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小人さんの妄想 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2011-02-03

固有ベクトルが直交するのは(2)

「エルミート行列はユニタリ行列によって対角化される」。

あるいは実数の範囲で「実対称行列は直交行列によって対角化される」。

・・・いったい何の宇宙語ですか? と思えるようなこの1フレーズには、

実は線形代数の重要な帰結が盛り込まれているのです。

ぶっちゃけ、この1フレーズがわからないと、量子力学が理解できません。

何とかこの謎のフレーズを幾何学的な直観で理解できないものだろうか。。。

あれこれ考えた末、なんとなく形になって見えてきたので、ここに書きとめておきます。

以下を読む前に、前記事に目を通しておくとよいでしょう。

* 固有ベクトル直交するのは >> id:rikunora:20090307


話を単純化して、2x2の実数行列に限定しましょう。

まず最初に、平面全体を1本の直線上に、ぺったんこに押しつぶす変換というものを考えます。

このぺったんこ変換を行列で書くと、どうなるか。

f:id:rikunora:20110203112047p:image

こんな風に、ぺったんこになる変換の行列には、著しい特徴があります。

上の行と、下の行が同じ比率になっている、つまり a : b = c : d になっている、ということです。

その理由は、図を見ればわかるでしょう。

a : b = c : d なのだから、ad - bc = 0

つまりこれが「行列式の値が0」という意味です。


さて、平面を直線上にぺったんこする変換の中でも、特に価値が高いのは「直線に対してまっすぐ垂直に」ぺったんこする変換です。

これを正射影変換と言います。

f:id:rikunora:20110203112133p:image

平面全体を、原点を通る直線 a y = b x の上に、まっすぐ垂直に落とす変換をP(Projection、又はぺったんこ?!)としましょう。

Pを行列で書くと、

f:id:rikunora:20110203112207p:image

となります。

この行列Pの形には、さらに著しい特徴があります。

それは、2x2の行列を縦に見ても、横に見ても、比率が a : b になっているということです。

  → 横の比率が a : b、↓縦の比率も a : b

  a a  a b

  a b  b b

なぜこうなるのか、下の図を見てください。

f:id:rikunora:20110203112252p:image

2x2の行列に現れる4つの数字 a, b, c, d は、

xy平面上の点(1, 0)を点(a, c)に、点(0, 1)を点(b, d)に移すのだと読みとることができます。

この解釈に従って、点(1, 0)と点(0, 1)を垂直にぺったんこ変換したのが上の図です。

2つの直角三角形が合同であることから、b = c であることが見てとれるでしょう。

つまり、a : b = a : c になっているわけです。

ということは、元の2x2行列で考えれば、横の比率も a : b、縦の比率も a : b、

行列全体の形は

  a a  a b

  a b  b b

の定数倍になるというわけです。

※ 定数倍の値を計算すると、対角線を足した値(トレース)の逆数、1 / ( a^2 + b^2 ) となります。


ところで、ぺったんこ変換には、それと直交してペアになる「残りの」ぺったんこ変換、というものがあります。

図にすると、こういうこと。

f:id:rikunora:20110203112359p:image

ぺったんこ変換P1が、平面全体を直線L1: a y = b x に落とし込む変換だとすれば、

それと直交する直線L2: b y = - a x に平面全体を落とし込む、いまひとつのぺったんこ変換P2というものがあるでしょう。

(同じことを三次元にあてはめれば、きっとP1,P2,P3の3つのぺったんこ変換があることでしょう。)

図からわかるように、P1とP2は、平面上の点を、斜めに描かれた「新しい直交座標」に落とし込む変換になっています。

ここで発想の転換。

このP1とP2を組み合わせて、平面上の点を「新しい直交座標」の上に再現できないものか、と考えてみるのです。

いま、平面上のある一点q をP1で変換した結果を P1 q としましょう。

P1 q は、直線L1 上の1点になります。

同じように、点q をP2で変換した結果を P2 q とすれば、P2 q は直線L2 上の一点になっています。

この2つの結果、P1 q と P2 q を(ベクトルとして)足し合わせたものは、元の点q に一致します。

式で書くと

 P1 q + P2 q = q

図に描くとこういうことです。

f:id:rikunora:20110203112509p:image

式で見ると難しそうだけど、図で見れば当たり前でしょう。


では次に、点q を、直線 a y = b x 方向に、2倍に拡大する変換というものを考えてみます。

それはつまり、P1を2倍にして足し合わせれば良い、ってことです。

式で書くと

 2 x P1 q + P2 q = q'   -- 直線L1方向に2倍に拡大.

図に描くと、こう。

f:id:rikunora:20110203112542p:image

さらに一般化して、点q を、直線L1方向にλ1倍、直線L2方向にλ2倍に拡大する変換は、

 λ1 x P1 q + λ2 x P2 q = q'   -- 新しい直交座標でλ1倍, λ2倍の点.

f:id:rikunora:20110203112624p:image

以上で、我々は平面全体を「新しい直交座標」上に変換する方法を見出したことになります。

・「新しい直交座標」の軸に対してまっすぐ垂直にぺったんこする変換(正射影変換)P1、P2 を用意する。

・P1とP2を組み合わせた(線形結合した)変換 H = λ1 x P1 + λ2 x P2 というものを作る。

・この変換 H は、平面全体を「新しい直交座標」の軸について、それぞれλ1倍、λ2倍したものになっている。

ところで、ぺったんこ変換P1、P2 は、最初に見てきた通り対称行列になっていました。

ということは、そのP1、P2を組み合わせて作った変換 H も対称行列になっているはずです。

逆に言えば、ある適当な対称行列 H を持ってくれば、

それは何らかの「新しい直交座標」への投影の組み合わせになっている、という訳なのです。

※この逆に言えば、のところは、正しくは数学的な証明が必要です。

※2x2の対称行列 H は3つの変数で表すことができるので、

※きっと、λ1, λ2, P1の傾き、という3つの変数によって表せるだろうと予想が付きます。


さて、ここまで来れば、最初に言っていた「実対象行列は直交行列によって対角化される」まであと一歩です。

・実対象行列というのは、変換Hのことです。

直交行列というのは、「新しい直交座標」の軸に相当するベクトルを横に並べて書いたものです。

・対角化される、というのは、対角線上に λ1, λ2 を並べた行列のことです。

新しい直交座標の軸、直線L1 の方向ベクトルを e1 とします。

e1 を Hで変換すると、向きはそのままで、長さが λ1倍になります。

式で書けば、

 H e1 = λ1 e1    ・・・(1)

同様に、もう1本の軸、直線L2 の方向ベクトルを e2 とすれば、

 H e2 = λ2 e2    ・・・(2)

この2本の式を合わせて1つにすることを考えます。

2つの直線の直交するベクトル、e1 と e2 をくっつけて、1つの行列にまとめます。

f:id:rikunora:20110203112724p:image

これが直交行列です。

なぜ直交行列なのかと言えば、もともと直交している2つのベクトルを合わせたものだからです。

一方、λ1倍と λ2倍を1つの行列にまとめると、こんな風に対角成分だけの行列になります。

f:id:rikunora:20110203112758p:image

なぜ対角成分だけなのかと言えば、λ1は1番目の軸だけに作用し、λ2は2番目の軸だけに作用して、

それ以外の作用が0だからです。

こうして合わせて作った行列で、上の(1)式、(2)式を合体させると、

 H U = λ U

といった、シンプルな式にまとまります。

直交行列Uの逆行列を U^-1 とすれば、

 U^-1 H U = U^-1 λ U = λ U^-1 U = λ   (λは交換可能なので)

最終的に、

 U^-1 H U = λ

対称行列Hを、直交行列Uと、その逆行列U^-1でサンドイッチしたものが、対角行列λになります。

これが最初に言っていた「実対称行列は直交行列によって対角化される」ということです。


参考図書:タイトルの通り、固有値問題そのものズバリを、わりといい感じに解説した本。

固有値問題30講 (数学30講シリーズ)

固有値問題30講 (数学30講シリーズ)

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