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小人さんの妄想 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2008-08-28

電子といっしょに動いたら

Q:電線の中を流れている電子といっしょになって自分が動いたら、周囲に発生している磁場は消えるのか?

A:ローレンツ収縮によって電荷密度が変化するので、力のつじつまが合う。


電線の中を流れる電子のスピードは、実は「人が歩く程度の速さ」であると以前のエントリーに書いた。id:rikunora:20080628

ということは、電流と同じスピードで電線の隣を実際に歩くことができるわけだ。

電子と同じスピードで歩いている人から見れば、そこにはあたかも電流は流れていないかのように見えるだろう。

ちょうど川の流れと同じスピードで下っている人から見れば、水が静止して見えるように。

ところで、電流が流れると、その周囲には磁場が発生する。

電流が無く、電子が止まっていれば磁場は発生しない。

ということは、電子と同じスピードで歩いている人から見れば、電流の周囲に発生している磁場は消えてしまうのだろうか。


もし磁場が消えてしまったら、おかしなことになる。

磁石で鉄をくっつけているときに、誰かが電磁石の周りをグルグル回ったら、その人にとっては鉄はくっつかないのだろうか。

スピーカーには電磁石が使われているが、電流に合わせてスピーカーの周りを動き回れば、音が消えてしまうのだろうか。

もしそのとき、もう1人別の人がスピーカーの正面に座っていたとしたら、動いている人には音が聞こえなかったのに、座っていた人には音が聞こえるのか。

そんなはずは無かろう。

動き回っている人から見ても、座っている人から見ても、スピーカーからは実際に同じ音が聞こえてくる。(ドップラー効果を差し引いて)

ということは、動き回っている人から見て磁場が無くなったように見えても、その無くなった磁場を補うような形で何らかの補正が入っているのだと考えざるをえない。

そうでなければ、事実とつじつまが合わない。

この何らかの補正とは、「ローレンツ収縮」のことである。

動いている人から見る世界は、座っている人から見た世界と比べて、進行方向に対してほんの少しだけ「縮んで」いる。

縮むとそれだけ電線に入っている電荷の密度が上がり、電場が少しだけ強くなる。

そして、この電場が強くなった分は、ちょうど磁場が無くなった分を補う。

結果として、電子に対して動き回っていている人も、座っている人も、全く同じ現象を見ることになるのである。


こう書くと「ローレンツ収縮」という何やら神秘的なメカニズムがあって、それが空間を縮めたり伸ばしたり、想像を絶するアクロバットを行っているような印象を与えるかもしれない。

しかし、話の順序は逆なのだ。

電流や磁場のことを調べてゆくと、どこかでうまいこと調整しないと矛盾が生じてしまう。

その代表例が「見る人の移動速度によって、磁場が生じたり消えたりする」ことなのである。

この矛盾を解消するために、しわ寄せがいった先が「空間の長さ」だった。

そして(きっと最初は半信半疑で)空間の長さの調整方法をまとめたものが「ローレンツ収縮」と呼ばれるようになったのだ。


考えてみると「動いているときにだけ磁場が発生する」という現象は、とても不思議なことだと言わざるを得ない。

たとえ電子が(普通は地球に対して)止まっていたとしても、自分が動けば見かけ上電子は動いているように見える。

地球に対して)空気が静止していても、自分が走れば風を受ける。

それと同じように、自分が走ればあちこちにある電荷から「磁場の風」を受けるはずだ。

ところが実際に、我々は「磁気嵐」の中に暮らしているわけでは無い。

つまり、空気に対する動きと、電流に対する動きは、どこか根本的にメカニズムが異なっているのである。


相対性理論の原理の1つに「光速度不変の原理」がある。

「真空中の光の速さは光源の運動状態に無関係に一定である」というものだ。

光速度不変の原理は「原理」と付くだけあって、何らかの理論や数式から導かれたものではない。

実験によって確かめられた事実である。

ただ、普通の人が日常で光の速さを測定することは、なかなか難しい。

なので相対性理論とは、どこか遠い宇宙の彼方の夢物語のように感じられる。

ところが、実のところ(特殊)相対性理論はごく身近なところにあって、確かめることも簡単にできるのだ。

光とは電磁波である。

光速度不変とは、電場磁場に分解して考えれば「電気と磁石のふるまいがどこから見ても同じに見える」という事実に還元される。

光速度の測定が難しくても、電気と磁石の実験ならば簡単だ。

方位磁石を1個持ったまま、静電気の近くをあちこち歩き回るだけで良い。

その結果、磁石が常に南北を指していれば、やはり「磁場の風」は無かったのだということになる。


それでは、電子といっしょになって動いている人から見て、電場磁場はどのように「つじつま合わせ」を行っているのか、考えてみることにしよう。

まず予備知識として、光の速度が電磁気のふるまいによって記述できることを知っておく必要がある。

光速度をcとすると、

  c^2 = 1 / (ε0 μ0)

    ε0 : 真空の誘電率

    μ0 : 真空の透磁率

となっている。

真空の誘電率とは、離れている2つの電荷の間にどれほどの力が働くかを表した数のこと。

真空の透磁率とは、離れている物体に磁石がどれほど影響を及ぼすかを表した数のことだ。

要は「電場磁場の固さ」がわかれば、そこから電磁波の速度がわかってしまうのだ。

実は、これが光が電磁波であることを示す1つの証拠なのである。


いま、非常に長い電線が2本平行に置かれていて、電線の中に電子がいっぱいつまっていた(帯電していた)としよう。

f:id:rikunora:20080828105047p:image

電線に電流が流れていなければ(電子が止まっているように見える人にとっては)、2本の電線の間には電荷同士の反発力が働いているように見える。

電線の単位長さあたりの反発力をfとすると、

  f = (q1 q2) / (2 π r ε0)

    q1, q2 : 単位長さあたりの電線が保有している電荷

    r : 2本の電線間の距離

となる。

(教科書などに載っている2つの点電荷の間に働くクーロン力

  f = (q1 q2) / (4 π ε0 r^2)

であって、上の式とは違っている。

上の式では長い電線=円柱を考えているのに対して、下の式は点電荷=球面を考えているのが違いだ。)

一方、電線に沿って速度vで移動している人から見れば、電線には電流が流れているように見える。

2本の電線に流れる電流をそれぞれ i1, i2 とすると、電流とは電荷の移動なのだから、

  i1 = q1 v

  i2 = q2 v

となる。

電流は周囲に磁場を形作り、2つの磁場同士は互いに引き合う。

2つの電流の間には働く引力Fは、電線の単位長さあたりで

  F = (i1 i2 μ0) / (2 π r)

となる。

問題となるのは、電子が静止している人から見れば反発力fしか働いていないのに、電流が流れている人から見れば引力Fも働いていることである。

ここで2人が感じる力が同じになるようにつじつま合わせを行うなら、電流が流れている人が感じる反発力を強引に増やすことになるだろう。

つまり、電流が流れている人が感じる反発力f’を

  f’= { (q1 q2) / (2 π r ε0) + (i1 i2 μ0) / (2 π r) }

といった具合に水増ししてしまうのだ。

式を整理すると

  f’= { (q1 q2) / (2 π r ε0) + (q1 q2 v^2 μ0) / (2 π r) }

    = (q1 q2) / (2 π r ε0) { 1 + ε0 μ0 v^2 }

ここで、先の「光の速度の予備知識」を使うと、

  f’= (q1 q2) / (2 π r ε0) { 1 + v^2 / c^2 }

    = f { 1 + v^2 / c^2 }

つまり、どういう理由か知らないが、もとの反発力fに { 1 + v^2 / c^2 } という補正を行えば、話のつじつまが合うことになるわけだ。


この { 1 + v^2 / c^2 } という補正は、どこから湧いてきたのだろう。

想像力をたくましくすればいろんな可能性があるだろうが、ここでは「人が速度vで移動する向きに電線の長さが縮む」のだと解釈しよう。

電線は、どの程度の割合で縮むのだろうか。

その縮む割合を、ここでは 1/γ という記号で書くことにする。

縮む割合の記号を用いて、改めて力のつじつま合わせの式を書き直してみよう。

電線が縮んだ分だけ電荷が圧縮されるのだから、圧縮された電荷

  q1' = q1 / γ

  q2' = q2 / γ

この電荷を「つじつま合わせの式」に代入してみると、

  f’= f { 1 + v^2 / c^2 }

  (q1' q2') / (2 π r ε0) = (q1 q2) / (2 π r ε0) { 1 + v^2 / c^2 }

  (q1 q2) / (2 π r ε0 γ^2) = (q1 q2) / (2 π r ε0) { 1 + v^2 / c^2 }

  1 / γ^2 = { 1 + v^2 / c^2 }

  γ^2 = 1 / { 1 + v^2 / c^2 }

つまり、電線が縮む割合γは

  γ = √{ 1 - v^2 / (c^2 + v^2) }

となる。

この式は、相対論で言うところのローレンツ変換とほぼ同じだ。

正しいローレンツ変換の式は

  γ = √{ 1 - v^2 / c^2 }

である。

vがcに比べて非常に小さければ、2つの式はほぼ一致している。


本当は計算の結果、正しくローレンツ変換が出てくると思っていたのだが、どこかに見落としがあるようだ。

なので、上の計算は泥縄式である。

たぶん速度vで移動している人から見れば、2本の電線間の距離は r 固定ではなく「斜めに」見えるのだと思う。

正しくローレンツ変換を導くには、やはり正道で4元ベクトルとかやらないとだめみたいだ。

それでも、「電子といっしょに動いたら」という疑問と、高校物理の知識だけでローレンツ変換もどきにたどり着けるのは、それなりに価値があるんじゃないかなあ。


(ちなみにカテゴリーが「電気屋さんの常識」となっているが、いつの間にか常識からかけ離れてきた。

いや、相対論は21世紀の常識なのだ。)


arakik10arakik10 2013/10/05 05:37 はじめまして

>電子と同じスピードで歩いている人から見れば、そこにはあたかも電流は流れていないかのように見えるだろう。

議論のこの部分はダウトではないでしょうか?
なぜなら電線が静止している系で電子の速度 v での移動によって j=(-e)v の電流が流れているなら、電子が静止して見える系では周囲の銅イオン(銅線ならば)が -v で移動しているので、やはり観察者からは同じ j=e(-v) の電流が流れているように見えるのではないでしょうか?

skyshipskyship 2014/05/24 22:12 お久しぶりです。「カテゴリー」のリンクからこの記事に出会いました。
このような電流の考察からローレンツ収縮を得られるのは驚きでした。

実際の電流を考えると前コメントの指摘は確かに鋭いと思いましたが
仮想的には電子だけが流れる電流は想定できますので
本記事の考察は妥当なものだと思います。

> 本当は計算の結果、正しくローレンツ変換が出てくると思っていたのだが、どこかに見落としがあるようだ。
これは「電線の収縮による反発力の水増しは、引力をも水増ししてしまう」
ということを見落としているのが原因だと思いました。

非静止座標系において
f[電荷による反発] = q1'q2'/2πrε0
f[磁場による引力] = q1'q2'μ0/2πr (上記とは逆の向き)
ですから
f[総合,非静止座標] = q1'q2'(1-v^2/c^2)/2πrε0
となりこれが静止座標での力 q1q2/2πrε0 に等しい
とおけば正しいγが得られそうです

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