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小人さんの妄想 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2010-11-14

すりきり米問屋

むかしむかし、お江戸の町に「すりきり屋」という、たいそうけちんぼうな米問屋がありました。

すりきり屋では、百姓から米を買い付けるときには、枡にふんわりと、そこはかとなく多めに米を盛り、

町人に米を売るときには、枡の上を厳しくすり切って、ちょっきりちょうどの分だけ売りさばいておりました。

あまりのけちっぷりに堪忍袋の緒が切れた村の衆は、訴えを起こし、ついに米問屋はお上の裁きを受けることになったのです。


お上「これより、米問屋、すりきり屋の所業について吟味を致す。一同の者、面を上げい!」

一同「はは〜」

お上「さて、すりきり屋。その方、商いに於いて誤魔化しを働き、百姓より多くの米を巻き上げ、

  町人には出し渋ったとあるが、相違無いか。」

すりきり屋「はて、とんと思い当たりませんが・・・何かの間違いでございましょう。」

お上「しかし、そこの村人の訴えによると、村で米を測るときには多く盛り、

  町内に卸すときには少なく盛っていたそうではないか。」

すりきり屋「ハッ、またそのような言いがかりを。

  お奉行様、私ども米問屋は、日に何十回、何百回と米を測っております。

  中にはたまたま多く盛られるときもあれば、少なく盛られることもあるでしょう。

  そこの村人が見たとき、たまたま多いように見えただけで、事実無根のこと。

  大方、ひがみやっかみの心根が、そのように見せたのでございましょう。」

お上「さて、このように申しておるが、村の者から何か申し立てることはないか。」

村人「お、お奉行様、聞いておくんなせい。

  わしら村の衆が手塩にかけて育てた米を、この米問屋は抜かりなく利用していたのでございます。

  決められた枡で測るのだというので、わしらも納得しておったのですが、

  あるときお江戸の町で米を測るのを見たところ、わしらの村でしているのと全く違っていたのでございます。

  村では、枡にふんわりと米を盛っているのに、

  お江戸の町では、すりきり棒できっちりと、米を減らしているじゃあないですか。」

すりきり屋「だからそれが言いがかりだというのだ!

  村と町では、店構えも違う、番頭も違う。

  測りだって、違うように見えたっておかしくないんだ!」

お上「ひかえおろう!

  さて、村の者よ、米の量が違っているという、何か証拠のようなものはないか。」

村人「証拠と申しましても・・・そうだ、銀さん! 銀さんが授けてくれた証拠があります!」

すりきり屋「なんだ、その銀さんってのは。」

村人「さあ・・・よく素性のわからない、遊び人でございますが、

  その銀さんが『米の目方を測って記録しておくといい』と、教えてくれたのです。」

すりきり屋「けっ、遊び人かい。金だか銀だか知らないが、素性も明かせないやつの言うことが、信用できるもんか。」

お上「ほう、銀さんとな。して、その銀さんとやらの授けた証拠、見せてみよ。」

 村  170 168 167 168 167 160 166 168 162 165
 町  158 162 162 164 163 157 161 163 160 159

お上「ふむ、これによると、たしかに町の目方の方が、村の目方よりも一律に減っているようだが。」

すりきり屋「お代官様、先ほど申し上げましたように、こんなの偶然です。

  日に何百回も米を測っている中で、10回だけ目方をとったら、たまたまそのとき減っていただけのこと。

  現に、村で一番少ないときは162、町で一番多いときは164じゃないですか。

  差があるといっても、ほんのわずか。こんなの誤差の範囲内ですよ。」

村人「違うんです! その、町で測っているところを実際この目で見たら、

  やり方というか、手つきが全く違っているんです!」

すりきり屋「何をいい加減な。

  ははぁ、さてはその銀さんやらとつるんで、適当な証拠をでっちあげて、わしらに因縁付けようって魂胆だな。

  そうは問屋が卸さないってのは、このことよ。」

お上「・・・やいやいやいやい、黙って聞いてりゃしゃあしゃあと、口から出まかせぬかしやがって!

  罪のない村人たちは騙せても、この検定結果はごまかせねぇぜ!

f:id:rikunora:20101114170825p:image

すりきり屋「くっ、ま、まさか・・・」

お上「すりきり屋、その方、日に何百回も米を測っていると申しておったな。」

すりきり屋「はっ、は〜」

お上「検定結果によると、P(T<=t)両側は 0.000434、

  つまり、このような差が生じるサンプルが採れる確率は 0.05% にも満たない。

  百回どころか、千回測っても偶然見ることができない数字である!」

すりきり屋「・・・し、しかし・・・」

お上「せこい商売しやがって!

  てめーが村からふんだくって、町ではケチケチ売るよう指示したっていう、ネタは上がってんだ。

  だがこれも氷山の一角、追って厳しく取り調べ致す。引っ立てい!」

(すりきり屋、往生際悪く暴れながら引き捉えられる。)

お上「さて、村の衆よ」

村人「も、申し訳ございません。お奉行様とも知らず、数々のご無礼を・・・」

お上「うむ。今後、このような悪徳商人がはびこらないよう、農民から米を買い上げる際は

  正しくすりきりで測るよう、御触れを出しておこう。」

村人「ありがとうございます、ありがとうございます、、、」

お上「これにて、一件落着!」


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■ やってみよう、t検定

そこはかとなく多めに盛った軽量カップと、棒できっちりすり切りで測った軽量カップとでは、

果たしてどの程度の違いが出るのでしょうか。

実際に180ccの軽量カップで試してみたのが、上の結果です。

まず、ふんわり自然に米を盛って、重さを測ります。

f:id:rikunora:20101112105805j:image

次に、こうしてハシで上の口をすり切ると、いくらかの米がパラパラと落ちます。

f:id:rikunora:20101112105959j:image

落ちた米を測ってみると、重量にして約3%程度でした。

さて問題は、すり切り操作を行う前と後で、はっきりとした違いを見抜くことができるかということです。

実際にすりきりを行った人であれば、前後の比較ができるので、明らかに減っていることがわかるでしょう。

(対応のあるt検定)

しかし今回のお奉行様のように、後から重量のサンプルだけを見て、すりきり操作を見抜くことができるでしょうか。

ここで有効な統計的手法が、平均の差のt検定です。

エクセルの場合、データ分析ツールのアドインの中に含まれているので、試してみると良いでしょう。

f:id:rikunora:20101114171206p:image

実は当初は私自身、この程度の差なら何とか誤魔化せるんじゃないかな、と思っていたのですが、

どっこいどうして、きちんと検定にかけてみると、すりきり操作を誤魔化すことはまず無理でした。


t検定って何? って思った人は、この本を見てみよう(宣伝! ^^);

悩めるみんなの統計学入門 - 統計学で必ず押さえたい6つのキーワード

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三毛公爵三毛公爵 2010/11/15 01:48 >>百回どころか、千回測っても偶然見ることができない数字である!

という所がミソの様に感じます。きっと計測する人が信頼されていれば「奇跡が起こった!!」、腹黒い人だったら「不正だ!!」ってなりそうですね。

さらにここにお上とすり切り屋に山吹色のお菓子を渡す関係が働いていれば
(・¬・)グッヘッヘ イイデワナイカイイデワナイカ→ア〜〜レ〜〜

統計はあくまで可能性であって、最終的にそこからナニカを判断するのは人間なんじゃないかなぁと思いました。

カラス店長カラス店長 2010/11/15 04:08 難しいっすね!
このお代官は天才です!

でも、時代劇とこの数学の表の相容れなさは本当に面白いです。そのアイディアに脱帽です。

rikunorarikunora 2010/11/17 10:11 > 統計はあくまで可能性であって、最終的にそこからナニカを判断するのは人間なんじゃないかなぁと思いました。

そうですね、サンプリングから推測する可能性は限りなくに0に近付いても、完全に0にはならないです。
あり得ないと見るか、奇跡と見るかは、最後はお奉行様の判断になりますね。
あと、時代劇にはやはり イイデワナイカイイデワナイカ→ア〜〜レ〜〜 があって欲しい (^_^);
きっと次回には、このシチュエーションで。

> 時代劇とこの数学の表の相容れなさは本当に面白いです。
関係ないですが、以前、水戸黄門に「八兵衛さん、ファイット、ファイト〜!」というセリフがあって、
すごく違和感を覚えました。

rikunorarikunora 2010/11/17 10:17 自己レス、Wikipedia「うっかり八兵衛」で否定されていた。
> 八兵衛が江戸時代には知られていないはずの「ファイト」と言う英語の台詞を発したとの都市伝説が存在するが、フジテレビ『トリビアの泉』でこの話題が紹介された際に高橋元太郎はこの噂を明確に否定。

アトムアトム 2010/11/19 01:44 おもしろい!
さくっと読めるお話づくり、うまいですね。
本の方もきっとこんな感じで楽しいんでしょうね。
出版おめでとうございます。

俄僅俄僅 2010/11/22 03:28 届いたので読み終わりました。
期待通りχ二乗検定やt検定の話が分かりやすくまとまっててありがたかったです。
今まではぜんぜん分かんなかったんですよね。。。

rikunorarikunora 2010/11/22 19:53 そう言ってもらえるのが、素直に一番嬉しいです。
ありがとうございます。

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