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小人さんの妄想 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2008-07-27

クロック数の物理的限界

質問:

 パソコンのクロック数の物理的な上限は?

答:

 プランク定数 h と、与えられたエネルギー E の大きさで上限が決まる。

 1クロックの時間を t とすれば、t >= h / 4 E となる。


新型モデルが出るたびに上がってゆくCPUのクロック数は、いったいどこまで上がり続けるのだろうか。

物理的な限界はあるのか。

その昔・・・といっても実はそれほど昔でもないのだが、私がパソコンを触り始めた当時、最も悲観的な予測では

「パソコンのクロック数の物理的限界は 300MHz くらいではないか」

と言われていた。

今となっては信じられない話だ。

この「300MHz限界説」の主な根拠は電磁波だった。

ラジオ局、例えば TOKYO FM の周波数は 80MHz である。

パソコンのクロック数は、それよりもずっと高い。

ということは、パソコンの内部で電線を1本引けば、それは立派な「放送局」になってしまう。

放送局」から発した電磁波は、すぐ隣にある電線で「受信」されて、瞬く間にパソコン全体に広がる。

これではとても安定した計算などできるはずがない。

これが「300MHz限界説」の主張だったのである。


ところがその後、CPUのクロック数は年々成長を続け、いつの間にか 300MHz限界は消えてしまった。

あの当時騒がれていた電磁波の問題はどうなったのか。

詳しいことは私も知らないが、きっとメーカーの涙ぐましい努力で限界を突破したのだろう。


こうなると、本当の物理的な限界は一体どこにあるのかと思いたくなる。

電気信号がいかに速くとも、秒速30万キロという光速の壁は突破できないだろう。

現行のパソコンは 3 GHz 程度で動いている。

ということは、パソコンの1クロックで進む電気信号の長さは

300 000 000 (m/s) ÷ 3 000 000 000 (Hz) = 0.1 (m)

つまりたったの 10cm だ。

電子回路を極端に小さく作らなければならない理由は、実はここにある。

実際には 10cm よりももっと小さな長さのうちに、1クロックで動作するゲートを埋め込む必要があるわけだ。

1クロックあたりの電気信号の到達距離は、どこまで短くできるだろう。

1cmくらい? うんとがんばって 1mm?

であれば、数10GHz 〜 数100GHz 程度が、クロック数の限界ということになる。


しかし、電子デバイスは最も進歩の速い世界である。

おそらく、この「300GHz限界説」も早々に打ち破られるだろう。

というのは、未来の電子回路は 1mm よりもずっと小さくなると予想されるからだ。

近い将来、原子数個程度で動作する「ナノ・電子デバイス」が出来上がる。

個々のトランジスタはナノサイズ、回路全体でもミクロンサイズの超小型回路だ。

もしこういった超小型回路が実現すれば、300GHz の壁も、いつのまにか消えることになるだろう。


こうなると、最後に残された物理的な限界は量子力学の世界にある。

量子力学の世界には、プランク定数(6.626068 × 10^-34 m^2 kg / s)という値がある。

そして、不確定性原理によれば、

  Δt・ΔE = h   (時間の最小幅)×(エネルギーの最小幅)=(プランク定数

という関係がある。

この Δt にパソコンのクロックを当てはめて考えると、Δt の値は h / ΔE よりも小さくならないことが分かる。

つまり、パソコンにかかるエネルギーΔE をうんと大きくしないと、Δt の値はうんと小さくはならない。

現実的にパソコンにかかるエネルギーには上限があるだろうから、Δt にも自ずと上限が課せられるだろう。

これが本当に物理的なクロック数の限界だ。


電子デバイスの小型化はどこまで行けるだろうか。

現在普通に考えられる最小のデバイスとは「1量子ビット」のことであろう。

つまり、1量子ビットを反転するのにかかる時間が、システムの最大クロック数を定める。

これと不確定性原理から、クロックの物理的な限界を見積もることができる。

その結論は「マーゴラス・レヴィティンの定理」と呼ばれている。

詳しい話は元の論文に譲るとして、結論を述べると、

 「1クロックの時間を t とすれば、t >= h / 4 E 」

というのが限界値だ。


「マーゴラス・レヴィティンの定理」論文の直訳、興味ある方はどうぞ。

The maximum speed of dynamical evolution(ダイナミックな発展の最大速度)

>> http://brownian.motion.ne.jp/memo/max-speed.txt

-- オリジナル文献はこちらから。

>> http://people.csail.mit.edu/nhm/


参考文献: 日経サイエンス 2005年2月号「計算する時空 量子情報科学から見た宇宙」

私はこの記事で初めて「マーゴラス・レヴィティンの定理」を知った。

この記事の中では、次のような例が挙がっていた。

 ・1Kgのガス状物質が1リットルの箱の中に収まっているとした場合、

  そこで1秒間に為し得るビット反転は 10^20回程度となる。

 ・これは1GHz の 1000億倍のクロック数。

 ・ただし、1Kgの物体を完全にエネルギーに変えるといえば、20メガトン級の水爆そのものだ。

確かに、これなら物理的限界として申し分ない値だと言える。


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