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小人さんの妄想 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2010-08-02

まっすぐな面・曲がった面

丸い地球を平面の地図に直そうとすると、どこかに無理が出てきます。

よく目にするメルカトル図法では、北極南極に近い部分が、赤道に近い部分よりも大きめに描かれています。

ならば、面積を正確にしようと別の図法で地図を作ろうとすれば、今度は方向に歪みが出てしまう。

面積も方向も正確に、と欲張れば、地図にたくさんの切れ目を入れないといけない。

これはつまり、球面と平面では「曲がり具合」が異なっていることを意味しています。

ところが球面ではなくて、円柱や円錐のような曲面であれば、正確な地図を作ることができます。

円柱や円錐は、平面と同じように「まっすぐな」性質を持った面なのです。

ぱっと見に気付くのは、球面がどの方向にも曲がっているのに対して、

円柱や円錐は一方向にまっすぐであるということです。

ということは、簾のようにたくさんの直線を並べて作った曲面であれば、

正確な平面の地図が作れるということなのでしょうか。

ちょっと試してみましょう。


用意するもの:わりばしをたくさん、地図になる絵。

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わりばしに絵を貼って、細かい線に切り分けます。

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まずは円柱面に巻いてみましょう。

絵柄を損なうことなしに、平面がそのまま円柱面になることがわかります。

まあ、予想通りと言うべきなのでしょうけれど。

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それでは、この円柱状に並べたわりばしを、少しねじってみましょう。

こんな形の「鼓型」になります。

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絵柄がどうなっているか、分かり難いと思いますが、心の目で見てください。

ウェストが細く絞られて、頭と足が膨らんだ形になっています。

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さらに強くねじってみました。

もはや絵柄は原型を留めていません。

絵柄が大きく歪んでいる様子が分かるでしょうか。


もう1つ、今度は別の並べ方をしてみましょう。

わりばしを扇型に、少しずつねじりながら積み上げてみます。

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絵柄はまたわかりにくいのですが、扇の外側に向けて広がってゆくのがわかるでしょうか。

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鼓型も扇形も、直線を並べて作った曲面です。

しかし直線でありながら、絵柄が正確に反映されない、正確な地図が作れない面なのです。

直線を並べて作った面のことを「線織面(せんしょくめん)」、

正確な地図が作れる面のことを「可展面」と言います。

そして上で試したように、直線をねじってつなげた面は、線織面でありながら可展面では無いのです。


上で作った鼓型には「一葉双曲面」、扇形には「常螺旋面」という名前が付いています。

* 微分幾何 -- いろいろな曲面

>> http://komurokunio-id.hp.infoseek.co.jp/diffgeom/varioussurface.html

* 微分幾何 -- 常螺旋面

>> http://komurokunio-id.hp.infoseek.co.jp/diffgeom/righthelicoid.html

それでは、一体どのような性質を持った面が、正確な地図が作れる「可展面」なのでしょうか。

平面の地図が作れる面は、おそらく「曲がっていない面」ということなのでしょう。

でも、それを言ったら直線から作った線織面だって「曲がっていない面」なのではないか。

いったいこの「曲面の曲がり具合」を、どのように考えたら良いのでしょうか。


もし面ではなくて線だったらな、「曲がり具合」を表すことは難しくありません。

簡単に言えば、曲線上をバイクで走ったときに、

カーブを曲がるときに切ったハンドルの角度が曲線の曲がり具合です。

バイクのコーナリング半径のことを「曲率」と言います。

実際のバイクはカーブに合わせて小刻みにハンドルを調整しているので、

曲率とは、その瞬間ごと、その点ごとに変化する値です。

同じ事を、今度は曲面にあてはめたらどうなるか。

曲面は、曲線のような1本道ではないので、どの方向にバイクを走らせるかが問題になります。

そこで、あらゆる方向の中から

・面がふくらんでいる向きに、カーブが最もきつく曲がっている方向と、

・面がへこんでいる向きに、カーブが最もきつく曲がっている方向、

この2方向のカーブを取り上げることにしましょう。

滑らかな曲面の場合、実はこの2方向は必ず直行しています。

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2方向のカーブというのは、この図の赤と緑の矢印に相当します。

球面や、丘のように出っ張っている面では、へこんでいる向きのカーブはありません。

その場合、ふくらみが最もきついカーブと、ふくらみが最も緩やかな2本のカーブを取り上げます。

図の一番右端にあるのは、峠型、あるいは馬の鞍のような形です。

この場合は一方のカーブがふくらんでいて、それと直行する、もう一方のカーブはへこんでいます。

図の中央、円筒形の面では一方がふくらんでいて、もう一方は直線です。

ここで便宜的に、ふくらんでいるカーブの曲線としての曲率を+(プラス)に、

へこんでいるカーブの曲線としての曲率を−(マイナス)とします。

そして、曲面全体の曲がり具合を、

  [曲面の曲率] = [赤い矢印の曲率] x [緑の矢印の曲率]

としましょう。

つまり、2つの直交する曲線の掛け算を、曲面全体の曲がり具合だと考えるのです。

このように、[赤い矢印] x [緑の矢印] で定義された曲率のことを「ガウス曲率」と言います。

ガウス曲率がわかると、曲面の何がわかるのか。

定理:

もし1つの曲面があるほかの曲面に展開(develop)されるならば、各点での曲率の大きさは変わらない。

    -- 数学が育っていく物語/曲面、より引用

これには「ガウスの驚異の定理」という、驚くべき名前が付いています!

この定理によれば、お互いに「正確な地図が作れる」のは、曲率が同じ面同士である、ということになります。

平面はガウス曲率0ですから、平面の地図が作れる曲面は、ガウス曲率が0の面に限られるのです。

(つまりガウス曲率0=可展面です)

円筒や円錐は、ガウス曲率0です。

球面や楕円面は常にガウス曲率が正の値をとりますから、どうがんばっても平面の地図にはなりません。


それでは、わりばしを並べて作った一葉双曲面は?

一葉双曲面のガウス曲率は、常に負の値となるので、やはり平面の地図を作ることはできません。

ガウス曲率の計算は、かなり大変です。結果だけ書くと、

一葉双曲面: x^2/a^2 + y^2/b^2 - z^2/c^2 = 1 という面のガウス曲率は、

 K = -1 / { a^2・b^2・c^2 (x^2/a^4 + y^2/b^4 + z^2/c^4)^2 }

とにかく分子が -1 で、分母が何らかの数の2乗 > 0 ですから、常に負の値となっています。


しかし、面の内部に直線が含まれているのであれば、ガウス曲率は0になるのではないか?

なのになぜ、一葉双曲面はガウス曲率が負なのでしょうか。

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一葉双曲面の、もっともカーブがきつい方向と、直線の様子を図にすると、こんな風になります。

青い線が直線、赤と緑の矢印がもっともカーブのきつい方向です。

ポイントは、赤と緑の矢印に対して、青い直線が斜め方向に出ているということです。

直線が赤と緑の方向に一致しない限り、ガウス曲率は0にはなりません。


もう1つ、わりばしを扇形に並べた常螺旋面では?

常螺旋面: (x, y, z) = (u Cos(v),u Sin(v),a v ) という面のガウス曲率は、

  K = - a^2 / (u^2 + a^2) ^2

    -- 微分幾何 -- 常螺旋面に詳しい計算が載っています.

分子にマイナスが付いて、分母は正ですから、これも常に負の値をとります。

a に比べて u がうんと大きくなれば、K はほとんど0に近づきます。

これはつまり、軸から離れた部分ならば、扇の面はほとんど平らなので、

絵柄の付いた平面の紙が貼れるということを意味します。


曲線,曲面の微分幾何については、このサイトにとても良くまとまっています。

* 微分幾何 >> http://komurokunio-id.hp.infoseek.co.jp/diffgeom/diffgeom.html

本格的に知りたい人には、定番のこの本がおすすめ。

曲線と曲面の微分幾何

曲線と曲面の微分幾何


一葉双曲面は、建築デザインにいろいろと応用されているようです。

* 一葉双曲面とウラジーミル・シューホフ

>> http://blog.goo.ne.jp/slide_271828/e/14733125aa2f72f08fc75c3fbf2c4b19

* 参考:サイコロ回転体 >> id:rikunora:20081025

271828271828 2010/08/03 07:22 rikunoraさん おはよう

ガウス曲率について記事を準備して、20パーセントまで作ってありました。違った切り口で取り上げたいと思います。
「私の本とCD」にも掲載したガウスの論文集がアメリカから到着しました。のっけから球面三角法だったり、記号が現在のものと違うので戸惑っています。

rikunorarikunora 2010/08/03 21:59 実はこの記事、何を隠そう271828さんのブログを読んだのがきっかけです。
曲面についていろいろと書かれていたのを見て、以前から気になっていたことを試してみた、というわけなのです。
ガウスの原論文などは見たことがありませんが、考えてみれば200年も昔なのですから、古文の解読のようなものなのでしょうね。
ガウス曲率についての記事も楽しみにしています。

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