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小人さんの妄想 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2009-12-13

フラクタルビスケット、ポアソンスパゲッティ

フラクタルの語源は

ラテン語動詞frangereは『壊れる』、すなわち不規則な断片ができるという意味」

なのだそうです。 >> http://www.biwa.ne.jp/~k-tochi/siryou/siryofra.html

それでは、実際にものを壊したときの破片は、どのような大きさに散らばるのでしょうか。

岩石に衝撃を与えて破壊するとその破片の大きさの分布はベキ分布になることが知られています。

ガラスのコップを硬い床に落として割った時にできる破片も同じです。

大きな破片はほんの数個で、中くらいの破片はかなりの数になり、小さな破片は無数にあります。

    -- 経済物理学の発見(光文社新書)より.

試しにやってみようと思ったのですが、岩石を割るのはたいへんだし、ガラスのコップを割るのはもったいない。

簡単に割れるものを探してみたところ、戸棚の中にビスケットがありました。

小袋の中に入っている4枚のビスケットです。さっそく割ってみよう、アタァ〜!

f:id:rikunora:20091214000026p:image

割れた破片を大きさの順序に並べて整理します。

f:id:rikunora:20091214000127p:image

大きい方の破片は簡単なんですけど・・・

f:id:rikunora:20091214000206p:image

小さい方の破片は、いくらでも出てきます。最後の方はほとんど粉です。

f:id:rikunora:20091214000244p:image

大ざっぱではありますが、大きさ(長辺の長さ)でクラス分けして数を数えてみます。

もともとのビスケットの直径は6cm あります。

  6〜3cm :  4個

  3〜2cm :  6個

  2〜1cm : 18個

  1〜0.5cm: 19個

  0.5〜0.25cm: 24個

  0.25〜0.1cm: 178個

  0.1cm〜 : 細かい粉がたくさん

この集計結果をヒストグラムにすると、こんな風になりました。

ヒストグラムでは、面積が数に比例するように描かれています。

f:id:rikunora:20091214002021p:image


ヒストグラムの上に、ベキ分布の線が薄く重ねて描いてあります。

Y = 1 / x^2 の曲線を、ヒストグラムにフィットするように、目分量で拡縮して重ね合わせたものです。

なかなかよく一致していると思いませんか。

グラフには、最も小さい 0.25〜0.1cm の範囲が描かれていません。

グラフの枠から極端にはみ出してしまうからです。

実は、ベキ分布の曲線の方も、この範囲で大きくグラフの枠から外れます。

理論的には、グラフの曲線は0のところで無限大に発散します。

一方、ビスケットの破片の方も、細かい方には顕微鏡でなければ見えないような粉がいっぱい出てきます。

今回は1mm に満たない破片のカウントはあきらめました。

そんな細かい破片の様子を見ても、確かにビスケットの破片はベキ分布によく一致していると言えそうですね。


それでは、どんなものを壊しても、破片はフラクタルになる、つまり冪乗法則に従うのでしょうか。

前回の記事のコメントに、こんなことをいただきました。べき分布メカニズム >> id:rikunora:20091130

「・・・ポアッソン分布になります。スパゲッティの麺を床に落として複数本に折れたときの長さの分布と同じです。」

スパゲッティを適当に折れば、冪乗法則ではなくて、ポアッソン分布というものになるらしい。

これもやってみました。まず普通のスパゲッティで試してみたのですが、

実はスパゲッティって思ったよりも丈夫で、都合良くポキポキ折れたりしないんです。

そこで、もっと細くて簡単に折れる“サラスパ”を使ってみました。

サラスパをお菓子の缶に入れて、その中に一緒に消しゴムと、マウスのボールを入れました。

フタをしてガラガラガラッと振ると、上手い具合にバラバラに折れてくれました。

f:id:rikunora:20091214000419p:image

折れたスパゲッティお盆の上でソートします。

f:id:rikunora:20091214000528p:image

f:id:rikunora:20091214000526p:image

並べてみるとわかるのですが、見事なくらい綺麗な曲線を描きます。

f:id:rikunora:20091214002337p:image

f:id:rikunora:20091214000647p:image

f:id:rikunora:20091214000646p:image

細かい粉の量は、明らかにビスケットよりも少ない。

並べ終えたところで、長さによってクラス分けした本数を数えてみました。

一番長いスパゲッティは 12.8cm でした

   〜10cm :  1本

  10〜 9cm :  2本

   9〜 8cm :  4本

   8〜 7cm :  5本

   7〜 6cm :  4本

   6〜 5cm : 23本

   5〜 4cm : 27本

   4〜 3cm : 50本

   3〜2.5cm : 45本

   2.5cm〜2cm: 39本

   2〜1.5cm : 43本

   1.5cm〜1cm: 39本

   1cm〜0.5cm : 42本

   0.5cm〜0.1cm: 26本

   0.1cm〜 : 細かい粉

ヒストグラムにすると、こうなります。

f:id:rikunora:20091214000732p:image

グラフの形が、ビスケットとは大きく違っていますね。

ヒストグラムの上に、ポアソン分布の線が薄く重ねて描いてあります。

Y = Exp(-2)・2^x / Γ(x+1) の曲線を、ヒストグラムにフィットするように、目分量で拡縮して重ね合わせたものです。

確かに、実際のスパゲッティとよく一致していることがわかるでしょう。


正直、ここまでうまくグラフの形が出るとは思わなかった。理論恐るべし。

それ以前に、ビスケットとスパゲッティでこんな風に違っているなんて思わなかった。

両方とも、同じ小麦粉から作ってるのにね。


※2010/12/24追記: スパゲッティの曲線と、ポアソン分布の累積分布曲線を直接重ね合わせてみました。

f:id:rikunora:20101224114446p:image

Excelで、平均が2〜8の範囲でポアソン分布の累積分布曲線のグラフを作って、

目分量でスパゲッティの写真に重ねてみたものです。


俄僅俄僅 2009/12/15 04:33 これはおもしろい。
お疲れ様でした。

あらいのりこあらいのりこ 2009/12/15 11:51 素晴らしいです。
いつか授業に取り入れてみたいです。たいへんよいものを見せていただき感謝です。

じょうねんじょうねん 2009/12/15 12:14 美しい! 芸術関係の授業で使いたい!

とねとね 2009/12/15 12:56 実践してしまうところも、結果の見せ方もすばらしいです!!
どうして2つの異なる分布になってしまうのか深く考えさせられてしまいますね。コンピュータ・シミュレーションでも同じようなことできるのかなぁ。。。

kashikashi 2009/12/15 13:47 面白いですね。
理屈はよく分からないけど。
ビスケットの素材で作った長い棒と、スパゲッティの素材で作った円盤状の物体で試すとどうなるんだろう。
なんとなく形より素材に依存して決まっている気もしないでもない。

rikunorarikunora 2009/12/15 15:14 たくさんのコメント、ありがとうございます!
半日つぶしてピンセットで破片を並べた価値がありました。
破片を数えるのは自宅でもできるので、興味ある方はぜひ試してみてください。
並べるのは根気が要りますけれど、想像よりも短時間でできますよ。2時間くらい。

ところで、肝心の「なぜこのような分布になるのか」の理由が、私自身よくわかっていません。
シミュレーションしたら理論通りになるのだろうか。
誰か詳しい方、ご存じないでしょうか?

詳しく調べると奥が深いようです。
これも前記事のコメントで頂いたのですが、
「スパゲッティーの両端に力を加えていくと、必ず3っ以上の断片に折れる」
のだそうです。
http://med-legend.com/mt/archives/2005/07/post_607.html
やってみると、確かにそうなります。これも驚き。
何でもファインマンさんもこの謎に挑んでいたのだとか。
シャーペンの芯で試しても、確かに3つ以上になります。

> ビスケットの素材で作った長い棒と、スパゲッティの素材で作った円盤状の物体
たしかに、素材としてスパゲッティの方が粉が出にくいという気もします。
実はスパゲッティ素材でも、小さな粉は出ています。
3枚目の写真の右中程に薄黄色に写っているのですが、わかるでしょうか。
ビスケットに比べると、明らかに少量だったのでカウントしていません。
(小さすぎてカウントできなかった)

あと、やってみたいのは、3次元の塊の破片です。
1次元、2次元、ときたのだから、次は3次元。何か良い素材は無いかな?
実際にはできないけれど、4次元以上だったらどうなるのか?
こんなところにも謎は尽きない。

toktok 2009/12/15 16:52 すばらしい!こんなにキレイに並ぶのですね。特にパスタの精度。
恐るべし。

fkfk 2009/12/15 20:53 言いだしっぺの者ですがすみません。

よくよく考えてみたら、ポアッソン分布になるのは
スパゲッティの長さの分布ではなく、
いくつの破片に分かれるかその個数の分布ですね。

スパゲッティのどの箇所が折れるかというのは
等確率pであると考えれば、
スパゲッティの原子(!)がn個のボンドで結ばれているとき、s個の破片になる確率は nCs×p^s(1−p)^n-sと書けます。

つまりこれは二項分布です。
コインを投げて何枚表になるかという問題と同じです。

ポアッソン分布は上の二項分布でnpという量を一定にした状態でnを無限大に持っていったときの分布です。

お騒がせしました。

でも長さの分布も結構きれいに見えますが・・・。
ちょっと考えて見ます。

fkfk 2009/12/15 21:24 おわびに一次元パーコレーションでこの問題を考えてみます。

パーコレーションとは●-●-●-●-●-●-●-●のように
点がボンドでつながれている系のボンドを一定確率 p で
壊していく問題です。

例えば上の絵でスパゲッティが4と4に分かれる確率は
真ん中のボンドだけ壊れる確率なので、
p(1-p)^6 ということになります。

ここでスパゲッティのある一つの原子に印をつけて、そこが長さ s の破片に含まれる確率を考えてみます。スパゲッティの原子の個数は N とします。

長さ s の破片ができるためには両端のボンドが破壊され
その間の s-1 個のボンドは破壊されてはいけません。

その確率は p^(s-1)(1-p)^2 です。

さらに s 個の原子のどこに印がついていてもいいので
上の確率を s 倍した sp^(s-1)(1-p)^2 が
上で求めたい確率になります。

続きます。

fkfk 2009/12/15 22:17 上で得た印を付けた原子が長さ s の破片に属する確率が
sp^(s-1)(1-p)^2 であることが求まりました。

これから長さ s の破片の総数を求めるには
単純に N 倍すればよさそうですが、
それでは長さ s の1つの破片を s 個とカウントする
ことになるので s で割って Np^(s-1)(1-p)^2 となります。

後は p を適当に合わせればいいです。
この場合分布関数は p^(s-1) = exp{(s-1)log(p)} 0<p<1
なので指数減衰になりますね。

でもこれだと単調減少関数となってしまい
実験結果の s が小さいところと合いません。
う〜ん。謎です。結局わかりませんでした。

fkfk 2009/12/15 22:31 最後に、実際に実験される精神にただただ脱帽致しました。僕ならよくて数値シミュレーションです。

物理の面白さは紙の上で考えたものに対応するものが
現実に存在するということだと思います。

これからもこういった記事をぜひ書いてください!
お願いします!姫にも言って聞かせます(笑)。

なおファインマンが考えていた問題を解決したという
スパゲッティの論文は、偶然にも夏ごろにうちの研究室
のセミナーで取り上げられた論文です。

リンク先では発表した論文誌がわからないとありますが、投稿先はPRL(Physical Review Letter)です。NatureやScienceを除けば物理系で一番レベルの高い論文誌です。

やっぱりみんな気になっていたんでしょうね。

rikunorarikunora 2009/12/16 12:55 またまた詳しい解説、ありがとうございます。きっかけを含め、感謝してます!
なんだか勉強になるなあ。

基本的な考え方は
「n個の切れ目の中からs個を選び出す確率」ということだったのですね。
なるほどぉ。
残った問題は“個数”ではなくて“長さ”はどうなるか、ということですか。
やってみた結果から言うと、
・何らかの綺麗な数学的曲線になる.
・細かい粉は、ビスケットよりも少ない.
この2つは確かです。
見たところポアソン分布に近いようですが、「何故か」というのは難しいですね。
単純に「長さは個数の逆数ではないか」などと思ってみたのですが、
やっぱり結果とうまく一致しそうにないです。

2次元のビスケットについて思ったのですが、田んぼの田がつながったようなメッシュを考えて、
メッシュの糸が一定確率で切れてゆくといったことをすれば、破片の分布が求まるでしょうか?
理論的な計算方法はちょっと思い付かないですが、シミュレーションで確かめることはできそうです。

> スパゲッティの論文は、偶然にも夏ごろにうちの研究室のセミナーで取り上げられた論文です。
おおっ! さすがプロ。

> 物理の面白さは紙の上で考えたものに対応するものが
> 現実に存在するということだと思います。
今回は結果がきれいだったので、すっかり嬉しくなってます。
普段気がつかないだけで、実はこういうものは至る所にころがっているはず。
何せ現実の世の中は物理で動いているのだから。

KETARUKETARU 2009/12/16 22:29 お見事でした。
「スパゲッティーは、そんな簡単に折れないよ」
とは、実際に実験で確かめた者しか語れない真実ですね。
 ただの伝聞を鵜呑みにしてるだけじゃイカンなあと反省しました。

 気になったのは実験終了後のビスケットとサラスパの処理なのですが...家族に怒られなかったですか?

rikunorarikunora 2009/12/17 01:58 ※なお、ビスケットとスパゲッティはスタッフが美味しく頂きました。
・・・ということで、その後みんなで食べました。
スパゲッティを並べた姿は家庭内でも評判が良く、
崩してしまうのがちょっと勿体なかったです。

ペカリペカリ 2009/12/23 21:02 実験がすばらしいです。理屈はどこまでも現象の説明でしかないのがわかります。ありがとうございました。

rikunorarikunora 2009/12/27 20:37 ありがとうございます。
100の理屈より1つの実験、コメント頂いて改めて思いました。

hoshihoshi 2010/02/22 15:18 夏井先生のHPから飛んできました。面白すぎる・・・。これからも数々の実験で楽しませてください^^

rikunorarikunora 2010/02/22 18:20 さんくす! 夏井先生はすごいです。

rikunorarikunora 2010/02/22 18:23 ところで、ここのコメントでもいろいろ教えていただいた
fkさんのブログが見あたらなくなりました。
誰かご存知の方はいませんかね・・・

hirotahirota 2010/12/22 15:40 スパゲッティを並べた曲線は累積分布関数なのに、なんで情報を捨てたヒストグラムなんかで比較するんですか?
累積分布関数の方が良い状況なのに一般的に使えない密度関数やら情報を無駄にするヒストグラムなどを使いたがるのは教育による悪しき刷り込みだと思います。

rikunorarikunora 2010/12/24 11:50 確かにご指摘の通りです。スパゲッティと累積分布を重ねた画像をアップしました。

hirotahirota 2010/12/26 12:25 おおっすばらしい!
これで見るとポアソン分布より短い破片が多く、長いのが少ないと分かりますね。(この累積分布を滑らかな関数で近似し、それを再び微分すると、ヒストグラムより精密な密度関数が得られます)

rikunorarikunora 2010/12/27 13:04 > ポアソン分布より短い破片が多く、長いのが少ない
確かに、これは言われてやってみて初めて気付いたことでした。
こういうところから、スパゲッティが折れるメカニズムが何かわかるかもしれません。
たとえば缶を振る時間を長くすれば、短い破片が増えてゆくので、分布形状も変化するのかな? とか。
根性があれば試してみるところですが・・・大がかりなテーマになってきた。

spidermitespidermite 2011/01/18 10:03 いいものを見させていただきました。お疲れ様でした。

rikunorarikunora 2011/01/18 16:04 そう言われるとうれしいです。
でも、調べることはまだあるみたいです。

tourisugaritourisugari 2011/02/06 01:11 通りすがりです。おもしろい実験ありがとうございます。自分はスパコンを使ったシミュレーションで、破砕の研究をしてます。破砕はだいたいpower lawになるみたいですね。丸い玉を破砕させると、べきの傾きが1.6くらいになるのが通説で、材料に少し依存します。「universality class」ではパーコレーションとは違う気がします。長くなった上に横文字が登場して失礼しましたが、ほんと、よい実験ですね!!!!!

rikunorarikunora 2011/02/07 10:00 その道の方からのコメント、ありがとうございます。
> 丸い玉を破砕させると、べきの傾きが1.6くらいになるのが通説で、材料に少し依存します。
そうだったのですか。そう言われると、どこかにうまく破砕できそうな丸い玉は無いものか探してみたくなります。
あと、実験と称して実物を破砕するとストレス解消に良いです!

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