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小人さんの妄想 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2008-08-10

痛み概念の習得

誰でも、痛いことは嫌い。

人間だけでなく、動物だって、たたかれれば嫌がる。

「痛み => 嫌悪」という結びつきは、先天的に本能に仕組まれたものであろう・・・

おそらく多くの人がそう信じていることと思う。


しかし、これが違うのだ。

「痛み => 嫌悪」の結びつきは、幼い頃に、ようやくハイハイしたての頃に学習する概念なのである。

なぜ、そんなことが断言できるのか。

それは、私自身、痛みを最初に習得したときのことを覚えているからだ。


私が幼少の頃育った家は、二階建ての木造家屋だった。

二階には畳敷きの部屋が2つあって、南面は木造の廊下となっていた。

私はそのうちの1つの部屋(寝室)に寝かされていたのだが、何かの折りに部屋を抜け出して、廊下をハイハイして進んでいった。

その廊下の先には狭くて急な階段があった。

私はそのまま廊下を突き進み、階段に入ったところでバランスを崩し、ゴロゴロッと一気に下まで転がり落ちた。

天地がぐるぐる回転して、気がついたら階下に居た。

全身に、今の私が「痛み」と呼んでいるものが駆けめぐって、体は勝手に泣き叫んでいた。

そのとき、初めて気付いたのだ、

 「ひょっとして、今全身を覆っているこの感覚は、とても嫌な、つらいものなんだ」

ということに。

「痛み」と「嫌」が、このとき初めて結びついたのだ。

赤ん坊が「悲しいから泣く」のだと思っている人がいるかもしれないが、それはちょっと違う。

悲しみを感じるより先に、自動的に泣くのである。

階段から落ちて、激しくぶつかった後に、まず体が自動的に泣き出す。

神経に強烈な感覚が走り、体が自動的に泣き出した後で、最後に感情が

「これは避けるべき、嫌なものだ」ということに気付くのである。

「痛み => 嫌悪」の結びつきは、おそらく最初に強烈な痛みを感じたときに、学習するものなのだ。

私の場合は、それがあの階段から落ちたときだったのである。

たぶん、誰もが一度はこの学習を経ているはずだ。

私はどういうわけか、たまたまそのことを覚えている。

もちろん、赤ん坊が「痛み」とか「嫌悪」といった言語を知っていたわけはない。

なので、このことは「言語」で考えていたのではなく、今から「言葉」に直して語るのはとても難しい。

痛みという感覚と、泣き出すといった反応は、体で自動的に起こる。

心は、大げさに言えば、体で起こったことを眺めて、それを後からしかるべき場所に結びつけるのだ。

そして、その結びつきは、最初からあったのではない。

最初は無かった。

そして、初めて出会った1回目に、強烈な結びつきが形作られるのだ。


私には階段とは別に、もう1回「流血 => 嫌悪」の概念を取得した覚えがある。

こちらの方の記憶は、ほんの断片しか無い。

もう少し正確に言うと、階段の記憶と流血の記憶は混じり合って1つになっているのだが、

その一方で、確か階段のときには血を流していなかったはずだという記憶もある。

なので、おそらく流血の方は階段とは別に起こった事件だと思うのである。

確かそのときは台所か、そういった場所だった。

指を怪我して、血がたらたらと流れていた。

手を怪我して強い感覚に襲われている自分というものがいて、

その傍らに、自分を判断する心というものがあって、

 「ひょっとして、このたらたら流れている状態は、とても嫌なものなのではないか」

という気持ちが強烈に心を襲ったのである。


あの幼少のとき以来、「痛み」と「嫌悪」は、意識に上らぬほど心の奥底で固く固く結びついてきた。

たぶんほとんどの人はこのことをすっかり忘れて、「痛み = 嫌悪」を自明の理としていることだろう。

しかし、私はそれほど自明の理だとは思っていない。

ごく希に、たまたま「痛み」と「嫌悪」が結びつかなかったとか、

「痛み = 嫌悪」を学習するチャンスを逃してしまったとか、

そんなことがあっても不思議はないかな、と思うことがある。

常識からすれば、そんな生き物はさっさと死んでしまうはず、ということになるだろう。

しかし、ひょっとすると人の心はその常識を越えるかもしれない。

人の心は、生物としてギリギリのところまで柔軟に作られているように思うのである。


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追記:2008/09/04

「痛みを感じない病気」でググったら、こんなエントリーがあった。

痛みを感じない少年 - いそら

「彼は頭を壁にぶつけたり、学校の友達と荒々しく遊んでいるときでも常にスマイリーだ。これは彼が極めて稀な遺伝病にかかっているからなのだ。」

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