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小人さんの妄想 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2010-10-18

世にも美しい微分の規則

小難しい理屈は抜きにして、まずは微分の基本ルールの復習から。

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微分というものを「微かにしか分からない」人、あるいは忘れてしまった人、

とにかく上に書いたような「肩の荷を下ろす」計算操作のことを「微分」と言うのだ、

と覚えておきましょう。

・・・以上で予備知識は終了。


さて、「微分の基本ルール」を、こんな風にずらっと横に並べてみます。

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これを、さらにもう1回微分すると、「肩の荷が下りてくる」ので、だんだん数が大きくなってゆきます。

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何度も繰り返し微分するうちに、下ろしてきた肩の荷は、とてつもなく大きくなってくるわけです。

そこで、「肩の荷が下りてきても」数が大きくならないように、あらかじめ適当な数で割っておきましょう。

こんな感じです。

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でも、これだと1回微分しただけで最初の状態に戻ってしまいます。

2回目以降は、またどんどん数が大きくなるでしょう。

そこで、何回微分しても数が大きくならないように、もっともっと割っておきます。

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こんな風にしておけば、「何回微分しても変わらない」ルールの表ができるわけです。

さて、ここで「何回微分しても変わらない」ルール表を、ぜんぶ足し合わせてみましょう。

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この、長い長い、無限に長い足し算の結果は「何回微分しても変わらない式」になっているはずです。

結論を言えば、これこそが「微分しても変わらない関数」、すなわち Exp(x) なのです。

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(上の式にある!は階乗。たとえば 4!は 1x2x3x4 ということ。)

この長い足し算の式で、x = 1 と置いた数には、何か特別な意味がありそうです。

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何を隠そう、これが自然対数の底 e という数です。

つまり e という数は、感覚的には「微分しても変わらない数」ということです。


しかし、ここに1つ疑問が残ります。

この無限に長い足し算の答は、無限大にならないのか、という疑問です。

でも、実は大丈夫。

無限に長い足し算、1/2 + 1/4 + 1/8 + 1/16 + ・・・1/2^n ・・・ = 1

ということさえわかっていれば、この e の式も、とある有限の値に落ち着くことがわかるのです。

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このことから、e の値は2〜3の間にあるということがわかるでしょう。


さて、以上で「微分しても変わらない式」Exp(x) のことがわかったので、

この式を少しだけ変形してみましょう。

まず、x のところを -x に置き換えると、こんな風になります。

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この式は、1回微分する毎に+、−、+、−と、交互に符号が入れ換わります。

ということで、Exp(-x) を微分すると、- Exp(-x) になることがわかります。


さらに、この長い足し算の式の中身を、1個置きに抜いた式を考えてみます。

つまり、1個目、3個目、5個目、・・・という奇数だけの式と、

2個目、4個目、6個目・・・という、偶数だけの式です。

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奇数の式を微分すると、偶数の式になり、

偶数の式を微分すると、奇数の式になります。

この奇数の式と、偶数の式にもそれぞれ名前(関数名)が付いています。

奇数の式は、ハイパボリックサイン SinH(x) 、

偶数の式は、ハイパボリックコサイン CosH(x) です。

微積分の本には、こんな風に書いてあります。

SinH(x) = { Exp(x) - Exp(-x) } / 2 ・・・奇数番目が消える

CosH(x) = { Exp(x) + Exp(-x) } / 2 ・・・偶数番目が消える

よく考えてみると、わかるぞ。


さらに、上の2つの合わせ技をやってみましょう。

つまり、奇数番目で+、−が交互の式と、

偶数番目で+、−が交互の式です。

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今度は、4回微分すると一巡して元に戻ってきます。

4回微分して元に戻る関数が何であるかというと、それぞれ

Sin(x)

Cos(x)

-Sin(x)

-Cos(x)

のことです。


つまり、微分というものが何なのか、意味を全く知らなくても、

最初に挙げた「微分の基本ルール」だけで次のことが分かってしまうのです。

 ・微分しても変わらない式、Exp(x) という関数が存在する。

 ・微分する度に符号が逆になる、Exp(-x) という関数が存在する。

 ・微分する度に互いに入れ替わる、SinH(x)、CosH(x) という関数が存在する。

 ・4回微分すると一巡する、Sin(x)、Cos(x)、-Sin(x)、-Cos(x) という関数が存在する。


さらにもう1つ、虚数単位 i という不思議な数を導入します。

微分と同様、ここで i の意味について深く思い悩む必要はありません。

ただ、i を2つ掛け合わせると−1になる、「 i x i = -1 」というルールだけを覚えてもらえば十分です。

そして、「微分しても動かない式」Exp(x) の、x を ix に置き換えてみます。

すると、

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これが「オイラーの公式」と呼ばれているものです。

Exp(ix) という関数が一体何を表しているのか、ちょっとやそっとでは想像が付きません。

それでも、

 ・最初の「微分の基本ルール」

 ・「i を2つ掛け合わせると−1になる」というルール

この2つのルールが正しいのだと信じるならば、Exp(ix) というものは、

虚数の世界で三角関数 Sin(x), Cos(x) の組み合わせになっているはずなのです。

逆に言えば、三角関数 Sin(x), Cos(x) は、 Exp(ix) の組み合わせから作り出すことができます。

Sin(x) = { Exp(ix) - Exp(-ix) } / 2 i ・・・奇数番目が消える

Cos(x) = { Exp(ix) + Exp(-ix) } / 2 ・・・偶数番目が消える

ここでの1つ置きに消える仕組みが、先の SinH(x), CosH(x) にそっくりです。

(だから関数名も似ているのです。)


以上のことは、こんなブログの1記事には収まり切らないくらい美しい内容だと思います。

このことはたいていの微積分の本に、「テイラー展開」とか「マクローリン展開」という名前で載っています。

ぜひ納得が行くまで調べてくだされ。


参考:

 複素数の指数関数 >> id:rikunora:20090607

 口コミがブレークする数は >> id:rikunora:20080624


三毛公爵三毛公爵 2010/10/19 08:23 最大値の定理から平均値の定理などを経て発展していく大学の微分の授業で学ぶ最初の関門ですね。

私は電子工学の学生だったので軽く触れた程度でしたが、数学の証明がパズルの様に美しくかみあった時の感動はヤミツキになりますね。まるでヤキニクをレタスにつつむかのごとく!!

ただ未だに私はこの範囲で疑問に思っている点があってしっくりきません。純粋な数学としてではなく物理として考え、波として扱う際、sin(x)とexp(ix)が同等のものであるということが平然として使われているところですね。

物理的工学的整合性と数学的整合性というのはやっぱり違うんですかね?

ROYGBROYGB 2010/10/19 21:08 sinXやcosXが無限数列の和として表せるのは知りませんでした。この数列だけ見ると、収束値が2π周期で繰り返すとか信じられない気がします。
ところでcosXの数列の初項が0になってますが、これは1が正しいと思います。そうじゃないとcos0=1にならないので。e^ixの展開式の方では1になっているので、単なる書き間違いでしょうか。

rikunorarikunora 2010/10/20 09:59 三毛公爵さん、
確かにこの数学パズルがぴったりあてはまるのも感動ものですが、
もっと不思議なのは、これが現実の物理にあてはまっているということなのです。
とにかく実際に、物理的な波はsin(x)になっていて、電流と電圧はexp(ix)になっている。
そう考えて説明するとつじつまが合う。
でも、なぜ合うのかと言われると・・・なぜなんでしょうねえ?
大げさに言えば、自然は数理に支配されている、ということなんでしょうか。
とことんまで突き詰めれば、物理工学も数学も、最後には整合しているのだと私は信じています。
(ヤキニクにレタス、とんかつにキャベツは必要ですね!)

RYOGBさん、ミス指摘ありがとうございます。おっしゃる通り1が正しいです。書き直しました。
ここから2πが出てくるというのは、私もたいへん不思議に感じています。
微分規則と円周率が、何か奥深いところでつながっている、としか言いようがありません。

T_NAKAT_NAKA 2010/10/21 11:21 古典物理学とか、それを基礎に展開されている工学(例えば電気工学etc.)で、波を exp(iωt) と表すのは、本当の意味で波を複素数だという意味ではないと思います。波が cos(ωt) なら exp(iωt) の実部、sin(ωt) なら exp(iωt) の虚部のみに注目するだけで良いということでしょう。
つまり、とりあえず入力の波を exp(iωt) と表しておいて、計算した結果の実部をとれば、 cos(ωt) の入力に対応することになり、虚部をとれば、 sin(ωt) の入力に対応することになります。 exp(iωt) と表すと便利なのは、微分を iω を掛ける操作、積分を 1/(iω) を掛ける操作とすることで表現できるため、微分方程式を解く作業を加減乗除を行なうことで実行できることです(ラプラス変換と本質は同じです)。
つまり方便としての複素数で、量子論の波動関数は本当の意味で複素数なのとは異なります。

rikunorarikunora 2010/10/21 12:48 どうやら最初の疑問の意味を取り違えていました。
実数で、実体のあるsin(x)が、なぜ唐突にexp(ix)という虚数の世界にまで広がってしまうのだろう、
そこに違和感を覚える、ということだったのですね。
その答は T_NAKAさんの言われる通りだと思います。
例えば電気工学での便利な計算方法は、方便としての複素数なのだと思います。

ROYGBROYGB 2010/10/21 14:41 電気工学の複素数が計算の便法というのはその通りだと思うのですが、虚数として存在する気がする場合もあります。
電球のような実数の抵抗値を持つものに電流を流すと、消費電力に応じた熱が発生します。しかし、コンデンサやコイルといった虚数の抵抗値を持つものだと電流を流しても無効電力になり熱は発生しません。
この辺の有効電力と無効電力の関係が、実数と虚数と似ているような感じを受けます。

T_NAKAT_NAKA 2010/10/21 15:42 >虚数の抵抗値を持つ

という表現が私のような電気屋から見ると異様な感じを受けるのですが、多分「インピーダンス」のことを仰っていると想像します。確かにインピーダンスの単位はΩで抵抗と同じですが、いわゆる「抵抗」とは違います。抵抗は直流でも交流でも、電流と電圧の関係への影響は変わりませんが、インピーダンスは直流と交流で全く変わってしまいます。インピーダンスの方(特に虚部)は電流あるいは電圧の変化(具体的には周波数)に影響を受ける度合いを示しているということになります。つまり微分や積分に関係することなので、 iω や 1/(iω) を掛けることをインピーダンスの中に入れているだけです。つまり本質的な複素数ではありません。

とねとね 2010/10/22 11:37 お久しぶりです。
こういう「物理数学入門」のような記事っていいですね。すっきり無駄なくに話が展開されているので理系の高校生ならば好奇心もって読んでもらえると思います。この記事を読んでより多くの人が数学や物理の世界の面白さに目覚めてくれるといいですね。
僕も頑張らねば!

rikunorarikunora 2010/10/22 12:56 ROYGBさん、実は私も「インピーダンス=虚数の抵抗」というイメージを持っていました。
電気の通る邪魔をするのだけれど、実質的に電力を消費していない。なんか、虚の抵抗っぽい。
しかし堅実な見方をするなら、電流も電圧もその場で直接実測できる量なのだから、実在している。
真相は「電流の変化が電圧に影響を及ぼす -> 微分 -> 微分演算に複素数が便利」ということだと思います。
たぶんT_NAKAさんは電気回路のプロフェッショナルで、量子力学にも詳しいので、
電気回路をとてもリアルなものに感じられているのではないでしょうか。

とねさん、私自身は高校生どころか、大学生になっても上のことはわかっていませんでした。
今頃になってわかってきたので、こうして記事になったわけです。
がんばりましょう!

hirotahirota 2011/07/28 13:08 抽象化された数学を勉強した者にとって、小石を1個, 2個, 3個といった物理的存在から切り離した数学的構造が「数」なのです。
そこでは数学的構造さえ整合すれば抵抗が虚数であっても差し支えありません。(量子力学だと更に変な対応になる)
でも、数を特定の物理現象に固定してる人には受け入れられないんでしょうね。

rikunorarikunora 2011/08/02 22:45 > 物理的存在から切り離した数学的構造が「数」なのです
ここに大きな思考の壁があるように感じています。
私自身のことを言うと、抽象概念のみを受け入れるのは実感としてとても難しいことに思えます。
どこかに小石を1個, 2個, 3個,といった素朴な実体が無いと、どうにも安心できないんですよね。
ほとんどの場合、素朴な実例を挙げてもらってようやくわかった気になれます。
そんなわけで、「数を特定の物理現象に固定してる人」の気持ちはよくわかります。
きっと物理的存在から切り離せれば大きな自由度が得られるのでしょうが、なかなか難しいですね。

hirotahirota 2011/08/04 09:55 自分の場合、理解のためには小石を1個とかいった実体は必須で、抽象概念だけで考えるわけではありません。
充分理解して抽象理解の段階になったと自覚すると実体の交換に抵抗がなくなりますが、思考にはヤッパリ実体があった方が容易ですから、問題に応じて分かりやすい実体を使って考えることになります。
ただし、抽象的な複素数くらいは「実体」の範囲に入ったりしますから、いわゆる「電磁気学」は「直接認識できない電磁場」を「実数あるいは複素数という実体」でモデル化してるような感じです。
そういう「電磁気」を実体と思ってる人との違いは、「ホントは抽象概念だけど実体のように感じる」ようになってる事を自覚してるってーことですかね。

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