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小人さんの妄想 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2009-03-27

ラグランジアンに意味は無い

広くて平らな草原のような土地で、スタート地点からゴール地点まで、最も経済的にたどりつく道筋は?

どこを走っても構わないのであれば、一直線にまっすぐ進むのが最も済的な道筋でしょう。

それでは、向かって左側が沼地になっていて進むのが困難、右側に行くほど地盤が固くて快適だったら?

この場合は直線に進むよりも、いくぶん右よりにカーブして進んだ方が全体として得なわけです。

だからといってうんと右側に曲がっていっては、かえって遠回りになってしまいます。

結局のところ、路面の進みやすさに応じて、適度に右よりにカーブした道筋が一番よいということになるでしょう。

道筋は途中に何があるかによって変わってきます。

例えば、右手に火山のような障害物があって、できるだけ離れた場所を通りたい、

あるいは、途中に風光明媚な湖があって、できれば近くを通って行きたい、などなど。。。

実際の地図を眺めてみても、道というものは、いちばん良いところに自然に落ち着くように思えます。

それでは、もし地形や状況を意のままに設定することができたら、どうなるか。

きっと思った通りの道の形が自然にできあがるのではないか。

例えば、放物線のカーブが描きたかったら・・・

これがラグランジアンの発想です。


ラグランジアンとは、解析力学に登場する、何とも得体の知れない数式の塊です。

・・・少なくとも、私にとってはそのようなものでした。

物理に登場する量、例えばエネルギーとか、運動量といったものは、

それなりに物理的なイメージを思い描くことができます。

ところが、そうした具体的なイメージをラグランジアンに当てはめようとすると、どうもうまく行きません。

ラグランジアンとは、何らかの物理的な意味を持ち合わせている量では無いのです。

上記の道路と地形の例のような、「目的に適ったカーブを描き出すための状況設定」、

それがラグランジアンの正体なのだと私は思っています。


ラグランジアンを理解するのに最低限必要な知識は、次の3つです。

1: 物体の位置の微分は速度、速度の微分加速度

  運動というものは2階の微分で表される。

2:2変数関数微分

  δとεがほんのちょっぴりだったら、

  f( x+δ, y+ε) - f(x + y) = (∂f/∂x)δ + (∂f/∂y)ε

3: 部分積分

  たぶん高校で習うのだと思う。積の微分の逆。

   (fg)' = f'g + fg'   <-- 積の微分

   fg' = (fg)' - f'g

   ∫fg' = fg - ∫f'g   <-- これが部分積分だよ

  私は未だに覚えられず、部分積分が出る度に必ずこの3行を書いています。


まず、最も経済的な道筋を計算する方法を考えてみます。

思い当たるのは、前進するのにかかったコストを道沿いに足し合わせてみる、という方法。

例えて言えば、消費したガソリンの量を道路1メートル毎に細かく足し合わせてゆく、といった感じです。

この前進コストを L という記号で表すことにします。

ある道筋にかかったトータルコストは、L をスタートからゴールまで足し合わせたものです。

  (トータルコスト) = ∫ L dt

L と書いたから知れるのですが、この L こそがラグランジアンと呼ばれているものです。

今はまだ具体的な中身の無い、未設定の状態です。

ところで、L は何に依存しているのか。

地図の例だといろいろあるでしょうが、力学の問題の場合は「物体の位置と速度」に依存します。

物体の位置と速度は、いずれも時刻 t の関数なので、

   [物体の位置] = q(t)

   [物体の速度] = q'(t)

と書くことにしましょう。

解析力学では x と書かずに q と書くのが習慣らしい)

L が物体の位置と速度によって決まる、という意味で、改めて関数っぽく書き直すと

  (トータルコスト) = ∫ L( q(t), q'(t) ) dt

となります。


最も経済的な道筋というのは、そこから右にちょっぴり外れても、左にちょっぴり外れても、

余計にコストがかかってしまうといった状況にあります。

つまり L が極小となっているような道筋です。

極小点を探すには、微分で変化がゼロになる点を探すのと似たような方法が使えます。

極小点では q や q' がちょっぴり変化しても、L の微少変化が0になっていることでしょう。

  (コストの変化)

  = (ちょっぴりずれた道筋) - (最も経済的な道筋)

  = L( q(t)+δq(t), q'(t)+δq'(t) ) - L( q(t), q'(t) )

ちょっぴりずれたところを δ という記号で書いてあります。

いちいち (t) を付けると見にくいので、省略します。

  = L( q +δq, q'+δq' ) - L( q, q' )

  = (∂L/∂q) δq + (∂L/∂q') δq'

上に書いた「2変数関数微分」と同じことだよ。

さて、最も経済的な道筋では、コストの微少変化が0になっているはずです。

  ∫ { (∂L/∂q) δq + (∂L/∂q') δq' } dt = 0

ここで部分積分の出番です。式の後半部にあてはめます。

  ∫ { (∂L/∂q) δq - (d/dt(∂L/∂q')) δq } dt + [ (∂L/∂q') δq ] = 0

途中をちょっぴりずらしても、スタート地点とゴール地点は変えていないので、[***] のところは0です。

  ∫ { (∂L/∂q) δq - (d/dt(∂L/∂q')) δq } dt = 0

  ∫ { (∂L/∂q) - (d/dt(∂L/∂q')) } δq dt = 0

結局のところ、最も経済的な道筋では、中身の {***} のところが0になるわけです。

  ∂L/∂q - d/dt(∂L/∂q') = 0

この式のことを「オイラーラグランジュ方程式」と言います。wikipedia:ラグランジュ力学


さてこの「オイラーラグランジュ方程式」は、一体何を表しているのか。

それは、「最も経済的な道筋が満たす条件」です。

状況や地形を設定すれば、それに従って一番よい道筋が自然にできあがる・・・

この式は、正にそれをやってのけてくれるのです。

ここまで、L の中身を具体的に決めていませんでした。

この方程式はいわば枠組みだけで、状況に応じて適切な L を設定すれば、いろんな場面に広く応用可能なんです。

とにかく

・2階の微分が関係していて

・最適な道筋を計算したい状況

に、全て応用できます。

ここまで「最も経済的」という言い方をしてきましたが、

物理では普通「最小作用の原理」という言い方をします。wikipedia:最小作用の原理

あと「道筋」は、普通「経路」と言ってます。


* L の一番簡単な例: 物体の落下

普通の古典力学では、以下のようにLを設定します。

 L = T - U

  Tは運動エネルギーのことで、T = 1/2 m q'^2 としましょう。

  Uは位置エネルギーのことで、とりあえず普通に重力 U = m g q を入れてみましょう。

ここで、なぜそうなるの?! といった疑問は後回しにすること。

このように設定すると、うまい具合に古典力学にあてはまるのだと割り切るべし。

とにかくこのLを、オイラーラグランジュ方程式にぶち込んでみます。

  ∂L/∂q' = m q'   (運動量になる)

  ∂L/∂q = - m g   (力が出てくる)

これらを方程式に入れてみよう。

  ∂L/∂q - d/dt(∂L/∂q') = 0

  - m g - d/dt( m q' ) = 0

  d/dt( m q' ) = - m g

  m q'' = - m g

確かに、普通の運動方程式 m α = F と同じになりました。

古典力学の場合、とにかく L = T - U に設定すれば、

いわゆるニュートン運動方程式と同じ結果が得られます。

この例だと全くありがたみが感じられないですが、もうちょっと複雑になると、

Lを使った方が俄然計算が楽になるんです。

(例はあちこちのページに書かれているから、ここでは省略)


それでは、なぜ T - U だと上手くゆくのか、空中に放り投げたボールの気持ちになってイメージしてみましょう。

放り投げたボールは、文字通り放物線を描いて飛んでゆきます。

カーブは上側にふくらんで曲がっている。

冒頭の地図と道路のイメージを思い描けば、下側に「通過しにくい沼地」があるんです。

ボールは「沼地を避けるように」飛んでゆく。

なので、位置エネルギーUにはマイナスが付く。

そうすれば、上を通過するほど低コストになるでしょう。

ならば、そもそもTは不要なのでは、と思えるのですが、そんなこともない。

もしTが無かったら、ボールはどこまでも沼地を避けて、うんと高いところまで飛んでいってしまう。

できるだけゆっくりと、しかも下方の沼地を避けること。

それが L = T - U の意味。

そうすれば、ボールはふんわりと放物線を描いて飛んでゆくことになるでしょう。


この L = T - U という式を見て、こんなふうに悩んでしまう人が多いのではないでしょうか。

 なぜに (運動エネルギー)−(位置エネルギー) なのか?

 これが (運動エネルギー)+(位置エネルギー) であれば、全エネルギーを表しているのに。

 うむぅ〜〜〜?!

私も最初はそう思いました。

それが間違いのもと、「ラグランジアンに意味は無い」んです。

しょせんは「経路を描き出すのに都合の良い設定」に過ぎないのです。


* L の一番有名な例: 最速降下曲線

  L = √{ ( 1 + (d^2y/dx^2)^2 ) / ( 2 g x ) }

と設定すると、描かれる曲線は最速降下曲線、サイクロイドになります。

この場合のLのことを、普通「ラグランジアン」とは呼ばないのですが、

古典力学のものと区別がつかないので)計算のこころは同じです。

とにかく別の設定にすると、別の経路が描けるのだぞ、ということが言いたかったわけ。

解説は長くなるので書きません。

気になる人は「最速降下曲線」でググれ!


解析力学については、WEB上にすぐれた説明がたくさんあります。

中でも秀逸なのが、これ。

 * EMANの物理学解析力学・つじつま合わせ なぜ L = T - V なのか。

 >> http://homepage2.nifty.com/eman/analytic/makelag.html

書籍では「物理数学の直感的方法」という本に、わかりやすい解説がありました。

あと、ちゃんと勉強したい人向けには、この本が決定版だと思う。

量子力学を学ぶための解析力学入門 増補第2版 (KS物理専門書)

量子力学を学ぶための解析力学入門 増補第2版 (KS物理専門書)


* 続きのエントリー 3つの運動方程式 >> id:rikunora:20090505

とねとね 2009/04/15 14:17 この記事に触発されてこの黄色い本を買いました。読み終わったら僕もレビュー記事を書いてみます。なかなかよさそうな本ですね!
あと続編(?)の「古典場から量子場への道」も一緒に買いました。

rikunorarikunora 2009/04/15 23:31 おお、いつもながらアグレッシブですね。
この本、かなり以前から手元にあったのですが、改めて読み返してみると、まだまだ未消化な部分が多いなあと感じました。
ラグラジアンについて自分なりに悟ったのは「物理的な意味を考え過ぎない」ということです。
なんというか、割り切りが大切ではないかと。
「古典場から量子場への道」、このコメントに触発されて、先ほど購入しましたぞ。

とねとね 2009/04/16 21:31 コメントに触発されてして注文してしまったのですね。(笑)
僕はそれに触発されて同著者の「量子場を学ぶための場の解析力学入門」の注文確定をクリックしてしまいました。。。
とりあえず「積読」です。アマゾンをサーフィンして物理本巡りをしていると、ついついクリックする衝動に負けてしまいます。本は読み始めないうちは物理的に言えば出版社の倉庫にあるか自分の本棚にあるかの違いだけなのですけどね。(笑)

とねとね 2009/04/29 19:36 こんにちは。
高橋先生の本を読み終わりました。
こちらの記事を僕のブログの記事の冒頭で紹介させていただきました。名前の「とね」の横の家マークをクリックするとその記事に飛びます。

rikunorarikunora 2009/04/30 10:25 購入日 - 読了日 = 2009/04/29 19:36 - 2009/04/15 14:17 = 14日 05:19 。
うおー、すごい気合いだ。

とねとね 2009/04/30 20:57 熱中していたので毎晩夜更かししながら読んでました。(笑)「古典場から量子場への道」を読み始めました。こちらはページ数が多いのと文字が小さいので時間かかりそうです。最初のほうの章、すごく面白いですよ!

算定仙人算定仙人 2010/01/14 20:48 原島鮮の力学IIを読めばラグランジアンの意味なんてすぐに分かります。

rikunorarikunora 2010/01/15 23:39 原島鮮の力学II、定評ある本なのに、まともに読んだことありませんでした。ぜひ今度読んでみます。

AtomAtom 2010/03/08 01:35 はじめまして、1つだけ、すみません。
L=T-Uの代わりに、E=T+Uを使用して、
∂L/∂q - d/dt(∂L/∂q') = 0の代わりに
∂E/∂q + d/dt(∂E/∂q') = 0を使ったんでは駄目なんでしょうか?
運動方程式は同じものになりそうなんですけど。

rikunorarikunora 2010/03/10 01:23 ラグラジアンの真のパワーは、座標変換したときに発揮されます。
(そのことは上の記事に書いてありません。)
上にあるような単純な例、
・運動エネルギーTは、q' だけに依存する関数、
・位置エネルギーUは、q だけに依存する関数、
といった状況なら、
 ∂E/∂q + d/dt(∂E/∂q') = 0
でも全く同じ運動方程式になります。
しかし、q と q' がごたまぜの状況になると、
Eで作った式はあまり簡単にならないのです。
ごたまぜの状況というのは、例えば極座標変換です。
Lで作った式は、極座標変換しても同じ形で適用できるのですが、
Eで作った式は、極座標変換に対して同じ形にあてはめることができません。
なので、Lで作った式の方が適用範囲が広いのです。

AtomAtom 2010/03/11 04:08 rikunoraさん、ありがとうございます。

>ラグラジアンの真のパワーは、座標変換したときに発揮さ>れます。

やっぱり、そういうことなんでしょうね。
自分も質問した後、調べていて、だんだん判ってきたような気になっているところです。ラグランジュ方程式の形は座標変換しても変わらないので、とても便利。それで、これを運動方程式として使えるようにするためL=T−Uを導いた という事(なのかな?)
そして、Lの物理的な意味について考えてみると、ラグランジュ方程式が最小作用の原理から得られるものなので、rikunoraさんの書かれている『コスト』という説明で、とてもよく判りますね。

rikunorarikunora 2010/03/12 16:33 きっと最初の動機は、複雑な天体運動の方程式を何とか簡単にしたかったのではないでしょうか。
いろいろ試行錯誤したら、こんな上手いやり方があった。
なぜ上手くゆくのか、理由をよく考えたら最小原理にたどり着いた。そんな感じ。

みかみか 2010/06/30 14:28 こんにちは!ブログのものをみせていただき助かりました!わかりやすいと思って、もって帰ってもう一度という感じで、わすれないように勉強できればうれしいです。お互い勉強がんばりましょうね!本当に、助かりました☆有り難う御座いました!(*´▽`*)

rikunorarikunora 2010/07/01 09:27 お役に立てたようで嬉しいです!
私もそうなのですが、頭に入れたものは、またしばらく経つと抜けてゆく。抜けたころにまた思い返して入れ直す、これの繰り返し。
・・・がんばりましょう。

hirotahirota 2010/12/22 15:10 Lagrangian は時間で積分しなけりゃ意味がないので、
L=p q'−H と書けば L dt=p dq−H dt です。
これは4元運動量ベクトル (p,H) と世界線要素 (dq,dt) の相対論の計量による内積です。
なにやらありそうとは思いませんか?

rikunorarikunora 2010/12/24 10:12 間違いなく、なにかあると思います。
たぶん、高い次元の幾何学的な表現の中で、Lagrangian にはこれぞといった決定的な意味があるのでしょう。
ただ正直に白状すると、私自身はこの辺りがまだ聞きかじり状態で、未だによく分かっていません。
そこまで見えてくると、きっと「意味は無い」どころか「隠れた深い意味があった」になるのでしょうね。

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