。


カード2枚 : 1通り : (2,1)

カード3枚 : 2通り : (2,3,1), (3,1,2)

カード4枚 : 9通り : (2,1,4,3),(2,3,4,1),(2,4,1,3),(3,1,4,2),(3,4,1,2),(3,4,2,1),(4,1,2,3),(4,3,1,2),(4,3,2,1)


それでは、1枚カードが増えたとき、この置き換え順列のパターン数はどういった規則で増えるのだろうか。

いま、カードがn枚のときの順列パターン数を D[n]通りとする。(Dは出合いのD)


ここから先はややこしいので、具体的にD[4]で考えてみる。

  置き換え前(1,2,3,4)

  置き換え後(a1, a2, a3, a4)

D(4)にもう1枚だけカード「5」を追加したときのパターン数を考えてみると、次の2つの場合がある。


* ケース1:

  置き換え前(1,2,3,4,5)

  置き換え後(a1, a2, a3, a4, 5)

まず「5」を最後尾に付けてみる。この状態で順列パターン数はD[4]のまま変わらないが、5が重なったままとなっている。

そこで、置き換え後の「5」と、a1〜a4 のいずれかを交換すれば、全く重なりのない順列パターンができあがる。

例えば「5」と a3 を交換すれば、こんなふうになる。

  置き換え前(1,2,3,4,5)

  置き換え後(a1, a2, 5, a4, a3

このとき、全体では (a1〜a4 の4通りの交換)xD[4] だけのパターン数となる。


* ケース2:

実は、上のケース1だけではまだ数え落としがある。

それは、カードは新たに1枚増えるのだから、「料理する前」の先頭の4つの順列は必ずしも全てが異なっている必要はなく、1個だけ重なっていても大丈夫なのである。

たとえば「4」が重なっている順列の最後尾に「5」を追加する。

  置き換え前(1,2,3,4,5)

  置き換え後(a1, a2, a3, 4, 5)

この状態で順列パターン数はD[3]となっているが、まだ4と5が重なっている。

そこで、4と5を交換すれば、めでたく重なりのない順列パターンができあがる。

  置き換え前(1,2,3,4,5)

  置き換え後(a1, a2, a3, 5, 4)

4と同じことが、3,2,1についてもあてはまるから、全体で(4,3,2,1 の4通りの交換)xD[3] だけのパターン数となる。


なぜ「ケース2」という場合があるのか、わかりにくいので補足すると、

  置き換え前(1,2,3,4)

  置き換え後(a1, a2, a3, 4)

という、1個だけ重なっている順列パターンは、新たに「5」という数を付け足すことによって

全く重なりのない順列パターンを作り出すことができるからだ。

つまり、全く重なりのない順列パターンを作り出す「もと」には、

* ケース1: 1枚カードが少ない、全く重なりのない順列パターン D[4]

* ケース2: 1枚カードが少なく、1つだけ重なりのある順列パターン

の2つの場合があるのだ。


さて、以上からカードを1枚追加したときの、D[n]が増える規則が導き出せる。それは、

  D[n] = (n-1)・(D[n-1]+D[n-2])

という規則である。

この式を変形すると、

  D[n] - nD[n-1] = - ( D[n-1] - (n-1)D[n-2] )   ・・・(1)

という形になる。

式の左右をよく見比べると、右辺は左辺の n を (n-1) で置き換えて、マイナスを付けたものになっている。

つまり、右辺 D[n] - nD[n-1] をまとめて F[n] と書けば、上の(1)式は

  F[n] = - F[n-1]

というきれいな形になる。

ここから

  F[n] = (-1)^n・F[2] = (-1)^n

(F[n] のスタートを考えてみると、n= 2 のとき、順列パターン数は1だったから D[2] = 1 。

 ここから F[2] = D[2] - 1・D[1] = 1 となることがわかる。)

このF[n] をもとの D[n] に戻すと、

  D[n] = nD[n-1] + (-1)^n   ・・・(2)

となる。


さて、今問題にしていた確率P[n]は、D[n]を全順列の数 n! で割った値である。

  P[n] = D[n] / n!

この式を

  D[n] = n!・P[n]

と書き直して、(2)式に代入する。

  n!・P[n] = n・(n-1)!・P[n-1] + (-1)^n

  P[n] - P[n-1] = (-1)^n / n!

つまり、P[n] は

  P[n] = 1 - 1/1! + 1/2! - 1/3! + 1/4! ・・・

なのである。


この級数は、e^x を展開したものにとても近い感じになっているであろう。

 e^x = 1 + x/1! + x^2/2! + x^3/3! + x^4/4! ・・・

 ここで x = -1 とすると、

 e^-1 = 1 - 1/1! + 1/2! - 1/3! + 1/4! ・・・

おおっ、確かに P[n] と e^-1 が一致しているではないか!


参考図書:

(以上の計算は「数学セミナー増刊 数学100の問題」という本の、ほぼ丸写しです。)

KETARUKETARU 2008/06/25 21:15 こんにちは。
 面白いですね。
「根回しはeヶ所以上すべし」「子供はe人以上」
「e社以上確保しないと」などといろんな場面で調子に乗って言ってしまいそうです。
 ただし、eが出てくるようなモデルを人為的に選んでいるともいえると思いますので、
 現実にどこまで適用できるかどうかは、また別の注意が必要かと思います。

rikunorarikunora 2008/06/26 12:59 コメントありがとうございます。
たしかに「自分と同じ数に当たった場合は情報が伝わる」といったあたりがすごく恣意的な気もします。
e という数の意味は、なかなか簡単にはつかめなくて、いまでも「一言でわかる e の説明」を探索中です。
ちなみに、この問題を最初に系統的に解いたのは、やはりオイラーさんらしいですよ。
オイラーさんは超人ですね。

KETARUKETARU 2008/06/26 21:08 「eを一言で」ですか。
 「x^iθ で複素平面の単位円上を回せる唯一の値(x=e 以外は回って発散か0に落ちちゃう)まわるくん」とか...

(ところで口コミブレークのこの問題は、臨界曲線のお話しと全く同じ意味ですね。見事です)

KETARUKETARU 2008/06/27 19:29 ごめんなさい。上記訂正します。
「x^iθ で複素平面の単位円上をθ=2πで一周回せる唯一の値」(x=e 以外だと 一周が2πにならない)ですね。
この場合は振幅には影響しないのでした。

rikunorarikunora 2008/06/27 22:45 「x^iθ で複素平面の単位円上をθ=2πで一周回せる唯一の値」
これは一言で e の美しさを表していますね。
私は複素平面上で回るということに、少なからず感動を覚えたのですが。(感動するよね、ねっ!)
臨界曲線のお話しと全く同じ、というのは、実は全くその通りです。
当初、確率が1/eになるということは全く知らず、なんとなく系が大きくなると0に近づくのではないかと思っていました。
ところがよく調べてみると、どうやら一定値になるらしいということで興味が湧き、さらに調べてみると 1/e だということがわかって、これは大発見!と喜んでいたのです。
ところが、もっとよく調べてみると、既にオイラーさんが250年も前に解いていたと知って、ちょっとがっかりしました。
でも、がっかりのままではつまらなので、こうしてブログの記事になったわけです。

KETARUKETARU 2008/06/29 11:53 調べたら Euler Archive の E201 (1753)でしたね。
(Montmort は 1713年とか書いてますね)

 n枚を毎回シャッフルする条件と同等ならばnを増やせば0に落ちてくことになるので、変な予想でもないですよ。条件次第です。

 でも自力でオイラーさんの結果にたどり着けるなんて、良い経験じゃないですか。

rikunorarikunora 2008/07/01 01:14 ありました、これですね。
http://math.dartmouth.edu/~euler/pages/E201.html
情報どうもです。オリジナルはフランス語?!なのか?
こんなものがすぐその場で見れるなんて、インターネットってすごい。

ヒルネスキーヒルネスキー 2010/12/29 11:45 こんな主張が。

臨界曲線について
http://pathfind.motion.ne.jp/critical-curve.htm

臨界点の定量解析とその応用
http://www.motion.ne.jp/pathfind2/RPFP1-5.html


只、上記に対してはこの様な反論も。

http://ketaru.sblo.jp/article/1150251.html
物理数学の直感的方法 第2版
の要約。
《この本の「作用マトリクス」について気づいた事をPDFで追記》
《作用マトリクスは単純な式で指数行列に置き換えることができて、既存の微分方程式の解法やリー代数との対応づけができる》
《作用マトリクスが「対角化可能=微分方程式が解ける」という「対角化解法」という主張は誤りで実際は上記の対応で全て解けることがわかる》
http://eiteruya.sakura.ne.jp/sblo_files/ketaru/image/Sayo_MTRX.pdf

・・・・・・正直分からないので解説をお願いします。

rikunorarikunora 2010/12/30 02:31 1.「臨界曲線について」「臨界点の定量解析とその応用」
2.「作用マトリクス」について
この2つは、取り上げている問題の焦点が異なっています。

1.の方は、
「複数個の要素から成る系の挙動が、相互作用の強さ e を境に(あるいは 1/e を境に)大きく変化する」
という主張です。
上に挙げたモンモール問題や、ラングトンのλのように、切り口は様々ですが似たようなアイデアをあちこちで見かけます。
特別新規なアイデアでも無いし(何せオイラーの時代からあるのですから)、特に間違ったことも言っていないと思います。

一方、2.の方は、
物理数学の直観的方法 第2版に書かれている、
「対角化可能=微分方程式が解ける」という記述は誤りなのではないか、という主張です。
こちらは微分方程式の可解性についての議論です。

で、「作用マトリクス」についてですが、正直、私はこの内容を理解していません。
もし非線形まで含めて、一般的な微分方程式の可解性を判定できる方法があるとしたら、
それはものすごく高度複雑なものになるでしょう。
少なくとも私は知りませんし、現在でも未解決な問題だと思います。

2.で言う「対角化可能=微分方程式が解ける」とは、要するに「線形な微分方程式は解ける」ことの言い換えであろうと思います。
ここまでは正しい。
しかし、ここからもう1歩考えを進めて「対角化不能=微分方程式が解けない」とは、単純には言えないのではないか?
というのが2.の反論です。
なぜなら、およそ線形な行列というものは必ず対角化(あるいは三角化)できるので、
もし「対角化不能=微分方程式が解けない」だったなら、この世に解けない微分方程式など無いことになるからです。
これも正しい。
2.の反論は、線形な微分方程式についてのことです。
一方、可解性が問題となるのは非線形な微分方程式についてのことです。
それでは非線形な微分方程式の扱いはどうなるのか?
残念ながら、そこまで詳しくは「物理数学の直観的方法」には載っていませんし、
ホームページにも、何処にも「微分方程式の可解性を判定する方法」は載っていません。

まとめると
1.およそ正しい
2.線形な微分方程式 => 解ける
  非線形な微分方程式 => 未解決
ということです。

hirotahirota 2010/12/30 12:28 今の所、解ける非線形微分方程式はソリトン系だけですね。
カオスにならなければ解ける (解析関数で表せる) てのが多分言えるんだろうけど、いつかそのうち的な話でしょう。
カオスかどうかなんてポアンカレ図で直観的判定できるから「直観的方法」を謳う本に載ってないのは不備ですなー。

rikunorarikunora 2010/12/31 15:50 カオスな軌跡は、どう見ても直観的に解けそうにないですからね。
直観的方法の最後の章である「三体問題と複雑系の直観的方法」は、ちょっと他とは違っているように見えます。
全く独創的ですし、その分つっこみ所も多いのではないかと。

ヒルネスキーヒルネスキー 2011/01/03 08:36 お返事ありがとうございます。
・・・・・・長沼氏が見落として書いていないのか、それとも潜水艦戦略のコアユニットとして「これだけは載せる訳にはいかない」から書かれていないのか・・・・・・。

スパム対策のためのダミーです。もし見えても何も入力しないでください
ゲスト


画像認証

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/rikunora/20080624/p1