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小人さんの妄想 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2010-08-23

丸い地球のマスト伝説

地球が丸いということを、昔の人はどうやって知ることができたのか。

その説明の一つに、船のマストの見え方というものがあります。

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「水平線のかなたから陸地に向かってくる船は、マストの上部から順番に見えてくる。」

確かに、上の図を見て考える限り、この船の見え方は理屈に合っているように思えます。

しかし、実際に港に行って眺めてみたとき、本当に船は上から順番に見えているのでしょうか。

私は実際に海岸から船を眺めてみたのですが、正直、よほど目の良い人か、双眼鏡でも使わない限り、

理屈通りに上から順番に見えることなど無理ではないかと思うのです。

実際はどのように見えるのか。

・まず、沖の方に小さな点が見える。

 と言うより、最初はどこに船があるのかよくわからない。

 本当に船なのか、波の影なのか、陽炎のちらつきなのか、明確な区別が付かない。

・岸に近付くにつれて、塵のような点が実は船であったことに初めて気付く。

・やがて点はだんだん大きくなってきて、はっきり見える距離まで近付いて来たときには、

 すでに船の全体が上から下まで見えている。

私はそれほど視力が良くないのですが、それでも、ほとんどゴミと見分けがつかないような点から

地球の丸みを推測するのは、少々無理があるのではないでしょうか。


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試しに見積もってみましょう。地球の半径は約6370kmです。

この地球の上に、高さhの船があったとして、船が水平線の下に完全に隠れる距離はどれくらいでしょうか。

図から考えて、

  6370km : 距離x= 距離x : 高さh

となっていることでしょう。

(厳密に言えば、距離xは直線ではなくて、地球の表面に沿った曲線の長さであるはずです。

 しかし、地球の半径に較べて距離xはかなり小さいので、直線と曲線の違いは無視しましょう。)

高さh = 1m のとき、つまり私たちが海岸線に立って海を眺めたとき、

  距離x = √(6370km * 高さh) = 約2.5km

私たちは約2.5km先の沖まで見渡せます。

これが山の上に立ったとして、高さh = 100mだとすれば、私たちは約25km先まで見渡せるわけです。

では、船のマストの高さが20mだとしたら、

  距離x = √(6370km * 20m) = 約11.3km

船がちょうど半分まで、10mの高さまで見えるのは、

  距離x = √(6370km * 10m) = 約8.0km

つまり、11km沖に出現した船が、8km先に近付くまでの経過を観察すれば、地球の丸みが実感できるというわけです。

実際には、これに私たち自身の視点の高さを加えることになるでしょう。

私たちが高さ1mの視点から海を眺めたとすれば、距離に2.5kmを付け加えることになります。

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それでは、8km先にある高さ10mの物体は、どれくらいの大きさに見えるのでしょうか。

視直径(見える角度の大きさ)を計算してみると、

  { 10m / (2 * 3.14 * √(6370km * 10m)) } * 360度 = 約0.07度

つまり角度にして 0.07度の見分けがつけば、船が「上から順番に」見えるのだと言えるでしょう。

約0.07度とは、どの程度の大きさなのか。

空に浮かぶ月の視直径は、およそ 0.5度です。

ということは、月の直径の1/7程度、月のウサギの耳の長さ程度の形が判別できるのなら、

地球の丸みが実感できることになる・・・

どうでしょうか。あるいは望遠鏡でよくよく観察すれば、船のマストのてっぺんだけが見えるのかもしれません。

それでも船が上から順番に見えてくる様子は、どうひいき目に考えても、

安直に言われるほどハッキリと簡単に見ることはできないでしょう。


しかしながら、この「船のマストが上から順番に見えてくる」というお話は、かなり広く世に浸透していると思うのです。

それというのも、このお話が適当なガセネタなどではなくて、ちゃんと古い文献にも登場する「由緒正しい」説明だからです。

ならば、昔の人はとっても目が良かったのだろうか?

そう思って、文献の1つに当たってみました。

天体の回転について (岩波文庫 青 905-1)

天体の回転について (岩波文庫 青 905-1)

水面も同様に球形であることは航海者によって認められている。

陸地が水夫には見えないとき、マストの上からは見える。

またマストの上へ明りをつけておくと、船が陸から遠ざかって行くとき、

岸にいる人にはそれが次第に低くなって行き、しまいには沈むように見えなくなってしまう。

陸地から船を見るのではなくて、同じ船の中のマストの上と甲板上を較べてみる。

なるほど、これなら確かに丸い証拠に説得力を持ちます。

もう1点、なぜコペルニクスマストそのものではなくて、わざわざ「マストの上の明り」としたのでしょうか。

ここから先は私の想像なのですが、おそらく

 「昼の明るい海の上でマストの形状を見分けるのは困難だが、

 夜の暗い海の上に灯る明りであれば見分けることができる」

のだと思います。

まず、明かりであれば、船が何処にいるのか容易に見つけることができます。

そして、仮にマストの上と、甲板上の2カ所に明かりを灯している船があったとしたら、

1つの明かりと2つの明かりの区別は、マストの形状そのものより分かりやすいのではないでしょうか。

次に暗い海の上で観察できる機会があったら、よく見てみようと思っています。


※コメント頂いた、せいたかのっぽさんより。

※丸い地球の文献は、紀元前350年あたりまで遡れるようです。

>> http://seitakanoppo.cocolog-nifty.com/blog/2010/09/post-6764.html

sabacansabacan 2010/08/24 21:10 この記事とは全然関係ないですけど
rikunoraさんが好きそうなのをみつけたので、、お題がポニーテールの振れ方てw
http://www.shizecon.net/sakuhin/49es_1.html

せいたかのっぽせいたかのっぽ 2010/08/24 21:22 マストの例は、今でも理科の教科書で見ますし、なるほどーと感動したものですが、確かに水平線のかなたで実際に肉眼で見分けられるかというと・・・今回の記事も考えさせられましたヨ。
『天球の回転について』は読んだことが無いですが、というか、結構読みづらい文章だったイメージがありますが、『アルマゲスト』の時代から既に似たような表現があったようですよ。

『・・・この事実は地球があらゆる方向に球状の曲率をもつことを証するものである。海上で任意の点から任意の方向に山あるいは高地に向けて航海するとすれば、全ての水面の曲率によって隠されていた山あるいは高地が海上に出現するのを見るのである。』

この部分は古代ギリシャの知見をまとめたものといわれているので、少しずつ表現を変えながら、少なくとも紀元前350年アリストテレスの時代まではさかのぼるんじゃないかなーと思います。
今より航海が日常的な出来事で、その時代は一般にイメージしやすい例だったのかもしれませんね。そう考えると、伝統的な説明も歴史があってまた味があるなーと思います。

rikunorarikunora 2010/08/25 13:36 sabacanさん、正にクリティカルヒット!
「ポニーテール共振器」、「人が歩く速さの範囲(「ゆっくり」から「早足」まで)で常によく揺れる、長さ30?が一番よい。」
この研究成果を元に、世の女の子たちがますます可愛らしくポニーテールを揺らして歩くことを期待してしまふ。

せいたかのっぽさん、地球が丸いことの文献、ありがとうございます。
私もそこまで詳しく調べたわけではないのですが、どうやらオリジナルの文献は
・船の方から陸地を見ると、高い山のてっぺんから順番に見えてくる。
・同じ船に乗っていても、高いマストの上だけからは陸地が見えることがある。
といった内容のようです。
『アルマゲスト』も、よく見ると「山あるいは高地が海上に出現する」となっていますよね。
ところが、オリジナルには「陸から船の方を見る」という記述は無い。
ここが本当に観察した人と、また聞きした人の違いではないかと思うのです。
つまり、「陸から船の方を見る」のは、後世の付け足しなのではないかと疑っています。

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